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TOD  作者: ナナシノススム
後半
280/284

後半 46

 絵里は、隆達を動揺させないようにしようと、軽く息をついたうえで、隆達の通話に参加した。

「絵里よ。今、テレビやネットニュースで起こっている異常に関する話よね?」

「はい、そうです。絵里さんは、何か知っていますか?」

「知っているといえば知っているし、知らないといえば知らないわ。とりあえず、私の知っている情報を教えるわ」

 それから、絵里は光から聞いた話を伝えた。

「工平可唯という人物が、あらかじめ用意していたようね。ただ、詳細については、私もよくわかっていないし、光君達もわかっていないみたいなの。それより心配なのは、学君よ。この通話にいないということは、何かあったんじゃないかしら?」

「結莉です。インフィニットカンパニーに関する問題が公開されて、まず学のことが心配になって、それに朋枝のCM撮影に何か問題があるんじゃないかとも思って、私からみんなに通話したんです。そうしたら、学だけ通話に参加してくれなくて……絵里さん、何か知っているんですか?」

「学君の父親が、インフィニットカンパニーに勤めていることは知っているわね? 実は、学君の父親、インフィニットカンパニーの幹部なだけでなく、麻薬の売買にかかわっていたという情報が公表されているのよ」

「それ、私も見ています。本当なんですか?」

「これに限らず、今公開されている情報は、恐らく全部本当だと思うわ。ちゃんとそれを裏付ける証拠みたいなものもあるし、少なくとも多くの人に信憑性が高いと思わせるものになっているわね」

 何か情報を伝える時、それが信憑性の高いものかどうかというのは、重要なことだ。極端な話、事実と異なることでも信憑性があれば、それを事実にすることはできてしまう。そして、この信憑性というのは、テレビをはじめとした大手マスメディアが報道するだけで、簡単に作り出すことができてしまう。

 現状、何かしらかの異常が起こっていることは、多くの人が認識しているだろう。ただ、その異常がテレビなどの大手マスメディアで起こっていることが、問題だった。

 これまで、テレビなどの情報を鵜呑みにしていた人達は、その認識が間違っていたかもしれないと否定されている形だ。そのうえで、上書きするように信憑性のある情報が流れている状態だ。

 本当は、こうした新たな情報も疑い、何が正しいか考える必要がある。しかし、テレビなどの情報を鵜呑みにしていた人は、自分で考える能力を持っていないため、これまでの情報が全部嘘で、新たな情報が全部正しいといった形で、また鵜呑みにしてしまう。むしろ、鵜呑みにするどころか、信じ込んでしまうだろう。

 それは、大衆の認識を根本からひっくり返してしまうことで、大きな混乱を生むだろう。その影響が今後どこまで大きくなってしまうか、絵里は想像するのも嫌だった。

「恐らく、学君の両親、特に父親は、この状況を知っているはずよ。そして、ここに書かれていることが本当だとしたら、それこそどうしようかと混乱しているでしょうね。家族会議のような形になっていてもおかしくないし、少なくとも、学君は通話に参加できるような余裕がないと考えるべきでしょうね」

「学は安全なんですか? 学の父親は、学に麻薬を渡していたし、学に今何をしているか……私、今から学の家に行きます!」

「結莉ちゃん待って! 今日は朋枝ちゃんのCM撮影の方に行くんでしょ?」

「それは奈々達に任せるわ。私は、とにかく学のことが心配なの。だから、学の家に行くわ」

「待って。私からも止めるわ。今、各週刊誌やフリーライターが動いていて、少ししたら、学君の家は記者に囲まれるわ。だから、そんな所へ行ったら、結莉ちゃんまで騒ぎに巻き込まれるわ」

「それでも、学のことが心配なんです! だから、私は行きます!」

「結莉ちゃん、落ち着いて。そんな状況だからこそ、学君のために何ができるかを考えるべきよ」

 出会ってから少ししか経っていないものの、絵里は、結莉のことを冷静に物事を分析できる人だろうと思っていた。そんな結莉が考えもなしに行動しようとしているのは、恐らく学のことだからだろう。そんなことを感じつつ、そのことには触れなかった。

「先に結論を言うわ。結莉ちゃんと私の二人で、学君の家に行って、どうにかするわ。現状もわからないし、何ができるか、具体的なことは言えないけれど、少なくとも学君の家に集まるだろう記者を引かせる策はあるわ」

「本当ですか?」

「それで、朋枝ちゃんの方には、隆君、奈々ちゃん、浜中さんの三人に行ってもらうわ。私の役割を浜中さんにお願いすることになるから、少し不安だけれど、別に子供でもできることをお願いするだけだから、浜中さんでも何とかなるはずよ」

