第十三話 「部活紹介」
五時間目、六時間目。
俺達は、入学式のときに使った六陵会館に整列していた。どうやら、これから部活紹介とやらがあるらしい。
御簾川と煉城の指示に従い、俺達は椅子に腰を下ろした。入学式のときは言っていなかったが、この会館は普通のホールのような造りになっていて、壁はなんかそれっぽくデコボコになっており、椅子もなんかそれっぽい感じだ。高めの椅子。肘置き付き。机を出せる。ここまで言えば伝わるだろうか。とにかくそう言った厳かな雰囲気が会館全体から醸し出されている。ステージ上には、司会席と思われる白の椅子と机が置かれ、赤い幕が下りている。
左隣に座った宗田さんは、腰が落ち着かないのか、何度も体を上下させ、お尻を上げたり下ろしたりしている。ちなみに、今は関係ないが、俺はスレンダーが好きだ。
「えー、あーあー」
マイクテストだろうか、生徒会役員の腕章をつけた一見チャラそうな男子が、ステージの壇上にマイクを持ってそう言った。一見、というのは、外見上そう見えるだけで実はそうではない、といった可能性が隠されているからで、とくに深い意味は無い。入学式のときも、この生徒はどこかに腕章を着けて立っていた気がする。
「おいお前らぁ!!」
その生徒会役員が、叫ぶ。ざわついていた会館が、とたんに静まり返った。一同の視線がその男子生徒に集まる。
「盛り上がってっかー!!」
きょとん。
「……お前ら、盛り上がってるかー!!」
役員は諦めずそう叫ぶ。会場は波を打つように静かで、誰一人声を上げる者がいない。空気が張り詰める。
その時、俺の右隣にいた相模が、渾身の力を込めて叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
それにつられて、1-Eの男子学級委員、煉城昂祐と、男子体育委員、星井拿が叫んだ。
「うううううううううううううっすううううううううううう!!」
「どっしぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇ!!」
それに呼応し、他のクラスの男子生徒が熱狂的な雄たけびを上げる。もちろん女子はドン引きだ。あ、ちなみに、女子体育委員は酉饗だ。
「よっしゃ、いいシャウトだ、お前らぁ! 今から何が始まるか、分かってっかぁ!?」
「クラブ紹介でーす!」会場が沸く。
「バカヤロー、クラブじゃなくて部活だぁ! そこんとこしっかりしろ、お前らぁ!」
「イェエエエエ!」
「じゃあ俺の名前は何だぁ!? お前らなら知ってんだろぉ!?」
「歹奈良さんでーす!!」先程より少数の男子がそう叫ぶ。
「俺の名前は歹奈良弦だお前らぁ!一生忘れんじゃねぇぞぉ!!」
「イエッサァァァァァァ!!」
悪ノリに乗った男子達が叫んでいる。今更言う事じゃないし、分かっていることだとは思うが、もちろん俺はそんなシャウトをしたりはしていない。
「んじゃさっそくファーストナンバー!! 軽音部で、『Time Is My Friend』!! 盛り上がって行こうぜー!?」
そう言って歹奈良さんは幕の中に入って行った。その瞬間、ステージの幕が上がり、軽音部の演奏が会場を覆い尽くし、体感温度を上昇させる。
撤回しよう。一見チャラそう、ではなく、どう見てもヤバそうだ。曲名とはまるで合わない、何かドロドロしたエキスをふくんでいるかのようなその演奏は、会場を瞬く間に興奮の渦へと陥れていった。
その後も軽音部は三曲を披露し、割れるような拍手を受けてステージを後にした。
「ここで生徒会から連絡です」
入学式のときに司会をしていた、赤い髪の生徒会の女生徒が、ステージ脇の司会用の席でマイクを執った。
