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過去にはトラウマが付きもの

雨を飲んでみたくて、傘も差さずに口を大きく広げて空を仰いだことがある。味なんてもちろん無かった。

でも、その雨は工場から出た煙や排気ガスなんかが混じった雲から落ちてきていて、とても綺麗なものではなかった。



夢を見た。

小さい時、まだあの人が生きていた頃の記憶だ。

顔はよく見えないが、笑って誰かの頭を撫でている。


……誰か?


誰。


誰を見ているの。


ーーーを見てよ……。




「……ん」


いつの間にか眠っていたらしい。

時計を見ると既に夕方になっていた。


「あー、首痛ぇ…寝違えた」


コキコキと関節を鳴らしながら部屋を出た。良い匂いがする。姉さんたちが帰ってきているみたいだ。


「あらぁ、起きたの?」


キッチンに行くと、やはりエプロン(だけ)をつけて夕飯の用意をする景姉さんがいた。


「ふぁあ…お帰りなさい」


「ふふふ、ぐっすり寝てたわねぇ」


からかい口調の姉さんに苦笑いを返しながら、居間を見渡した。


「…あの、みんなは?」


「二階で遊んでると思う。母さんはまた仕事に呼び出されて、帰ってきてすぐに行っちゃったけど」


「そう、ですか」


楠李も二階かな…。

昼間の事を謝りたかった。あんなことくらいで怒鳴ってしまって。


暗くなった俺に気付いて姉さんが聞いてきた。


「どうかしたの?」


「なんでもないです。あの、今日は夕飯何ですか?」


笑って話題を変えると、怪訝そうな顔をされたが姉さんは追及してこなかった。


「お刺身よぉ。美味しそうなの買ってきたんだからぁ!」


「どうせ安い奴でしょ」


「悪かったわねぇ」


チラッとゴミ箱を見ると、割引シールが貼られているプラスチックの蓋が突っ込まれていた。ショッピングに行ったんだからもっと良い物期待してたんだが。


「…楽しかったですか?ショッピング」


「んー?そうねぇ。久しぶりだったわよ、揃って出掛けるの」


「俺も行けば良かったなぁ」


「今度家族全員でどこか遊びに行きましょう。…まだ夏休みはあるし」


遊びにかぁ。夏休み中はどこも混んでいるだろうな。


「海とかプール行きてーな」


「あっ、それは無理だわ」


え、と返すと景姉さんは困った顔で笑った。


「木実が水ダメなのよ。怖がっちゃって」


「そうなんですか?知らなかった」


「幼稚園の水まきとかは平気だったんだけどねぇ。お風呂も嫌がる時ない?」


そういえば…。

ちょっと前に一緒にお風呂に入ったら湯船からすぐに出ちゃって、風邪引くぞってそのあと追い掛けっ子になったっけ。


「残念だったわね。私の水着姿見れなくて」


「……いや、もう身体のほとんど見慣れてるんで」



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