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モフモフ好きのオッサン、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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第58話:野生のウルフ

 冒険者ギルドを後にした俺は、街の外れでアーリィと合流して、街道を歩き進めていた。


 もちろん、道中の会話は――、


「えっ! 軍隊蜂の蜂蜜がオークションにまわされたの!?」


 軍隊蜂の蜂蜜が高騰していたことである。


「俺も驚いたよ。あの小瓶一つで、金貨三百枚以上すると言われたんだぞ」

「嘘……。私、今朝のパンだけで金貨二百枚くらい食べちゃったかも……」

「食べた蜂蜜を金貨で換算するなよ」


 口元を手で押さえるアーリィだが、軽く冗談を言っただけのようで、深く気にしている様子は見られない。


 それもそのはず。一般的には貴重な素材であったとしても、軍隊蜂が生息する山で暮らす俺たちにとって、今や身近な食材になっているのだから。


 こうして金貨で価値を測ろうとしない限り、今後も気に留めることはないだろう。


 まあ、経済的に余裕がなかったアーリィは、そっちの方が気になるのかもしれないが。


「こんなこと言うのもあれだけど、トオルの依頼を受けている限り、お金に困ることはなさそうね」

「この山で暮らしていると、資産が増える一方だからな。冒険者ギルドの受付嬢にも、モンスター財閥と化していますね、と言われたばかりだぞ」

「それは、資産がモンスター級に増えているってこと?」


 目をキラーンッと輝かせるアーリィは、欲望に素直な一面がある。


 しかし、彼女は律儀な性格なので、俺が大金を持っていると知ったとしても、依頼料を過剰請求してきたり、奪い取ろうとしてきたりすることはない。


 純粋に『資産』や『金貨』といった言葉に反応しただけで、羨ましいと思う程度だった。


「魔物の素材を売却するだけで大金を得ているから、モンスター財閥と言われているんだと思うぞ」

「なるほどね。どちらにしても、ピッタリの名前だと思うわ」

「やめてくれよ。花の世話の依頼料、引き上げるぞ」

「そこは減らしなさいよ。私はまだ、日給で金貨一枚もらうことが高いと思ってるんだからね」


 ほらね、と言いたくなるほど、アーリィは義理堅い。そして、頑固な一面も併せ持っている。


 クレアと二人合わせての日給だが、一日当たり金貨一枚、日本円で約一万円という金額は、俺とアーリィで話し合って決めたものだ。


 しかし、軍隊蜂の蜂蜜が高騰している今となっては、安い金額を提示しているような気がする。


 今後の活躍次第では、ボーナスを出す形にしてもいいのかもしれない。


 そんなことを考えていると、街道の近くにある森から、一匹のウルフが飛び出してきた。


「ガルルルル」

「トオルは下がってて。これくらいの相手なら、すぐに終わるから」


 護衛役のアーリィが、ウルフを討伐しようと剣を抜くが――。


「ちょっと待ってくれ。こいつの相手は、俺に任せてくれないか?」

「……まあ、別にいいけど」


 アーリィはキョトンッとした表情を浮かべたものの、剣を鞘に納めて、後ろに下がってくれた。


 一方、ウルフとの戦闘を請け負う俺は、心を落ち着かせるように深呼吸する。


 今までウルフと戦闘したのは、たったの二回だけ。


 どちらも盗賊たちに操られて、正気を失っていたウルフだったが、今回は違う。


 野生のウルフであれば、魔物と友好関係を築きやすくなる加護の効果が表れて、きっと仲間になってくれるはずだ。


 ウサ太と同じモフモフ枠の仲間として、俺はこのウルフを――、


「ガルルルル」


 手懐けられないかもしれない。


 あくまで友好関係が築きやすくなるだけだから、敵意を向けられてもおかしくはないが、ちょっぴり悲しかった。


 いや、まだわからないぞ。


 どんな時であったとしても、魔物を信じる心が大切だ。


 俺は寛大な心を持って、このウルフとギリギリまで敵対しないと誓おう!


「ガルルルル」

「大丈夫だ。争う意思はないぞ。こっちに来るんだ」

「ガルルルルーッ!」

「怖くない、怖くないぞー。ほらっ、お手」

「ガウッ!」


 がぶっ


 どごーんっ


 危ねえ……。今のはウサ太の力で守らなかったら、大怪我をするところだった。


 これだけ友好的な意思表示をしても、仲間にならない魔物がいるとは……。


 良い勉強になったな。


 イリスさんの言っていた通り、たとえ女神様の力であったとしても、過信しない方が良さそうだ。


「よしっ、こいつはトレントの爺さんの餌にしよう」

「それはいいと思うけど……。今のは何だったの?」

「気にしないでくれ。ちょっとした黒歴史みたいなものだ」

「うん、そうだと思ったわ。だって、魔物を手懐けようとする人、初めて見たもの。ちゃんと失敗するあたりが、すっっっごく恥ずかしいわよね」

「うまく誤魔化したつもりなんだから、みなまで言うなよ」


 こうして俺は、ウルフは仲間にならないことと、魔物と友好関係を築くことに失敗すると恥ずかしくなるということを学んだのであった。

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