16
お待たせしてます!
こそっと更新してます…
話を終えた恭禍は大貴たちと軍用車へ戻って来ていた。
先程までの話を聞いていた大貴たちは、恭禍に何か声を掛けようとして口を閉ざす、という行為を何度か繰り返していた。
起きたベルフェゴールが、それを見て怪訝な顔を向ける。
「何この空気。ついに魔王サマが極悪非道だってバレちゃったの?」
「いいや。それはお前のことだろ?…友人に会ってきたんだが、そこでちょっと気まずいことがあっただけだ」
「ふぅん?相変わらず化け物だとでも言われたわけ?」
「ふふっ…それならよかったんだが。お前も気づいているだろうが、この事態を私が引き起こしたんじゃないかと周りに思わせてしまったんだ」
「あぁ…そんなことか…まァ、十中八九魔王サマが絡んでるのは間違いないよねェ」
ベルフェゴールは嫌な笑みを浮かべながら大貴と莉音をちらちらと見る。
明らかな挑発だった。
「ベル兄!きょう姉のせいじゃないよ!」
「そうですよ!恭禍さんがそんなことするわけないじゃないですか!」
ベルフェゴールの挑発にまんまと乗った二人は、憤慨して声を上げる。二人から反撃を喰らったベルフェゴールは驚きで目を見開いた。
莉音は頬を膨らませて、大貴は両手を握りしめて抗議を始める。
ベルフェゴールはそんな二人をたっぷりと10秒ほど見つめて、そして腹を抱えて笑い始めた。
何故なら、ベルフェゴールの期待した反応は、二人が怯えるか、困惑するかのどちらかだったから。
だから、期待を裏切られて楽しくなり、つい笑ってしまう。
「ぶ、ふははははは!」
「ベル兄!あたしたちは真剣に怒ってるのに!なんで笑うの!」
「はー、笑った笑った。愛されてるねェ、魔王サマ。ダイキもリオンも魔王サマの事好き過ぎじゃね?そんなにマジで怒らなくてもいいだろー」
「恭禍さんは命の恩人なんです!その人をあんな風に言われて怒らないわけないじゃないですか!」
二人の怒りように、また笑いが込み上げてきたのかベルフェゴールは新たな笑い声を響かせる。
それに莉音と大貴がまた怒りを強める。
ずっと続きそうなその状態を、恭禍は黙って眺めていた。
ベルフェゴールがあれほど楽しそうに笑うのを初めて見たのは、魔王としての業務を始めて3ヶ月くらい経ったころだったな、と思い出していた。
ひたすら笑うベルフェゴールに負けたのか、莉音も大貴もむっすりとした表情をして口を閉じてしまった。
ツボに入ったのだろう、それでも笑い続けるベルがやっと止まったのはそれから大分経ってからになった。
「はぁー、やっぱニンゲンっていいねェ!つーか、魔王サマ信頼され過ぎでしょ!クク…で、なんだっけ?」
「…私がこの世界を壊そうとしてる張本人なんじゃないかと疑われてるって話だ」
「あー、そうだったそうだった。だけどさァ、魔王サマが世界を繋げた犯人なワケないじゃん。なんでそんな話が出てくるわけ?」
ベルフェゴールは心底不思議そうな顔をしてそう言った。
大貴も莉音も感じ取ることはできないことだが、魔力を使っていると、特徴的な周波を感じられる。
恭禍はその力で異形の出現や襲撃を察知している。
もちろん、それはベルフェゴールにもできるとこだ。
ベルフェゴールは魔力を感じ取れるからこそ、恭禍が犯人ではないと言い切れるのだ。
「魔法や魔術がどういうものか知らない世界の人間たちだぞ?分かるわけないだろ。魔力を感じられる人間なんざ一握りだ。…まぁ、だからこそ私が怪しいとしか言えない面もある」
魔法や魔術が無い世界とは言え、敏感な人間には魔力の特徴的な周波を感じ取れる。
そうなると、逆に恭禍から発される魔力を怪しく思う者が出てくるのだ。
「…あぁ、そうか。アンタからは恐ろしいほど魔力が発されてるからなァ。魔力を感じ取れる人間はアンタが怪しいと思う。感じられない人間はその言葉を信じるしかないってことか」
「まぁな。唯一、魔力を操れる友人は遠くにいるから本当に私がこの事態を起こしていないのだと証明できないんだ」
