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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第四章 真の犯人を暴け!
43/55

第四十三話 「宗田栞の告白」

 四月十七日、日曜日。

 俺は寝ぼけまなこを擦り開け、下の階におりた。母さんはもう起きていて、らぁめんを作ってくれている。ありがたい。

 俺はらぁめんを食べ、歯を磨き、髪を整えて、仏壇に手を合わせる。いつも通りの日課だ。

 いつもと少し違うのは、今日は学校が無いってことだ。

 おかげで、店が開く時間まで、ある程度はのんびりとしていられる。


「ふぁ〜……朝だな」


 玄関前の掃除をしながら、俺はまばたきする。朝の光が清々しいのは、きっと、それが一日の始まりの合図だからだろうな。


 ふと、昔読んだ詩を思い出した。谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩だ。朝の爽やかさと世界の繋がりを見事に現した詩で、俺はかなり好きだ。



「……『ぼくらは朝をリレーするのだ 緯度から緯度へと そうしていわば交替で地球を守る 眠る前のひととき 耳をすませば』……なんだったっけな」


 前半は完璧に覚えているのだが、いつも後半のくだりが思い出せず、歯痒い。



「『眠る前のひととき 耳をすますと どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴っている それはあなたの送った朝を 誰かがしっかりと受け止めた証拠なのだ』やな。谷川さんやったら『コップへの不可能な接近』も印象的やなぁ」