「私の評価、さすがに低過ぎないかい?」

 そんなことを浜中が言うと、少し落ち着いたのか、結莉のクスクスと笑う声が聞こえた。それを聞いて、結莉が暴走しそうだと心配していた絵里は、少しだけ安心した。

「朋枝です。話を遮ってしまって、すいません。こんなことになりましたけど、今日の撮影は予定通り行われるのでしょうか?」

「反対に質問したいわ。マネージャーなどから何か連絡はあったかしら?」

「いえ、今のところ、予定を変更するといった連絡はないです」

「そうでしょうね。良くも悪くも、インフィニットカンパニーとパピロスモバイルの繋がりについては、何も情報が公開されていないわ。そもそもパピロスモバイルはインフィニットカンパニーと一切かかわりがないとしているぐらいだから、CM撮影は予定通り行われると思うわ」

「それじゃあ、私達の方は予定通りということでいいですね?」

 朋枝は、決心を決めたように、強い口調でそう言った。それを受けて、絵里は自分の中にある懸念を伝えることにした。

「今回の騒動で、パピロスモバイルのお偉いさんなんかは、気が気じゃないはずよ。それでも、表向きはかかわりがないからと、何事もないかのようにするでしょうね。ただ、そうした時、人は隙ができるわ。危険だけれど、隆君達が一緒だし、ちょっとした揺さぶりをしてもいいかもしれないわね」

「どういうことですか?」

「朋枝ちゃん、自覚しているかどうかわからないけれど、演技の才能があるわ。だから、こんなことをしてみたらどうかしら?」

 それから、絵里は普段取材する際、どうやって相手を揺さぶっているかといった話をしていった。

 この話は、朋枝だけでなく、結莉も興味がある話だったようで、絵里は時々質問を受けつつ、簡単なレクチャーをした。一方、隆と奈々は何も理解できていないようで、ずっと黙っていた。

「こんな話をした後だけれど、朋枝ちゃん、自分の安全を第一に考えて行動してほしいわ」

「……はい、わかりました」

「すんなり答えてくれないのね。隆君、奈々ちゃん、それに浜中さん、朋枝ちゃんをしっかり守ってあげてね」

「わかりました」

「絶対に守ります!」

「一応、私は刑事だからね。万が一のことは起こらないようにするよ」

「皆さん、ありがとうございます」

 朋枝が無茶をしないかといった心配があったものの、隆達が一緒なら大丈夫だろうと、絵里は任せることにした。

 ただ、絵里は朋枝に伝えるべきことがまだあったため、話を続けた。

「こんな異常が起こって、話が後になってしまったけれど、今日のCM撮影について、調べていたのよ。まず、お偉いさんとして来るパピロスモバイルの人は、インフィニットカンパニーの社員だった人よ。幹部というわけじゃないから、何かしらかの犯罪にかかわっていたという情報はないけれど、むしろパピロスモバイルのような子会社を持たせやすいよう、そうしていたんだと思うわ」

「つまり、インフィニットカンパニーの現状について知っているということですか?」

「可能性は高いわね。だから、揺さぶりをかけていいかもしれないわ。それと、撮影に参加するスタッフの多くは、インフィニットカンパニーとかかわりがあるわね。これは一覧のような形で、送っておくわ」

「ありがとうございます」

 昨夜から、絵里はパピロスモバイルについて調べて、ある程度の情報をまとめていた。それを朋枝に共有する形で、話をしていった。

 その中で、絵里は伝えるべきかどうか迷っていた情報があったものの、自分が朋枝のCM撮影の現場に行けないことが決まった今、伝えることにした。

「あと……今回の撮影、天音あまねキララと一緒に撮影するわよね?」

「え、そうなんですか!? トモトモとキララっていったら、コンテストで争った二人じゃないですか! 久しぶりの共演ってこと!?」

「奈々ちゃん、説明ありがとう。ただ、朋枝ちゃんに話したいことがあって、少し落ち着いてもらってもいいかしら?」

「あ、ごめんなさい!」

 そうした形で奈々を落ち着かせた後、絵里は話を続けた。

「奈々ちゃんの言った通り、天音キララは、朋枝ちゃんが優勝したコンテストに参加して、準優勝だったわね。その後、何度か共演もしたわよね?」

「はい、プライベートで連絡も取り合う仲です。キララちゃんはアイドル活動を始めて、ライブに呼んでもらったこともあるんです。だから、今回のCM撮影は、久しぶりにキララちゃんと共演できるので、楽しみにしていたんです。それが、こんなことになってしまって、残念です」

 朋枝は、周りに気を使う人だ。そのため、これまでそのことを話していなかったのだろう。そうしたことを理解したうえで、絵里は全部伝えることにした。

「天音キララには、ちょっとした疑惑があって、いわゆる枕営業にかかわっているんじゃないかといった話から、整形を繰り返しているんじゃないかとか、何かしらかの麻薬を使っているんじゃないかとか……まあ、どれもアイドルには付き物の話ね」

「待ってください。麻薬を使っているって、どういうことですか?」

「芸能界は、麻薬を売買するのに適した場所だということは、もう話したでしょ? 特にアイドルは、ファンのためにストレスを溜めやすい職業だから、そのストレスを少しでもなくそうと、麻薬に手を出してしまう子が多いと聞くわ。天音キララについて、そうした兆候はなかったかしら?」

