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TOD  作者: ナナシノススム
後半
262/284

後半 28

 翔は、通話を繋いだまま、美優に時々指示を出しつつ、バイクを走らせていた。

「美優、何度も言うが、運転に集中しろ。とにかく、安全運転でいいから、落ち着いてほしい」

「うん、わかった。あ、今、通過したのは……えっと……」

「大丈夫だ。俺が美優を見つける。だから、場所を伝えるのは、余裕がある時でいい」

「うん、ありがとう」

 美優は、車の運転を覚えたばかりだ。それにもかかわらず、公道を走るなんて、大きな不安を感じているだろう。それだけでなく、冴木に何かしらか異変が起きたことで、焦っているような状態と考えるのが自然だ。そう思って、翔は美優を少しでも安心させることを優先した。

「とにかく大通りに出ろ。その方が走りやすいはずだ」

「でも、どっちが大通りなのか、わからないよ」

「基本的には道なりに進めばいい。それで、道案内の看板などが途中にあったら、それに従うんだ。道案内があるぐらいだから、自然と広い道に出られるはずだ」

「うん、わかった。あ、翔の言う通り、看板があったよ。えっと……」

 それから、美優は広い道に出たようで、看板を目安に、どこを走っているかと、どこへ向かっているかを簡単に説明した。

「わかった。そのまま進め。すぐに追い付けるはずだ」

 そうして、翔は美優が走っていると思われる道に出ると、速度を上げた。

 そして、少し進んだところで、翔は美優達の乗る車を見つけた。

「見つけた。美優、この先に駐車場があるから、そこに入れ」

「うん、えっと……あれかな?」

「ああ、そうだ」

 それから、美優がゆっくりと駐車場に入っていったため、続くように翔も駐車場に入った。

「バイクを止めるから、少し待っていてくれ」

 翔は、後で取りに来ようと考えたうえで、一旦バイクを置くと、すぐに降りた。そして、急いで美優達が乗る車に向かった。

「美優、大丈夫か?」

「うん、私は大丈夫だけど、冴木さんが……」

 冴木は、後部座席で横になっていた。その様子は、眠っているというより、気を失っているように見えて、改めて翔は心配になった。

「美優、俺が運転する。後ろに移って、冴木さんを見てくれ」

「わかった」

 そうして、翔は運転席に座ると、美優が車に乗ったことを確認したうえで、車を走らせた。それからすぐ、圭吾に連絡した。

「圭吾さん、緊急でお願いがあります。冴木さんが気を失ってしまって……その前からどこか様子がおかしかったんです。それで、すぐに見てもらいたくて、医師を目指している人がいましたよね? その人は、どこにいますか?」

「今、一緒に移動してるところだから、そういうことなら通話を繋げる」

「はい、お願いします」

 それから少しして、通話にライトのメンバーが加わった。

「まず、どんな状況なのか説明してくれないかな?」

「はい、さっき悪魔やケラケラを相手にして、攻撃を受けたり、それで吹っ飛ばされたりしていました。その後すぐ、車で逃げて、自分は少しの間、別行動を取っていたんです。そうしたら、冴木さんが体調を崩した様子で、美優と運転を交代したんです」

「冴木さん、声も弱弱しくて、後部座席に移ると、そのまますぐ横になってしまったんです」

 美優も補足するような形でそう伝えた。すると、軽く息をつくような音が聞こえた。

「冴木さん、ここ数日で何度か頭部に衝撃を受けてるよね? もしかしたら、何かしらか脳にダメージを受けてるのかもしれないよ。さっき、吹っ飛ばされたと言ったけど、その時に頭部をぶつけなかったかな?」

「ちゃんとは見ていないですが、吹っ飛ばされた時、頭をぶつけた可能性は高いと思います」

「そういうことなら、一度ちゃんと検査をしたいところだけど、こんな状況だからね。ちゃんとした病院へ行くというわけにはいかないよね」

「はい、そうです。そもそも、冴木さんは保険証などを持っているのか、それすらわかりません」

「だったら、知り合いの医者を紹介するよ。まあ、医者といっても医師免許などは持ってないんだけどね。親が経営してた診療所で暮らしてて、それなりの治療はしてもらえるよ。むしろ、マニュアルに従うだけの医者より、色々と見てもらえて、信用できるぐらいだよ」

「そこ、自分などが行っても大丈夫ですか? これは、単に受け入れてもらえるかという心配だけでなく、自分達が行くことで巻き込んでしまう可能性があるという心配もありまして、どうなんですかね?」

「その医者……本人がドクターと名乗ってるから、僕もドクターって呼んでるんだけど、普段から僕はドクターの所に通って、色々と教えてもらってるし、僕から話を通しておけば、きっと大丈夫だよ」

