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どうやら世界が繋がったらしい  作者: 天城 在禾
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「しぃ姉の目…」

「瞳孔と虹彩の境目がない…?」


詩音の瞳を良く見ると、瞳孔と虹彩が同じ色…真っ黒な闇になっていたのだ。

それは虹彩の色が濃いだとか、瞳孔が開いているからだとか、そんな言葉で言い表せるような状態ではなかった。


「きょう姉!しぃ姉の目治る!?」

「今は無理だ」

「今は…?」

「詩音が強ければ自分でどうにか出来るだろうし、私が手を貸して助けてやったとしても今のままじゃ結局は気が狂って終わるだろうな」


恭禍は、こちらを注目している莉音と大貴の視線を感じたが車の前に異形が飛び出して来たために、サクレを窓から放り投げ、クローディアを右腕だけで振り回した。

同時に運転が荒くなったため、大貴たちは席にしがみついて恭禍から視線を外す。

外ではサクレが勝手に動き、勝手に異形を殺していった。

あらかた片付けるとサクレは勝手に窓から入ってきた。

大貴たちには分からなかったが「ごめん」「悪かったって」と聞こえることから恭禍に対して抗議していたようだった。


「この子供は悪魔に取り憑かれてるんだよ。んで、終わらない悪夢を見てるわけ。ホントなら自力で帰ってくるのが一番だけど、まぁ無理だろーね。普段の魔王サマなら小指一本で完璧に治せただろーけど、今の魔王サマは色々とカツカツだからさぁ、無理なんだよねー」


忙しそうな恭禍の代わりに、ベルフェゴールが解説する。

ベルフェゴール自身のせいでカツカツであることを自覚しているからの説明だった。

では詩音はもう元に戻らないのか…?と大貴は顔を青くした。

それを見たベルフェゴールはニヤリと笑う。


「そんな絶望した顔すんなよー。…ゾクゾクするなぁ?」


まさにそれは悪魔の顔だった。

優美で端麗で醜悪で、まさに背筋の凍る笑み。

しかし、その笑みの前に黒く光る鎌が躍り出る。


「ベル…分かってるな?」

「あー…分かってるって。気を付けるから。クローディア様を退けてクダサイ」


大鎌を見たベルフェゴールは降参といったように両手を上げて首を横に振った。

恭禍はベルフェゴールの様子をじっと見たがゆっくりと大鎌を戻した。


「大貴、莉音。ベルはたまにこうやってアホらしい発作を起こす。軽く受け流していい」

「ほっ、さ?ベル兄、病気、なの?」

「あぁ。厨二病って言ってな、不治の病だ。安心しろ。死んだりはしない」


大貴は少しだけ笑ってしまいそうになってしまった。

ベルフェゴールは異世界の人間だから知らないが、厨二病は病気であって病気じゃない。

純粋な莉音は厨二病なんて知らないだろうし、あえてそれを分かって莉音に伝える恭禍は確信犯だった。


「おい、厨二病ってなんだよ」

「えーっ…恭禍さん…」

「悪魔的な思考を意図せずに表面に出してしまう病気のようなものだ」


ベルフェゴールに問われ、恭禍に助けを求めると恭禍はあっさりと嘘を吐いた。

ベルフェゴールに睨まれた大貴はコクコクと頷く。

間違いではない。

厨二病の奴の中にはそういうのもいるだろう。


「莉音。ベルは無理だと言ったが決してそうとは限らない。詩音が戻ってきたいと思えば、元に戻ることもできる。詩音一人で無理なら莉音が手伝えばいい。莉音だけでも駄目なら大貴やベル、私も助ける。ゆっくりと時間をかけて詩音を取り戻せばいい」

「きょう姉…」


莉音はぎゅっと詩音の手を握った。

二人だけの姉妹だ。

今はこの手を握り返してくれることはなくても。

いつか、手を握り、笑みを交わし合えればいいのだ。







紫皇中学から京都まで車でだいたい7時間ほどの距離だった。

高速が使えればその半分以下で着くことができただろうが、生憎異形の襲撃で所々通れなくなってしまっていた。

莉音と詩音のためにも休憩を挟みながら車を走らせたので京都に着くのは夕方になってしまった。

空が赤く、暗く淀んでくる。

京都には、異形はいなかった。

しかし、町中に人の姿はなく、家にはいないようだ。


「…人、居ませんね」

「何処かに避難してるのかな…」


軍用車の運転席まで身を乗り出して大貴と莉音は外を見た。

恭禍はここが結界の中であることが分かっていたので好きにさせていた。


「気配もしねぇな。なぁー、魔王サマ。俺はここから出なくていいよな?」

「あぁ。この結界の中じゃお前はキツいだろうからな。ベルの体調が悪いうちはここは安全ってことだし」


恭禍の言葉にベルフェゴールは自嘲的な笑いを浮かべた後、ごろりと寝転がる。

結界内で、異形…悪魔が生きていくのは難しい。

こんな中で悪魔として格が高いベルフェゴールが話すことも出来、動くことも出来るのはベルフェゴールが現在恭禍からの魔力供給を受けていることやクローディアと繋がりがあることなどが大きい。

今、ベルフェゴールは恭禍の一部として認識されているのだ。


「ベル兄、体調悪いの?」

「まーな。つーわけで寝るから」


莉音の心配そうな視線を振り払うように、ベルフェゴールは壁側に体を向けてそのまま寝息を立てる。

莉音はその後も心配そうにベルフェゴールを覗きこんでいたが、ただ寝ていることが分かると安心したようだった。

しばらく車を走らせ、街中を探索する。

近所の学校などに人の気配が感じられたので、所々の避難所に集まっているのだろう。


「恭禍さん、どうするんですか?」


避難所に寄らずにひたすら車を走らせている恭禍に大貴が尋ねた。


「…あぁ。ここにも自衛隊がいるだろうと思ってな。こうやって軍用車走らせておけば向こうから接触してきてくれるだろ」

「えっと、自衛隊の人たちに会いたいんですか?」

「いや…ちょっと友人と連絡を取りたいんだ」


と、そんな会話をしているときであった。

前方から戦車が走ってきたのだ。

恭禍が車を止めると、どこからか数十近くの自衛隊員が銃器を抱えて恭禍たちの乗る車を囲んだ。









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