家族の想い~前編~
魔王城でお父さんとピーちゃんと話をしていると、ばあばの気配がする。
それに……
じいじ?
一緒なの?
執務室のバルコニーに出ると、ドラゴンの姿のばあばが飛んで来るのが見える。
予定より早いな。
ママとパパの部屋を広くしようと思っていたのに。
間に合わなかったよ。
もしかしてママの具合が悪くなったの?
でも、どうしてじいじも一緒なのかな?
「ルゥ、ただいま」
ばあばがバルコニーにゆっくり近づいて、ママを降ろす。
あれ?
ママ?
元気がない?
「ルゥ……どこにも行くな! わたしを置いてどこにも行くな!」
え?
ママ、どうしちゃったの?
「あらあら、ハーピーったら。冷静になりなさい。赤ん坊がお腹で驚いているわよ?」
ばあばが、じいじとパパと大量の荷物をバルコニーに降ろして人間の姿になる。
「何があったの?」
泣いているママを抱きしめて髪を撫でる。
ママが震えている。
どうしたの?
「ハーピーは、ルゥが温泉を見つけて前の世界に戻るんじゃないかって不安なんですって」
ママ……
お腹に赤ちゃんがいるのに……
血が繋がらないどころか、人間のわたしをこんなに愛してくれるなんて。
「ママ? わたしは……ずっとずうっとママのそばにいるよ? だってママの事が大好きだから」
「ルゥ……約束だぞ? 絶対だぞ?」
「うん。約束だよ」
ママ、ありがとう。
誰かに愛されるって、こんなに気持ちが温かくなるんだね。
「ルゥ……パパのそばにもずっといてよ?」
パパの顔が涙で、びしょ濡れになっている。
あれ?
なんだろう?
この違和感……
「うん。パパのそばにもいさせてね。パパ、大好きだよ?」
パパが、抱きしめ合っているママとわたしを優しく抱きしめてくれる。
じいじが辛そうな顔でわたしを見ている。
どうしたんだろう?
「ヴォジャノーイちゃんはね? ルゥが前の世界に帰りたいなら帰してあげたいって言っていたのよ? 自分は我慢するから、ルゥが望む通りにしてあげたいってね……」
ばあば……
教えてくれてありがとう。
「じいじ、ありがとう。いつもわたしの気持ちを一番に考えてくれて、守ってくれてありがとう。わたし……じいじのそばにいたい。ずっと……大好きだよ」
泣きながら微笑むわたしを、じいじが抱きしめてくれる。
前もこんな事があった……
皆で抱きしめ合って……
あの時も幸せな気持ちだった。
やっぱり、わたしはこの世界が大好きだ。
もちろん前の世界も大好きだったけど、この世界もすごく大切なんだ。
ピーちゃんもそうだよね。
おじいちゃんとおばちゃんがいる世界に戻りたいよね……
「ばあばに訊きたい事があるの。教えてもらえるかな?」
あの時のドラゴンが、ばあばだったのか訊かないと。
「ヴォジャノーイちゃんから、ここに来る途中で色々聞いたわ。そうよ? わたしはあの時のドラゴンよ」
……!
やっぱり、ばあばだったんだ。
もっと早く訊けばよかった。
初めて、ばあばに会った時にそうじゃないかと思ったんだ。
でも、似ているドラゴンもいるのかもって思ったから……
じゃあ、ばあばは前世のあの集落に来ていたんだ。
「ばあばは、どうやってあの温泉に来たの?」
ドラゴンは普通に来られるとか?
「分からないのよ……ごめんなさいね」
え?
分からない?
どういう事?
「ドラゴンの姿で飛んでいたらね……いきなり雪が降りだして、目の前に温泉が現れたの。身体が冷えたから温泉に入っていたら、前世のルゥがおばあさんと歩いて来てね……驚いたわ。魔素が濃い場所に人間がいたから。それにドラゴンのわたしやジャックフロストを見ても、驚くどころか一緒に仲良く遊んでいるんですもの」
ジャックフロスト?
あのフワフワした子達かな?
蛍みたいな子かな?
「ピーちゃんをね……帰してあげたいの。おじいちゃんとおばちゃんに会わせてあげたいの。何か方法はないかな?」
「その事なんだけど……ジャックフロストを捜してみるのはどうかしら? あの温泉に何回か入っていたみたいなの」
「うん。フワフワの子達も光る子も何回も会ったよ?」
「やっぱり、そうなのね。あの時、光っていたのはルゥが前にいた世界の生き物なの?」
え?
こっちの世界の生き物じゃなかったの?
「違うよ? てっきり、こっちの生き物かと思っていたよ」
じゃあ、あの子は何だったんだろう?




