表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第二章 どの部に入るか、もう決めた?
26/55

第二十六話 「アイツがくる!!」

 ◇◆白詰朔◇◆



「どうしたの、宗田さん」


 俺の目の前でもじもじしている宗田さんに向かって、俺は言った。どうも様子がおかしい。奥で来集が、笑いを噛み殺すように、口元を押さえていた。また来集の悪戯か。


「そうだ、調査の方はどうだった? 俺は結構、収穫あったけど」


 取り敢えず調査についての話題を口にする。宗田さんはしどろもどろ、自分の調査を報告してくれた。つくね先生はたけのこ派だとか、宇治川さんのあだ名はシーマンだとか、あんまり意味の無いことばかりだったけれど。ただ、六陵高校推理探偵部の部室が、創部当時から第三音楽室だったという情報は、『第三音楽室の中に超力場(パワースポット)がある』という仮説を少なからず支持するものであるような気がした。


「あ、それと、シーマンっていうのは、ダブルミーニングだって……言ってました」

「ダブルミーニング? ……Seeman、見る男、かな」


 心の中が見える能力を持った宇治川さんのあだ名なら、Sea&Mountainでシーマンというより、Seemanでシーマンの方がしっくり来る。むしろ、そっちじゃないとおかしい気さえする。


「そ、それと……」


 宗田さんは、自分の両手を擦り合わせ、より一層もじもじし始めた。一体何事か。来集は机に顔を付け、ドンドンと机を叩いている。というか、今来集が座っているのは、俺の席じゃないか。あいつ一体、宗田さんに何を吹き込んだんだ。それに、こうももじもじされると、こっちまでそわそわしてしまう。一体何が始まるんです?と誰かに問い質したい。


「……き、昨日は、本当にありがとう。あたしのこと……助けてくれて」

「え? あぁ、うん……どういたしまして」


 俺は片手で頭を下げた。何だ、そんなことか。ほっとしたと同時に、なぜか少し寂しくなる。


「あ、あ、ああああ、あたし、のこ、のこのこのこのこ、とどとどとどととどぜるg」

「ちょ、ちょっとどうしたの、宗田さん!? 大丈夫!? ほら、ゆっくり息吸って!」


 今にもパンク寸前状態の宗田さんを、なんとか宥める。宗田さんは過呼吸になりそうなほど息を出し入れした。少しして、ようやく落ち着いたのか、宗田さんは、ゆっくりと慎重に、口を開いた。


「……あたしのこと、どう思いますか?」

「……へ? どう思うって……大事な、クラスメイトだと思うよ」


 宗田さんは顔を下ろした。



「……あたしは……白詰くんのこと………クラスメイトだとは思ってません」



 え、と俺は声を上げる。酷い言われようだ。一体俺が何をした?


「その前に白詰くんは、あたしの命の恩人だから」


 命の恩人。


「それは違うって。俺は宗田さんの命の恩人なんかじゃない。ただの通りすがりの男だよ。たまたまあの時は、近くを通りかかって、落ちてきた子を拾っただけ……それだけの話だよ」

「それでも、あたしの命の恩人に変わりはないです! それに、白詰くんは、昨日もあたしを助けてくれた」

「違うんだ」


 俺はポケットの中で手を握りしめる。「俺はただ、自己中なだけだ。自分が傷つくのを恐れてるだけの……弱い、ただの、臆病者なんだよ。宗田さんが言うような、勇敢な奴なんかじゃないんだ。頼むから、命の恩人だなんて、言わないでくれよ」

「白詰くんは……あたしのこと嫌いですか………?」


 涙が床に落ちる。


「宗田さん……?」

「あたしは、本当に白詰くんに感謝してます。白詰くんがいなかったら今のあたしはいないし、今のあたしは白詰くんに支えられてます。六陵高校推理探偵部だって、最初は探偵になれるからって、行ったのが最初ですけど、絶対に入ろうって決めたのは、そこに白詰くんがいるって知ったからです。白詰くんとなら、絶対にどこに行っても大丈夫って、そう思えた」


 すぅ、と宗田さんは息を吸った。


「なのに……それを否定なんて、しないで下さい! あたしを、あたしの存在を、否定しないで下さい!」


 宗田さんは、大粒の涙を溢しながら、教室を走り去っていった。俺は呆然とそれを見ていた。頭には、あの言葉がわんわんと響いている。





『“命の恩人”は、相手を自分に心酔、妄信させてしまう可能性があります。同情であの子と会ったりするのは、お勧めしません。あの子の人生は、あなたの選択でいくらでも変わるかもしれないということを肝に銘じておきなさい』



 ◇◆御簾川紗希◇◆



津惟(ちゅい)? こんなところで何してるの」


 保健室の前でぐるぐると歩き回っている津惟を見つけた。津惟は私に気づき、私に近づいてきた。


「紗希~、一緒に来てくれー!」


 心なしか、津惟の目が少し赤い。


「一緒にって、どこに? 私、今、忙しいんだけど」


 そう言いつつ、御簾川紗希は内心動揺していた。酉饗津惟の目は、まるで泣き腫らしたようになっている。もしかしてあの津惟が、あの津惟が……泣いていた?


