後半 25
和義は、光と情報を交換した後、セレスティアルカンパニーのシステムについて、さらに詳しく調べた。
そして、緊急アップデートに関する問題については、簡単ながらその解決策を見つけていた。
「これまであった緊急アップデートを一旦全部消すのと、今後緊急アップデートがかからないようにするソフトを作って、それをみんなに実行させれば、とりあえずは対策できそうだよ」
「可能だったら、どんなソフトがインストールされているか、データを取った方がいいんじゃないかな?」
「確かに、光の言う通りだね。待ってね。パパっと作っちゃうよ」
この程度のプログラミングなら、簡単にできるだけの実力を和義は持っている。そのため、あっという間に完成させると、実際に自分のスマホで実行して、想定通りの動作をしてくれるかテストした。
「良さそうだね。それじゃあ、まずはランに連絡しようか」
そうして、和義は翔に連絡した。
「ラン、今大丈夫? あれ? 美優と通話中って、一緒にいないの?」
「悪魔とケラケラの襲撃があって、俺だけ別行動を取ったんだ。それで、しばらく別行動を取るつもりだったが、どうも冴木さんの体調が悪いというか、様子がおかしいようで、すぐまた合流しようと向かっているところだ」
「てことは、やっぱりまた位置を特定されたってことだね。その原因に心当たりがあって、俺は今、光と一緒にセレスティアルカンパニーのシステムに触ってるんだけど……」
「悪い、どこで合流するか、美優に指示を出しているところなんだ。後にしてもらえないか?」
「オッケー。そういうことなら、こっちで勝手にやっとくよ。落ち着いたら、また連絡して」
「ああ、わかった」
そうして、和義は翔との通話を切った。
「何か、大変そうだね。でも、そうなると、どうしようかね?」
「悪魔がやったのと同じように、緊急アップデートと誤認させるようにしたものをラン達に送るよ。そうすれば、ラン達が何もしなくても、自動的に実行してくれるからね」
「確かに、これを利用すれば、そんなこともできるね。まったく、こんなものがあったなんて、信じられないというより、信じたくないよ」
セレスティアルカンパニーのシステムに存在する問題について、和義は自分の気付いたことをすべて光に伝えた。そのことを光はすぐに理解した様子だったものの、気持ちが追い付いていないようだった。
「これ、兄貴一人でやったとは思えないんだよね。何か隠してるようだったし、とにかく納得できないんだよね」
「僕も同感だよ。ただ、そうだとすると、まだここは安全じゃないってことだね」
「いきなり襲われたり、いきなりシステムをダウンされたりするかもね」
「襲われた時のため、ライトやダークのメンバーにいてもらっているんだし、そこは信用しようよ」
「そういえば、兄貴が使おうとしてたソフトの対策はできた?」
「うん、仮に同じソフトを実行されたとしても、ここのシステムが影響を受けることはないよ。ただ、他に問題がないか、引き続き調べているところだよ」
和義と光は手分けする形で、和義が緊急アップデートの問題に取り組んでいる中、光は和仁が使おうとしていた、ここのシステムをダウンさせるソフトの分析を進めていた。そして、そちらの対策も済んだようだった。
「さすがだね。光、副社長なんかやってないで、もっとこうしたことをした方がいいんじゃない?」
「いや、一人でできることは、限界があるからね。反対に意見するけど、和義君はもっと周りに頼ったり、指示を出したりしてもいいんじゃないかな?」
「どうだろうね? 今回だって、一人だったから、これだけ早くシステムの解析ができたと思うし、俺は一人の方がいいかな」
そんな話をしながらも、和義と光は手を動かし続け、それぞれ自分のやるべきことを行った。
「オッケー。ラン達にソフトを送って、無事に実行させることもできたよ。緊急アップデートとして、実行されたファイルの情報も収集できたっぽいね」
「こっちも一段落ついたから、一緒に見てもいいかな? あ、でも、速水さんのことも心配だし、そっちに行った方がいいかな?」
「光さん、残してきた人達に、速水さんが起きたら連絡するように伝えてます。まだ、連絡がないので、起きてないんだと思います」
「ビーって名乗ってた人のことは残念だけど、何を託してくれたのか、やっぱり気になるからね。その人が起きたら、すぐに行くってことにして、それまではここでできることをしようよ」
