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TOD  作者: ナナシノススム
後半
279/284

後半 45

 絵里は、浜中と共に、キャンピングカーで一晩休んだ。

 このキャンピングカーにはベッドがあり、二人程度なら寝られるようになっている。ただ、一つしかないため、男性である浜中と並んで寝ることに、絵里は多少の抵抗があった。

 とはいえ、変に意識していると思われたくなかったため、絵里は浜中を異性として見ていないような態度を取った。

 一方、浜中は最初拒否したものの、何かするつもりなのかといった質問を絵里が言うと、それを否定したうえで、一緒に寝ると答えた。

 そうして、一晩を同じベッドで寝ることになったものの、絵里はほとんど寝られなかった。そのため、ある程度早い時間にベッドから出た。

 絵里がベッドから出た時、浜中はぐっすりと眠っていた。それは、浜中が絵里をまったく意識していないことを表しているようで、絵里は何だかモヤモヤした。ただ、そんなことを思うなんておかしいと頭を切り替えると、そんなモヤモヤを消した。

 それから、絵里はビーの残したシステムを使い、また様々な情報を整理していた。特に、今日は朋枝がパピロスモバイルのCM撮影に参加するため、パピロスモバイルに関する情報を入念に調べていった。

 そうした中で、絵里は日課のような形で、朝のニュースを確認した。そして、異変が起こっていることに気付いた。

「何よこれ?」

 絵里は、思わずそう口にした後、キャンピングカーに備え付けられたテレビをつけた。そして、テレビでもネットで見たのと同じように、異変が起こっていることを知った。

「何かあったのかい?」

 テレビの音に反応したのか、浜中は目を覚ますと、そんな質問をしてきた。

「私が説明するより、テレビを見た方が早いわ」

「えっと……これは何だい?」

 まだ寝ぼけている様子だったものの、浜中も異変に気付いたようだった。

「インフィニットカンパニーに関する問題を伝えているみたいね。ネットニュースも同じで……ここに記載されたURLも見てみるわ」

 それから、絵里はテレビに記載されたURLを確認した。そのURLは、詳細をまとめたサイトのURLだった。

「これは、すごいわね……」

「いったい、誰がこんなことをしたんだい? もしかして、ビーさんが……」

「いえ、恐らくビーさんじゃないわ。ビーさんは、マスメディアや大企業の問題をまとめていたけれど、まだ公開できる状態じゃないと言っていたし、実際のところ、全部そのまま私に託してくれているわ。それに、ここで公開されている情報は、ビーさんも知らなかったと思うわ」

 そうしたことを伝えつつ、絵里は詳細を確認した。ただ、情報があまりにも多く、全部を見るのは難しかった。そのため、何かしらかの形で対処されて、これらの情報が見られなくなる危険があると判断すると、現在公開されている情報を全部保存しようと考えた。

 そして、絵里はソフトを使い、現在公開されている情報を全部保存した。とはいえ、情報があまりにも多く、ソフトを使ってもしばらく時間がかかるようで、待っている間はテレビに目をやった。

「こんな放送事故、前代未聞ね」

「これは、このチャンネルだけで起こっているのかい?」

「そういえば、確認していなかったわね」

 それから、チャンネルを替えたものの、どのチャンネルも同じ状態だった。

「特定のチャンネルだけじゃないとなると、テレビの電波そのものが乗っ取られているのかもしれないわね」

「そんなことできるのかい?」

「電波塔を乗っ取れば、できるんじゃないかしら? ただ、それだと各マスメディアのネットニュースも同じ状態なのが、説明できないわね。もしかしたら、全部のマスメディアを乗っ取っているのかもしれないわ」

「そんなことができるなんて……まるでまだ夢を見ているような気分だよ」

「私も同じ気分よ」

 そうして、テレビを見ていると、公開されている情報の保存が終わったようで、絵里はまたパソコンを操作した。ただ、何から見ればいいかわからず、情報を整理するのに苦戦してしまった。

 その時、スマホが鳴り、確認すると、光からの連絡だったため、すぐに絵里は出た。

「絵里よ。今、テレビやネットニュースで起こっていることについてよね?」

「はい、その通りです。こちらでもそれを確認して、恐らく工平可唯君がこれをやったと僕達は考えています」

 その後、光から可唯に関する説明があった。

「可唯君は、昨夜亡くなったんですけど、亡くなった後、こうした情報が公開されるよう、あらかじめ準備していたようです」

「とんでもないものを残してくれたわね。恐らく、電波塔と、各マスメディアのサーバーをハッキングしたんだと思うわ。そんなこと、どうやってやったのか、疑問しかないけれどね」

「こちらも同感です。ただ、これらの情報は、デマなどでなく、事実を伝えているように感じます。だから、詳細を確認する前に、どうにか情報を保存しようと、和義君が動いている最中です」