「…友人と会ってきたんじゃねぇの?」
「この世界は魔法よりも科学が発展してるんでね。機械で顔を合わせることもできるんだよ」
「ふーん」
ベルフェゴールには機械がどうだとかは分からなかった。
彼の世界には無いものだから。
機械に興味を持てなかったベルフェゴールは適当に聞き流した。
「少ししたら国のお偉い方がいらっしゃるだろうよ。ベルはここから出るな。詩音と莉音もだ。場合によっては国と対立しないといけないからな。大貴、悪いが私と同席してもらうぞ」
「は、はい!」
恭禍が原因だと思う者がいれば、恭禍は捕らえられるか最悪殺されるだろう。
それは恭禍自身にとって都合が悪い。
振り切れるだけの火力を持っているのだから、もし何かあれば遠慮せずに突破してしまおう。
そう恭禍はぼんやりと考えていた。
恭禍たちに面会を申し込んで来たのは驚くことに国の首相であった。
首相を守るように山崎が率いる部隊が周りを囲み、同時に恭禍たちを包囲していた。
「…君が勾槻さん、だね?」
恭禍と大貴は軍用車のすぐ横に立っていた。
大貴は銃器を向けられたことで動揺したが、恭禍は囲まれようが狙われようが微動だにしなかった。
二人とも、そこから動くことはない。
先に口を開いたのは首相の方だった。
「恭禍で結構ですよ。勾槻はあまり呼びたい名ではないでしょう?」
「…いや、そんなことは…。そうか、本当に君は勾槻の…すまない…、そうだな、恭禍さんと呼ばせて貰おう」
勾槻の名前は一部の人間から忌避されている。
一部の人間に、首相も含まれていた。
「ええ。それで、芦原首相はどのようなご用件で私たちのところに?ジュリアスから現在起こっていることの説明はしてあると思っていたのですが」
「…報告は受けた。彼らがこの事態について嘘を吐くとは思えない。だが、信じがたい。そこで、我々よりも核心に近い君から直接話を聞きたいと思ったんだよ」
恭禍は首相の言葉にため息をついた。
呆れと一種の感心からだった。
「そうですか。それでわざわざ戦力を割いて私のところに、ね…まぁ良いでしょう。簡潔にご説明させていただくと現在地球は異世界から侵入を受けている、ということです」
「侵入?侵略ではなく?」
「はい。こちらに侵入しているのは異世界の種族の総意ではありません。というより、こちらに侵入している種はマトモな知能を持っていない。異世界の知性ある種族はこの繋がった状態を警戒していると思います」
「…ふむ。侵略ではないというのは分かった。今後、侵略の可能性はあるのかな?」
「なんとも。向こうの生活レベルは世界によって地球より低いですが、軍事的には大して変わりません。こちらの状態が分かれば侵略の恐れもあるかと」
「…その前にこの現状をどうにかしなければならないということか。君にはどうにかする宛があるのかね?」
まぁ、気にするのはそこになるだろうと分かっていたので、恭禍はあえて言葉を探すように視線を下げた。
これからの説明で、恭禍が国と共闘するか、勝手に動くかが決まるのだ。
「首相は、私がこの事態を引き起こしたと思いますか?」
恭禍の質問に、首相は少し考え首を横に振った。
「動機がよく分からない。君がこの事態を引き起こしたとして、どのようなメリットがあるのか…」
冷静に考えればその通りではある。
異世界に行きたかったのなら、6つの世界を同時に繋げる必要はないし、6つの世界を行き来したかったからといって、こんな不安定な状態を作れば他者に反感を買うことは必須だ。
そもそも、この事態を作って私に利益があるのかと言うと、そんなことはない。
現に私は異形を退治して回っているのだ。
繋げて、異世界を行き来して満足なら異形を退治して回る必要はない。
良心が咎めた?それならこの事態を収集させれば良いのだから。
「もしくは、君が望んでこの事態を引き起こしたわけではないということだが…それならば、君はこの事態の解決法を持っているはずだ」




