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TOD  作者: ナナシノススム
後半
282/284

後半 48

 光と和義は、多過ぎる情報を整理することに集中していた。

 まず、光は幹部の情報をはじめとした、個人的に気になる情報をピックアップして調べていた。

 一方、和義は情報を保存するとともに、目的の情報が確認しやすいよう、データベース化していた。

「こっちはそろそろ終わりそうだよ」

「和義君、ありがとう。ただ、こうして色々と見て気付いたけど、可唯君は知っていること全部を公開したわけじゃないみたいだね」

「どういうことかな?」

「一部、情報が抜け落ちているというのかな。わかりやすいところだと、堂崎団司の情報はあるのに、堂崎団司に引き取られたラン君の情報がないとか、僕達が悪魔と呼んでいる人物の情報もないんだよね。恐らく、可唯君はこれらの情報も知っていたと思うんだよ。それなのに、あえて公開しなかったんじゃないかな?」

「確かに、これだけたくさんの情報があるから気付かなかったけど、ホントに知りたいことは書かれてないね」

「こうして見ていると、直近の情報もあるし、更新が間に合わなかったってわけでもないみたいなんだよ。つまり、意図的なものだと思うんだよね」

 そう言いながら、光はTODに関する情報に目をやった。

「それに、TODに関する情報も、ルールなどは詳しく書かれているのに、過去のターゲット、オフェンスやディフェンスとして参加していた人、そうした情報が一切ないんだよね」

「確かに、JJの話とかもないのはおかしいね」

「それに、今行われているTODの情報もないからね。だから、単に家出とかで失踪した人が、ターゲットだったんじゃないかといった、誤った憶測も出ているみたいだよ」

「そういう憶測をさせることで、拡散させるのが目的ってことじゃん?」

「それもあるかもしれないけど、どちらかというと、これは僕達が知りたいことに対する答えじゃなくて、ヒントみたいなものなのかもしれないね」

 公開された情報を見て、光は、そんな印象を持っていた。

「恐らく、可唯君は答えといえるものを知っていたんだと思うよ。でも、それをそのまま公開するのではなく、こうして一部が抜け落ちた状態で公開した。つまり、答えはあくまで自分達で見つけろってことなんじゃないかな。まあ、可唯君のことだから、実際はそんな理由などなく、ただこうしただけかもしれないけどね」

「俺達のためにこうしたわけじゃないってのは、何となく俺も感じてるよ。だからこそ、ちゃんと情報を分析しないとね。てことで、保存とデータベース化が終わったから、共有するよ」

 それから、光は和義から送られてきた、データベース化された情報を確認した。

「ありがとう。本当に助かるよ」

「てか、公開されてる情報、わざと調べにくくしてるのかもね。こうやってデータベース化するなんて、可唯にもできたはずだし、これも意図的なものかな?」

「その可能性は高いね。確かに、情報を収集する能力がある程度ないと、目的の情報が見つからないようになっている気がするよ。それだけ労力がかかるということは、そもそも興味がない人からしたら、自分と無関係なものと決め付けて、一切調べないだろうね」

「これだけの情報が公開されても、情報弱者は弱者のままってことだね。ホント、救いようがないね」

 和義の皮肉を聞いて、光は苦笑した。

 これまでも、何か大きな事実が明らかになるといったことは数え切れないほどあった。そして、中には、人々の生活を一変させるようなものもあった。しかし、ほとんどの人は無関心で、一時的に騒ぎになっても、結局何事もなかったかのように変わらないままでいる。

 そうして、現在進行形で自分達の生活がドンドンと苦しくなっているのに、その原因が改善するべき問題を放置したからだと気付くことなく、他人のせいにするだけで何の反省もしない。そんな、周りの人に迷惑をかけていることにも気付かない、情報弱者に対して、光は少なからず不満を持っていた。

 そして、光と同じように、和義もそうした情報弱者に不満を持っているようだった。

「さてと、こうしてまとめたけど、何から見ればいいかって感じだね」

「僕は引き続き、堂崎団司をはじめとした、幹部の情報を見ていくよ。ただ、堂崎団司に関しては、家に防衛システムがあるといった情報は詳しく書いてあるのに、堂崎団司自身についての情報がほとんどないんだよね」

「それも意図的に可唯が隠したのかもしれないね。てか、防衛システムをどうにかして、その堂崎団司を攻めればいいんじゃないかな?」

「それは難しそうだよ。というのも、その防衛システム、インフィニットカンパニーが用意したものみたいで、まずはインフィニットカンパニーのシステムをどうにかしないと、何もできそうにないよ」

