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TOD  作者: ナナシノススム
後半
265/284

後半 31

 絵里達は、浜中の運転で移動して、地下から地上に出ていた。

 絵里はパソコンを操作して、情報を整理していた。ただ、途中で様々なことに気付くと、和義達と通話を繋いだ。

「今、いいかしら?」

「うん、こっちは隠れ家として用意してた場所に着いて、今は落ち着いてるから大丈夫だよ」

 和義達は、ライトやダークと合流することなく、予定通り少人数で潜伏しているようだった。

「まず、色々とシステムを改良してくれたようで、助かるわ。おかげで、私達の位置も完全に隠すことができたわ」

「元々のシステムが優秀だからだよ。それに、これが取り扱い注意ってのは、よくわかったよ。ここにある情報を使ったら、芸能人に政治家、それに大企業の重役とか、色々な人を失脚させて、日本そのものをメチャクチャにできるじゃん」

「私もそう思うけれど、ビーさんからすると、これじゃあまだまだ足りないそうよ。それだけ、マスメディアの問題というのは、深く大きいものなのよ」

「そう言われたら、確かに、時々スキャンダルとかが原因でテレビから消える人がいるけど、別にすぐ代わりの人が出てくるね」

「ええ、そうよ。だから、これだけだと、まだまだなのよ」

 そんな話をしながら、今後はビーの代わりに自分などがこれを引き継ぐのかと思うと、絵里は不安になった。ただ、今はそんなことを考えている時じゃないと、すぐに頭を切り替えた。

「あと、さっき鉄也とか圭吾が確認してくれたんだけど……そこに朋枝はいるのかな?」

「ええ、いるわ。それにスピーカーにしているから、和義君の声、朋枝ちゃんにも聞こえているわ」

「だったら、丁度いいや。朋枝が言ってた通り、ケラケラの正体は、剣持恵楽みたいだよ。ケラケラと会ったことがある、圭吾とか千佳に写真を見せて、恐らく間違いないだろうってことだったよ」

「やっぱり、そうだったんですね……。実は、鈴さんから、恵楽先生の行方がわからないという話も聞いていたんです。それもあって、もしかしたらと思っていたんですけど……」

 朋枝は、複雑な表情で、そんな風につぶやいた。

「過去のニュースを調べたけど、いわゆる紛争地域で、両親と一緒に医療施設にいたみたいだね。ただ、その医療施設をテロリストが襲撃して、両親は亡くなり、剣持恵楽は行方不明って感じだね。多分、テロの被害を受けたことが原因で、色々と考え方なんかが変わっちゃったんだろうね。それで、麻薬に手を出したり、殺人なんてことをしたり、そんなことになっちゃったんじゃないかな?」

「その件だけれど、報道されていることと、実際は少し違うみたいなのよ」

「どういうこと?」

「これは、よくあることなんだけれど、こうした紛争地域って、政府や大企業の弾圧がひどいの。そして、それをどうにかしたいと、抵抗している市民がいるだけというケースも多いわ。ただ、大手マスメディアは政府や大企業の味方だから、そうした状況を伝えることなく、困っている市民達を頭のおかしいテロリストという悪者にしてしまうのよ」

「いや、そうだとしたら、何で医療施設を襲撃するの? 調べてみたけど、この医療施設、差別とかすることなく、みんなの治療をしてたらしいじゃん?」

「これもよくある話なのよ。紛争地域にある医療施設や、あるいはボランティアとしてそこで活動しているチャリティ団体の施設など、そうした所をテロリストが襲撃した。テロリストは、自分達の助けになってくれる人まで攻撃する、ひどい奴らだなんて感じで報道されるというものね」

 その言葉の意味がわからないようで、和義から返事はなかった。

 一方、朋枝は何かに気付いた様子で口を開いた。

「そうした施設を襲撃したのは、政府側の人間ということですか?」

「さすがね。やっぱり芸能界にいると、そうしたことを感じることがあるのかしら?」

「ドラマが放送される直前に、出演女優のスキャンダルが報道されるといったことが時々ありますけど、それはドラマの宣伝も兼ねて、所属事務所自らが情報を発信しているという話を聞いたんです。幸い、私の事務所は、そうしたこともないんですけど」