「残念ながら、CDG部、五部、六陵高校推理探偵部は、所用により今回は出場することができません。予めご了承ください」
入学式のときに目を閉じながら司会をしていたその生徒は、目を開けた状態でそう言った。相変わらずセーターを腰に巻き、ボタンは上から三つ開いている。声が透き通っているのでなければ、許されない暴挙だろう。
聞き違いでなければ、今確かに六陵高校推理探偵部は出場しないって言ったよな。
……じゃあこのイベントは何のためにあるんだ。
俺は何だか馬鹿らしくなって、静かに、目を閉じた。
◇◆◇◆
実に二時間にわたる部活紹介が終了し、俺達は六陵会館を出た。徒歩四分の一年生棟への道は、部活勧誘の上級生で溢れていた。
「サッカーやろうぜ!」
「走る!」
「バッバッナッ……じゃない、バタフライ!」
「うん、テニスがいいよね」
「あなた、苗字は?」
「ボールが友達!」
「嗚呼面」
「It's CDG」
道中かけられる声に、俺はお人よしにもイチイチ答えた。
「あ、やらないです」
「そうですね」
「上手ですね(噛んでるけど)」
「あ、もらいます」
「白詰です」
「あ、野球なんですね」
「……」
「…………」
中には意味のわからないものもあったけれど。苗字なんか聞いて何にするんだ。最後のなんか意味不明だし。
俺の腕は、チラシやらパンフなんかで一杯になった。この学校には、部活が多いということは身を持って痛感した。
「我が六陵高校推理探偵部にようこそ」
俺はバッと振り返る。聞き覚えのあるその声のもとには、あのチビ男、宇治川海山が例のチラシを待って立っていた。周りには誰もおらず、動く気配はない。俺は見なかった振りをして通り過ぎる。すると俺に気づいたのか、宇治川海山がこっちに一直線に近づいてきた。
「君、我が六陵高校推理探偵部に入らないか」
その言葉とともに、肩にチビ男の手が置かれた。
俺の隣を歩いていた、宗田さんの肩に。
「えっ……え?」
宗田さんはチビ男の顔を見つめる。チビ男は、それが宗田さんだと今頃気づいたのだろうか、「あ、失敬。以前勧誘した者だ、以後宜しく頼む」と言った。
「おい、ちょっと待てお前」俺は二人の一方的な会話に割って入る。
チビ男は俺の登場に眉をしかめる。「また君か」
「それはこっちのセリフだ、この野郎」
俺はそう言って宗田さんに握手を差し伸べていたチビ男の手を払う。
「お前は一体何で人間を見分けているんだ。一度声をかけた人に、その人と知らずに声をかけるなんて、非常識じゃないのか」
「私は多くの人間に勧誘をしているのだ。勧誘に顔など関係無いだろう」
「じゃあ何でこんなに宗田さんに拘るんだよ。顔は関係無いんだろう?それなのにお前は、他の人に見向きもせずに真っ直ぐに宗田さんに近寄ってきたじゃないか。あれはどういうことだよ。顔が関係無いなら他の人にしたらいいだろう」
「私には見えるのだ、心が」チビ男はそう言った。
「はあ?」
俺は呆れて物も言えない。いや、実際は言えるけど、比喩ってやつだ。
「じゃあ何だ、お前は宗田さんを、その……心臓で見極めたのか」
宗田さんが心臓をつままれたような顔で俺を見る。チビ男は全く動じていない様子で「そうだ」と言った。
「心臓とは少し違うが。とにかく私には心が見えるのだ」
「じゃあ何だ、勧誘に向きそうな心とか、そういうのがあるのか。騙されやすいとか」
俺は半笑いでそう言う。馬鹿馬鹿しい。超能力じゃああるまいし。
「違う。ソーダ酸とやらの心は、信用に足る心なのだ」
「信用にたる、心……ですか?」
宗田さんが嬉しそうにそう言う。宗田さんが少し嬉しそうなのはなぜだ。
「私の親友の心に、とてもよく似ている。信用に足る、固い心だ」
チビ男はそう言って胸を張った。小さい胸を、大きく張った。