 声のした方向には、ラフな私服の来集がいた。ひらひらと手を振っている。


「来集!? なんでこんなところにいるんだ!」

「なんでて……前に約束したやん、二人のキラキラのなれそめ教えてなって。ほら、しおりんも連れてきたったんやから、感謝しいや!」


 来集の後ろから、宗田さんがひょこっと顔を出した。

 俺は腰を抜かし――そうになる。危うい。


「な、何で宗田さんが――おい押すな! 危ない!」


 来集は、俺をぐいぐいと押してらぁめんよつばの中に入れようとする。


「まだ店開いてないんだよ! ちょっと待てって!」

「そんなら丁度ええやん」

「何がだよ!?」

「誰もおらんのやったら、思う存分パーッて話できるってもんやん」

「確かにそうだけどな、少しは遠慮しろよ!」

「そんなん気にしとったら、この世界ズドンと生きてかれへんで!」


 終いには、俺は渋々、来集が開店前のらぁめんよつばに入ることを認めてしまった。

 あ、もちろん、宗田さんは大歓迎だ。赤絨毯を敷いてもいいくらいだ。



 ◇◆白詰朔◇◆



 以前からの約束だったので、俺は来集に、俺と宗田さんのなれ初め、つまりは、俺がビルから落ちてきた宗田さんを助けたことを話した。


「なんや、白詰、カッコええやん」


 来集は相当驚いたようだ。そこまで大きな話だとは思っていなかったんだろう。そりゃそうだ。


「まぁそんなとこだ。でも、何でお前、宗田さんを連れてきたんだ? そりゃ嫌じゃないけどさ」


 俺はちらと宗田さんを見る。来集の横に座る宗田さんは、はずかしげに俯いていた。


「まぁ、二人のなれそめの話やからな、しおりんがいた方がドーンと盛り上がるか思て連れてきたんやけど……なんや多分、緊張してんのかな」


 来集は宗田さんをちょんちょんとつつく。

 きゅるっとした小動物系の私服に身を包んだ宗田さんは、来集の指の動きに合わせて小さく揺れる。


「緊張? なんだそりゃ」


 なんで今更宗田さんが緊張なんてするんだよ。

 来集は店の中を見回す。


「なれ初めの方もわりかし驚いたけど、白詰ってお店の子やったんやなぁ」

「イメージと違うか?」

「ん? うーん……まぁそう言われればそういう気がしないでもないような気はするんやけど……部屋で寝っ転がってゴロゴロしてるタイプかと思とったからな」

「そりゃちょっと失礼だろ」

「せやな」


 来集はけらけらと笑う。悪気なくこういうことを言うもんだから、困ったやつだ。


「いい感じの店やな。家族でやってるん?」

「今はそうだな。俺と母さんの二人で回してる。前まではもう一人バイトの人がいたけど、辞めてな。今はバイト募集中で――」


 そこで俺は閃いた。


「そうだ。二人とも、ここで働いてくれよ!」

「「へ?」」

 二人とも目をまん丸にする。


「バイトとしてらぁめんよつばで働くんだよ! ちゃんと給料は払うし、制服だって用意する。仕事だってそんなにきつくないし、もしあれだったら、ご飯にらぁめん食わしてやるからさ」


 二人は顔を見合わせる。


「うちは……別にええけど」

「あたしも」

「本当か?」

「「うん」」


 俺は心の中でガッツポーズをとる。こんなに早く後釜が見つかるとは。


「じゃあ早速面接だ! さすがに何の試験もないまま勤めさせるわけにはいかないからな。まあ形式的なものだから、そんなに構えてくれなくていい。じゃあ、最初は来集から――」

 来集は首を振った。


「最初はしおりんからにしてくれへん? 実は今日、しおりんは、白詰に言いたいことがあって来たんや」


 宗田さんはゆっくりと頷く。


「言いたいこと……?」

「まあまあ、それは面接のときに、二人水入らずで、な」


 来集は宗田さんの手を引いて立たせ、俺の方に押した。


「ほな頑張りや、しおりん」


 来集はにやにやと笑っている。

 なんだか、すごくイヤな予感がするんだが。気のせいだといいけどな。


 宗田さんは、小さく、けれど確かに、頷いた。



 ◇◆白詰朔◇◆



 居間を通り抜け、階段を上がって廊下を進み、俺の部屋の扉を開ける。 俺が仕草で先に部屋に入るよう促すと、宗田さんは小さく「ありがとう」と言って部屋に入った。それにしても、昨日のテンションと全然違うな。


 俺の机の椅子に宗田さんを座らせたところで、俺の分の椅子がないことに気付いた。俺は宗田さんを少しの間俺の部屋に待たせ、下の階へと降りる。


「朔、朔」


 厨房から母さんの声が聞こえた。俺は顔を覗かせる。

 母さんは仕込みをしていた。俺が現れたことに気づくと、手におたまを持ったまま、俺に寄ってきた。


「あ、あの子たち、どうしたの? どうしてここにいるの?」

 母さんは少し脅えた様子で言った。手に握ったおたまがカタカタと震える。

 俺は母さんの肩を支えてやる。


「大丈夫だよ、母さん。二人は俺の友達なんだ。六陵高校のクラスメイトだよ」

「本当?」


 俺は母さんをぎゅっと抱きしめる。


「もうあいつらをこの店に入れさせたりなんかしないからさ、母さん。安心して、らぁめんを作ろう。あったかな、らぁめんをさ」


 母さんは小さく震える。

 俺の肩は静かに濡れた。



 ◇◆白詰朔◇◆



 店のカウンターから椅子を一脚拝借し、俺は階段を上がった。

 一度廊下に椅子を置いてから、扉を開ける。部屋の中では、宗田さんが俺の机に頭を預け眠りこけていた。

「宗田さん?」


 俺は後ろ手で扉を閉める。彼女の顔は窓側を向いているので寝顔は見えないが、呼吸のリズムに合わせて小さな背中が柔らかく上下する。スカートが椅子の端からはみ出し、薄桃色のももが覗いている。

