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TOD  作者: ナナシノススム
後半
275/284

後半 41

 翔と圭吾は、他の者より一足早く、拠点に到着した。

 圭吾はスマホを操作すると、入口のロックを解除した。そして、翔は圭吾と一緒に中に入った。

 そこは、廃墟になったホテルのようで、一階はロビーになっていた。

 翔はここに来るのが初めてのため、簡単に辺りを見渡した。そこには、ライトとダークのメンバーが何人か待機していた。それだけでなく、千佳の姿もあった。

「基本的にはロビーにいて、襲撃に備えてる。それと、休む時はそれぞれ個室を利用してる。メイクを落とすんだろ? 何か必要な物はあるか?」

「メイク落としがあるので、大丈夫です。この髪も洗えば色が落ちるので、洗面台で十分です」

「その声、もしかして翔なの?」

 声で気付いたようで、千佳は翔に話しかけてきた。

「ああ、千佳、無事で良かった」

「それは私の台詞だよ。美優も無事なんだよね?」

「ああ、安心しろ。知っていると思うが、別の場所で待機している」

「てか、その顔と髪は何なの?」

「いつも、ライトやダークのメンバーと会う時は、こうやって変装していたんだ。翔として、あの屋上での思い出は、そのままにしたいと思って……だから、ランとして、可唯に会いに行ったんだ」

「その可唯って人は、どうしたの? ちゃんと捕まえて、考太のこととか何か聞けた?」

 千佳はまだ、何があったか知らないようだった。そのため、翔はどう答えるべきかと少しだけ迷った後、話すことにした。

「悪い、逃げられたというか、可唯は屋上から飛び降りて……自殺してしまって、結局ほとんど何も聞けなかった」

「そう……何か、悔しいね」

 千佳は納得していない様子だったものの、どうにもできないこともわかっているため、複雑な表情だった。

「可唯のことは、リーダーである俺の責任だ。すまなかった」

「いえ、そもそもで自分が『ケンカ』で可唯に勝てなかったせいです」

「それこそランのせいじゃないぞ。むしろ、可唯を相手にあそこまで時間稼ぎをしただけで十分だ。いや、それ以前に……リーダーとして、俺がちゃんと可唯と向き合うべきだった」

「それこそ難しかったと思います。自分も、可唯のことは、結局最後までわかりませんでした」

 何かしらかの手掛かりを失ってしまったことより、同じライトのメンバーだった可唯を自殺させてしまったという事実に、翔と圭吾は思うところがあった。

「それより、メイクなどを落とすんだろ? もうすぐ鉄也達も来るし、先に済ませたらどうだ?」

「はい、そうします。それじゃあ、洗面台を借りますね」

 それから、翔は洗面台を借りると、まず髪の色を落とした。その後、タオルで髪を吹いた後、メイク落としを使ってメイクを落とした。

 それが終わり、圭吾達のもとへ戻ると、丁度鉄也達が帰ってきた。そのため、翔達は早速、これまでのことと、これからのことを話し始めた。

「まだ、和義達には、簡単な報告しかしてねえんだ。だから、まず通話を繋ぐ」

 そう言うと、鉄也は和義達と通話を繋ぎ、スピーカーに切り替えた。

「和義、今大丈夫か?」

「オッケー。大丈夫だよ。てか、色々大変だったみたいじゃん。そっちこそ大丈夫だった?」

「大丈夫かと言われると難しいが、とりあえず無事だ。ただ、ランはどうだ?」

「腕の痛みなどはまだある」

「だったら、僕が少し見て、応急処置ぐらいはしてあげるよ。ちゃんとした処置は、ドクターに見てもらってね」

 それから、ドクターを紹介してくれた人が翔の腕を見てくれた。ただ、その間も会話はできるため、そのまま話を続けることにした。

 まず、鉄也や圭吾から、可唯が自殺したという話をした。

「これまで、様々な形で襲撃を受けたり、ハッキングなどもされたり、色々あったが、それらのほとんど……いや、ほぼ全部が可唯の仕業だったと俺は考えてる。和義などは、どう思ってる?」

「何とも言えないかな。可唯自身が、自分の仕業だって言っただけで、その真偽を確認するのは、多分無理だしね。それに、セレスティアルカンパニーのシステムに意図的なバグを残したのは、俺の兄貴だし……まさか、その件まで可唯が絡んでるわけないよね?」