「そう、いわゆる自作自演ということね。ちなみにさっきの話だけれど、チャリティ団体って、テレビとかでよくCMがあるように、大手マスメディアとの関係が深いのよ。だから、自分達の施設を破壊して、それをテロリストのせいにするってこともやるケースがあるわ」

「何を信じればいいか、わからなくなりますね」

 その通りだと思いつつ、絵里は話を続けた。

「ただ、恵楽さんのケースは、朋枝ちゃんの言う通り、政府側の人間が施設を襲撃したと考えるのが自然ね。この施設にいた人達、この地域の現状を知ったうえで、どちらかというと市民の味方になっていたみたい」

「つまり、この施設と大手マスメディアなどは、そこまで深い関係じゃなかったということですね?」

「その通りよ。だから、単純に邪魔だからという理由で襲撃した後、それを市民のせいにして、テロリスト扱いされるよう、報道したということでしょうね」

「恵楽先生は、そうしたこと、知っているんですかね?」

「少なくとも、政府側の人達に助けを求めることなく、行方不明ということにしたわけだし、何があったのか、知っている可能性が高いわ。それで、正義が何かとか、そういうことがわからなくなってしまった結果、暴走してしまったんでしょうね」

 そこまで言うと、朋枝はため息をついた。

「恵楽先生、少しでもいいから、誰かを笑顔にしたいって夢を持っていると話してくれたんです。それなのに、何でこんなことをするんでしょうか?」

「光です。少しいいですか?」

 和義と一緒にいるものの、これまで光は話に参加しなかった。ただ、このタイミングで何か思うところがあったのか、話に参加した。

「剣持恵楽は、ケラケラと名乗って、殺人を繰り返しているわけですけど、その方法が、強力な麻薬……というより、毒薬を使ったものなんです。この薬を投与された人は、笑い続けて、そのまま亡くなるそうです。これまで、何でそんな方法を取っているのかと疑問だったんですけど、もしかしたら、誰かを笑顔にしたいという夢を今も持っているのかもしれませんね」

「そうだとしたら、皮肉なものね……」

 そうして、それぞれ色々と思うところがあるようで、絵里達は全員黙ってしまった。

 ただ、いつまでも黙っているわけにはいかないと、絵里は口を開いた。

「これから、私達は純君に会えないかと、家へ向かっているところよ。実は、隆君と朋枝ちゃんが純君の同級生で、色々と会って話したいそうよ。まあ、純君が家にいるかどうか、わからないけれどね」

「オッケー。こっちは引き続き、光と一緒にこのシステムをさらに改良するよ。ああ、そうだ。鉄也から伝言で、朋枝が一緒に行動してることは、極一部の人だけに知らせる方針みたいだよ」

「え、何でですか?」

「鉄也が言うには、メンバーの中にもトモトモのファンが多いから、みんなに教えたら、無理に会いに行く人がいるんじゃないかってことだったけど……鉄也は隠してるつもりみたいだけど、普通にトモトモのファンだし、それが理由であまりみんなには話したくないんじゃないかな?」

「そうなんですね。私のファンだというなら、嬉しいです。色々と落ち着いたら、鉄也さんだけでなく、皆さんとお会いしたいですね」

「いや、みんな何するかわからないし、やめときなって」

「その通りだ。朋枝、周りからどう見られてるのか、もっと自覚しねえとダメだろ」

 隆まで加わる形で注意されて、朋枝は軽く笑った。

「わかりました。その通りにします」

「ああ、そうしてくれ」

「それじゃあ、そろそろこっちは目的地に着くし、通話は切るわ」

「オッケー。何かわかったら、また知らせるよ」

「ええ、私もそうするわ」

 そうして、絵里は通話を切った。

 それから少しの間、絵里達は黙っていた。ただ、そうした中で、隆が口を開いた。

「朋枝、大丈夫か? 俺も恵楽先生のことは覚えてるし、普通にショックだ。そもそもの話で、純のこともショックだからな。でも、だからこそ、俺達にできることを探そう。会えるかわからねえけど、恵楽先生だって、朋枝と会って話したら、何か考えを変えてくれるかもしれねえだろ?」

