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超能力高校生探偵:白詰朔の幸福  作者: 正坂夢太郎
第二章 どの部に入るか、もう決めた?
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第二十三話 「ダブルミーニング」

 四時間目。個性的な先生による世界史の授業が終わった。個性的すぎて筆舌に尽くしがたいので、ここでは割愛する。

 そして昼休みになり、宗田さんが教室に戻って来て、俺が机を後ろの宗田さんのとくっつけ、俺と宗田さんと御簾川とで三人の給食&作戦タイムと相成った。相模が羨望の眼差しで俺を見ていたが、気づかないふりをする。


「さっき六陵超百科で相槌憂子さんのことを調べてたら、新たな情報が手に入ったの。これ見て」


 そう言って御簾川は六陵超百科の1-E生徒名簿のページを開いて見せた。


「出席番号一番、相槌鬱子(あいづちうつこ)……あれ、これってうちのクラスの女子じゃないか」

「わぁ……すごい」宗田さんは感心するように口を開けた。

「どうやらこの二人は兄弟らしいの」と言って御簾川は六陵超百科を閉じた。「で、栞ちゃん。超能力を得る方法って何か知ってる?」

「え、え? それって……自分が超力場(パワースポット)に入ることじゃないの……?」


 宗田さんは空のスプーンを取り落とす。あわあわと拾い直し、ふーふーと息を吹きかけ、光を当てて傷がないか確認している。まるで職人だ。うーんと首をかしげると、ちょっと洗ってくる、と言って席を立った。


 それ以外にもあるの、と言って御簾川は俺を見た。俺に答えてくれということらしい。


「噂で聞いたことがある。確か、『自分の、非能力者(ディスパワード)である兄弟姉妹が超力場(パワースポット)に入ること』、だろ?」

 便宜的に『同腹継承』と呼ばれているものだ。

「そう。それは統計的に証明されている動かしようのない事実なの。それで本題なんだけど、もし相槌鬱子の姉である相槌憂子が超能力者(パワード)であるなら、妹も超能力者(パワード)なはず。分かる?」


 そうか。姉である相槌憂子が六陵高校推理探偵部に入り非能力者(ディスパワード)から超能力者(パワード)になったなら、同腹継承によって相槌鬱子も超能力者(パワード)になっているはずだ。

「それが分かれば、少なくとも六陵高校推理探偵部の一員、相槌鬱子が超能力者だっていうことは分かる。あとは残りの二人だけど」


 御簾川はまた六陵超百科を開いた。今度は部活紹介のページだ。宗田さんが戻ってきて、満足そうにスプーンを見つめる。完成。


「私が宇治川海山と有田千鶴について調べるから、栞ちゃんはつくね先生に話を聞いて来て」

「えっ、なんでつくね先生に……?」

「つくね先生が顧問なの、ほら」


 御簾川は部活紹介のページの下部を叩いて見せた。


「御簾川、俺はどうなるんだ?」

「白詰くんは相槌憂子さん関連をよろしく! さっき言ってた相槌鬱子ちゃん辺りから話を聞いて来て」


 御簾川は給食のお盆を持って立ち上がった。


「それじゃ、各自解散でよろしくね」


 俺はダリアさんに会いたかったんだけどな。とぼやく。心の中で。



 ◇◆捜査開始◇◆



 ◇◆白詰朔◇◆



 俺は教室の端の席で一人本を読んでいる相槌さんに声をかけた。


「ちょっといいか? 聞きたいことがあるんだけど」


 相槌さんは静かに本を下ろし、頷いた。縁の太いメガネと長い前髪のせいで、表情が殆ど見えない。


「お姉さんの相槌憂子さんについて聞きたいんだけど。お姉さんは六陵高校推理探偵部に入っているんだよな?」


 相槌さんは静かに頷いた。


「六陵高校推理探偵部について、何か知っていることってあるか? えーっと、俺、ちょっとあの部に興味あってさ。出来れば知ってること、教えてくれないか?」


 相槌さんは自分の六陵超百科をバッグから取りだし、『六陵高校七不思議』のページを開いて見せた。確かにそこには、六陵高校推理探偵部に関係していそうなことが書いてあった。


