第121話:王都までの旅路Ⅲ
馬車から下りたルクレリア公爵とフィアナさんは、焚火の跡地に敷物を敷いて、そこに腰を下ろす。
二人がグッと体を伸ばす姿を見る限り、馬車の中で揺られ続けるのも楽ではなさそうだった。
馬車の中にはいくつもの資料が積載されているので、王都の会議に向けて準備をしているんだろう。
サウスタン帝国の一件があっただけに、ルクレリア家としても、ここが正念場なのかもしれない。
そんな二人のことを癒すべく現れたのは――。
「クリエイトウォーター! はい、どうぞ。お水だよ」
久しぶりの旅でテンションが上がり続けていたクレアだ。
相手が貴族であることを忘れたのか、何気ない表情で二人に水を手渡している。
「ありがとう、お嬢さん」
「ありがとうございます、クレアちゃん」
まあ、二人とも細かいことを気にするような人ではないから、問題ないと思うが……。
顔を真っ青にしたアーリィは、ルクレリア公爵に勢いよく頭を下げていた。
「すみません! うちのクレアがすみません!」
「いや、交渉の場でもない限り、私は些細なことを気にしないよ。アーリィくんとも長い付き合いになるだろうから、もっと気を楽してくれ」
「へっ……? あっ、ありがとうございます……!」
ルクレリア公爵のありがたい言葉を受けて、アーリィは戸惑いを隠しきれていなかった。
フィアナさんにお願いして、公爵家の依頼を受けたはいいものの、後ろめたい気持ちを抱いていたんだろう。
冒険者としての実力を評価されたわけではないとわかっている分、護衛依頼を完璧にこなして、認められようと考えていたに違いない。
それなのにもかかわらず、早くも『長い付き合いになる』という前向きな発言をもらったため――。
「ねえ、トオル。私、寝ている間に世界の平和でも救ってた?」
嬉しいを通り越して、逆に不安になっているみたいだった。
事の成り行きを見ていたウサ太が、よかったな……と言わんばかりにアーリィの足をポンポンッと叩いている。
しかし、本人は納得していないみたいで、動揺したままだった。
単純に考えて、軍隊蜂の縄張りを調査できる唯一無二の冒険者が、アーリィとクレアである。
早いうちに二人と信頼関係を築いて、カルミアの街を中心に冒険者活動を続けてもらいたいだけなんだと思うが……。
そんな思惑があることを俺が伝えるのは、なんか違う気がした。
「フィアナさんと親しい女性冒険者となれば、こういった依頼が出しやすいんじゃないか? 男女の問題を気にしなくてもいいからな」
「……確かにそうかもっ!」
めちゃくちゃ納得してくれているが、ルクレリア公爵はもっと計算高い人である。
ルクレリア家に利益があると判断したから、アーリィと信頼関係を結ぼうとしているにすぎない。
ただ、アーリィやクレアにとっても悪い話ではないため、俺は余計なことを考えないようにする。
ルクレリア公爵は、基本的に悪い人ではないのだから。