「てことは、インフィニットカンパニーのシステムをどうにかできれば、いくらでもやりようがあるってことじゃん」

 和義の言葉を聞いて、光は笑った。

「それがそもそも難しいんだけど、確かに和義君の言う通りだね」

「インフィニットカンパニーのシステムをどうにかする方法みたいなのは……やっぱり公開されてないか」

「むしろ、公開されていたら、すぐに対策されるだろうし、公開されていなくて良かったと思うよ」

「確かに、それもそっか」

「というか、こうして整理されたのを見ると……これらの情報は、むしろ僕達を混乱させる目的があるんじゃないかと思えてくるね」

 和義のおかげで、様々な情報をすぐに見られるようになった。ただ、その結果、膨大ともいえる情報が公開されている中、本当に知りたいことには簡単に辿り着けないようになっていることがよくわかった。

「だからといって、これらの情報を無視するわけにもいかないし、これは参ったね」

「まあ、可唯からの挑戦状と思って、とにかく利用すればいいじゃん」

「うん、そうだね。この挑戦、受けようか」

 ポジティブな和義の言葉を受けて、光は気を引き締めようと軽く息をついた。

「さっきも言ったけど、僕は引き続き、幹部の情報を見ていくよ。上手く使えば、相手を脅して、何かしらかの情報を引き出せる可能性があるからね」

「ああ、てか、情報を整理してる時に気付いたんだけど、そもそもでインフィニットカンパニーの社長って、ホントに存在してるのかな?」

 不意にそんなことを言われて、光は戸惑った。

「どういうことかな?」

「インフィニットカンパニーの問題をこれだけ公開してるのに、社長の情報がほとんどないんだよね。もしかしたら、これも可唯が意図的に隠したのかと思ったけど、今公開されている情報だけでなく、元々、インフィニットカンパニーの社長に関する情報って、ほとんど見つからなかったんだよね」

「確かに、ビーさんのシステムでも、ほとんど情報が見つからなかったね。一応、僕が知っている話だと、インフィニットカンパニーの社長は、砂金いさご有厳ありみねで、前に、何か会見とかもしていたと思うけど……」

 そう言いながら、光は砂金有厳に関する情報を探した。そして、思わず息を呑んでしまった。

「会見時は記者など誰も入れていないし、外部の人間で、砂金有厳を直接見たことがある人は誰もいない?」

「インフィニットカンパニーの人でも、砂金有厳を見たことがあるって言ってるのは、幹部の一部みたいだね。それに、会見の映像を今調べてるんだけど、これ、CGの可能性が高いよ」

「僕にも見せてくれないかな?」

「オッケー。すぐ送るよ」

 そうして、すぐに送られてきた映像を光は確認した。

「……これが、CGなのかな? そうは見えないんだけど?」

「こっちは、監視カメラの映像を色々と利用してきたからね。追跡できるよう、顔を認識するソフトも独自に作ったし、顔や表情の分析は得意なんだよ。ちょっとこっちに来てくれないかな?」

 そう言われて、光は和義の方へ行った。すると、和義はパソコンの画面を光に見せた。

「このソフトで分析するとわかるんだけど、表情の作り方が所々不自然だと判定されるんだよ。あと、光の当たり方と、それに伴う影の入り方も一致してないし、光源はどこにあるんだとエラーが出てるよ」

 このソフトを見るのは初めてだったものの、何かおかしいということはすぐに理解できた。

「あと、この顔自体おかしくて、よくある顔過ぎるんだよね」

「どういうことかな?」

「ゲームとかで使われる技術だけど、実在する人の顔データを取得した後、それを少し変化させたり、他の人の顔データと併せてみたり、そうして存在しない人の顔データを作ることができるんだよ」

「ああ、そんな話は聞いたことがあるよ」

「そうして作った顔データって、独特な違和感があるんだよね。これは、整形したことで不自然な顔になるとかとも違うもので、存在する人じゃないからこそ出てしまうものなんだよ」