「こうなると、わからねえな。思えば、可唯のスマホを回収するべきだった。悪い、うっかりしてた」

「回収できたとこで、可唯は何も残してないと思うけどね」

 和義の言う通り、可唯が何かしらかの手掛かりを残していることはないだろうと、翔も感じた。

「問題は、これで俺達の位置情報とかが悪魔などに伝わることがなくなるかどうかだ。これについては、どう思う?」

「それも、何とも言えないかな。自分が操作しなくてもいいように自動化するなんて、俺もやってるし、可唯が死んだからといって、完全に安心できるってわけじゃないかな」

 そんな話を聞いて、翔は口を開いた。

「そういえば、可唯が最後に妙なことを言っていただろ? 明日のニュースは面白いことになるから、要チェックだとか、そんな内容だったと思うが、あれはどういう意味だ?」

「確かに言ってたな。でも、多分それは明日にならねえとわからねえだろ」

「何か、明日発表されるニュースについて、情報を持っていたということじゃないか?」

「いや、それはないと思うけど……少なくとも、ビーが残したものの中に、明日のニュースに関する情報で、気になるものはないよ」

 不意にビーのことを言われて、翔は軽く動揺したものの、どうにか平静を装った。

「ビーが残したシステム、ホントにすごくて、明日発表されるニュースの内容とかがもう見れるんだよね。ただ、面白いニュースって言えるものはないかな」

「だとしたら、これから何か起こるってことかもしれねえな。やっぱり、まだまだ安心できねえか」

 これまで可唯が何をしていたかわからないだけでなく、これから可唯の仕業による何かが起こるかもしれない。それは、翔達にとって、厄介な問題だった。

「まあ、自動化してるなら、何か起こるたびに対処するよ。直接可唯を相手にするよりかは、ずっと楽だし、どうにかするよ」

「可唯がハッキングのようなことをしてるとは思ってたが、そんなに厄介だったのか?」

「俺だけでなく、ダークの本拠地のシステムまでハッキングされたからね。相手にしたくないって言いたくなるぐらいには、厄介だよ」

「可唯にそこまで言わせる時点で、相当厄介だな」

 和義と鉄也は、ハッキングの知識を持っている二人だ。その二人がそう言っているという事実だけで、翔は可唯の恐ろしさを改めて知った。

「とりあえず、ダークの本拠地のシステムは取り戻したけど、何か変な仕掛けが残ってないか、確認中だよ」

「確かに、何かしらかバグのようなものがあるかもしれねえから、入念に確認してくれ」

「オッケー。光も協力してくれてるし、任せてよ」

「ああ、僕からも少しいいかな?」

 何か言いたいことがあるようで、そんな光の声が聞こえた。

「恐らく、可唯君は独自のシステムやソフトなどを作って、あらゆる情報を集めたり、情報操作をしたり、それこそ情報を支配していた可能性があると僕は考えているよ。ただ、瞳やラン君が言った通り、目的や理由がないから、今後何があるか予想するのは、和義君達の言う通り、難しいだろうね」

「光にまでそう言わせるなんて、マジで厄介だな」

「でも、だからこそ、可唯君が僕達を有利にする何かを残している可能性もあるんじゃないかな?」

 光の言葉を受けて、翔達はお互いに顔を見合わせた。

「思い返してみれば、可唯の行動は本当に意味がわからなかったですね。これまで何度も助けてもらいましたし、光さん達に近付くため、ライトに入りたいと思っていた自分がライトに入ることができたのも、可唯のおかげです」

「確かに、本拠地を悪魔が襲撃してきた時、可唯がいなかったら、もっと被害は大きくなってたな」

「可唯がいたから、これまで『ケンカ』でダークに負けることはなかったというのもあるぞ。可唯がいなかったら、ライトを解散して、今こうして俺達が一緒にいることもなかった」

「負け続けた俺達としては嬉しくねえけど、結果的にそれで良かったってことか」

「今後、何があるかわからないけど、可唯君が何か残していないか、みんなで探してみるのはどうかな? まあ、何も見つからないかもしれないけど……」

 そんな光の言葉を受けて、また翔達はお互いの顔を見合わせた後、それぞれ頷いた。

「はい、いいと思います」

「俺もいいと思うぞ。改めて、ライトのメンバーなどに色々と聞いてみる」

「何か残ってるかもしれねえし、和義と光は、とりあえずダークのシステムを解析してほしい。俺も解析に参加する」

「オッケー。俺もそれでいいよ」

「僕もいいよ。というか、そうしたくて、この話をしたわけだしね」

 そこで、鉄也は複雑な表情を見せた。

「だとしたら、やっぱり可唯のスマホを回収するべきだったな」

「今から回収できないのか?」

「もう警察に通報したし、厳しいだろうな。俺のミスだ。悪かった」

「いや、あの場所に残って目立つのも良くないし、しょうがないだろ」

 そんな圭吾と鉄也の会話を聞いて、翔は可唯とのことを振り返った。そして、ある違和感を持った。

「屋上でライトが点灯していましたが、それは可唯が用意したようでした。可唯がスマホを操作して、それで点灯したんですが、その時に可唯が使っていたスマホは、普段使っていたスマホと違っていた気がします。全然色が違いました」

