焼き鳥と魔力と願望
魔力を叩き込む。
魔力を注ぐ。
魔力を貯める。
魔力を攻撃として扱う。
扱えば扱うほど魔力を高めていくことができる。
「発現を越えれば次は壁に当たるまで伸びてゆくものですから。覚えは良い方だと思いますよ」
ピヨット君が魔法陣を紙に刻みながら褒めてくれる。
使えるようになってかなり早期に壁に当たりスランプを経験することが普通らしいけれど、現状スランプとは無縁だ。ちょっとすごい?
「まぁ攻撃技能としては基本だけで応用やアレンジとは無縁ですし、あとは供給に叩き込むだけなので自己発生魔力は高まりますし、あ、質はイマイチですよ。枯渇させなければ使えないなんてスランプとは無縁なんですけどね」
軽やかに青い鳥に笑われてすっごい焼き鳥が食べたくなった!
どうしてピヨット君は上げて落としてくるんだろう。美味しい焼き鳥は塩焼きかな。タレ焼きかな?
ざわりと冷えた空気は日が昇るにつれてじっとりとした絡みつくような湿度の高さに息苦しさすら感じるものに変わる。
無限かと思えるほどのワームが緑の地面を泳ぎ遊んでいた。
ここは橋むこうの森である。雨期の前は雑草は伸びていたけれど、それでもここに道があった。今はもうあとかたもない。
ぷにぷにと肉厚の葉っぱがゆらゆらワームの上に浮いている。
「き、気持ち悪いわぁああああ!」
叩き込んだ魔力は周囲の木々を数本なぎ倒した。
『領主様大丈夫ですか?』
息を切らせて破壊跡を見下ろしていた私にしゅるりと下りてきたノンカンさんが問う。
『ああ、領主様、ワームが苦手でしたね』
なにか応える前に導き出せるノンカンさんステキ。ちょっとやり過ぎたかなとも思う。
ダメだったかな?
衝撃で抉れた大地にでろりとした泥が流れこんでいく。ワームの死骸が混じっているのか滑りは良さそうだ。
『少し高低ができましたね。橋からの道はゆるやかな歩きやすいものでしたから、侵入者を遠ざけはするでしょうけれど』
「けれど?」
『調査は行われるでしょう。奥地が変動し過ぎていますから』
侵入者は来ます。ノンカンさんは断言した。
リア充上司様によると橋がかかるのは夏の終わり収穫の多い時期。冬に向けて食材の備蓄に勤しむのは人里もまた変わらず、マグレッチェの災禍を廃した以上、秋の恵みの収穫、狩猟が忙しくなり、橋の様子を見に来るかはあやしいと言ってはいたけれど、冬には発見されるかもなとも言っていた。
マグレッチェの災禍が失われた人里にはかわりのようにマツカの木と食材としてのマシュポゥが大繁殖。マシュポゥで増えた野ネズミや野ウサギ狩りの対象も増殖している。
人は飢餓で死ぬより、きっと狩りで死ぬ。
侵入者は魔力を技を育てて迷宮に挑む可能性が高い。
「身内に負傷者出したくないんだけどなぁ」
『私どもは世代交代し強き長のみが個としておそばにあります。領主様。我らは強くなります。死を糧にしてでも。そしておそばにあります。……疑われますか?』
「疑わない。ありがとう。でも、それでも、怪我をして欲しくない」
彼らの中で弱肉強食な捕食が行われているのは知っている。だから、最初の子以外あまり名前を知りたいと思えない。だって違う子に変わっているのに気がつかない自分の薄情さが許せなくなりそうだから。
『領主様は我らに弱くあれとおっしゃいますか?』
それはない。
しかたない。わかっている。だけれど、だけど。
「わかっているのと嫌だと思うのは止めれないの。強くなって。……それで、私のそばに居て」
『喜んで。おそばに。ワーム、沈みましたし、移動なさいませ』
「ん。とりあえず薄く道はつけときたいんだけど?」
『よろしいですが、物理伐採か、この辺りの木精に命じるかのどちらを選ばれます?』
物理伐採かおねだりか。
結局、伐採した。
魔力を叩き込み、どうすればより効率的か、発動時の感覚とか考えて橋のたもとまで。振り返れば、かなり蛇行していてまっすぐ歩いてたつもりの私は落ち込んだ。
効率はよくわからないままだけど、橋に近づくほどに伐採は進まなくなった。『魔力が強まるということは抗魔力も高まるということですから』とノンカンさんがわかりやすいんだか、ピンとこないんだかわからない説明をくれた。
伐採し、倒木と化した木をヴィガたちが分割して持ち帰っていった。どうやらガドヴィンのオジさま方に頼まれているようだ。剣だとか斧だとかを使う訓練ぽくもある。
気になって採取したぷにぷに肉厚の葉っぱはねじるとミントのような涼やかな香りがする。持ち帰ったその葉をピヨット君がグラスに絞って飲んだ。しかもわざわざ氷つくって浮かべたうえで!
ズルい!
しかたないのでマグロちゃんのオレンジの髪をもふもふして気分をそらせた。
「クイック・クックに焼き鳥食べたいって頼んでみよう」
「フクロウ樹の実の焼き物は脂っぽいのでもたれますよ?」
フクロウ樹の実は食べないよ!