「……隆君、ありがとうございます。そうですね。何かしらかの形で恵楽先生に会えたら、話したいことがたくさんあります」

「そうね。ただ、純君のこともそうだけれど、恵楽さんと会うことは危険よ。浜中さんは頼りにならないし……」

「急に私の悪口を言わないでくれないかい? それより、もう目的地に着くよ」

 浜中の言う通り、もう純の家がすぐそこにあった。

「この車、どこに止めるかい?」

「近くに駐車場があるから、そこに止めて」

 それから、絵里の言う通り、浜中は近くの駐車場に車を止めた。そして、絵里達は車を降りると、純の家へ向かった。

「今更だけど、純君が家にいる可能性、あまりないかもしれないよ。これまでは普通に学校へ通っていたみたいだけど、昨日は学校を休んでいて、今日も休んでいるだろうし、家にいるかどうかも……」

「私も同感よ。ただ、純君が家にいる可能性が少しでもあるなら、ここに来るべきだと思った。それだけで、ここに来る理由としては十分よ」

「……確かに、そうだね」

 それから、絵里は軽く息をついた。

「改めて言うけれど、純君は何をしてくるかわからないから、十分に注意して」

「わかってます。ただ、俺は少しでも話ができれば、それでいいです」

「少し話ができるかどうかも怪しい……いえ、純君は私とも結構話してくれたし、それは大丈夫かもしれないわね。ただ、今はどうかわからないわ。だから、何度も言うけれど、十分に注意して」

