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家族で穴掘り~じいじが主役の物語~

家族で穴掘り~ルゥが主役の物語~の時の出来事をじいじの目線で書いたものです。

『守る』とは危機に陥った時に助ける事では無い。

 助けてくれる者がいなくなっても一人で生き抜ける力を持たせる……

 これこそが真の『守る』だ。


 ルゥには、魔族のわたしが使う事のできる魔術、剣術、武術……

 教えられる事は全て教えた。

 本来ならヴォジャノーイ族であるわたしには水以外の魔術は使えないが……

 火だろうと氷だろうと基本的な魔術の使い方は同じだからな。

 ()()()()と契約さえすればあとは鍛錬あるのみだ。

 ルゥは数回教えただけで全ての属性を完璧に使いこなせるようになった。

 不思議なものだ。

 人間のルゥにそんな事ができるとは……

 やはり、魔王様の娘だからか?


 いつか、ルゥが魔王様の娘だと知れ渡ったとしても生き残れるように。

 ただそれだけを願い、生きるか死ぬかのギリギリの鍛錬をしてきたが……

 よく耐え抜いたものだ。



 魔王様がベットに横たわり息苦しそうに話す姿を思い出すと、つい鍛錬に力が入ってしまった。


「娘を次期魔王にならせたいんじゃない。……ただ、ボクが父親としてできなかった事を……して欲しいんだ。うーん……例えば……髪を撫でるとか? ヴォジャノーイが『じいじ』になる……とか? だから……」

 

 魔王様……

 今でも鮮明に覚えています。

 あの時の最期の言葉を……  

 

 不思議だな。

 あの時は、たとえあなたの娘であっても人間に愛を与える事などできないと思っていたのに。

 今ではわたしの心はルゥでいっぱいだ。

 ルゥが幸せに暮らす事だけを常に願っている。

 

 最近『奴ら』が死の島を探りに来ている気配を感じる。


 もうルゥを隠しきれないのか?

 ルゥに全てを話すべきか?


 今日は、優しいルゥが人間の死体を埋めたいと言うから家族で無人島に行った。

 人間の死体など魚族に食わせてしまえばすむ話だが、最近は人間がうるさくて。

 海で死んだ人間については特にうるさい。

 生き残りの三人を人間の国に送った以上、残った死体は埋葬しなければ……

 人間に見つけやすい場所に……な。


 人間は弱くて、恐ろしい存在ではないが数が多いからな。

 それに時々、勇者も現れる。

 今は魔王様の娘であるルゥの存在を隠しているから、できるだけ穏便にすませたい。 

 

 それにしても、ヴォジャノーイ族の戦士達はルゥに褒められたくて毎日張りきっているようだ。

 今日も人間の死体を始末する為に無人島に行ったというのに、撫でて欲しいとルゥにせがんでいた。


 はぁ……

 まったく。

 ヴォジャノーイ族の英雄と呼ばれる戦士達だというのに。

 ……だが、それを言うならわたしもそうか。

 

 すっかり孫娘に甘い『じいじ』になってしまったからな。

 

 ずっと、死の島でルゥのじいじとして過ごしたいが……

 ルゥの存在が知れ渡ればヴォジャノーイ王宮に行き保護される事になっている。

 いつルゥが王宮に来てもいいようにとヴォジャノーイ王が人間でも暮らしやすいように整備しているようだ。


 ヴォジャノーイ王は、ルゥの存在が悪い者達に知られないようにと会いたい気持ちを我慢しているからな。


 わたしもそうだが、ヴォジャノーイ王も魔王様を慕っていた。

 本当は今すぐにでもルゥに会いたいはずだ。

 だが、会ってしまえば手離せなくなるだろう。

 そう。

 今のわたしがルゥを手離したくないように……

 

 

 

『奴ら』の気配がついに死の島まで迫って来ているのを感じる。


 ルゥをヴォジャノーイ王宮に連れて行く日は近そうだ。

 王宮に行けば今のように自由には暮らせなくなるだろう。

 

「はぁ」 

 

 美しい星空を見上げてため息をつく。

 以前の死の島の夜は暗闇だった。

 魔素で包まれた島では星を見る事はできなかった。

 だが今では、手を伸ばせば掴めそうなほど星が輝いている。


 ルゥには聖なる力がある。

 死の島に赤ん坊のルゥが来た時には驚いた。

 昼を薄暗くするほどの魔素がすぐに祓われたのだ。

 普通の人間の赤ん坊では二分も生きられないような濃い魔素だったというのに。

 さすがは魔王様の娘だ。

 身体はこの世界の人間の物でも、魂は魔王様の力を受け継いでいるのか?

 

 波打ち際で誰かが歩く音がする。

 

 あれは……

 ハーピーがルゥを運んでいる。

 ルゥは、また砂浜で寝ていたのか。


 ハーピーはルゥと寝ると疲れが取れると言っていたが、今日も一緒に寝るのか。

 しばらくしたら風邪をひかないように布をかけに行くか……


 

 少ししてからハーピーの部屋にそっと入る。

 ハーピーが、腕の羽毛でルゥを包み込んで眠っている。

 

 ……布は必要ないな。


 ……もう少し。

 もう少しだけ……

 この死の島でルゥの『じいじ』でいたい。


 ルゥの月のように美しい銀色の髪を撫でる。

 この幸せが一日でも長く続いて欲しい。

 魔王様。

 あなたの望んだ幸せを、わたしはルゥに与えられているのでしょうか?

 

 いつか……

 わたしが死んで、あなたに会えた時あなたはきっとルゥの事を『ありがとう』と言うでしょう。

 

 ですが、わたしはこう言いたい。

 

『あなたの為に育て、守ったのではありません。ただルゥがかわいくて一緒にいただけです』

 

 と…… 

 

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