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モフモフ好きのオッサン、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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113/114

第113話:上書きされる噂

 冒険者たちの無謀な行動を抑制する案を伝えるため、俺はアーリィと共にルクレリア家の屋敷を訪ねていた。


 本来であれば、ルクレリア公爵は簡単にお会いできるような方ではない。


 しかし、軍隊蜂の一件で交流を深めたこともあったので、無下に扱われることもなかった。


 本当に忙しいと思うが、優先的に面会を認めてくれて、俺の話を聞いてくれている。


「状況は理解した。トオルくんの頼みであれば、協力させてもらおう」


 そして、不信感を抱かれることもなく、いとも簡単に力を借りることができた。


 これには、冒険者ギルドに在籍するフィアナさんまで同席してくれている影響が大きいだろう。


「お父様。冒険者たちが軍隊蜂を刺激して、また街道に現れるようになることは避けたいです。せっかくなら、注意喚起ではなく、警告するような形にいたしましょう」

「わかった。ついでに、商業ギルドの前ギルドマスター、ゴードン伯爵が()()()()になった経緯にも触れておくとしよう」


 ルクレリア公爵の言葉は、事実関係とは異なる。


 売国行為を働いたゴードン伯爵は、俺たちと敵対したことで帰らぬ人となったのだが……。


 伯爵家の愚行を世に出すのはリスクが大きく、国内が混乱に包まれる可能性があるため、行方不明という形で処理されていた。


 ただ、ゴードン伯爵が暗躍していたことで、カルミアの街に大きな被害が出る恐れがあった影響か、二人の目は笑っていない。


「私利私欲に走ったゴードン伯爵は、軍隊蜂の山に向かい、帰ってこなかったことにする」

「情報に恐怖が足りません。大勢の私兵団を巻き込んだ挙句、誰も帰ってこなかったとするべきですね」

「貴族とは思えぬ無残な姿で見つかったことも追加だ。彼らが山を荒らしたせいで、軍隊蜂が殺伐としているとすれば、冒険者も震え上がるだろう」


 ルクレリア家の腹黒い一面が垣間見えた気がする。


 フィアナさんが人質に取られる恐れもあったので、俺とアーリィは下手に口を挟むことができなかった。


「権力を持っている人間を怒らせるのって、思っていた以上に怖いんだな」

「ええ。この親子を敵に回さなくて、本当によかったと思うわ」


 クレアの『蜂さんたちがピリピリしてるー』という言葉は今、大人たちのどす黒い何かで上書きされている。


 今後、街中でどういう噂が流れるのかわからないが、クレアの耳には入ってほしくないと思ってしまった。


 そんな話し合いがしばらく続いた後、ルクレリア公爵は何事もなかったかのように平然とした顔を向けてくる。


「冒険者を相手にするのであれば、これで収集がつくとは思えない。軍隊蜂の蜂蜜が一度採取された以上、それを納品する依頼だったり、定期的に採取を試みようとしたりする者が現れるだろう。ましてや、国から依頼が出される恐れもある」


 ルクレリア公爵の言葉を聞いて、俺は自分の考えが甘かったことに気づかされた。


 軍隊蜂の蜂蜜が薬の素材になる以上、身分の高い貴族が病気になれば、高額な依頼が発注される可能性がある。


 百歩譲って、ロベルトさんのような強者が依頼を受けたり、複数のパーティを集められたりするだけならまだしも、王族が病気に陥れば――。


「騎士団が導入されると厄介ですね」


 せっかく軍隊蜂との戦いを阻止したにもかかわらず、結局同じ道を歩むことになってしまう。


 それだけは阻止しなければ、山の平和を守りきることはできなかった。


「トオルくんの言う通り、騎士団が派遣される場合、非常に厳しい状況が予測される。おそらくルクレリア家も加わることになり、大々的な動きを取ることに繋がるだろうな」

「その形は望みません。国からの依頼だけ、俺が納品するようにすれば――」

「逆効果だ。やはり軍隊蜂の蜂蜜は採取できると思われ、冒険者たちが果敢に採取に向かうことになるぞ」


 確かに、国との衝突を避けたとしても、強欲な貴族や冒険者たちが集まってきたら、あまり意味がない。


 一時的には対処できるものの、近い将来のうちに悪化することは避けられそうになかった。


 軍隊蜂の蜂蜜を小瓶で一度納品しただけなのに、まさかこんなにも頭を悩ませる問題に発展するとは……。


 俺が採取できると証明してしまっただけに、うまく対処したいところである。


 そんな難題に頭を抱える中、呑気なことをしているアーリィとフィアナさんが視界に映った。


「はい、これ。トレントの果実がいっぱい採れたから、お裾分けよ」

「ありがとうございます……と、気軽に受け取っていいものなのか、悩みますね」

「別にいいんじゃない? トオルも私も、家賃の代わりみたいなものだと認識しているわ」

「そうですか。ルクレリア家が治める領地内で採れたものだと考えれば、妥当なような気がしないこともないような……」

「気にしなくてもいいわよ。持って帰る方が重いんだもの」

「そういう問題ではない気がしますが」

「言いたいことはわかるわ。なんだか最近ね、私も物の価値観がおかしくなり始めちゃって……」


 そっちからも耳の痛い話を入れるのは、やめてくれ。


 アーリィの常識が失われつつあるのは、明らかに俺が原因なんだからな。

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