 首元から垂れる上着の紐がゆっくりと揺れている。


 俺はなるたけゆっくりと椅子を降ろす。目を上げ、宗田さんの様子を確かめてから、向こう側へ回り込んだ。

 宗田さんは俺の机にぺったりと頬をつけ、すーすーと寝息を立てていた。右耳がぴょこんと跳ねている。

 なぜ宗田さんは寝ているのだろう、と思うより先に、なぜ宗田さんはこんなにかわいいんだろう、という思考が俺の頭を巡る。 いや……理由なんてないんだろうな。宗田さんがそこに存在している、それだけが、宗田さんのかわいさの所以ゆえんだ。




 ……って、何言ってんだ……俺。





「宗田さん……ほら、ほら」



 俺は宗田さんを優しく揺り起こす。宗田さんは、ぱっと瞼を開いた。



「……わっ!?」

「うわっ!?」



 突然の大声に驚き、俺は手を挙げる。ホールドアップだ。


「な、何もしてないぞ! 決してやましいことは一つもない!」


 宗田さんはぱちぱちと瞼を鳴らす。


「ご、ごめんなさい! いつのまにか寝ちゃってて……じゃなくて……ありがとう、寝かせてくれて……って、あれれ?」

 宗田さんは頭を抱える。


「うーんと、うーんと、うーん、うーん」


 中々言葉が出てこないようだ。分かりやすく呻いている。


「……それじゃ、面接を始めようか」


 埒が明かなさそうなので、気を取り直して、ひとまず面接を開始することにした。



 ◇◆白詰朔◇◆



 名前と生年月日と年齢、それに職業とを聞いて、メモしていく。形式的なものだから、あんまり意味はないし、それに殆ど俺が知っている情報ばかりだ。けどまあ、個人的に使える情報もあるな。


「それじゃあ、志望動機は?」

「子房動悸……?」

 宗田さんは眉を下げる。

「うん。簡単に言うなら、どうしてここでバイトしたいか、その理由を言ってくれたらいいいよ。まあ、今回の場合は――」

「白詰くんがいるから」


 宗田さんは即答した。


「白詰くんがいるからだよ」

「……え?」


 聞き間違いだろうか。俺の耳が正しければ、今確かに宗田さんが、『白詰くんがいるから』って言った気がした。

 えーと、その場合……つまりは、どういうことだ?


「あたしは、今日ここに、蒼香ちゃんに付いてきたんだけど、白詰くんに言っておきたいことがあるんだ」


 宗田さんは上着の胸ポケットのファスナーを開け、紫色の機械を取り出し、その中央にあるボタンを押す。その機械は、どこか見覚えがあるような気がする。 俺がその機械の正体を思い出すよりも先に、機械からあの音声が流れ出した。

 あの忌々しい、悪魔の声が。





『栞…愛、してる』






「………………」


 頭が真っ白になる。

 ええと……俺はこの機械に身に覚えがあるけど……

 それにしたって、なぜ今この機械が出てくる。神様、俺は何か罪を犯しましたか。

 と言うか、それ以前に、なんで本人にこの録音機が渡ってんだよ。


「あたしはね、白詰くんのことが大好きなの。この声を聴いてたら、すごく安心するし、嬉しくなるの。白詰くんがあたしのこと呼んでくれてる、認められてる、って感じられて」

 わかった。アイツの仕業だ。来集だ。それ以外に考えられない。

 アイツ、覚えてろよ。


「でも、蒼香ちゃんから聞いたら、これは蒼香ちゃんが白詰くんに無理やり言わせたものらしくて。だから、あたしは、白詰くんの口から直接この言葉を聞きたくて。だから、これは白詰くんに返すね」


 俺は宗田さんから録音機を受け取りポケットにしまう。一体何が始まろうとしているんだ?


