じいじの宝物
今回はじいじが主役です。
ここは死の島。
かつて多くの魔族が死に、その死体から発生した魔素のせいで昼でも薄暗かった『死の島』……か。
魔族でさえ近づかない島。
だからこそルゥを隠すにはちょうど良かった。
だが、ルゥの持つ光の力で今では人間も住めるほど魔素が薄くなった。
まだルゥがこの世界に来る前に建てた家。
何人になるか分からない『家族』の為に部屋を多めに作っておいた。
まだ部屋は余っているが、これ以上家族を増やす事もないだろう。
家にはそれぞれの部屋と、キッチン、風呂、トイレがある。
生活する為の魔術が使えないオークとハーピーでも生活しやすいよう、魔法石で水も火も簡単に使えるようになっている。
そろそろ建て直してもいい頃か。
ルゥの部屋を広くして、風呂も大きくするか。
ルゥは湯船につかるのが好きだからな。
綺麗な海に美しい景色。
オークが育てている花で島が華やかになったから、魔族が住んでいるとは思えない。
……死の島が楽園になったか。
魔王様、あなたの娘は今日も元気に笑っています。
あなたは人間にしても短い命でした。
「じいじ!」
ルゥが少し離れた洗濯場から手を振っている。
洗濯物を洗い終わったようだな。
すっかり大きくなって。
あれから十数年か。
あっという間だったな。
「膝においで」
洗濯せっけんのいい香りがするルゥを抱っこする。
赤ん坊の頃は、グニャグニャして柔らかくて壊してしまうのではないかと心配したが……
ルゥは幼い頃から抱っこが好きだった。
初めて抱っこした時も、しがみついてきて……
あの時、初めて『じいじ』と言われてどれほど嬉しかったか。
ルゥは今日も嬉しそうに笑っている。
赤ん坊の頃から変わらぬ笑顔が愛らしい。
「じいじの昔話を聞いてくれるか?」
今はまだ、ルゥが魔王様の娘だと明かす事はできないが……
少しずつでも話しておこう。
ルゥが膝の上で振り向いて、わたしの顔を見る。
美しい青い瞳がキラキラ輝いている。
ニコッと笑う顔に、かわい過ぎてつい髪を撫でてしまう。
水で洗濯していたから日焼け防止の土が少し取れているが……
ここは日陰だから日焼けはしないだろう。
「……じいじには尊敬できる唯一のお方がいた。そのお方は魔族の為に力を尽くしてくれた……だが家族を遠くに残して来てしまい、もう二度と会えないと心を痛めていた」
ルゥは魔王様にとても愛されていた。
元気で過ごしているか。
もう忘れられてしまっただろうか。
幸せにしているか。
どれだけ大きくなったか。
寂しい思いをしていないか。
抱きしめてあげたい。
そう言って魔王様は寂しそうに笑っていた。
「そのお方は最期にこう言い残した。『自分が死んだ後、もしも残してきた子が一人きりで辛い思いをしていたら面倒をみて欲しい』……と」
何か思う事があるのだろうか。
膝に座るルゥが振り向いて、わたしの顔を覗き込んでいる。
魔王様。
いつかルゥにあなたの事を話す日が来るでしょう。
その時ルゥがあなたの事を覚えていると言ってくれたら……
わたしは嬉しくてまた泣いてしまうかもしれません。
ヴォジャノーイ族で最も残忍で冷酷だと言われた、このわたしが……
すっかり涙もろくなってしまった。
自分自身よりも大切な存在……
常にその者の幸せを考えてしまう……
それが『家族』……か。
いつの間にか、わたしとルゥは『家族』になっていたのだな。
「……じいじは今、とても幸せだ」
そう言ってルゥに笑いかけると、ルゥも笑い返してくれる。
遥か昔の『あの時』から、笑った事などなかったこのわたしが……
ルゥの姿を見るだけで笑顔になる。
愛しくて堪らないと思うこの気持ちはルゥが持つ魅了の力のせいではない。
今のわたしは、孫娘をかわいいと思うただの『じいじ』だ。
ルゥの為なら、わたしは何だってできる。
人間の短い命を……
毎日笑顔で過ごして欲しい。




