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モフモフ好きのオッサン、異世界の山で魔物と暮らし始める  作者: あろえ
第二章

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第112話:無謀な思考

 アーリィとクレアがリンゴを持ってきてくれたこともあって、イリスさんはご満悦だった。


 クレアにお勧めしてもらったリンゴを頬張り、笑みを浮かべている。


「サウスタン帝国のことは、ひとまず私に任せてくれればいいわ。どちらかといえば、今後はカルミアの街からやってくる冒険者たちの対処をお願いしたいところね」

「冒険者たちの対処、ですか。軍隊蜂の蜂蜜を狙ってくるかもしれない、ということですね」

「ええ。軍隊蜂に危害が及ぶというよりは、無謀なことを考えて、命を散らせていく冒険者たちの方が心配なのよね」


 俺が軍隊蜂の蜂蜜を納品したことで、王都のオークションに出品されることになっている。


 フィアナさんが『高ランク冒険者向けに輸送依頼を出した』と言っていたので、無謀な行動を取る者が出てきても不思議ではなかった。


 これは俺が原因を作ったようなものだし、お世話になっているイリスさんの頼み事であれば、それくらいのことは対処したいのだが。


「荒くれ者の冒険者たちを引き留める方法、か」


 同業者でもない俺の言葉を、彼らが聞いてくれるとは思えない。


 逆に高価な素材を独り占めしていると怪しまれ、冒険者たちの動きを活発化させる恐れがあった。


 どう対処するべきだろうか……と悩んでいると、すでに対応策を考えてくれていたのか、イリスさんが満面の笑みを向けてくる。


「山の麓に柵を作るのはどうかしら。入ってきてはダメだと、一目でわかるはずよ」


 残念ながら、イリスさんの女神モードは、完全にオフになってしまったみたいだ。


 ポワポワとしてしまい、子供並みの知能レベルまで低下している。


 思わず、アーリィが大きなため息をこぼしていた。


「師匠って、こういう子供っぽい発想をするところがあるの。純粋に、山の麓に柵を設置したいだけだと思うわ」

「そ、そんなことないわ。柵を超えちゃいけないのは、人間社会のルールの一つよ。とてもわかりやすい素敵な文化だから、これはもう……やるしかないわね!」

「私の経験上、師匠に深い考えはないと断言できるわね。たぶん、ちょっとだけ悪い体験がしたいんだと思うわ。入ってはいけないところに入っちゃう、みたいなね」


 ドキッとしたイリスさんが明後日の方を向いているので、アーリィの言うことが事実なんだろう。


 思い返せば、俺も異世界に来たばかりの時に、詐欺まがいの行為をされたことがある。


 トレントの果実の相場を知っておきながら『金貨二枚で買う』と交渉されたことがあったのだ。


 実際には、適正価格の金貨十枚で買い取ってくれたし、そういう詐欺があると教えてくれる目的もあったので、悪いことをされたわけではない。


 そういう小さいイタズラや悪いことをして、背徳感を味わいたいだけなんだと思った。


 女神様なのにな……と思う反面、女神様だからこそ、そういう背徳感が堪らないのかもしれない。


 どちらにせよ、柵を作って対処するのではなく、もっと別の方法を取るべきだった。


「現実的に考えて、俺たちが冒険者を止める術はないよな」

「そんな権限がないものね。いっそのこと、ルクレリア家にお願いして、立ち入り禁止区域に指定してもらえばいいんじゃないかしら」

「できないことはないだろう。ただ、それだと俺たちも影響を受けるんじゃないか?」

「私たちは居住権があるんでしょう? じゃあ、問題ないと思うわ」

「実際に俺たちが軍隊蜂の山に入る姿を見たら、冒険者たちも侵入すると思うぞ。山の麓に騎士を配置して、厳戒態勢を敷いてくれるのであれば、話は変わってくるが……」

「それだと軍隊蜂が興奮して、かえってトラブルが起こりかねないわね」


 冒険者たちの命を守るためとはいえ、軍隊蜂に迷惑をかけてしまうのは、俺たちの本意ではない。


 山で暮らす魔物たちに影響が出ないような形で、穏便に済ませる方法を考えるべきだった。


 これは難題かもしれないな……と頭を抱えていると、クレアがまっすぐ手を挙げる。


「はいっ。冒険者ギルドに注意喚起を入れてもらうのがいいと思う」

「ルクレリア家を経由して、冒険者ギルドにお願いすれば、それくらいのことは可能だ。ただ、普通に注意喚起を入れてもらうだけでは、効果は薄いと思うぞ」

「そう? でも、前とは状況が違うよね。蜂さんがいっぱい増えたから、もっと危なくなっちゃったって言えば、近づいてこないんじゃないかなあ」


 ……意外にも、答えは単純だったのかもしれない。


 軍隊蜂の蜂蜜が採取されたと知れ渡るのであれば、軍隊蜂が活発化したと伝えることで、彼らの怒りを買ったと思わせることができるのだから。


「確かに、クレアの言う通りだな。軍隊蜂の数が増えているだけでなく、彼らが緊張感を漂わせていると伝えることができたら、危険な場所だと認知されるだけの話か」

「うんっ。警戒している時の蜂さんは、とーっても怖いからね。蜂さんがピリピリしてるーって言えば、誰も近づいてこないと思うよ」

「大袈裟に伝えるのは、良いアイデアだ。よしっ、その方法でいこう。お手柄だぞ、クレア」

「えへへへっ」


 こうして俺たちは、無謀な冒険者たちの行動を抑制するため、ルクレリア家に協力要請を出すことにした。


「さ、柵もいいと思うわ……」


 さすがに功労者のイリスさんが可哀想なので、時間に余裕ができたら、山の麓に柵を作ることも検討しようと思う。


 ……本当に時間ができたら、であるが。

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