「保健室だよー!」


 成程そうか、と私は納得した。きっと、津惟は、目を打ったか、虫に刺されたか、そんなところなのだ。だから赤いのだ。


「保健室なら私も用事があるから、ちょうどいいよ。津惟は先生になんとかしてもらったら?」


 扉を開けて保健室に入る。中にいた保健室の先生である笠懸鏑(かさがけかぶら)先生は、私たちを見て溜め息を吐いた。


「また患者かい?近頃は物騒だね、何でもかんでも幽霊だなんだと……本人の話も聞きやしないで」


 保健室には、白いカーテンのかかった二つのベッドがあった。


「誰か寝てるんですか?」

「そうさね、寝てると言えば寝てるし、寝てないと言えば寝てない。ちなみに、どっちか片方は空のベッドだからね」煙草(タバコ)をふかした。私はゴホゴホと咳き込む。津惟は、言うが早いか、窓側のベッドに近寄りカーテンを開いた。中には誰もいない。


「君たち患者じゃあなさそうだけど、何しに来たんだい」

「私は五位鷺さんに会いに来たんですけど……津惟、何してるの?」


 津惟は廊下側のベッドのカーテンを開いた。中には五位鷺さんが眠っていた。


「あ、あ、あ……」


 津惟は奇妙な声を上げながら後ずさる。


「津惟?」

「五位鷺も可哀想なもんだね、何があったのか知らないけどさ、朝練で部室に向かったところで気絶だよ。昨日の子も同じ手口だったよ。部室に向かったところで気絶。ありゃ幽霊なんかじゃなくて、誰かの仕業だと思うね、あたしゃ」


 津惟は五位鷺さんのベッドの前に崩れ落ちた。私が驚いて駆け寄ると、津惟は細かく震えていた。


「津惟、どうしたの津惟? 何で……」

「五位鷺さんが、五位鷺さんが、五位鷺さんが、五位鷺さんが」


 津惟はしきりに五位鷺さんの名前を呼び続けている。余りに異常なその雰囲気に、私は眉をしかめた。どうやら、これは五位鷺さんから有田千鶴の話を聞く、なんて悠長な事を言っている場合じゃないみたい。

 私はなんとか津惟を落ち着かせ、話を聞いた。津惟はついさっき、五位鷺さんが保健室に運ばれている事を知ってこっちに来たはいいけれど、怖くて中に入れなかったところを、私と会った。


「五位鷺さんはアドバイスをくれたんだ」津惟は言う。


「『貴女(あなた)にはテニスの方が合っていますよ』って。なのに、先輩に嫌われた、なんて、酷いことを考えて……きっとそれが気絶の原因なんだ」


 そんなわけないじゃない、と私が言っても、津惟は聞く耳を持とうとしなかった。


「失礼する」


 がらがらと勢いよく扉が開いて、宇治川さんと有田千鶴が入ってきた。有田さんは手にメモ帳を持っている。


「事件の匂いがするな。どうやら近い。あっ、六陵高校生徒会会長の五位鷺醍醐が倒れている。これは事件だ。ダリア、書き留めておいてくれたまえ」


 宇治川さんがそう言うと、有田さんは何かをメモ帳にさらさらと書き込んだ。手に持った鉛筆が逆向きに見えるのは、気のせいだろうか。


「なんだい、またやってんのかい。熱心なことだね」

「お褒めの言葉を賜り、有り難く思う。だが、笠懸先生」

「先生には敬語、だろ」

「……ですが、笠懸先生」

 宇治川さんは一息置いて言った。「これは間違いなく事件だ。手口が一致している以上、疑いようがない」敬語じゃないよね。

「手口が一緒だって、何で知ってるんだい。さっきの話を、廊下で盗み聞きでもしてたのかい」

「まさか。この私の捜査能力をもってすれば、そのようなことを調べるのくらい、余裕のよっちゃんだ」


 ひどく前時代的な言葉回しだ。


「へぇ……それじゃあ、小さい君の、小さい耳が、ついさっき君たちが入ってくる前、そこの入り口の扉のガラスに透けて見えてたのは、どういうわけだい? 盗み聞きじゃあなかたってすると……誰かに押し付けられてたのかい?」


