第114話:妙案
俺がアーリィとフィアナさんの会話に気を取られている間にも、ルクレリア公爵は真剣な表情で考えてくれていた。
「実はサウスタン帝国との一件もあって、こちらでも打開策を模索していたところなのだ。そのことを踏まえた上で聞いてほしい。ルクレリア家だけでは難しいが、トオルくんが協力してくれれば、状況を大きく変える案が一つだけあると考えている」
「俺の協力……ですか。現状としては打つ手が思い浮かばないので、話だけでも聞かせてください」
「単純なことだ。国にトオルくんの存在を認めてもらう。具体的には、国が軍隊蜂の管理者を定め、それにトオルくんが任命されることで、すべての問題が解決する」
ルクレリア公爵の案が通れば、確かに問題は解決するだろう。
ただし、国に案が通れば、の話である。
普通に考えて、平民の俺が一国の軍事力を誇る魔物を管理する者と認めてもらうとなれば、それ相応の成果を求められたり、国からの信頼を得たりしなければならない。
今回の一件をうまく報告したとしても、そんなことができるとは思えなかった。
ルクレリア公爵に陥れられることはないと思うが、随分と耳障りの良い提案のように聞こえてしまう。
「失礼ながら、その案で本当にうまくいきますかね」
「危ない橋を渡ることにはなると思う。だが、現状のように後手に回り続けると、いずれは身動きが取れなくなるかもしれない。今後、サウスタン帝国が動くことを考えると、余計にな」
「おっしゃりたいことがわからなくもないですが……。俺は表舞台に出るような行動を極力避けたいんですよねー」
貴族社会に深く関わると、山で採れる素材を過度に求められ、不利な状況に立たされる気がする。
トレントの果実や軍隊蜂の蜂蜜だけでなく、俺がスキルで作るシャンプーなども求められたら、国の手足になって働かされる恐れがあった。
ただ、これはリーフレリア王国の方針とルクレリア公爵の手腕次第で、どうにでもなること。
仮にサウスタン帝国と同じように、リーフレリア王国も欲深いことを考えるような国であれば……。
遅かれ早かれ、衝突することになるだけか。
それなら、ルクレリア公爵の手腕にかけてみるのも、悪くないのかもしれない。
なんといっても、不敵な笑みを浮かべるルクレリア公爵が、勝算もなしに提案してくるとは思えないのだから。
「トオルくんのやっていることを考えると、気持ちはわからなくもない。ただ、君と初めて交渉した時のことを思い返すと、そのような言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「とんでもありません。俺は平和主義ですので」
「ハッハッハ、なかなか面白い冗談だ。軍隊蜂という軍事力をチラつかせ、あれほど手に汗握る交渉をしてきた人間が野望を持たないとはね」
「ははは……」
変な誤解をされているような気がするが、無理に否定すると余計に話が怪しくなる気もする。
ただ、詳しい事情を説明することはできないので、乾いた笑いで誤魔化すしかなかった。
一方、アーリィとフィアナさんの方も妙な状況に陥っている。
「お裾分けの中に、見慣れないものが入っていますね。こちらは、バナナですか?」
「ええ。それもトレントが作り出したものよ」
「えっ? あのトレントは、バナナも実らせることができるんですか?」
「そうみたいね。だって、実際に作っちゃったんだもの。今は双子のトレントが生まれて、バナナの生産が増えたところよ」
「……すみません。頭痛がして、よくわかりませんでした。もう一度言ってもらってもいいですか?」
「難しく考えなくてもいいわ。そのままの意味で受け止めてもらえたら、伝わる範囲の内容だから」
予想外の情報に混乱するフィアナさんをよそに、俺はルクレリア公爵と向き合う。
「最終的に安全に山で暮らせるのであれば、ルクレリア公爵の力をお借りしたいと思います」
「トオルくんなら、そう言ってくれると思っていたよ。ちょうど一週間後に王都で、今後の国の動向を決める重要な会議が開かれる。そこで私は、軍隊蜂との戦争を取りやめるように進言するつもりだ。もしよければ、トオルくんも同席しないか?」
「公爵家が平民を連れて、重要な会議に参加とは……。随分と悪目立ちしそうなプランですね」
「それは仕方ないことだが、勝算のない話はしないよ。すでにこちらの手には、強力な交渉カードが多く存在する。後はトオルくんの気持ち次第だ」
「……わかりました。乗り掛かった舟という言葉もありますし、俺も腹をくくりましょう」
「うむ、いい心構えだ。王都で過ごす際には、ルクレリア家の屋敷に招待しよう。外では話しにくいことも話せるからな」
「ありがとうございます」
ルクレリア公爵と固い握手を交わした俺は、今回もルクレリア家と協力して挑むことを誓う。
その一方で、フィアナさんは不敵な笑みを浮かべてバナナを見つめていた。
「トレントの果実に、バナナですか。これは使えるかもしれませんね」
彼女が何を考えているのかはわからない。
ただ、本当にこの二人は親子なんだな、と思ってしまうのであった。