「可唯が使っていたスマホって、確か赤だったな」

「はい、圭吾さんの言う通りです。ただ、あの時使っていたのは、黒でした。光の反射とかで、黒に見えたということはないと思います。だから、普段使っているスマホとは別のスマホを使っていたんでしょう」

「そうだとしたら、スマホを回収しても無駄ということか」

「いや、おかしくねえか? 可唯は俺達に追い込まれることを想定してたみたいじゃねえか」

 鉄也の言う通りで、翔は困惑してしまった。

「確かに、可唯は追い込まれることを想定したうえで、自殺したってことか?」

「追い込まれるとわかってたなら、どうにか逃げる手段を考えるんじゃねえか? いや、可唯にこういった常識は通用しねえか」

「ああ、何の目的も理由もなく、自殺した可能性すらあるからな」

 ここまで様々な話をしたものの、結局、可唯についてわからないというのは、変わらなかった。

 そうした中で、翔は可唯について何か知ることができるかもしれないことを思い出し、口を開いた。

「鉄也に聞きたいことがあったんだ。これまで、可唯はトリッキーな動きで相手を翻弄するスタイルだっただろ?」

「ああ、それで苦戦させられた」

「それは、可唯にとってのハンデで、本来のスタンスじゃなかったようだ。ハンデなしでいくと言った後、全然隙のないスタンスに変わった」

 それから、翔は可唯がしたことを順番に説明していった。

 その話を鉄也は真剣な表情で聞いた。そして、何か納得した様子で息をついた。

「恐らく、それは截拳道ジークンドーだ」

「ジークンドー?」

「古いアクション俳優が作った格闘技だ。ストリートファイト……路上での戦闘を想定した、実践的な格闘技だそうだ。俺も興味を持って、色々と調べたことがあるが、俺には合わなくて、習得を諦めた格闘技でもある」

「一切の無駄がないにもかかわらず……いや、一切の無駄がないからこそ、何をされているか理解できなかった。そして、何であんなことができるのかと、ただただ混乱した」

「そう思えるだけで、ランはすげえな。ランは器用だから、可唯との『ケンカ』を思い返して、再現してけばいいんじゃねえか? とりあえず、俺からアドバイスできることはそれぐれえだ」

 器用な鉄也がそう言うということは、普通の格闘技とは異なる、特殊な技術などもあるのだろう。実際、可唯との「ケンカ」を振り返って、何であんなことができるのかといった驚きしか残っていない。

 ただ、できないと決め付けることなく、少しでも可唯のスタンスを取り入れたいと翔は思った。それは、可唯を自殺させてしまった責任を少しでも果たしたいという思いもあったからだ。

「何か覚えるにしても、今夜は無理しないでね。とりあえず、応急処置はしたよ」

 こうした話をしている間、翔は氷で腕を冷やしてもらった。そのおかげで、多少ではあるものの、腕の痛みが和らいだ。とはいえ、無理をするなという忠告は、素直に受け取った。

 そうした形で、応急処置が終わっただけでなく、話もある程度済んだところで、最後の確認といった形で、今後それぞれどうするかという話になった。

「俺は、美優と冴木さんがいる所に戻る。圭吾さん、引き続きバイクを借りますね」

「ああ、構わないぞ。俺は、明日またジャンク屋を回って、悪魔の行方を追う」「さっき言った通り、俺と和義と光は、ダークのシステムを改めて解析しよう」

「オッケー」

「うん、僕も協力するよ。それと並行して、これもさっき言ったけど、可唯君が何か残していないか、みんなで探そうか。まあ、こちらに不利なものを残しているかもしれないから、まずはそれを優先して探そうか」

 そうして、今後の話もまとまり、翔はこの場を後にすることにした。

「翔、行っちゃうの? ここに美優を連れて来た方が、いいんじゃない?」

 ただ、そんな翔を呼び止めるように、千佳はそんなことを言ってきた。その言葉に対して、翔は少しだけ考えた後、口を開いた。

「こういう言い方は良くないと思ったうえで、あえて言わせてもらう。今わかっている脅威は、悪魔、ケラケラ、JJだ。この三人は、美優や俺を標的にしている。だから、俺達が囮になるため、別行動を取った方がいいと思う」

「待ってよ! 孝太だけじゃなくて、翔や美優までいなくなったら……」

「大丈夫だ。俺も美優も、必ず生き残る。約束する」

 それは、建前でなく、本当にそう思ったうえで伝えた言葉だ。それが伝わったようで、千佳は笑顔を見せた。

「うん! 約束だからね!」

 その後、必要になるだろうと、翔は食料などをもらい、それをバイクに積んだ。

 そして、改めて今後の話をした後、翔はバイクに乗り、この場を後にした。

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