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TOD  作者: ナナシノススム
後半
260/284

後半 26

 浜中は、他の者達と一緒に、気を失った速水を見ていた。

 先ほど、警察がやってきて、現場検証をしていたものの、TOD絡みと気付いたのか、簡単に済ませると、遺体を運んでいった。

 その中には、ビーの遺体もあった。正体を隠していたことなどから、身元がわからない可能性もあるだろうと感じつつ、速水が何か知っているか、ビーが速水に渡したものに身元を特定する情報があることを、浜中は期待した。

 そして、親類や縁者が見つからなかった時は、自分が責任を持って、葬儀などを行おうと浜中は考えていた。

 そうして、しばらく何もしないで過ごしていると、ようやく速水が目を覚ました。

「速水さん、大丈夫かい?」

「ええ、ちょっと頭が痛いけれど……それより、ビーさんと純君はどうしたのかしら?」

 そう言われて、浜中は軽く息を呑んでしまった。

「えっと……二人とも、大丈夫だよ」

「嘘をつくなら、もっと上手につきなさいよ」

「……ごめん。実は……」

 それから、浜中は速水が気を失っている間に、何があったかを話した。

「ビーさんは、殺されたというより、殺させたように見えたよ。そのおかげで、純君は戦意を喪失して、そのまま行ってしまって……ビーさんのおかげで、みんな助かったといえばそうだけど、何か他の手段はなかったかと考えてしまうね」

「ええ、私もそう思うわ」

「あと、聞きたいことがあって、ビーさんがどこの誰なのか、速水さんは知っているかい? 家族の人とかに知らせられるなら、そうしたいんだけど……」

「残念だけれど、私も知らないし、調べてもわからないと思うわ」

「ビーさんからもらったスマホに、何か情報はないのかい?」

「多分ないわ。いつも冗談交じりにビーさんが言っていたことがあって、自分が死んだ時は、身元不明の遺体という扱いになると聞いていたの。ビーさんがそう言うということは、そうなるだろうって、ずっと思っていたわ」

「……そうなんだね。だったら、葬儀などは、私が手配するよ」

「それもビーさんは望んでいなかったけれど……できるなら、ちゃんと弔ってあげたいわね。だから、お願いするわ」

 それから、速水はビーから受け取ったスマホを手に取り、それを眺めた。

「まだ新人なのに、とんでもないものを託されちゃったわね」

「一人で抱える必要はないよ。ビーさんだって、そう言っていたし……」

「そうね。私も、一人で抱えるつもりはないわ」

 そう言うと、速水は目を閉じて、ビーから託されたスマホを握り締めた。そして、決心を固めるように何度も深呼吸をすると、ゆっくり目を開けた。

「速水さん、大丈夫かい? ビーさんが亡くなったこと……」

「大丈夫よ。変なこと聞かないでほしいわ」

 速水は、篠田が亡くなったと聞いた後、泣き酒といった形で泣いていた。そんな速水が、ビーの死を知って、何も思わないわけがない。浜中はそう思ったものの、だからといって何を言えばいいかわからず、何の言葉も出てこなかった。