「だから、少しでも白詰くんと仲良くなるために、このお店で働きたい。……でも、その前に、あたしには問題があって」

「……問題?」

「うん」

 紐の先端の糸玉がぶつかる。


「もしかして、ヘマやらかして失敗するかもしれないとか思ってるのか? それなら大丈夫、うちの母さんも相当ドジなんだよ。塩と砂糖を間違ってふりかけて塩大福作ったり、部屋の外鍵無くして部屋に入れなくなって開かずの間を作ったり、靴を間違えて二足も頼んだり、しかもその片方はサイズ全然合わなくて、しょうがないからそれ靴箱にしまってるんだけど、毎回それを間違えて履いたり、しまいにはそのまま町に出て靴擦れ起こしたりとかしょっちゅうだから、宗田さんが気にすることないぞ」

「えと、そういうことじゃなくって」

 宗田さんの瞳に俺が写り込む。


「白詰くんも知ってるよね、あたしが保健室で授業を受けてること」

「ああ」


 そう言えば、自殺のこともそうだけど、どうして()()なのかは聞いたことがなかったな。暗黙の了解だったし。


「クラスのみんなが教室で授業を受けてるときは、あたしは保健室で笠懸先生と一緒に勉強してるの。それで……」


 宗田さんは息を呑む。

 緊張が空気を介して伝わる。

 俺も自然に、喉を鳴らしていた。



「それには、理由があって」



「理由……?」



 新学期が始まった直後、宗田さんが“謎の美少女”と呼ばれていた所以。

 それを俺に話してくれるっていうのか?





 ――そして、宗田さんは、口を開く。



「あたしには、あのときまでの記憶がないの」





「……………………」


 いくらなんでも、今回ばかりは聞き間違いだろう。

 そう思うので、俺は尋ねる。







「……わんもあたいむ」



 ◇◆白詰朔◇◆



 その後何分間か、俺は宗田さんの話を聞きながら無言で思考を巡らせていた。


 記憶喪失。

 一言でいうならば、宗田さんはそういう状態なのだ。あの三月の受験の日、彼女にとってはビルから飛び降りた日だが、その日以前の記憶が彼女にはないのだ。

 そう言えばそれらしい兆候はいくつかあったように思う。


 1-Eの教室で俺達が再会したとき、俺が出身地や好きなテレビなんかを聞いても、彼女は答えてくれなかった。あれは、答えられなかったのだ。

 他にも、一般常識であるようなことを知らなかったり、聞き間違いなどが多かった。あれは、彼女の知識のなさがもたらしたことだったのだ。


 それに何より――あの病院の屋上で、俺は彼女の表情を見て感じた。

『負の感情にオサラバしてスッキリって顔だ』、と。

 実際にあのとき、彼女には負の感情なんて一つも残ってはいなかったのだ。


 つまり、宗田さんは、どうして自分が自殺なんてことをしたのか――その理由すら忘れていたのだ。


「――だから、あたしは、世界の常識も、まだよくわからなくって。笠懸先生に少しずつ習ってるんだけど、やっぱり全然ダメで」


 宗田さんに翳りがさす。


「だから、このお店で働きたいけど……迷惑ばっかりかけるに違いなくって、だから、あたしは、やっぱり、白詰くんとは仲良くなんてなれないのかな、なんて」

「いや、別にそれとこれとは関係ないよ」


 即座に否定する。


「そもそもらぁめん屋で働くのに世界の常識なんかいらないしな」

 それにこの世界の常識は、金持ちを妬んで貧乏人を蔑むといったことだ。そんなことはむしろ、知らない方が幸せだ。


「だから、らぁめんよつばで働いてくれて構わない。むしろ今は人手が欲しいから、いてくれると助かるんだよ。ウェイターだけでもいいからさ」

「ほ、ほんとに?」

「もちろん。記憶喪失だって大歓迎だ。それよりさ、それって、俺の他に誰かに喋ったりした? 記憶喪失のこと」


 宗田さんは指で空をなぞる。


「蒼香ちゃんだけ」

「……マジか」


 俺は頭を抱える。

 まさか、来集に負けてるとは思わなんだ。すっげ悔しい。


「仲いいな、二人な」

「うんっ」

 確かに、最初の頃から、来集は宗田さんとよく絡んでたもんな。てっきり、来集が一方的に突撃してたのかと思ってたけど、こんな秘密を打ち明けるくらい、来集は信頼されてたのか。

 記憶喪失なんて重い荷物を抱えてる宗田さんを支えてやれる、信頼のおける友達がいるのは、いいことだけど……


 だけど、異様に悔しい。嫉妬、なのか?