「ありがとうございます」

「あと、二つ目の件だけど、和義君などから、話を聞いてないかな?」

「ああ、さっき連絡があったんですが、こちらに余裕がなくて、すぐ切ったんです」

「そういうことなら、鉄也とか和義と繋ぐぞ。俺もよくわかってないからな」

 通話に参加したままになっていた圭吾がそう言った後、通話に鉄也と和義が加わった。

「鉄也だ。とりあえず、俺達は本拠地として使う候補に挙げていた、別の場所を目指してるとこだ。和義などが色々と動いてくれて、とりあえず位置を特定される原因のいくつかは潰せたからな」

「それは俺から話すよ。ラン、今は大丈夫なの?」

「大丈夫かと言われると怪しいが、今、冴木さんの様子がおかしくて、恐らく脳に何かしらかのダメージがあるそうなんだ。だから、すぐにどうにかしてほしくて……」

「一応、僕の知り合いの診療所へ行ってもらうつもりなんだけど、ラン君は、そのせいで巻き込んでしまうことを心配してるんだよ」

「そういうことなら、0にはできないけど、0に近付けることはできるってか、もうできてるよ。さっき鉄也が言ったけど、色々と解決できたことがあるんだよ。まず、セレスティアルカンパニーの緊急アップデートを偽装することで、あらゆる通信機器を簡単にハッキングできる状態になってたんだけど、それは対策ソフトで対応できるようにしたよ」

「だったら、そのソフト、俺達にもくれないか?」

「ああ、もうあげてるってか、勝手に実行もさせたから大丈夫だよ」

「は?」

「ソフトを送り込むと同時に、実行させることができるようになってたんだよ。だから、ランも忙しそうだったし、ラン達のスマホの方は、こっちでソフトを送り込むと同時に実行させて、対策しておいたよ」

「そんなことができるのか?」

「勝手なことしてごめんね。でも、そのおかげで、ラン達を追跡する車とかはないじゃん?」

 この時、和義の言い方に、翔はどこか違和感を覚えた。

「確かに、俺や美優……特に美優は安全運転を優先してもらったが、特に襲撃を受けることはなかった。というか、和義、こっちの状況がわかっているのか?」

「今のところ、ちゃんとは追えてないけどね。さっき強力な武器を手に入れたんだよ。それで、その中に警察が使ってる監視システムなんかもあって、それを使えば監視カメラなどを利用して、個人の位置を特定できるんだよ。これ自体は、ダークでも似たようなことをやってたけど、見られる範囲が違うってことで、ダークのシステムと併せて、システムそのものを改造してみたんだよね。それで、試しにラン達を追ってみたら、ある程度の状況がわかるぐらいにはなったよ」

「それ、大丈夫なのか? 同じものを使って、いくらでも追跡できるってことじゃないか?」

「大丈夫。位置を特定するうえでの情報、俺が独占して、他の人は追えないようにしたよ。同時に、ラン達の位置を誤認させるよう、ダミーなんかをバラまいたから、今のラン達は自由に動ける状態だよ。といっても、直接目視されたり、別の方法で位置を特定されたり、そうした可能性は残るから、あくまで0に近付けるって言い方になるけどね」

 詳細はわからないものの、和義は様々な手段で、翔達や他の者達の位置が特定されないよう、対策してくれたようだった。ただ、それだけのことをしても、0にすることはできないだろうという考えは、翔も同じだった。そのうえで、冴木のため、翔は決断した。

「和義、今すぐ冴木さんを見てもらいたいんだ。どうすればいいか、指示を出してくれ」

「そういうことなら、鉄也が使ってた連絡手段を使って、その診療所の場所を伝えてもらってから、すぐにそこを目指せばいいよ。あれ、結構優秀だからね」

 それは、テキストを画像ファイルに変換するだけでなく、暗号化したテキストを一緒に送ることもできる、鉄也が用意したツールのことだ。

「わかった。そういうことなら、俺達は一旦止めて、その場所がどこか口頭で確認した後、俺からランに場所を伝える。だから、和義とランを残して、俺達は通話を切ろう」

「わかった。切ればいいんだな?」

 それから、和義を残して、鉄也達は通話から抜けた。その後、少しして、診療所の場所を知らせる内容が鉄也から届いた。そして、また鉄也達は通話に参加した。

「届いた。鉄也、ありがとう」

「冴木さん、大事じゃねえといいな」

「……ああ、そうだな」

 鉄也も心から冴木を心配している様子で、翔は少しだけ戸惑った。

「それじゃあ、俺達は、教えてもらった診療所へ向かう」

「わかった。俺や鉄也は、さっき鉄也が言った通り、また別の本拠地みたいなとこで待機する予定だ」

「和義も、そっちに行くのか?」

「いや、俺は今、光達と一緒にいるんだけど、通信設備が整った場所に行きたいから、これまで用意してた隠れ家の一つに向かうよ」

「そういうことなら、俺達がさっきまで潜伏していた場所を教えておいた方がいいか?」

「ラン達がどこを使ってたか、もう特定できてるし、そこは避けるから大丈夫だよ」

 簡単な説明しかされていないため、具体的に何をしているかはわからない。ただ、これまで以上に、和義は様々な情報を扱えるようになっているようだった。そのことを頼もしく思うと同時に、そこまでのことができる人がいるという事実に、翔はどこか不安も持った。