「あ、そういえば、速水さんが起きたら、和義と光に知らせるんだった。連絡しても大丈夫ですか?」

 ダークのメンバーからそう言われて、浜中と速水は頷いた。

「うん、大丈夫だよ」

「私も大丈夫よ」

「それじゃあ……」

「え、待って!」

 そこで速水が叫んだため、ダークのメンバーは、驚いた様子で手を止めた。

「今、私のスマホを確認したんだけれど、お姉ちゃんから何度も連絡が来ているし……しかも、出たことになっているんだけれど?」

「ああ、ごめん……。あまりにも鳴っていたから、何か重要な連絡なのかと思って……私が出たんだよ」

「勝手に人のスマホに出ないでよ!」

「普段だったら、絶対にそんなことしないよ。でも、こんな状況だし、何か緊急事態だったら、聞いておこうと思って……」

 必死に浜中が弁解したものの、速水の怒りは治まる様子がなかった。

「それで、お姉ちゃんの用は何だったのかしら?」

「それはよくわからなくて……というのも、私が出たことで妙な誤解をしていたようで……多分、私が速水さんの恋人か何かと思われたような……」

「ああ、もう! お姉ちゃん、自分も独り身のくせに、私に色々と言ってきて、本当に迷惑なのよ! それで、ちゃんと弁解したんでしょうね!?」

「いや、上手く弁解できないまま、お姉さんは速水さんのことを心配して、今からここに来るって言われて……」

「ここに来る!? 早く言いなさいよ! 来る前に逃げないと……ああ、でも、色々しないといけないこともあるし……」

「それだったら、光君にお願いして、奥に入らせてもらうのはどうだい?」

「それがいいわね。あなた、早く連絡しなさい!」

「あ、はい、わかりました」

 速水の叫び声によって、連絡するのを中断していた彼は、慌てた様子でスマホを操作した。

 その時、浜中達がいる休憩室に、一人の女性が入ってきた。

「絵里ちゃん、大丈夫!?」

「……ああ、お姉ちゃん、来ちゃったじゃない」

「久しぶりに会ったのに、そんなこと言うなんて、お姉ちゃんは悲しいよ」

「ごめん、お姉ちゃん、今は色々と忙しくて、今度ちゃんと話すから……」

「それで、絵里ちゃんの電話に出た浜中さんは誰?」

 そう言われて、素直に答えていいのかと浜中は困ってしまった。それが良くなかったのか、自分が浜中だということに、相手はすぐ気付いたようだった。

「あなたが絵里ちゃんの電話に出た浜中さんだね? いったい、絵里ちゃんとはどんな関係なの?」

「浜中さんは、そういうんじゃなくて……」

「絵里ちゃんは黙ってて!」

 ただただ興奮した様子で詰め寄られて、浜中は戸惑ってしまった。

「えっと、改めて、刑事をしている浜中はまなかつよしです。速水さんとは……」

「私も速水なんだけど、誰のことを言っているの?」

「ああ、すいません。絵里さんとは……」

「そんな簡単に名前で呼ぶなんて、どんな関係なの!?」

「いや、お姉ちゃん、それは理不尽だよ。まあ、でも……浜中さん、確かにややこしいし、私のことは絵里でいいわ」

 絵里は、呆れた様子で、そんなことを言った。

「ほら、やっぱり、そういう……」

「違います。お姉さんが心配するような関係では……」

「私を、お姉さんだなんて呼ばないでよ!」

「ああ、もう、本当に面倒くさい。浜中さん、お姉ちゃんの名前は絵海えみよ」

「それじゃあ、絵海さん……」

「気安く名前で呼ばないでよ!」

「えっと、私はどうすればいいんだい?」

 そうした形で困っていると、ダークのメンバーは、簡単にこちらの状況を伝えつつ、とにかく来てほしいといったお願いをしていた。それは、この状況が収集する目処がつかない浜中にとって、助かることだった。

「もう、お姉ちゃん、本当にやめて。浜中さんとは、今一緒に調べ物をしていて、本当にただそれだけの関係だから」

「本当にそうなの? 最近、全然連絡もくれないけど、恋人ができたからとかじゃないの?」

「違うから! というか、そうやって恋人がどうとか、結婚がどうとか、そう言われるのが嫌で連絡しなくなっただけだから!」

「大切な絵里ちゃんの幸せな結婚を願うのは、お姉ちゃんとして当然だよ!」

「もう! お姉ちゃんだって、まだ結婚していないじゃん!」

「私はいいの。動物達に囲まれていれば、それで幸せだから」

「だったら、私だって、記者の仕事ができれば、それで幸せよ!」

 お互い、話し合いをするというより、ただ言葉をぶつけているだけで、話がまとまるようには全然見えなかった。そのため、浜中は戸惑いつつ、ただ眺めることしかできなかった。

