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どうやら世界が繋がったらしい  作者: 天城 在禾
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恭禍は横で嘔吐する大貴の背中を撫でた。

これ以上吐き出すものなど無いはずなのに、大貴は必死で胃の中のものを外へ出していた。

そんな大貴に恭禍は既視感を覚えた。

確か、四つ目の世界でもこんなことがあったな、と。






「うぇ、うぅ、う」

「ほんと、よくそんなんで戦争見ようなんて思ったな」

「う…だって…」

「百年続く戦争を止めたいから現状を知りたいか。お前バカだろ」

「ひ、酷いですよ!お、俺は真剣に…、うぇ…」


新人の研究者だという彼は本気で、真剣に戦争を止めたがっていた。

だから戦争がどんなモノで、戦場では何が起きているか、彼は知りたがった。

恭禍も戦争というものがどのようなモノなのかは知らなかったが、今までの三つの世界で体験したことのおかげか、吐くこともなく、戦争とはこんなものかと納得していた。

科学の発達した世界だからかもしれない。

人と人の殺り取りは少ない。

遠隔操作された機械と機械がお互いを廃棄物にするために争っていた。

だから、彼は安心していたに違いない。

人の死体は見ないだろうと思っていたのだろう。

不運にも彼は死体と遭遇してしまったわけだが。

彼の不運なところは、死体が一つではなかったところだろうか。

この世界の戦争は地球で行われた戦争のように空襲はない。

かつてはあったらしいが、人口の急激な減少により、戦争にルールを定めたという。

もっとも、そのルールを定めた時には世界の四分の一は死の灰…核による放射能で覆われており、地上から人々の姿は消えつつあったらしいが。

その数少ない地上に生きる人々の家が戦場の近くにあったらしく、虐殺とまでは行かないが、二桁に届く程度の死体と恭禍と彼は遭遇してしまったのだ。


「う、うぅ、どうして、こんな、幼い子まで、巻き込まれて…」


死体の中には子供が数人いて、その中には物心付く前の子供もあった。


「それが戦争だろ。まだマシじゃねぇか。何万人と死んだわけじゃない」

「キョウカさん!何人でも死ぬなんてあっちゃいけないことなんですよ!!そのための戦争のルールだったのに…!」

「はいはい。取りあえずこの死体持って帰るぞ」

「え、ちょ、キョウカさん…う」


目の前の腸を出している死体を担ぎ、恭禍は彼と乗ってきた車のようなモノに乗せる。

ちゃんと数えて見れば、死体は十一あった。

手足が無い死体もあったが、恭禍は周囲を回って落ちていないか探す。

数人の手足が見つからなかったが、仕方ないと恭禍は諦めた。

死体を見る度に吐きそうになる彼を無視して、恭禍は車のようなモノの中で死体を整えてやることにした。

最初に全員の目蓋を閉じ、黙祷する。

車には救急道具はもちろん乗っているので、その中から先ず針と糸を探す。

すると、ホッチキスのようなものを発見し、彼に聞くとそれは傷口を縫合するためのものらしい。

それを借りて千切れた手足をくっつけてやり、包帯で傷口を隠す。

タオルを取り出し、非常食用の水で濡らし、顔を拭いてやる。

それだけで死体がだいぶ見られるようになるから不思議である。

他にも傷口を見つけてはホッチキスのようなもので縫合を繰り返し、包帯を巻いて傷口を隠す。

それを一体一体繰り返せば、やっと最後の一体になった。

彼が言っていた物心付く前の子供だ。

その子供が一番綺麗な死体だった。

子供の家族らしい死体が子供の上に折り重なっていたからだろうか。

死因は心臓を撃ち抜いた一発。

それ以外は外傷は見られない。

血を拭き取ってやり、包帯を巻いて、やっと終わった。

顔をあげると、静かに涙を流しながらこちらを見ていた彼と目があった。

恭禍は残っていた水を彼に放った。


「口濯いどけ。そのままにしてるとまた吐くぞ」

「…すみません」






どうして彼のことを思い出したのだろうか。

彼がどことなく大貴と似ているからだろうか。


「…ずみ、まぜん…」

「気にすんな。サクレ、ペットボトル寄越せ」


恭禍のつぶやきにサクレから教会で得たペットボトルが吐き出された。

それには飲み干されたはずの水が並々と入っていた。


「濯げ。それと飲め。今日はこんなんでいいだろ」

「う、…は、い…」


恭禍は大貴の背中を少し強めにたたき、立ち上がった。


「サクレ、大貴とここにいろ。私に客だ」

「えっ…!」

「すぐ戻る。もし私が居なくなった場合はサクレとアルクス、クローディアにあの教会を守るように伝えてある。大貴はサクレと共に教会に戻ってろ」

「そん、な…」

「私が死ぬ可能性はまずない。安心しろ」


恭禍はサクレを一瞥し、走り出した。

大貴が何かを言った気がしたが恭禍は無視した。

途中、民家の庭を通ったり屋根を駆けたりして、最短距離で、気配の感じる先へ向かった。

段々近づくにつれて、なんだか懐かしさを感じた。

…なんだ、この気配。

何か知っているはずだと思うが、思い出せない、そんな曖昧な感情を持ちながら、ついに気配の元にたどり着いた。


「……お前は…」

『……あ、れ?』


恭禍は目の前に立ち竦む青年を見て、驚きの声をあげた。

青年も恭禍を見つけ、驚きで口をぽかんと開けた。


『…何故ここにいる。お前死んだんじゃなかったのか?』


恭禍が先に声をかけた。

青年の話す言語と日本語は違う。そのため恭禍は青年の言語を使った。

青年は恭禍の声に反応せず、相変わらす口をあけたままだった。

恭禍は呆然とする青年に近寄り、頬を両手で押さえつけるように叩いた。


『…っぅ~!!何すんだよ!』

『何故ここに?私が聞いてるんだ。答えろ』

『相変わらず横暴だな。魔王サマ。あんたの見ての通りだ。燃える城で俺は最期を迎えたはずだぜ。そんでなんでかまたあんたの目の前にいる』


私が魔王を演じていた5つ目の世界の、側近役の悪魔…ベルフェゴールが両手を上げて肩をすくめた。

クローディアが懐かしいと背中からベルフェゴールの前に現れ楽しそうにふわふわと浮いている。


『クローディア様!貴方はほんとーに魔王サマが好きなんですねぇ。歴代魔王でも魔王サマがイチオシみたいですしねぇ。え?俺も魔王サマと一緒に?そうですねぇ』


何やらベルフェゴールはクローディアと話しているようだった。

希に、このベルフェゴールのように魔鎌?であるクローディアと話をすることができる者がいる。

ベルフェゴールは楽しそうに話していて、クローディアは少し切羽詰まった様子をしている。

話が纏まったのか、ベルフェゴールがこちらを向いた。


『あんた、今大変なんだってな。クローディア様に聞いたぞ』

『まぁな。低能な悪魔たちが私の世界に流れ込んできている。手伝え』

『うっわ…今の俺はあんたの配下じゃないんだけど?』

『知らん。どうせお前はクローディアについてくるんだろう。それなら私を手伝うのと同義だ』

『あー、はいはい。分かったよ』


ベルフェゴールは呆れたように空を仰いで、それを見たクローディアは至極嬉しそうにしていた。




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