「あと、ドクターの方に話をしておいたよ。それで、すぐに見てくれるって言ってたよ」

「ありがとうございます。それじゃあ、この辺りで通話も切らせてもらいます。後で落ち着いたら、また連絡します」

「オッケー。お互い、バタバタしてるしね。俺も一旦こっちに集中するよ」

「わかった。俺達も引き続き目的地に向かう」

 そうした形で、話がまとまると、翔達は通話を切った。

 そして、翔は先ほど教えてもらった診療所を目指した。

「比較的、ここから近いみたいだ。美優、もう少しだから、安心しろ」

「……うん」

 翔自身、実際に見てもらうまで、冴木の容体はわからない。そのことは、美優も強く思っているようで、翔の慰めは、ほとんど届いていないようだった。

 そうしたこともあり、その後は特に会話することもなく、翔は運転に集中した。

 それから20分ほど走ったところで、翔達は目的の診療所に着いた。そして、診療所の前には、翔達が来ることを待っていたのか、一人の男性がいた。

「あの……?」

 車を止めつつ窓を開けると、翔はその男性に声をかけた。すると、男性は穏やかな表情を見せた。

「ラン君と、美優ちゃん、それに冴木さんだね? 話は聞いているよ。とりあえず、車はそこに止めてもらおうか」

「はい、わかりました」

 そうして指示された場所に車を止めると、男性は後部座席で横になっている、冴木に目をやった。

「なるほど……見ただけだと何とも言えないし、とりあえず中に運ぼう。頭部へのダメージを少しでも減らすため、タンカを用意するから、手伝ってくれないかな?」

「はい、わかりました」

 そうして、翔と美優は指示された通り、冴木を運ぶのを手伝った。

「自己紹介が遅れたね。と言っても、これも聞いているかな? 私はドクターと名乗っているよ」

「はい、聞いています」

「それじゃあ、私のことはドクターと呼んでほしい。さん付けにするかどうかは任せるよ」

「わかりました。それじゃあ、ドクターさんと呼びます。それで、冴木さんは……?」

「これから、色々と調べさせてもらうよ。だから、結果が出るまで、二人は奥の部屋にあるベッドで休んでほしい」

 急にそんなことを言われて、翔と美優は戸惑った。

「いえ、自分達がここにいると、何があるかわからないので……」

「そんな疲れた……というか、不安しかないような顔の君達を、このまま行かせるなんて、そんなの私が許さないよ。『病は気から』というでしょ? とにかく、冴木さんのことは私に任せて、二人は休んでほしい」

「それは嬉しいですが……」

「大丈夫だよ。後でライトやダークのメンバーが来てくれるそうだし、何か襲撃があった時の対策も、それなりにあるよ。だから、安心して休んでほしい」

 こちらが色々と言う前にそうしたことを言われて、翔と美優は困ってしまった。

「冴木さんのことは、私に任せてほしい。だから、とにかく二人は安心して休んでほしい」

「いや、気持ちは嬉しいですが、これまで何があったか、聞きたいことがたくさんありますし……」

「それも、後にしようよ。私は軽く話を聞いただけだけど、みんな、今は色々と整理できていないようだし、ちゃんと整理できてから聞いた方がきっといいよ。だから、今のうちに休もうよ」

「いや、ですが……」

「翔、休ませてもらおうよ。私も……少し疲れちゃった」

 美優は、これまで以上に気を張っていたようで、改めて見ると、疲れ切った表情になっていた。そのため、翔は様々なリスクを考えつつ、美優の要望を聞いたうえで、ドクターの言う通りにすることにした。

「わかった。すいません、奥で休ませてもらいます」

「うん、自由に使ってよ」

 そうして、翔と美優は奥の部屋に案内された。そこには、患者が休むためのものなのか、三つのベッドが並んでいた。

「このベッド、使っていいんですか?」

「うん、二人の様子を見ると、すごい興奮しているようだし、なかなか眠れないと思うけど、とにかく横になるだけでもいいから、少しでも休んでほしい」

「わかりました。少しだけ休ませてもらいます。ドクターさん、改めて冴木さんのこと、お願いします」

「うん、それは任せてよ」

 それから、翔と美優は、それぞれベッドに入ると、横になった。

 その後、しばらくの間は、お互いに何も話さなかった。ただ、お互いに起きていることは、何となく感じ合っていた。

「翔、起きているよね?」

「ああ、起きている」

「冴木さん、大丈夫なのかな?」

「それは、さっきいたドクターさんに任せておけばいい」

「うん、そうだよね」

「美優は大丈夫か? 急に運転することになって、大変だっただろ?」

「うん、すごく不安だったし、緊張もしたよ。でも、翔が励ましてくれたから、どうにか走り続ける……ことが……でき……」

 急に睡魔が襲ってきたのか、美優はそうした形で言葉を切ると、少しして寝息が聞こえてきた。

 そして、そんな美優の寝息を聞いているうちに、翔も睡魔に襲われ、少しずつ意識が遠のいていった。

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