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TOD  作者: ナナシノススム
後半
266/284

後半 32

 鉄也達と別れた後、圭吾は何人か連れて、自らが働く、バイクの中古ショップに来ていた。

「みんな、話があるから、集まってくれないか?」

 そして、圭吾は、ここで働く店員達を集めると、話を始めた。

「これまで、古いバイクについて調べてもらってたが、追加でこのパーツを比較的最近購入した奴がいないか、調べてほしいんだ」

「このパーツって……これまた、随分と珍しいものですね。こんなのが出回れば、さすがに周りで騒ぎになりますよ?」

「ああ、それで、調べる範囲を広げたいんだが、ジャンク屋から直接バイクやパーツを購入してるんじゃないかって意見を聞いて、その通りだと感じたんだ。だから、今後は様々なジャンク屋を調べるつもりだ。この後、俺はここがお世話になってるジャンク屋に行くつもりだが……まあ、そこは期待できないだろう。こうした珍しいパーツがあれば、間違いなく教えてくれるからな」

「同感です。ただ、そうなると、逆にうちが世話になってるジャンク屋と、そこと繋がりがある他のジャンク屋も期待できないでしょうね」

「まあ、念のためといったところだ。ホントの狙いは、これらとかかわりがないジャンク屋だな」

「でも、ジャンク屋から直接何かを買うって、うちみたいな店じゃないと難しくないですか?」

「確かに、それもそうだ。それじゃあ、ジャンク屋を探すのも意味がないか?」

 そうして頭を悩ませていると、別の店員が手を上げた。

「ジャンク屋で働いてる人が、自分で使えそうな物をそのまま自分の物にするという話をどこかで聞いたことがあります。それなら、こうした珍しいバイクやパーツなどを周りから話題にされることなく、入手できるんじゃないですか?」

「その手があったか。確かに、こうした物の価値がわからない所なら、安い値段か、それこそただで譲ってもらえることもあるかもしれない。ただ、そうなると、ジャンク屋で働いてる奴が怪しいってことになるな」

「そうなりますね。そこで働いてる人に、バイクのパーツをよく持っていく人物はいないかとか、そんなことを聞けば、すぐにわかるかもしれませんよ」

「ありがとう。助かった。そうした形で調べるよう、他の奴にも言っておく」

 それから、圭吾はスマホを操作すると、バイクの中古ショップや、ジャンク屋などを調べている他の者達に、今話した内容を知らせた。

 その後、圭吾はまた店員達に顔を向けた。

「あと、色々と情報を共有しておきたくて、さっきケラケラという殺し屋の襲撃を受けた。もしかしたら、俺を捜して、ここに来るかもしれない。一応、監視カメラの映像と、昔の写真があるから、確認してくれ」

 そう言うと、圭吾は店員達にもケラケラの情報を共有した。

「元々、監視カメラの映像は見てたが、角度などの関係か、実際に会っても気付かなかった。写真の方も古いから、かなり雰囲気が違うが、何もないよりかはマシなはずだ。こいつが来たら、とにかく逃げろ」

「わかりました」

 それから、細かい話をいくつかした後、圭吾はその場を後にした。

「圭吾さん、これからどうしますか?」

「ジャンク屋で働いてる奴を、とにかく調べよう。特に、バイクに詳しい奴なんかは、徹底的に調べるぞ」

「わかりました。でも、悪魔は体格も大きいので、そうした特徴から捜すのもいいんじゃないですか?」

「俺も詳しくないが、悪魔はパワードスーツとかいうのを着てるようで、それで体格が大きくなってるんだと思う」

「そうだとしても、あそこまで大柄になりますか? 少なくとも、小柄な女には見えなかったですよ?」

 そう言われて、圭吾は少しだけ間を置いた。

「どうだろうな。悪魔はサイボーグみたいな奴だし、ケラケラは化け物みたいな女だし、それを見た後だと、何とも言えないぞ?」

「ああ、確かに……常識がわからなくなってきますね」

「その通りだな」

 ここ数日だけで、現実と思えないようなことがたくさんあった。それにより、ちょっとしたことでは驚かなくなっている自覚もある。そうしたことを思い、圭吾は苦笑した。

「とにかく、ジャンク屋を回るぞ」

「待ってください。ジャンク屋、土日しかやってない所とかも多いみたいです。先に、今日やってる所をピックアップしましょう」

「そういうのは苦手だから、任せてもいいか?」

「はい、わかりました」

 そうして調べてもらっている間、圭吾は自分のバイクを簡単に点検した。

 日頃から、こうした点検は頻繁にしているため、圭吾の乗るバイクが不具合を起こすといったことはほとんどない。また、自分でも修理できるため、店などに修理をお願いするといったこともしたことはない。