「確かに、ゲームとかでそうしたのを見た時、不自然に感じることはあるよ。でも、この会見の映像に関しては、不自然に感じないんだけど……」

 光がそう言うと、和義は軽く笑った。

「確かに、よくできてると思うよ。ゲームとかで使われてる技術よりも優れた、それこそ最新の技術を使ってるんだろうね。ただ、僕の技術は、さらにその先へ行ってるんだよ」

 そう言うと、和義はパソコンを操作した。すると、映像がスローモーションになるとともに、何かエラーを検知すると、その部分が繰り返し流れた。

「これは……」

 それを見て、光は言葉を失ってしまった。

「等速で見ると、特に不自然なく見えるけど、表情が変化する時、1フレームだけ顔が少し崩れる瞬間があるんだよね」

「映像の乱れ……とも違うね」

「自然な顔や表情を作るために、それこそ膨大な人の顔や表情をデータ化して、それを基に作ったんだろうね。でも、それが間違いで、人の表情ってのは、表面的なものでなく、骨格によって変わるものじゃん? だから、複数の人の顔を併せたデータと、複数の人の表情を併せたデータ、この二つを一緒にすると、瞬間的にこんなエラーが出るんだよ」

 それは、光の知らないことだったため、興味深いものだった。

「このソフトは、顔や表情から骨格を分析できるんだけど、シーンによって骨格がコロコロと変わるし、そもそも人間の顔の骨格としてありえないってシーンも多くて、その結果、こうしてエラーが連発してるんだよ」

「つまり、最初の話に戻るけど、これはCGを使って作られた映像ってことだね。ただ、そうなると、次は何でそんなことをしたのかということを考える必要があるね。和義君の言う通り、砂金有厳なんて人物は存在しないという可能性も当然あるけど、他の理由の可能性もあるからね」

「確かに、公の場に顔を出したくないとか、色々と理由は考えられるけど、そもそも社長がいなければ、何か問題が起こった時、誰も責任を取らなくていいってことになるじゃん? だから、存在しない社長をCGで作ってるんじゃないかな?」

「それと似た話だけど、この砂金有厳はスケープゴートのようなもので、誰か別の人が社長としてインフィニットカンパニーを動かしている可能性もあるよ」

「ああ、そっちの方がありそうだね」

「もしかしたら、あまり情報がない、堂崎団司が社長の役割を担っているのかもしれないね」

「もしそうなら、ますます堂崎団司をどうにかしたいけど……そのためには、インフィニットカンパニーをどうにかしないといけない。でも、インフィニットカンパニーをどうにかするには、堂崎団司をどうにかしないといけない」

「お互いに守り合っているような感じで、なかなか厄介だね」

「同感だよ。そうなると、光の言う通り、他の幹部を叩くのはありかもね」

 そんな言葉を受けて、光はある考えを持った。

「さっき、絵里さんから連絡があって、成瀬勉の家に行くみたいだよ。だから、何か話を引き出せないかといったお願いをしておくよ」

「それはいいね」

「あと、他にも叩けそうな幹部をまとめておいたから、共有するよ」

「オッケー」

「まあ、絵里さんの話だと、週刊誌の記者やフリーライターなどが殺到して、真面に話を聞くことすらできないみたいだけどね」

「これだけの情報があるのに、光の言う通り、足止めされてるようで気持ち悪いね」

 これらの情報を分析すること。それ自体が、可唯の仕掛けた罠かもしれない。そんな考えを光と和義は改めて強く持った。

 それを踏まえて、光は、ある案が思い浮かんだ。

「和義君、引き続きで申し訳ないけど、これらの情報を、ビーさんから託されたシステムに組み込んでもらえないかな?」

「オッケー。てか、言われなくても、そうするつもりだったよ」

「膨大な情報が一気に入ってきて、そっちに目が行きかけていたけど、今後もビーさんのシステムを主軸に進めた方がいいと思う。和義君はどう思うかな?」

「うん、同感だよ」

「それじゃあ、そういう方向で……」

「一段落ついたなら、二人とも少し休憩してよ」

 不意に瞳の声が聞こえて、光と和義はそちらに目をやった。

「朝食もできているし、それを食べながら、二人とも頭を冷やした方がいいよ」

 瞳は、光と和義が集中できるよう、少し距離を置いていた。そのうえで、すぐに食べられる軽食を都度用意してくれるといった形でサポートしてくれていた。

 そんな瞳から、休憩するように言われて、光と和義はお互いに顔を見合わせると、苦笑した。

「確かに、一段落はついたね」

「情報の保存とデータベース化は終わったしね」

「それじゃあ……休憩しようか」

「オッケー」

 和義も瞳の言うことに従っていて、この場で一番偉いのは瞳なんじゃないかといった考えを持ち、光は軽く笑った。

 そうして、光達は手を止めると、一旦休憩することにした。

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