「第二の謎……第三音楽室の動く肖像画……? なんだこれ?」


 そこに記されていたのは、怪談としてはひどくベタなタイプの話だった。夕暮れの放課後、第三音楽室前廊下に掛かっている肖像画が、一斉に動き出す、というものだ。


「これって……本当なのか?」俺は慄きながら問う。


 相槌さんは、相槌を打つことも、首を振ることもしなかった。


「……じゃあ、他に知っていることはあるか? 例えば、お姉さんは六陵高校推理探偵部に入ってどう変わったか、とか」


 俺がそう言うと、相槌さんはまた本を読み始めた。もう答えないということか。これ以上は口止めされているのかも知れない。


「協力ありがとう」


 そう言って俺は相槌さんの元を離れ、自分の六陵超百科を確認するために自分の席へ向かった。


 相槌鬱子は、うっすらと微笑んだ。



 ◇◆御簾川紗希◇◆



 御簾川紗希は、軽音楽部の部室である第二音楽室へ向かっている。有田千鶴について調べるに当たって、まずは生徒会の関係者から話を聞こうと思っていた。


「御簾川っち、歹奈良(がちなら)さんに何の用があるんだぁ? あ、も、もしかして告白とか!?」

「そんなんじゃないけど、歹奈良さんと同じ生徒会役員の、有田千鶴って人の話が聞きたくて」


 御簾川紗希がそう言うと、相模友久はうーんと唸った。珍しいことに、何かを考えているのだろうか。


「じゃあその有田って人に直接聞いたらいいんじゃないのかぁ?」


 確かにその通りだ、と御簾川は思う。けれどそれはプライドが許さない。

 いわばこれは、挑戦状だ。今度宇治川海山や有田千鶴に会うときは、六陵高校推理探偵部に入ることが確定したときだ。今はまだ、そのときじゃない。私の夢はもう固まった。あとは、六陵高校推理探偵部が本当に超能力を授けてくれるような存在なのかどうか確認するだけだ。

「色々事情があって」と御簾川は誤魔化した。


 相模を利用するのには少し抵抗があったけれど、面識もない一年生の学年首席がいきなり自分に会いに来るより、軽音部の後輩が一年生学年首席の友達を連れてくる、というほうが、歹奈良さんにとっては安心して応対できるんじゃないだろうか。