「え、どういうことですか?」

「最近は共演していないということだから、難しいかもしれないわね。アイドルの間で使われている麻薬は、主にMDMAと呼ばれる合成麻薬よ。私も詳しくないけれど、ドクターの話だと、ストレス発散や、集中力を高めることなどを目的に使われるそうね」

 それは、嫌なことがあった時、酒を飲んだり、タバコを吸ったりするのと同じような感覚だといった話を、ドクターから聞いたことがある。絵里も嫌なことがあった時、酒に弱いにもかかわらず、酒を飲むことがある。そうした形で、大きなストレスを解消するため、アイドルは麻薬を使ってしまうという話だ。

「未成年でも酒を飲んだり、タバコを吸ったりする人がいるけれど、そういった人は、周りもそうしているからといった理由で、そんなことをしてしまうことが多いわ。同じように、周りもそうしているからといった理由で、アイドルをはじめとした芸能界では、麻薬に頼ってしまう人が多いのよ。麻薬に限らず、整形する人が多いのも同じね。周りで整形する人が多いからって理由で、整形してしまうみたいね」

「確かに、キララちゃんと会うと、前に会った時と、どこか違うと感じることがありました。今、絵里さんの話を聞いて、どこか納得できました」

「もしかしたら、天音キララもインフィニットカンパニーと深い関係にある可能性があるわ。だから、天音キララと朋枝ちゃんがパピロスモバイルのCM撮影に抜擢されたという解釈もできるし……いえ、でも……」

「キララちゃんにも、話を聞きたいと思います。絵里さんの言う通り、麻薬に頼っているんだとしたら、絶対に止めたいです」

 そんな朋枝の言葉を受けて、絵里は息をついた。

「隆君、奈々ちゃん、絶対に朋枝ちゃんを守ってあげて」

「はい、言われなくても、そのつもりです」

「私も同じです!」

 それから、絵里は浜中に目を向けた。これまで、浜中のことを頼りないと言っていたものの、大事になりそうな時、頼りになるのは浜中だと思っていた。

 そのため、絵里は浜中ならどうにかしてくれるだろうと思ったうえで、真剣な表情を浜中に向けた。

「浜中さんにも……お願いするわ」

「だから、何で私だけついでみたいな感じなんだい? もっと信用してもらえないかい?」

 ただ、浜中は絵里の思いに気付いていない様子だった。ただ、絵里は訂正することなく、笑顔を向けた。

「だったら、私が浜中さんを信用できるよう、しっかり朋枝ちゃん達を守ってほしいわ」

「うん、それは絶対に約束するよ」

 即答でそんなことを言う浜中に対して、もう既に信用していると絵里は言いそうになった。ただ、浜中を相手にそんなことを言いたくないと思って、本心を伝えることはしなかった。

「それじゃあ、そっちは浜中さんに任せたわ。話がこんがらがってしまったけれど、今後どうするかといった話を改めてするわ」

 そんな前置きをしたうえで、絵里は話を続けた。

「まず、私と結莉ちゃんは、学君の家に行くわ。色々とやりたいこともあるし、キャンピングカーは私が運転するわ。結莉ちゃん一人で動くのは逆効果になる可能性もあるから、私が迎えに行くわ。それまで、結莉ちゃんは動かないでほしいわ」

「……わかりました」

 恐らく、結莉は今すぐにでも学の家へ行きたいと思っているのだろう。ただ、そうしたことをした結果、悪化させてしまう可能性を理解しているようで、絵里の言葉を素直に受け入れてくれた。

「隆君と奈々ちゃんは、予定通りに動く形で、朋枝ちゃんのCM撮影をする現場に行ってほしいわ。元々、きっかけは私がするつもりだったけれど、そのきっかけは浜中さんにお願いするわ。不自然にならないよう、しっかりとレクチャーするから、これで失敗したら浜中さんのせいということにしてほしいわ」

「変なプレッシャーをかけないでくれないかい?」

「浜中さん、色々と意地悪なことを言っているけれど、信用しているわ。私は私で頑張るから、浜中さんもお願いね?」

 それは浜中を信用しているからこそ出た、絵里にとって素直な言葉だった。ただ、言ってから、こんなことを言ってしまって良かったのだろうかと、絵里は恥ずかしくなってしまった。

 ただ、浜中の反応は、絵里の想像と違った。

「だから、変なプレッシャーをかけないでくれないかい?」

 浜中は、現在進行形で、絵里から意地悪なことをされていると認識しているようだった。それを受けて、絵里はモヤモヤとした気持ちを持ちつつ、息をついた。

「いえ、いくらでもプレッシャーをかけるわ! 刑事なんだから、私がいなくても、朋枝ちゃん、隆君、奈々ちゃんを守ってあげなさい! 何かあったら、絶対に許さないわよ!」

 そんな言葉をかけると、浜中はさらに困った表情を見せた。それを見て、絵里は笑いつつ、頭を整理させた。

「それじゃあ、改めて誰が何をするべきか、説明していくわ」

 それから、絵里は全員に対して、何をしてほしいかを説明していった。

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