 そこでふと、圭吾はあることに気付くと、鉄也に連絡した。

「圭吾、どうしたんだ?」

「悪魔の正体を特定しようと思ったら、やらない方がいいかもしれないが、悪魔の移動手段を潰すため、俺達がバイクの中古ショップやジャンク屋の調査をしていること、悪魔にも伝わるように情報を広げるってことはできないか?」

 翔にやらせたことは、バイクに大きな損傷を与える可能性のあることで、恐らく修理やパーツの交換をしないと、ろくに走らせることもできないだろう。それなら、バイクの中古ショップやジャンク屋に悪魔が行きづらくなるような情報を広めることで、足止めできるのではないかと、圭吾は思い付いた。

「ああ、いい考えだと言いたいところだが、それは多分無駄だ」

「どういうことだ?」

「ラン達がどう逃げたか、和義は把握してるからな。当然、ラン達を追ってた悪魔の動きも監視カメラなどを使って追いかけてもらった。まあ、結局途中でどこへ行ったかわからなくなったが、悪魔はバイクを捨てたそうだ」

「あのバイクを……捨てた?」

「ついさっきわかったことだから、今調べに行かせてるとこだが、悪魔が乗ってたバイクは、恐らくそのまま道路に残ってるだろう。回収できれば、圭吾が調べてることにも役立つと思うし、何かわかれば、また連絡する」