 そんな念押しをしたところで、絵里達は純の家の前まで来た。

「チャイム、俺が押してもいいですか?」

「ええ、いいわ。むしろ、それが一番いいと思うわ」

「それじゃあ、押します」

 そうして、隆は少しだけ緊張した様子で、チャイムを押した。

「はい、どちら様でしょうか?」

 インターホンから聞こえてきたのは、女性の声だった。

「あ、えっと……昔、純と同じ学校で、よく一緒に遊んでた尾辺隆なんですけど……」

「え!? ちょっと待ってね!」

 そんな声が聞こえた直後、玄関から一人の女性が出てきた。

「隆君、本当に久しぶりだね。それに、絵里さんと、昨日いらっしゃった刑事さんまで……それに、あなた、もしかしてトモトモちゃんじゃないかな?」

「はい、そうです。本名は万場朋枝と言います。実は、本当に少しの間だけでしたけど、私も純君と同じ学校に通っていたんです」

「うん、話は聞いていたし、覚えているよ。だから、テレビで朋枝ちゃんを見た時とか、純君と一緒に私も喜んでいるよ」

「そうなんですか? ありがとうございます」

「ああ、こんな所で立ち話も良くないよね。冷たい麦茶があるから、是非入ってください」

 そうした形で、絵里達は中に入ると、そのままリビングに案内された。

 そして、それぞれ麦茶を渡された後、純の母親も椅子に座ったため、隆は口を開いた。

「急に来てしまい、すいませんでした。どうしても純と話がしたくて来たんですけど、純は今どこにいるかわかりますか?」

「ちょっとわからないかな。また誰か友達の家に泊まっているのかもね」

「そういうことってよくあるんですか?」

「ええ、昔から多かったけど、高校に入ってからは、夜遊びもするようになったし、家にいる方が少ないぐらいだよ」

 あっさりとそう返されて、隆は戸惑っている様子だった。

「あの、そんなに家に帰ってこなかったら、心配になりませんか?」

 そんな隆に代わって、朋枝はそんな質問をした。

「別に、純君はしっかりしているし、心配はしていないよ」

「いえ、でも……何か事件に巻き込まれているとか、そういう危険もあるじゃないですか?」

「もしかして、刑事さんが昨日今日と来ているのは、そういうことなのかな?」

「あ、その……」

 朋枝は、何を言えばいいか困っている様子で、浜中の方へ目をやった。ただ、浜中も困った様子で、何を言えばいいかわからないようだったので、絵里は息をついた。

「はい、実はその通りで、純君が事件に巻き込まれている可能性があります。それで、私達は純君を探しているんです」

「それは迷惑をおかけして、すいません。もしかして、純君が何か悪いことをしているとか、そんな話ですか?」

「えっと……それは今、調べているところです」

 ただ、不意な質問に、さすがの絵里も戸惑ってしまい、言葉に詰まってしまった。

「純君が何か悪いことをしているなら、すぐ捕まえてください。それで、私も親として、一緒に反省して、罪を償いますから」

「さっきも話した通り、まだ調べているところです。ただ、純君が帰ってきたり、連絡があったり、そうしたことがあったら教えてほしいです」

「はい、絵里さんにもいつもお世話になっていますし、すぐ連絡します」

「よろしくお願いします」

 そうした形で話がまとまった後は、軽い世間話というか、昔の話をした。

 その際、隆は春来の話を出した。ただ、中学生の時、隆と春来が所属するサッカー部の応援を純がしていたといった話が出る程度だった。そのため、純がどれほど春来に固執していたかといった話は、よくわからなかった。

 そんな形で、そこまでの収穫が得られないまま、絵里達は、その場を離れることにした。

 そして、キャンピングカーに戻ると、隆や朋枝は複雑な表情を見せた。

「純君の取材をした時に、母親だけでなく、父親からも話を聞いたんだけれど、純君の両親は、良くも悪くも純君を自由にするって教育方針みたいね」

「確かに、言われてみれば、昔からそうだった気がします。俺は両親が厳しいから、ちょっと羨ましいと思ってましたけど、何か難しいですね」

「私も同感です。私は虐待を受けていましたし、良い母ではなかったと思います。でも、今は私の仕事を陰ながら応援してくれて、助けてくれることもあります。こういうのは、比べるものでもないと思いますけど、何がいいのかと疑問を持ちました」

「二人の意見は、もっともよ。ただ、純君の両親は、純君に無関心なわけでなく、何なら純君が何か興味を持てば、それをやるのに必要なものを買ってあげたり、習い事に行かせたり、良い両親なんだと思うわ。でも、これまで純君を評価したことがないように感じたわ」

「どういうことですか?」

「純君は、様々なことができるでしょ? でも、両親がそれを褒めることは、ほとんどなかったみたい。反対に、純君が何か上手くいかなかった時に、怒るということもなかったんだと思う。さっき、純君が悪いことをしている可能性について伝えても、純君に怒りを持っている様子が一切なかったでしょ?」

「確かに、そうでしたね……」

「私も、そう感じました」

 隆と朋枝は、先ほどのことを振り返り、色々と思うところがあるようだった。

「さっきも言ったけれど、良い両親だと思うわ。ただ、純君には合わなかったというか、純君を狂わせるきっかけの一つになったかもしれないわね」

「それは、春来のこともそうですよね? 俺は、春来とか純に出会って、こんなにすげえ奴がいるなら、俺も頑張ろうと思って、それで絶対にいい影響を受けたと思います。でも、純はそうじゃなかったってことですよね?」

「そういうことでしょうね。誰が悪いということでもないし、難しいわね」

 そこまで話して、絵里は何も言えなくなってしまった。

 そうして、しばらく全員が黙っていたところ、浜中が話し始めた。

「この後は、どうするかい?」

「……そうね。純君が家に帰ってくる可能性を考えて、ここで待つという案もあるけれど、隆君と朋枝ちゃんは、どうしたいかしら?」

 そんな質問をすると、隆と朋枝は困った表情を見せた。そうして、しばらく黙っていたものの、隆の方が口を開いた。

「ここで待っていても、純に会える気が何となくしねえので、ここは離れましょうか。それに、さっき話しましたけど、学からインフィニットカンパニーの話を聞きてえと思ってるんです」

「そういえば、それがあったわね」

「もう学校も終わる時間だし、ちょっと会って話せねえか、学に連絡してみます。まあ、多分大丈夫だと思います」

「わかったわ。それじゃあ、この後は学君に会いましょうか」

 そうした形で話がまとまると、また浜中の運転で、絵里達は学が通う学校の近くまで移動することにした。

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