「公開されている情報の保存は、私の方でもしておいたわ。でも、私だけだと不安だし、和義君は引き続き作業を進めてほしいわ」

「オッケー。その方が確実に情報を残せるもんね」

 そんな和義の声が聞こえて、絵里は軽く笑った。

「ところで、今そこに朋枝ちゃんはいますか?」

「いえ、いないわ。でも、後でまた合流するつもりよ。というのも、今日、朋枝ちゃんはCM撮影に参加することになっているんだけれど、それがパピロスモバイルっていう、インフィニットカンパニーの完全子会社のCMなのよ。だから、万が一のことがあるかもしれないし、偶然を装って私達も撮影現場へ行く予定よ」

「今一緒にいないんだったら、さっきみんなで話している時に通話しても良かったですね。鉄也に言われた通り、朋枝ちゃん達が絵里さん達とかかわっていることは、現状隠しています。どうかと思うところもあるんですけど、引き続き、そうするつもりです」

「今日のCM撮影に大勢が駆けつけるなんてことになったら大変だし、そうしてくれると助かるわ」

 朋枝のCM撮影の話を聞けば、見学に来たいという人が出てくるだろう。そう思って、これでいいと絵里は判断した。

「それで、取り急ぎ気になる情報がありまして、インフィニットカンパニーの幹部に属していながら、犯罪行為に手を染めている人達の情報があるんです。その中に、堂崎団司の名前があって、今URLを送ります」

「いえ、大丈夫よ。すぐに検索できるわ」

 絵里が使ったソフトは、単に情報を保存するだけでなく、ある程度データベース化して、検索しやすいように改良してくれるものだ。そのため、「堂崎団司」と検索するだけで、すぐに光の言う情報を見つけることができた。

「見つけたわ。でも、これ……TODの主催みたいなものだといった情報まであるじゃない」

「この件について、さっきラン君……さすがに、堂崎翔君と言った方がわかりやすいですかね?」

「どちらでもわかるから、ラン君でいいわ」

「それじゃあ、ラン君と呼びます。さっきラン君に簡単な話を聞いたんですけど、ラン君は人身売買の被害者のようで、堂崎団司に売られたといったことを言っていたんです。それで、堂崎団司とは家でもほとんどかかわることがなかったようで、何をしているのか、ラン君でもわからないとのことでした」

「そうなのね」

 その時、絵里は浜中の方を見た。そして、浜中の複雑な表情を見て、堂崎翔が緋山春来ではないかという考えを、お互いに強くしたのを感じた。

「あと、気になる名前としては、ケラケラこと、剣持恵楽の名前もあります」

「インフィニットカンパニーにとって邪魔な人物を殺害していただけでなく、まさか幹部というのは驚きね。というか、剣持恵楽に限らず、幹部の人間に暗殺のようなことをさせていたようね」

「情報を操作できるインフィニットカンパニーだからこそ、あえて幹部として囲うことで、外部に情報が出ないようにしているんだと思います。今は、こうして情報が公開されるという想定外が起こったおかげで、僕達も知ることができましたけど、これがなかったら、インフィニットカンパニーの幹部に関する情報を知ることはできなかったでしょう」

「確かに、光君の言う通りね。堂崎団司や、剣持恵楽について色々と調べていたけれど、ほとんど情報は見つからなかったし……それが今、こんな簡単に入手できてしまって、複雑な気分ね」

 記者の仕事は、伝えたいことを伝えることだという考えは変わっていない。ただ、伝えたいことを増やすため、様々な情報を入手することは大切なことだ。そのため、絵里はあらゆる手段で情報を入手してきた。

 そんな絵里でも入手できなかった情報が、誰でも簡単に入手できる状態で公開されている。この事実に、絵里は複雑な思いを持っていた。

「可唯君は、どうやってこんな情報を集めたのかしら?」

「可唯君については、ほとんど何もわかりません。これは、圭吾などに聞いても同じ答えが返ってきます」

 そう言われて、JJこと神保純と遭遇した時、可唯がやってきた時のことを絵里は思い返していた。

 可唯は、絵里のことを何故か知っていただけでなく、絵里と浜中が新聞社を訪れるよう、あからさまな誘導をしてきた。また、緋山春来の死に疑問を持たせるような発言もしていた。

 実際のところ、新聞社の人がまったく取り合ってくれなかったため、一年前にあった緋山春来に関する報道について、具体的に不審な点を見つけられたわけではない。ただ、可唯の発言があったからこそ、絵里と浜中は、堂崎翔が緋山春来なのではないかと考えるようになっている。

 それも、可唯による誘導のように感じた。同時に、可唯と話した際、掴みどころのない不気味さを感じたことを思い出した。

「今、こんな情報が公開されるようにした理由も、正直なところわかりません。というより、可唯君には理由や目的がなかったんだと思います。ただ、その時の思い付きというか、何となくといった感じで、こんなことをやったんでしょう」