「あのバイクを……捨てた?」

「ショックなのはわかるが、同じことを言うな。てか、そういうことだと、今後新たにバイクを買う奴も怪しいってことになるな。といっても、さすがにそれは追えねえか」

「あのバイクを……」

「さすがに怒るからな!」

「え、ああ、悪い。頭の整理が追い付かなかった。確かに、中古だけでなく、新品で購入する可能性もあるから、さすがに無理だな。いや、ちょっと待て」

 そこで、圭吾はあることに気付いた。

「悪魔はバイクに詳しいが、バイクを大切にしてないってことになるよな? もしかしたら、価値などもあまりわかってないのかもしれない」

「俺も似たようなもんだが、確かに圭吾の言う通りかもな」

「そんな奴が、中古で手に入れただろう古いバイクや、珍しいパーツを使ってるって、おかしくないか? 価値がわからないなら、新品で適当なバイクを買えばいいだろ?」

「単に、金がなかったんじゃねえか? いや、身分とかを隠してるなら、そもそも正規の手順で買えねえって可能性もあるか」

 悪魔がどんな方法でバイクを入手したのか。それを探るうちに、そもそも何故そんな方法でバイクを入手したのかという疑問も圭吾は持った。

「鉄也、悪魔が乗ってたバイクを回収したら、各パーツを撮った写真などを送ってもらいたい」

「わかった。てか、後でいいから、圭吾も直接バイクを確認しろ。何かわかるかもしれねえだろ?」

「言われなくても、そうするつもりだ。それじゃあ、俺達は引き続き、バイクについて調査を続ける」

「ああ、わかった。もしかしたら、どこかで悪魔と遭遇する可能性があるから、気を付けろ」

「ああ、わかってる」

 そうして、鉄也との通話を切った頃には、他のメンバーによるジャンク屋の調査などは終わっていた。

「他の人と分担して、自分達は、こう回るのがいいと思います。まず、最初に回るのは、ここなんですけど……」

「そこは、俺もやり取りをしたことがあって、最初に行こうと思ってたから丁度いい。早速行こう」

 それから、圭吾達は移動すると、ものの数分で目的のジャンク屋に到着した。

「圭吾さん、いらっしゃい。さっき連絡があって、既に話は聞いてるよ」

 既に中古ショップや、ジャンク屋の間で、情報の共有が進んでいるようで、圭吾としては助かった。

「ただ、バイク関係のジャンク品を多く扱ってる所じゃなさそうだね」

「確かに、そうした所ならパーツなどの価値もわかるし、多少なりとも話題になりそうだな」

「だから、何でもかんでも集めてるというか、何なら廃品回収をしてるとことか、解体をしてるとことかを調べるのがいいんじゃないか?」

「そうか。解体をしてるとこも調べた方が良さそうだな。そうした情報も助かる」

「まだ色々回るんだよね? 何かわかったら、すぐ連絡するから、ここは任せてよ」

「ありがとう。ホントに助かる。それじゃあ、もう行くぞ」

 その後も、圭吾達は様々なジャンク屋を訪れて、情報を集めていった。

 そうして、最後に訪れたジャンク屋を見た時、圭吾達は息をのんだ。

「ここは……なかなかだな」

「そうですね」

 そこは、ゴミ処理場かと思えるほど、大量の物が山になっていた。

「聞いたことがある。とにかく物を集めて、とにかくそれを売ればいいとやった結果、まず売るのが追い付かなくなって、その後処分するのが追い付かなくなって、こうなるらしい。ただ、俺も初めて見たぞ」

「これ、どうなるんですか?」

「最終的に、このまま放置されるんだろうな。とにかく、話を聞くぞ。まあ、誰もいない可能性が高そうだけどな」

 そうして、恐る恐るといった形で、圭吾達は中に入っていった。

 すると、少し奥に進んだところで、初老の男性が出てきた。

「部外者は立ち入り禁止だ。何の用だ?」

「ああ、すいません。自分は今井いまい圭吾です。今、珍しいバイクやパーツについて調べてて、少しだけいいですか?」

「面倒だから、ダメだ」

 男性は気難しい性格のようで、まったく話を聞いてくれない様子だった。

「圭吾さん、帰りましょう」

「ああ、そうだな。それじゃあ……」

 そうして帰ろうとしたところで、圭吾はある物を見つけると、思わず身体が動き、そちらに近付いていった。

「おい、勝手に近付くな!」

 ただ、途中で止められて、圭吾は足を止めた。

「あ、すいません。あそこにあるパーツ、すごいですね。遠目でもわかります。ああして分けてあるということは、バイクの価値がわかってるんですね?」

 そこにあったのは、バイクのパーツだった。そして、圭吾の言葉に対して、男性は複雑な表情を見せた。

「いや、あれに価値はない」

「何を言ってるんですか? すごい価値がある物ばかりで……」

「だったら、近くで見てみろ」

 そう言われたため、圭吾はパーツが置かれている方へ近付いた。そうして、近くで見た時、気付いたことがあった。

「そういうことですか。事故車から回収した物ですね?」

「やはり、わかるんだな」

「本来、傷が付きづらいパーツに傷が付いてたり、傷が付くにしても位置がおかしかったり、そうした点でわかります。こんな傷が付くのは、事故に遭った時ぐらいです」

「その通りだ。だから、これらのパーツは高く売れない」

「それは、売る相手を間違ってます。俺がある程度の値段をつけて、買い取ります」

 そう言うと、男性は驚いた表情を見せた。

「いや、そんな……」

「確かに、気にする人はいます。ただ、事故物件と同じように、訳ありといった形で、相場より安くすると、結構売れるんです。事故車だからという理由で、安く買い取るとこなんかに売らないで、是非俺というか、俺の店に売ってください」

 それから、圭吾は山になった周りの物に目をやった。

「ここにある物、大変ですけど、全部整理しましょう。もっと価値のある物が見つかりそうです。俺はバイクのことしかわかりませんが、他の奴なら、ここにある物の価値がわかるはずです」

 そこまで言って、圭吾は我に返ると、男性に頭を下げた。

「すいません。バイクの価値がわかる人を前にすると、嬉しくなってしまって……」

「ホント、圭吾って、バイクのことになると、いつもこうだよな」

「ただ、俺達は圭吾さんがそうしたいなら、それに従います。ライトのメンバーで、ここを整理しましょうか」

 他の者達もそんな風に言ったところで、男性は笑った。

「何か調べてるんだろ? 詳しく教えろ」

「いや、そんなことより、このパーツをいくらで……」

「圭吾さん! それは後にしてください!」

「次からは圭吾抜きにした方が良くないか?」

「ああ、わかってる。このバイクに乗ってる……さっきこのバイクを捨てたらしいので、さっきまでこのバイクに乗ってた人物を捜してます。この写真のバイクとか、パーツとか、見覚えないですか?」

