ルゥとレオンハルト
しばらくすると、三人の人間がガゼボに近づいてくる。
あれはレオンハルトだ。
いとこだったなんて、すごい偶然だね。
「ええと……何て呼んだらいいのかな?」
レオンハルトが少し困った顔をしながら話しかけてきた。
「おばあ様もお兄様も、ルゥって呼んでいるよ?」
「ルゥ……?」
「うん……レオンハルトは、頭は大丈夫?」
確かヴォジャノーイ族のおじちゃんに頭を殴られて気絶したって……
「え? 頭? 何が?」
あれ?
殴られた事に気づいていなかったのかな?
しかも今の言い方だと『レオンハルトはバカなんだね』みたいに聞こえたかも……
「な……何でもないよ」
これ以上は黙っていよう……
「……幸せなんだね。結婚したって聞いたよ」
レオンハルトも知っているんだね。
「うん。レオンハルトはどうして島の近くで襲われていたの?」
まだ、あの時は死の島だったし。
どうして危ない所に来ていたんだろう?
「死の島の魔素が薄くなったのを調べに行ったんだ」
そうだったんだね。
でも……
「王子なのに危ない事もするんだね」
もう少しで魚族に食べられるところだったし。
「第二王子なんてそんなものだよ?」
第二王子?
「お兄さんがいるの?」
「腹違いの兄と弟がいるんだ」
腹違い?
じゃあ、兄弟の方はルゥとは血が繋がっていないのか……
「今度、もう一人産まれるんだ」
もう一人?
でも、嬉しそうじゃないね。
王子ともなると色々あるのかな?
それにしても、レオンハルト達が五メートルは離れているけど。
「じいじ? この魔石ってこんなに離れないと危ないの?」
どれだけ危険なんだろう?
近寄っただけで死んじゃうのかな?
「いや、恐ろしくて近寄れないのだ。これ以上近づくと恐怖で気が狂う事になる。それでもルゥに触れれば死が訪れるだろう」
恐怖で気が狂う?
わたしが怖く見えているっていう事かな?
「レオンハルトはわたしが怖い?」
どれくらい怖く見えているのかな?
「え? 怖くないよ? すごく素敵だし。ただなんとなく近づけない感じかな? それにおばあ様から魔石の事を聞いていたしね」
「そうなんだね……」
宴は人間がいっぱいいるんだよね?
大丈夫なのかな?
間違えて近づいて死んだりしないよね?
「ヘリオスにはもう会った?」
「うん。さっき会ったよ? すごく優しかった」
「……そうか。誕生祭で……いや。ルゥ? 王はね、優しいだけではなれないんだ。それだけは覚えておいてね」
……?
お兄様も同じような事を言っていたけど……
さっきとはニュアンスが違う?
「あの……前ヴォジャノーイ王? ですか?」
赤髪の人間がじいじに話しかけた?
人間なのにじいじが怖くないのかな?
今は人化していてヴォジャノーイ族の姿じゃないけど、かなり威圧感があるよ?
「……そうだが?」
「あの、外の黒いガラスみたいな馬……あれ何ですか!?」
魔法石で動く馬か。
やっぱり珍しいのかな?
「ヴォジャノーイ族に生きた馬は必要ない」
「すっげぇ! あれかっこいいですよ!」
「この宴が終わればもう必要ないからな。くれてやろう」
「ええ!? いいんですか!? やったぁ!」
「魔法石の力で動くから、今使っている石の力が切れたら自分で調達すればいい」
「うわぁ! ありがとうございます!」
本当に嬉しそう。
この赤髪の人間は魚族に襲われていた時にもいたね。
それにしても……
ヴォジャノーイ族はお金持ちなのかな?
お城も金ピカだったし。
「殿下。贈り物はどのように?」
この金髪の人間も見た事がある。
かなり酷い傷だったけど、さすがパパが作った傷薬だね。
綺麗に治っているよ。
あの時は治癒の力を使えるなんて思いもしなかった……
「ルゥ、前ヴォジャノーイ王。結婚祝いの品を馬車に積んでもよろしいでしょうか? 手渡しはできませんので」
結婚祝いの品?
もらってもいいのかな?
「ありがとう。気を遣わせちゃってごめんね」
「ルゥとヴォジャノーイ族は命の恩人だからね。いくらお礼を言っても足りないよ?」
「あ……うん」
……いや。
騙しているわけじゃないけど、命の恩人か。
襲っていた魚族とは仲良しなんだよね。
……申し訳ないけど黙っておこう。
「ルゥちゃん、そろそろ時間だよ?」
叔父様が呼びに来てくれる。
ついに始まるんだね。
人間の宴か……
前ヴォジャノーイ王妃として頑張らないと。
じいじとの特訓の成果を見せる時が来たんだね。