「そんな、子供がおもちゃで遊ぶような感じでできることじゃないわよ?」

「いい例えですね。可唯君にとっては、子供がおもちゃで遊ぶような感覚で、こんなことをしていたんだと思います」

「そもそもの話として、本当に可唯君がやったことなのかしら?」

「昨夜、自殺する前に、面白いニュースがあるといった発言をしていたので、少なからずかかわっていたことは確かだと思います。ただ、可唯君は基本的に単独行動だったので、かかわっているというより、可唯君だけでこれをやったと考える方が自然なんです」

 ただの個人が、一人でこんなことをやるなど、普通なら信じられない話だ。とはいえ、この話をしているのが光だということを考えると、絵里は信憑性があるように感じた。

「とにかく、今は僕と和義君で、情報を整理しているところです。あまりにも情報が多いので、時間がかかると思いますけど……」

「その通りね。私の方でも情報を整理するわ」

「そうだ。もう一つ気になることがありまして、昨日、成瀬学君と会って、何か薬の分析をしていますよね?」

 昨日あったことは、光と和義にだけ共有していた。ただ、詳細までは知らせることなく、簡単な報告といった形でしか伝えなかった。

「ええ、そうだけれど?」

「成瀬学君の父親、成瀬勉の名前も、幹部の一人として載っているんです。主に麻薬の売買をしていたようです」

 そう言われて、絵里はすぐに確認した。そして、光の言う通り、成瀬勉に関する情報を見つけた。

「学君が、定期的に父親からサプリのような感じで薬を受け取っていたんだけれど、それが麻薬じゃないかと疑って、学君はすぐに飲むのをやめて、取っておいたのよ。その薬の分析を知り合いに頼んでいるところよ」

「こうして情報が出ている以上、その薬は麻薬なのかもしれませんね」

「既に麻薬だと判断できたものもあったし、間違いないわね。その件については、これから確認するわ」

「わかりました。それじゃあ、一旦通話を切ります。他にも気になる情報があったら、共有してください。僕達も共有するようにします」

「ええ、わかったわ」

 そうした形で話がまとまった後、通話を切った。そして、絵里は成瀬勉に関する情報を確認した。そして、住所や家族構成なども書かれていたため、学の父親で間違いないと確信した。

 それから、薬を分析した結果が聞けないかと、絵里はドクターに連絡した。

「もしもし? 今は大丈夫かしら?」

「うん、大丈夫だよ。何か、大変なことになっているね」

「学君が渡した薬の分析、進んでいるかしら?」

「ああ、まだ途中だけど、いくつかわかったことがあるから、それを伝えるよ。ちょっと待ってね。……ごめん、ちょっと席を外すね」

 最後の言葉は、自分に言ったものでなく、そこにいる誰か――恐らく翔と美優に言ったものだろうと感じた。

 そうして少しだけ待った後、ドクターがまた話し始めた。

「待たせて悪かったね。それじゃあ、現状わかっていることを教えるよ」

「ええ、お願いするわ」

「まず、学君からもらった薬は、ほとんどがMDMAと呼ばれる、いわゆる合成麻薬だよ」

「合成麻薬って……ストレス発散や、集中力を高める目的で使われるものよね? ストレスの多い芸能界でも、よく使われているなんて話を聞いたことがあるわ」

「確かに、アイドルが使っていたなんて話もあるね。ただ、合成麻薬というぐらいだから、効果は様々だよ。実際、一時的に筋力を増強する効果を持った物もあったよ」

「それ、デーモンメーカーみたいなものかしら?」

「デーモンメーカーの効果を薄めたものって感じかな」

「今、公開されている情報の中に、学君の父親である、成瀬勉に関する情報があって、麻薬の売買にかかわっていたみたいなのよ」

「それじゃあ、私が調べるまでもなく、完全に黒ってことだね。まあ、そうだとしても、引き続き薬の分析を続けるよ」

「ええ、お願いするわ」

 それから、ドクターに現状わかっていることを教えてもらったうえで、絵里は通話を切った。

 そして、絵里はビーのシステムを使い、週刊誌を出している会社の状況を確認した。そして、深刻な状況になっていることに気付いた。

「これは、今日の予定を変更しないといけないかもしれないわね」

「何があったんだい?」

「テレビや新聞といった、大手マスメディアは対応に追われているようだけれど、週刊誌などは影響が少ないし、すぐに過剰な取材を始めるみたいよ。そうなると、学君は自由に動けなくなる可能性があるわ」

 こうした時、家の前に大勢の記者がつき、ちょっとした買い物をするのも困難なほど、とにかく外へ出られなくなってしまうことが多い。今後、学はそのような状況に追い込まれてしまうだろう。そんな考えを絵里は持っていた。

 そうしていると、隆、朋枝、結莉、奈々のグループ通話に誘われたため、絵里は様々なことを察したうえで、その通話に参加した。

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