 笠懸先生はにやにやとほくそ笑みながらそう言う。途端、宇治川さんの耳が真っ赤に燃えた。


「な、な……そ、それはだな、冷やしていたのだ! 少し耳が熱くなっていたから、冷やしていたのだ!!」

「なら、今も冷やした方がいいんじゃないかい? ほら、すごく熱そうだよ」


 宇治川さんは即座に自分の耳を押さえた。次の瞬間、宇治川さんは顔までも真っ赤に燃えた。


「ああ、そうだ、私は冷やす! 冷やすのだ!」


 そう言って宇治川さんは、やめればいいのに、入り口の扉に駆け、ガラスに耳を潰れんばかりに押し付けた。「ああ、冷たくて気持ちいい! 私はこうするのが癖でな、昼休みにはこうして耳を冷やしているのだ! 今日はこの保健室、偶然にもこの保健室だったのだ! 有り難く思ってくれたまえ!」


 そう言う宇治川さんの耳は、ますます赤くなっていく一方だった。


「それで笠懸先生。本題なんだけれど」


 有田さんが鉛筆を持ち直し、被害者はどんな様子なの、と聞く。


「昨日の子は割とすぐに治ったんだけど、五位鷺はずっと気絶したままだね。何かを見たって、校内ではそういう噂だけど、あたしゃ、犯人から口止めされてるんじゃないかと思うね。昨日の子だって、結局何も言わなかったし。本当に何かを見たって言うんなら、それを言えばいいだろ? 言わない理由なんて、無いんじゃないかい」

「貴重な証言、ありがとう」


 有田さんはメモ帳にさらさらと書き込んだ。今度は本当に書き込んだ。


「それで、貴方はどうしてここにいるの」


 その言葉が私に向けられたものだと気付き、私は体を硬くした。


「……大方、五位鷺さんに話を聞きに来たのね」


 全部分かってる。さすが、二年生の学年主席。といっても、私も一年の学年主席なんだけれど。というか、五位鷺さんも三年生の学年主席だ。偶然にもこの部屋に今、全学年の学年主席が揃ってる。


「有田さんは、どうして保健室に来たんですか」

「分からない? 私たちは、連続気絶事件の調査をしに来たの。それが私たちの部活動だから」


 六陵高校推理探偵部は、困っている人たちを助ける。確かに気絶は困る。


「例え依頼が来なくても、困っている人がいれば助ける。それが、この六陵高校での、推部の役割」


 出来るだけ有田さんには会いたくなかった、と御簾川紗希は思う。会うなら次は、あの部室で入部申請用紙に署名するときにしてほしかった。


「『夢を固める』作業は、順調?」

「……はい。もう夢は固まりました。けれど、後は、六陵高校推理探偵部への信頼が必要です。本当に信頼に足る部なのかどうか、確かめるまでは六陵高校推理探偵部に入部することはできません」

「ゆっくりしてもいいんだけれど。誰もあなたの夢を急かす人はいない」

「私には時間が無いんです」


 どこかで聞いたような台詞(セリフ)ね、と有田さんは可笑しそうに笑った。


「それで、そこの彼女は何をしてるの? もしかして、五位鷺さんの恋人? あの人、そういう方面には弱いと思っていたんだけれど」


 私は津惟を見た。五位鷺さんを呼びながら、ぐすぐすと泣いている。確かに、怪我した彼氏(おとこ)を前に泣く恋人のように見えなくもない。けれど、お化け屋敷を前にして泣く、子供のように見えなくもない。


「津惟もそういう方面には疎いと思いますけど」

「ちゅい? 名前?」


 酉饗津惟です、と私は答える。有田さんはメモに書き取った。


「じゃあ私たちは、昨日気絶した子に話を聞きに行ってきます。笠懸先生、お騒がせしました」


 有田さんは宇治川さんを引きずって出ていった。保健室は、津惟の泣き声だけが響く。


「……五位鷺さんっ!!」


 見ると、五位鷺さんがいつの間にか重い瞼を開き、苦しそうに息をしていた。目線はどこにも合っていない。





「……見える!! アイツが!! こ、こここ、こっちに、ち、ちかちかちかちか、近づいて、てててきてきてきて、来る、来る、来る!! アイツが来る!!!」





 そう言って五位鷺さんはまた気を失った。


「……何だい、今のは。もしかして、五位鷺は、本当に何か見たってことなのかい? 魔太郎じゃあるまいし、アイツがくる!! ってったって……本当に幽霊か、死神か何か、来たってのかい。馬鹿馬鹿しいね」


 取り敢えず私は、昼休みも終わりの時間だったので、泣きじゃくる津惟を連れて、1-Eの教室に帰った。

 教室に戻る頃には、津惟はすっかり、泣き止んでいた。まるで最初からほほ笑んでいたかのように、津惟は私に笑って見せた。

 それはとても無機質な笑いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