「いや、マジで何の騒ぎ?」

「とりあえず、呼ばれてきたんですけど……」

 すると、和義と光、それに瞳が、休憩室に入ってきた。

「ごめんなさい。お姉ちゃんが来ちゃって……」

「そんなに私に来てほしくなかったの?」

「ええ、こうなると思ったし、そんなに来てほしくなかったわ」

「二人とも、落ち着いてください。私は宮川みやがわ瞳です。言葉をぶつけ合うことなんて、お互いに望んでいませんよね? だから、直接相手に言葉をぶつけるのではなく、それぞれの思いを私に話してくれませんか?」

 瞳は、穏やかな様子で、そんな言葉を伝えた。それを受けて、絵里と絵海は、色々と思うところがあったのか、お互いに気持ちを落ち着けるように、息を吐いた。

 それから、絵里と絵海は、お互いの言い分を直接相手に伝えるのではなく、瞳に伝えた。そして、瞳は落ち着いた様子で、二人の話を聞いた。

「そういうことですか。絵海さんが姉として、絵里さんのことを大事に思い、心配する気持ちはわかります。ただ、私は会ったばかりですけど、絵里さんはしっかりしているように見えます。絵里さんのことを大事に思うからこそ、そんなに心配しないで、もっと絵里さんの意思に任せていいんじゃないですか?」

「でも、それで絵里ちゃんが傷付いたら……」

「困難にぶつかったり、挫折したり、そういう経験は誰にでもあります。絵海さんも、そうした経験があるはずですよ?」

「確かに……」

「絵里さんがそうして傷付いてしまった時、絵海さんは姉として、絵里さんのことを支えてあげてください。それがきっと、絵里さんにとって、一番嬉しいことですよ」

 そんな瞳の言葉を受けて、絵海は複雑な表情を見せつつ、特に反論することはなかった。

「それに、絵里さんも、あまり絵海さんのことを邪険にするのは良くないですよ?」

「……わかっているわ。でも、会う度に恋人がどうとか、結婚がどうとか言われて……」

「それは、絵里さんのことを心配しているから……というのは、言わなくても気付いていますよね? 確かに、過保護ですし、それはさっき言った通り、絵海さんが直すべきことだと思います。ただ、絵海さんが絵里さんを心配するのは、絵里さんのせいでもあると思いますよ?」

「え、何でかしら?」

 驚いた様子の絵里の質問に、瞳はすぐ答えることなく、少しだけ間を空けた。

「恐らく、記者という仕事だからだと思いますけど、絵里さんが普段、仕事の中でどういったことをしているか、あまり説明していないんじゃないですか?」

「確かに、そうだけれど……」

「取材でわかったことを勝手に誰かに伝えるというのは、相手が身内でもいけないことだと知っています。ただ、だからといって何も伝えないというのは、やはり絵海さんも心配するでしょう。時々、一緒にご飯へ行くなどして、今の仕事をどう思っているか、それぐらいのことを話すようにするのはどうですか?」

 瞳からそう言われて、絵里は少しだけ複雑な表情を見せた後、絵海に目をやった。

「お姉ちゃん、今、私は記者になれて、良かったと思っているよ。色々と大変だし、今は危険なこともあるんだけれど……」

「そういえば、何か様子がおかしかったんだけど、ここで事件でもあったの?」

 実際、絵海の言う通り、ここで事件があった。そのうえで、絵里は頷いた。

「うん、そうだよ。それだけ危険なことにかかわっているところだよ。だから、お姉ちゃんには、あまりかかわってほしくないの。でも、安心して。私は一人じゃないし、色々と託されたものもあるし……今、私はやりたいことをやっているの。だから、私のことを信じてほしい」

