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どうやら世界が繋がったらしい  作者: 天城 在禾
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翌日、恭禍はベルフェゴールを連れて協会を訪れた。

ベルフェゴールには

人間のふりをすること、

ベルと名乗ること、

人間だからといって乱雑に扱わないこと、

を約束させた。


「へぇ、こんなところに集まってるんだ。…どれだけ集まっても弱いもんは弱いのにな」


ベルフェゴールは前半を感心したように、後半を恭禍にしか聞こえないように小馬鹿にしたように呟いた。

恭禍と共に現れた怪しい青年に、人々は不信感を隠さなかった。


「なぁ、初っ端から嫌われてねぇ?」

「あぁ、そうだな」


恭禍と共に避難してきた者たちも気まずそうに視線を反らしている。


「恭禍さん!」


そこに、大貴が大声を上げて恭禍たちの元へ走ってきた。

大貴もまた、悔しそうに唇を噛んでいた。


「…すみません」

「別に構わない。無駄かもしれないことは分かっていたからな」

「いえ!俺が…俺がもっとみんなに信頼されてたら…」


恭禍は俯いた大貴の肩を叩き、こちらを睨んでいる少年に視線を移す。


「俺たちは騙されないぞ…!高橋!お前も騙されてるんだよ!戻ってこい!」

「なんで拓真はそんなこと言うんだよ!恭禍さんは俺たちを守ってくれてるんだぞ!?」

「安心させて俺たちを殺そうとしてるに決まってる!」


拓真は唾を飛ばして叫んだ。

その様子を恭禍はただ見ていた。

隣に立つベルフェゴールは肩をすくめる。


「ねぇ、魔王サマ。あんたアレの姉貴なの?」

「そうだな」

「魔王サマってほんとに人間だったんだな。ふーん、姉弟のわりにアレ弱くない?」

「言っただろう、私が特殊だと」


ベルフェゴールの言葉は決定的だった。

恭禍が魔王と呼ばれたことで、人々は警戒を強めたし、拓真は馬鹿にされたと顔を真っ赤にして怒っていた。


「無能が…!その男も化け物だろう!一人じゃ勝てないから仲間でも呼んだのか?その男もどうやって呼び寄せたのか…体でも売ったか?」


拓真は早口でそう言った。

怒りと焦りで慌てているようだった。


「ぶっ…魔王サマ、俺に体売ったの?」

「お前が私を相手にするとは思えんがな」

「いやいやー、ある意味体売ったってことになるんじゃない?あんなに激しく絡み合ったし…?」

「気色の悪いことを言うな。…拓真、この男を馬鹿にするな。拓真程度じゃ天地がひっくり返っても勝てない相手だ。死にたくなければ喚くんじゃない」


恭禍は呆れたようにそう言った。

そこには拓真に対する心配と、明らかな能力差を理解しない弱者に対する憐れみがあった。

その感情が読み取れたからか、拓真は一層頭に来たようだった。

恭禍は拓真の様子を見てため息を吐いた。


「これで用はなくなったな。行くぞ、大貴、ベル」

「んー」

「っ、恭禍さん…」

「諦めろよダイキ。嫌がってるじゃん」


ベルフェゴールは大貴の肩を軽く叩いた。

それは拓真と大貴に対する嘲笑である。

拓真には恭禍に助けを乞わなかった愚か者として、大貴には友人に信じて貰えなかった笑い者として。

大貴はベルフェゴールに笑われたことに気づいたが、何も言えずに唇を噛んだ。

ベルフェゴールの嘲りは正しいものだと思ったからだ。

恭禍は拓真とその他の人々を一瞥し、ベルフェゴールへ軽く視線を投げて扉へと向かった。


「ま、待って!」


その恭禍の足を止めたのは、幼い声だった。

後ろから足音と制止の声がする。


「お姉ちゃんたち!待って!」

「…なんだ?」


恭禍は振り返らずに視線だけを後ろへ向けた。

そこには十歳ほどの少女が肩を上下させて立っていた。

恭禍は少女に見覚えがあった。

恭禍がこの中学の付近で助けた地元民の少女だったからだ。

目の前で両親を食われ、虚ろな目をした少女が庇っていた少女。

その虚ろな目をした少女は手を引かれフラフラと少女の後ろに付いてきていた。

多分、庇っていた少女が姉で、恭禍を呼び止めたのが妹なのだろう。


「お姉ちゃん!あたしたちも連れてって!」

「いいのか?私はお前らを殺すかもしれないが」

「…よ、良くないけどいいよ!で、でも!殺すなら、あたしだけにして!しぃ姉はやめて!」

「そこまで覚悟があるなら別に構わん。その姉も連れていくのか?」

「う、うん!お願い、します!」


恭禍は今度は振り返って少女まで歩き、目の前に立つ。

少女と目線を合わせるように片膝をつく。


「改めて、私は勾槻恭禍。嬢ちゃんの名前は?」

「莉音!」

「そっか。じゃあそっちの子は?」

「しぃ姉は詩音だよ!」

「分かった。じゃあ行くか。京都はちょっと遠いが一日もかからんはずだ。今出れば夕方には着くだろ。荷物はあるか?」


恭禍の質問に、少女…莉音は首を横に振った。

着の身着のまま連れてきたのだから、当然である。

恭禍は莉音の空いている方の手を握り、引いた。

莉音は驚いて恭禍を見上げたが、恭禍はニヤニヤと笑うベルフェゴールを睨むので忙しかったので、気づかないふりをした。

協会から出ても、扉が閉まる直前でも、他の誰も声は上げなかった。







「莉音、黒髪が高橋大貴、金髪がベルだ。好きに呼んでいい」

「う、うん!じゃあ…だい兄とベル兄って、呼ぶね!お姉ちゃんはきょう姉!」


軍用車に乗り込んだ恭禍たちは簡単な自己紹介を始めた。

もちろん、車は発進しており恭禍は運転席で大貴、ベルフェゴールは莉音と詩音とともに後ろの席に座っていた。


「いやー、人げ…じゃなかった、子供でも見込みあるのはいるもんだなー。反対に見たかよ、魔王サマの弟。アレは駄目だな。魔王サマもあんな場所の結界なんて消しちまえばいーのに」

「けっかい?」

「子供は知らねーか。あの怖ーいお姉ちゃんはな、弟可愛さにあの協会を大切に大切に守ってんだよ。見えない柵を建てて外から化け物が入らないよーにしてんの」

「じゃあ、安全だった?京都、行かなくてもよかった?」

「いんや、お前の行動は正解だよ。そのキョート?とやらに行ったほうが魔王サマの心残りが減るってもんだ」


莉音は言われた意味がよくわからなかったようで、首を傾げている。

対して、ベルフェゴールは詩音をマジマジと見ていた。


「あの、ベルさん。そんなに詩音ちゃんを見なくても…」

「あぁ?んだよ。…この子供、ちょっとヤバイんじゃねーか?」

「ちょ、ベルさん!」

「うるせぇなぁ。おい、魔王サマも分かってんじゃねーのか?」


大貴はベルフェゴールの失礼な態度を押し留めようと詩音の前に顔を出してベルフェゴールを諌める。

そんな様子を恭禍はちらりとミラーを見て、そして後ろのベルフェゴールと視線を合わせた。


「なんだ。ベルでも分かったのか」

「なんだよ、でもって」

「お前は興味ない分野だと思ってたからな。大貴、詩音の瞳を良く見てみろ」


大貴は恭禍の言うとおりに詩音の瞳を覗いた。

莉音も大貴の真似をして、隣から詩音の顔を覗き込む。


「「…あ!」」


そして、二人は同時に声を上げた。














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