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もふもふ好きのおっさん、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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119/122

第119話:王都までの旅路Ⅰ

 旅の準備を進めて一週間が過ぎる頃。


 王都に出発する日がやってきたので、俺たちはそれぞれ荷物を抱えて、街の外でルクレリア家が来るのを待っていた。


 街で調達しようと思っていた固パンやタオルは、すでに購入をしている。


 マジックバッグに入りきらなかったトレントの果実も、木箱に入れて持ってきていた。


 これで快適に過ごす準備は万全なのだが、アーリィは心配そうな表情を浮かべている。


「ねえ、本当に大丈夫かしら。護衛依頼を受けた身としては、浮かれている感がすごいと思うんだけど」


 今から王都で開かれる重要な会議に参加することを考えたら、とてもではないが、アーリィの言葉を否定することはできない。


 俺たちはピクニックと勘違いしているかのような浮かれ気分であり、快適な旅を存分に楽しもうとしていた。


「これくらいの軽い気持ちでいた方が、変にプレッシャーを感じなくていいんじゃないか?」

「そう? 緊張感が不足しすぎている気がするわ。公爵家の護衛依頼なんて、とんでもないほど大きい仕事なのに……」


 ブツブツと呟くアーリィだが、彼女はあまり大きな声で反論することができない。


 なぜなら、軍隊蜂の蜂蜜やロイヤルゼリーだけでなく、ハンドクリームまで持ち込み、美肌を維持する準備を整えているのだから。


「もう少し遅くてもよかったなら、髪の毛もちゃんとしてきたんだけど」


 魔物の血を浴びても平然としていた姿が、まるで嘘のようだ。


 ちょっとした寝癖を気にするくらいには、アーリィは身だしなみにも気を使うようになっている。


 一方、ニャン吉の素材で作った毛布を大事にそうに抱えるクレアは、落ち着かない様子だった。


「これを置いたら、冒険者……。これを置いたら、冒険者……」


 魔法使いとしてデビューするクレアは、必要以上に緊張している。


 こういう時にウサ太が動くことができれば、話が変わってくるのかもしれないが……。

 

「……きゅ」

「おいっ、ウサ太。お前は今、帽子のはずだ。声を出しちゃいけないぞ」


 ウサ太は魔物であることがバレないように今、俺の帽子と化している。


 ここからは周囲の意識し続けなければならないので、俺たちはクレアを気遣う余裕を持つことができなかった。


 よって、クレアのことはアーリィに任せるしかない。


「冒険者……、冒険者……」

「クレアは緊張しすぎよ。道中で魔物が出てきたら、どうするの?」

「魔法で倒すっ」

「そこはしっかりとしているのね」

「冒険者は、魔法で倒すっ」

「逆にそのことしか考えていないような気がするわ。もう少し落ち着かないと、無駄に疲れちゃうだけよ。ほらっ、深呼吸して」


 クレアにつられたウサ太が一緒に深呼吸していると、街の方から大きな馬車がやってくる。


 見慣れた人が御者さんだったので、俺は肩の力を抜いた。


「おはようございます、ロベルトさん」

「おはようございます。少々お待たせしてしまいましたかな?」

「いえ、大丈夫です。先に荷物だけ積んでもらってもよろしいですか?」

「はい。旦那様よりそのようにうかがっておりますが……。また随分とお持ちしましたね」


 ロベルトさんが小言を言うくらいなので、さすがに俺は持ち込みすぎたことを反省した。


「トレントの果実を食べ続けてきたことが裏目に出たみたいです。道中で口が寂しくならないように、木箱に入れて持ってきてしまいました」

「いやはや、なんとも羨ましい悩みですな。あのような生活をされていたら、お気持ちがわからなくもありませんが」


 ロベルトさんが木箱を荷台に積みために御者台から降りると、馬車からルクレリア公爵が顔を出してくれる。


「よろしく頼むよ、トオルくん」

「こちらこそよろしくお願いします」


 それだけの短い挨拶を交わした後、顔を引っ込めたルクレリア公爵の代わりに、フィアナさんが降りてきた。


「トレントの果実を輸送するなんて、商人にでもなったような気分ですね」

「王都に着く頃には、空になっているかもしれませんけどね。一応、皆さんで食べられるようにと、多めに用意してきました」

「そうでしたか。お気遣いいただき、ありがとうございます」

「いえいえ、とんでもありません。こちらも気遣っていただいたみたいで、恐縮していますよ」


 本来、公爵家が王都に向かうとなれば、もっと大勢の騎士が護衛するだろう。


 しかし、今回はウサ太も同行することをお願いしていた影響か、付き人はロベルトさんしかいなかった。


 その分、アーリィとクレアが頑張ってくれることを祈るばかりではあるのだが……。


「冒険者、魔法、倒すっ。冒険者、魔法、倒すっ」

「なんで片言なのよ。もう少し落ち着きなさい」


 幸先が不安なので、出発前にクレアにハニードロップを食べさせて、心を落ち着かせてやろうと思う。


 ただ、フィアナさんは護衛に対してあまり気にしていないのか、荷台からあるものを取り出した。


「ちなみにルクレリア家では、以前トオル様にいただいた品を国王様にお渡しする予定です」


 ルクレリア家の屋敷を訪問した際にお裾分けしたバナナである。


 あの時、不敵な笑みを浮かべていたような気はしていたが、まさか国王様に渡そうとしていたとは……。


 悪目立ちしそうだと思い、冒険者ギルドに納品することをやめたのは、正解だったのかもしれないな。


「一週間前に渡したものですので、すでに良い感じに熟していると思います。王都に着くまでに食べるべきですね」

「いえ、こちらはとても貴重なものです。魔道具で冷やして持ち運べば、問題なく王都まで持ち運べ――」

「木箱の中にいっぱいありますから、心配しないでください。むしろ、そっちに冷やす魔道具を移してもらった方がありがたいですね」


 僅かにキョトンッとした表情を浮かべたフィアナさんだが、さすがにこういったやり取りにも慣れてきたんだろう。


 ロベルトさんが運んでくれた木箱まで一緒に向かい、中を覗いてみると――。


「遠慮なく休憩時間にいただこうと思います」


 コロッと意見が変わったフィアナさんは、アッサリと食べることを承諾してくれた。


 そして、今までの話を聞いていたのか、素早く動いたロベルトさんが保冷材のような小さなものを差し出してくれる。


「こちらが冷やす魔道具になりますぞ」


 現金な行動に定評があるロベルトさんは、こういう時に素早く動いてくれるのであった。

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