 絵里は、真剣な表情でそう言った。それに対して、絵海は困った表情を見せた。

「危険なことなんてやめてって言いたいけど、そんな顔を見せられたら、何も言えないよ。でも、約束だからね? 今度、一緒に食事して、色んな話を聞かせてよ?」

「うん、色んな話をするし、お姉ちゃんの話も聞かせて」

 そうして、絵里と絵海はお互いに笑い合った。

「それと、浜中さんでしたよね?」

「あ、はい」

「さっきは興奮してしまって、ごめんなさい。刑事をやっているって言っていましたけど、絵里ちゃんのこと、守ってください。よろしくお願いします」

 そう言うと、絵海は深く頭を下げた。それに対して、浜中は頷いた。

「はい、必ず絵里さんを守ります」

「残念だけれど、浜中さんはそこまで頼りにならないわ」

「せっかく話がまとまったのに、そんなこと言わないでくれないかい?」

「私は事実を言っただけよ?」

 絵里に水を差されてしまい、浜中は困ってしまった。

 すると、絵海はクスクスと笑い出した。

「やっぱり、二人はそういう関係なんだね」

「違うから!」

「今度、食事する時、浜中さんも一緒に来てください」

「行かないから!」

 それから、絵海はしばらく笑った後、気持ちを落ち着かせるように息をついた。

「それじゃあ、私は自分の店に戻るよ。皆さん、お騒がせして、すいませんでした」

 そうして、最後に頭を下げると、絵海は休憩室を出た。その直後、何かに気付いた様子を見せたかと思ったら、そのまま慌て出した。

「ごめん! せっかく連れて来たのに……」

「ああ、いいですよ。てか、絵里さんとの話が落ち着いて良かったです」

「はい、本当に良かったです」

「本当にごめん! ああ、とにかく二人とも入って!」

 何だろうかと眺めていると、絵海に案内される形で、制服姿の男子と女子が入ってきた。

「あれ? 隆君じゃない? それに……あなたは、トモトモって名前で芸能活動をしている、万場朋枝ちゃんよね?」

「絵里さん、お久しぶりです。えっと、尾辺隆です」

「初めまして。絵里さんの言う通り、私は万場朋枝です」

「二人が絵里ちゃんに会いたいって言って、わざわざ私の店まで来てくれたの。それで、ここに来たんだけど……」

「ごめんなさい。こうしてわざわざ来てくれたってことは、何か困ったことがあるのよね? でも、聞こえていたかわからないけれど、今は危険なことにかかわっているところで、今度にしてもらえると……」

「とりあえず、二人の話を聞いてあげてよ。それで、かかわらせない方がいいと思ったなら、このまま私が二人を連れて帰るよ。まあ、多分、私だけで帰ることになりそうだけどね」

 絵海がそんな風に言った後、隆と朋枝は、お互いに顔を見合わせ、どちらが話をしようかと迷っている様子を見せた。そして、隆が話すと決めたようで、真剣な表情をこちらに向けた。

「今、絵里さん達が調べてることって、TODについてですか?」

 言われた瞬間、何故TODについて知っているのだろうかといった、驚きがあった。そうした驚きは、浜中だけでなく、ここにいる全員が持ったようだった。

「一年前、春来や春翔が死んだのは、TODに巻き込まれたからなんですよね? それに、今もそれは続いてて、孝太がそれに巻き込まれて殺されたって話も知ってます」

「私達は、孝太さんの同級生の千佳さんに会ったり、今回ディフェンスとして参加している信弘さんにも会ったり、そうしてTODについて知りました。それで、篠田さんという方も、ディフェンスとして、今回のTODに参加していますよね? この篠田さんという方は、絵里さんの知り合いですよね?」

「ああ、二人とも待って。私、これ以上聞くのは、あまり良くないよね? それに、ここまでで、判断できたんじゃないかな? 絵里ちゃん、隆君と朋枝ちゃんを残して、私だけ帰るつもりだけど、それでいいかな?」

 そんな絵海の質問に、絵里はため息をついた後、頷いた。

「二人でそこまで調べたということは、今後も深入りするつもりよね? だったら、一緒にいた方がむしろ安心だし、それでいいわ」

「それじゃあ、私は行くね。改めて、皆さん、お騒がせしてすいませんでした」

 そう言うと、絵海は改めて休憩室を出て行った。

 それから、少しだけ間を空けた後、絵里は息をついた。

「それじゃあ、色々と聞きたいことも言いたいこともあるから、話していきましょうか」

「さすがに、ここで話すことじゃないから、奥で話しましょう」

 そうして、光と瞳が案内する形で、全員は休憩室を出ると、奥へ向かった。

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