 第二音楽室の前に立つと、中からギターの音が一本分聞こえてきた。部活紹介のときに聞いた、『Time Is My Friend』のサビ部分だ。


 失礼しまーす、と相模友久は勢いよく扉を開けた。中には幾人かの男女が固まってわいわいと楽しそうに語らい合っていた。何人かの生徒がこっちを見る。

 歹奈良弦は、その奥にいた。一人、ギターを弾いていた。


「おうっ、サガぁ! どうした、そんな可愛娘(かわいこ)ちゃん連れて!」


 歹奈良弦は無邪気に笑った。



 ◇◆宗田栞◇◆



 中庭で宗田栞は佇んでいた。つくね先生ーー篠木つくねにここで待ってて、と言われたのだ。

 爽やかな風が宗田栞の髪を撫でる。宗田栞は眉にかかった横髪を、優しく直した。


「宗田さんごめーん、会議が長引いちゃって! たけのこときのこで論争になって、抜け出して来ちゃった!」


 篠木つくねがそう言いながら宗田栞の元に駆け寄った。忙しかったのかな、と宗田栞はいらぬ心配をする。


「宗田さんはきのことたけのこならどっち派なのかな? かな?」

「タケノコです」

「それはまたどうして」

「タケノコは……しゃきしゃきしてるし、キノコはちょっと、苦そうでやです」


 どっちも地面に生えてるけど、胞子とかって苦そう。


「そこまで言っちゃう? まぁ私はたけのこ派だから、いいんだけど、きのこ派が聞いたら何て言うかね」


 篠木つくねは豪快に頭を掻いた。女性にはあるまじき行為だ。男性からすれば。


「それよりーー私に聞きたいことって、何かな?」

「……六陵高校推理探偵部についてのことなんですけどっ」

「お、そうか、宗田さんも部室に行ったんだったっけ。シーマンが騒いでたよ、『十年に一度の逸材だ!!』って」

「……シーマンって誰ですか?」

「宇治川のあだ名。海山の海と山で、Sea&Mountain略してシーマン。ダリア曰く、それだけじゃないみたいだけどねっ」


 ダリアさんって確か、白詰くんが言ってた有田さんのことだ。あたしはまだ会ってないなぁ。


「それだけじゃないって……どういうことなんですか?」

「ダブルミーニング、ってこと。私にも分かんない」


 篠木つくねは茶目っ気たっぷりに舌を出した。


「先生は、あの……六陵高校推理探偵部について、どこまで知ってるんですか?」

「んー、宗田さんが知ってるのと同じくらいしか知らないよ?」

「じゃあ、えっと、聞いていいですか? 少し気になってたことなんですけど――――なんで音楽を教えてるつくね先生が、音楽と全然関係ない、六陵高校推理探偵部の顧問をしてるんですか? それに、なんで六陵高校推理探偵部の部室は、第三音楽室なんですか?」

「うーん、一つ目の質問に答えるとすれば、偶然、としか言えないなー。前代の音楽の先生が持ってた仕事を引き継いだら、そこに六陵高校推理探偵部の顧問っていうのがあったから。二つ目の質問にも繋がるんだけど、六陵高校推理探偵部が第三音楽室を根城にしてるのは、それこそ六陵高校推理探偵部が発足した2020年以降、ずっとみたいで。ほら、あの東京オリンピックの年。懐かしい」


 先生、そう言われても、東京オリンピックの年にはあたしはまだ生まれてません!


「えっと……六陵高校推理探偵部が第三音楽室を部室にしてるから、そこの担当である音楽の先生が、顧問をしてるってことですか?」

「あ、そうそうそういうことそういうこと! 宗田さん、頭いいねー!」


 そう言って篠木つくねは宗田栞の頭をもふもふと撫でた。くすぐったい。


「ところで宗田さん、勉強の方はどう? はかどってる?」

「はい、今、九九をやってる所です」

 七の段が難関なんだよね。七×八(しちは)とか。八×八(はっぱ)は分かりやすいのに、何でだろ。

「そうかぁー、まだまだ先は長いねー。でも、笠懸(かさがけ)先生が言ってたよ、『あのこは飲み込みがすんごく速いんだよ』って。もしかしたら今年中には皆に追い付けるかもね。頑張らなくちゃ」

「はい、頑張ります!」


 そう、頑張らなくちゃダメなんだ。早く皆に追い付いて、あの1-Eの教室で、白詰くんや蒼香ちゃんと一緒に授業を受けたい!

 宗田栞はさらなる高みを目指し、意気込んだ。

 白詰くん。白詰くん。

 自分の胸ポケットに入っている、紫色の録音機を、ブレザーの上から触る。


 昨日あたしが、白詰くんのことが好きだって蒼香ちゃんに言ったら、蒼香ちゃんはどこからかこんなものを持ってきた。



『撮ったってん』


 来集蒼香はいたずらっぽく笑い、録音機のボタンを押す。『栞…愛してる』と白詰朔の声が流れた。


『えぇぇ! でも、こんなのどうやって……』

『頼んだら簡単に言ってくれてん。やっぱ物は試しやな』

『え、え、え? えっと、つまり、これって……』

『正直、あともう一押しやと思うで。こんなこと言うってことは、全く気がないってわけじゃないやろーし』


 来集蒼香は紫色の録音機を宗田栞に手渡した。


『これはあげるわ。それでな、実はもう一つ朗報があんねん』

『……何?』


 宗田栞の心臓は今や、爆発しそうに脈打っていた。どんどん顔が火照っていくのを感じ、頬を押さえる。


『今週の日曜、白詰ん()で会う約束取り付けてん。そん時に、告白しぃ』


 目眩を感じ、宗田栞は床に崩れ落ちた(心の中で)。

 こんな幸せがあっていいのかな。

 白詰くんともっと一緒にいたい、宗田栞はそんなことを考えていた。


 ――――『命の恩人』である白詰くんと。

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