前世の記憶
誕生祭が終わって、わたしはじいじと魔王城に帰って来た。
イフリート王は、リコリス王国からジャバウォックに乗って国に帰って行った。
王様が乗るジャバウォックは王子が乗っていたジャバウォックより大きくて強そうだった。
王子のジャバウォックはかわいいんだよね。
イフリート王に、新婚旅行で遊びに来て欲しいって言ってもらえたんだ。
イフリート王国は幸せの島より暑いんだって。
どんな所なのか楽しみだな。
じいじは急用ができたからって言って、わたしを魔王城まで送るとすぐに出かけた。
わたしが宴に参加する為に、忙しい思いをさせちゃったのかも。
申し訳ないな。
「お父さん、ただいま」
執務室で書類に囲まれているマンドラゴラの姿のお父さんを抱っこする。
マンドラゴラの子供達も抱っこして欲しそうにしている。
かわいいな……
皆を抱っこして撫でていると、お兄ちゃんが部屋に入って来た。
「お兄ちゃん、ただいま。リコリスはすごく立派な国だったよ」
「ルーチャン、イママデドオリ、ピーチャンテ、ヨンデ?」
ピーちゃんでいいの?
「お兄ちゃんがその方がいいなら、そうするね」
話さないといけないよね?
リコリスでじいじ達に話した事……
わたしは、おばあちゃんが亡くなった状況、夢遊病だった時の事……
それから、群馬でお兄ちゃんが亡くなった状況が不自然だった事、二兵衛さんの事も話した。
「月海……一人で大変だったね。お父さんがそばにいてあげられたら……本当にごめんね」
お父さんが涙を流して謝ってくれたけど……
わたしは、おばあちゃんを守りきれなかったんだ。
「謝らなくちゃいけないのはわたしだよ? ごめんなさい」
「月海は悪くない。よく頑張ったね」
そう言ってお父さんがわたしの髪を撫でてくれる。
小さいから背伸びをして……
一生懸命手を伸ばしているのが分かる。
お父さんありがとう……
わたしもお父さんも涙が止まらない。
「ルーチャン、ボク、ジテンシャデ、オチタトキ、スゴイ、カゼ、フイタ」
すごい風?
人が飛ばされるくらい強い風?
あの日は、そんな風は吹いていなかったはず。
集落の人達が、どうして柵のある崖から落ちたのかって言っていたのを覚えている。
「ピーちゃん。わたし、思うんだけど……誰かに崖から落とされたんじゃないかな?」
ベリアルか、自称神様が怪しいけど……
「ベリアルカ、カミサマ、ッテコト?」
「ボクもそう思うよ? 人間が飛ばされるくらいの風なんて台風でもないと……なかなか、ある事じゃないよ?」
お父さんも、おかしいと思ってくれたんだね。
「……ニヘイサンハ? シュウラクノ、ヒト?」
「名前が書いてあったけど、そこまでは覚えていないの。もう二十年以上前だから……でも花火師だった事は覚えているよ?」
「陽太君が言う通り……神が、この世界に人間を送り込む為に作った集落って事なのかな?」
神様が作った?
あの集落を?
「お父さん、ピーちゃん。覚えてる? あの集落に伝わる、神様の木のお話」
「うん。覚えているよ。神様の木のおかげで村人が助かったって」
「ソウダネ。カミサマ、スキナ、ヒトノ、タメ、キヲ、ウエタンダヨネ」
え?
何?
「好きな人の為に木を植えた? どういう事?」
「エ? ジイチャン、カラ、キイタヨ?」
野田のおじいちゃんから?
おばあちゃんからは、その話を聞いた事はないけど……
家によって少しずつ話が違うのかな?
「ピーちゃん、野田のおじいちゃんから聞いた話をしてもらえるかな?」
集落に伝わる神様の事が何か分かるかも。
「ウン、ワカッタ オボエテ、イルコト、ハナス」
ピーちゃんは三千年前からこの世界で暮らしているのに、前の世界の事をちゃんと覚えているんだね。
すごい記憶力だ。
皆の記憶を合わせれば、もしかしたら全ての疑問が解決するかも……