 そうして、圭吾は男性にスマホの写真を確認してもらった。

「さすがに、この写真だけじゃわからないな。ただ、こうやってバイクのパーツを分けるようになったのは、おまえ……圭吾と言ったよな? 圭吾みたいに、ある程度の値段で直接買い取ってくれる奴がいたからなんだ」

「その人の話、詳しく聞かせてください」

「ああ、元々、こことは別のジャンク屋で働いてたって聞いた。それで、昔からバイクが好きだったけど、買う金がないからと、ジャンク屋に来たパーツなんかを安値で譲ってもらってたそうだ。ただ、何かのきっかけで金に余裕ができて、それからは仕事を辞めると、バイクのパーツを集めるために、中古ショップやジャンク屋を回るようになったそうだ。それで、俺のとこにも来たってわけだ」

「金に余裕ができたのに、新品を買うのではなく、中古ショップやジャンク屋を回ってたんですか?」

「俺も同じ疑問を持って、そいつに質問したよ。そしたら、こうしたとこで探す方が、宝探しをしてるようで楽しいって言ってたよ。それで、ここにあるバイクのパーツを見て、色々とうんちくを言いながら選ぶと、結構な値段で買ってってくれたんだ」

 そう言うと、男性は笑った。

「そいつが色々とうんちくを言ってたせいで、俺もすっかりバイクの価値がわかるようになっちまって、こうして良さげなパーツは分けるようになったんだ。もう、こんなことしても無駄だと思ってるけど、まあ、癖みたいなものになってるんだな」

「どういうことですか?」

「そいつ、もう一年ぐらい来てないんだ。特に何も言わず、急に来なくなって、今どこで何をしてるかもわからない。事故で死んだとかじゃないといいけどな」

「その人が来なくなった、正確な時期って覚えてませんか?」

「ああ、どうだろうな。丁度一年ぐらい前だったと思う。暑くなり出した時期だったからな」

 悪魔がTODに参加し始めたのも、丁度一年前だ。このことを、圭吾は単なる偶然と片付けることができなかった。

「その人の名前とか、写真とか、何かないですか?」

「さすがにそれはないな。ただ、そうだな……。前に働いてたジャンク屋の話をよくしてた。店主が威張ってて、居心地が悪かったとか言ってたな。しかも、回収作業といった大変なことをしたくないからって、安値でホームレスを使うとか、性格に難があったようだ」

「え、それって……?」

 圭吾は、他の者に目をやると、みんな頷いた。

「ホームレス達から教えてもらったジャンク屋の可能性がありますね」

「だったら、すぐに行こう」

「いや、そこは土日しかやってないので、今日行っても無駄です。だから、明日行きましょう」

「それじゃあ、しょうがないな。わかった」

 それから、圭吾は男性に顔を戻した。

「貴重な話をありがとうございました。それじゃあ、ここにあるパーツの値段交渉と、それにこの山をどうやって整理するか……」

「ああ、何か忙しいんだろ? 色々と落ち着いてからでいい。これは俺の名刺だ。何かまた聞きたいことがあれば、ここに連絡してくれ」

「ありがとうございます。助かります。俺の連絡先も教えておきます」

 そうして、圭吾は男性と連絡先を交換した。

「それじゃあ、俺達は行きます。必ずまた来ますから、ここにあるパーツ、絶対に残しておいてください。他の人に売ったり、処分したりしないでくださいね」

「わかったわかった。あいつもそうだったけど、バイク好きって奴は面白いな。久しぶりに楽しかった。ありがとな」

「感謝するのは、こちらの方です。ありがとうございました」

 そうして、圭吾達はその場を後にした。

「もう他に回れる所もないので、戻りましょうか」

「そうだな。鉄也によると、悪魔が乗ってたバイク、新しい本拠地に持ってきたらしい。だから、戻るか」

 そして、圭吾達は、鉄也達がいる場所を目指して、バイクを走らせた。

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