「でも、宗田さん自身は、いいのか? 右も左もわからない状態で、色んな客を応対しないといけない。俺もずっと暇じゃないから、宗田さんがそういう場に一対一になることもあるかもしれない。そのとき、怖くないか?」


 宗田さんは少し考えるそぶりを見せ、頷いた。


「うん、大丈夫」

 その宗田さんの様子を見て、以前、シーマンさんが『全てに怯えていて全てに怯えていない』と宗田さんを評していたことを思い出した。確かあのときは、六陵高校推理探偵部に入れば超能力が手に入る、と聞く直前だったっけ。

 かなり個人的な解釈だが、あの言葉は、『記憶喪失の宗田栞は、初めて見るものを怖がるが、またその一方で、困難に対する恐れを知らないから、怖がらずに前に進むことができる』と捉えることができるんじゃないだろうか。

 シーマンさんは記憶喪失のことを知らないはずだけど、“千里眼クレアボイアンス”で、なんとなくそのことが分かったんだろうな。 まあ確かにそれなら、宗田さんの心は強いと言える。


「なら、宗田さんはらぁめんよつばのバイト決定ってことで」


 俺は紙に必要な情報を書き込む。


「早速今日から勤務開始でもいいけど、まあ今はとりあえず、来集と面接交替だな。悪いけど来集ここに呼んできてくれるか?」


 宗田さんは小さく頷いて俺の部屋を出た。とんとんとんと、靴下が廊下を叩く音が遠ざかってゆく。


「…………」


 俺は先程まで宗田さんが座っていた、俺の机の椅子を眺める。

 先程まで宗田さんの肌が触れていた、俺の椅子を。


「別に、悪いことじゃあ、ないよな」

 犯罪者の言い訳のような独り言を呟きながら、俺はカウンター椅子から立ち上がり、机の椅子に近づく。左右を二回ずつ確認して、左手を挙げてゆっくりと、その椅子に腰を下ろす。

 柔らかな布の肌触りがお尻を包む。

 まだほのかに暖かくて……すごい勢いで眠気が襲ってくる。なぜかとても恥ずかしい。頬が上気する。


 一体俺は何をしているんだ。


 心の中ではそう思うものの、俺は知らず知らずのうちに、左頬を机につけ、窓を眺めていた。ひんやりと冷たい机が眠気を中和させる。

 机自体はいつもと何ら変わりないはずなのに、なぜだかすごくリラックスできる。これが宗田さんパワーか。

 来集が来るまで、こうしていよう。もし来集が見たとしても、俺が俺の椅子に座り俺の机に突っ伏してるだけなんだから、何も問題ない。


 しばらく宗田さんパワーを堪能していると、慌ただしく廊下を叩く音が近づいてきた。

 俺は顔を上げ、扉側を向く。すると扉が勢いよく開いて、宗田さんが飛び込んできた。


「そっ、宗田さん!?」


 俺はお尻をはたいて即座に立ち上がる。宗田さんは俺が机の椅子に座っていたことなど気にもかけていない様子で、矢継ぎ早にまくしたてた。


「あ、蒼香ちゃんが、蒼香ちゃんが、だ、誰かに、か、か、絡まれてて、だ、誰かわかんなくて、蒼香ちゃんが、蒼香ちゃんが」


 どうやらただならぬ事態が起こったようだ、ということはすぐに分かった。

 俺はすぐさま部屋を飛び出し、階段を駆け降り、居間を抜け店へ入る。


「来集!!」


 そこで俺が見たのは、店の入口近くに立つ、見覚えのある男と――――



 ――――床に座り込む、来集の姿だった。

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