光から、ビーやJJの話を聞き、和義はそんな判断をしていた。
また、和義はビーが託してくれたものが何かということが気になっていた。光の話によると、それは速水だけでなく、和義や光、さらには浜中にも託すような言い方だったそうだ。
知り合ったばかりで、ビーのことはほとんど知らない。ただ、あの状況で、和義達のことを助けてくれた、いわゆる命の恩人だ。しかし、ビーが亡くなってしまった今、その恩を直接返すことはできない。
ただ、そんなビーが自分に何かを託してくれた。そして、その何かを受け取ることが、自分にできる唯一の恩返しではないかと、和義は考えていた。
「和義君、大丈夫かな? 和仁さんのこともあったし……」
「光の言う通り、妙に冷静だって自分でも不思議に思ってるよ。多分、上手く理解できてないだけで、大丈夫じゃないんだろうね。ただ、今はやるべきことがあるし、理解できてないなら、そのままでいいよ。とにかく、最後までやるべきことをやり続けて、それが一段落した時……色々理解するよ」
そう言いながら、自分が様々なことを考えないようにしているという事実には、気付いていた。ただ、それすらも気付かないふりをして、自分がやらないといけないことは何かということだけを、ひたすら考え続けた。そして、それでいいと、和義は心を決めていた。
「てか、見つかったね。ラン達が持ってるスマホ、常に位置情報を発信するようなソフトが入ってたよ」
「ああ、うん、そうだね」
光も同じものを確認したようで、そんな受け答えをした。
「そうなると、鉄也達も危ないね。鉄也に連絡して、すぐ対策ソフトを実行してもらうよ」
「うん、それが良さそうだね。ただ……いや、先に鉄也に連絡した方がいいね」
光が何か気付いた様子だったものの、そう言われたため、和義はすぐ鉄也に連絡した。
「鉄也は、今大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。何かわかったか? てか、色々あったみてえだが……」
「とりあえず、大丈夫だよ。それで、セレスティアルカンパニーのシステムを解析してわかったんだけど、緊急アップデートだと誤認させることで、受信したプログラムやソフトを自動的に実行させられてたってのが、これまであった色んな不具合の答えだよ」
「いや、そんなこと……」
「初歩的というか、大胆過ぎて、逆に気付かなかったよね」
そんなことを言いつつ、和義はパソコンを操作した。
「今、緊急アップデートとして実行されたソフトのデータを回収しつつ、それを削除するソフトを送るから、みんなに実行させて。これ、今後緊急アップデートとして受信したファイルを実行しないようにもなってるから、とりあえず同じ方法による不具合はなくなるはずだよ」
「わかった。すぐに送ってくれ」
「オッケー」
そうして、和義は鉄也に対策ソフトを送った。それからすぐ、鉄也はソフトを実行したようで、データが送られてきた。
「鉄也のスマホにも、位置情報を発信するソフトが入ってたみたいだね。てか、そうなると、今いる場所から移動した方がいいかもね」
「和義の言う通りだ。今、こっちに圭吾達が向かってるとこだが……丁度いい。今、圭吾も来たから、みんなでこのソフトを起動した後、また移動する」
「オッケー。俺はもう少しだけ、ここにいるつもりだけど、落ち着いたら合流するよ」
「そこは安全なのか?」
そんな鉄也の質問に対して、和義は上手く答えられなかった。というのも、安全とは思えなかったからだ。
「光だよ。正直に言うと、まだ誰が敵なのかわかっていない状況で、安全とは言えないかな。そのうえで、お願いがあるんだけど……ここに何人かプログラミングやシステムの解析ができる人を置くことはできないかな? それと、何か襲撃があった時のため、その対応ができる人も、このまま置いてほしいんだ」
「光と和義に任せるのも悪いからな。圭吾と話して、すぐに誰かをやろう」
「ただ、僕や和義君は、ここを離れようと思っているんだ」
「どういうことだ? それほど危険だっていうなら、むしろ誰もやりたくねえからな」
「そうじゃなくて……さっき、会ってすぐにJJの相手をして、それで殺されてしまった人がいるんだけど、何か重要なものを託してくれたようなんだ。それを、僕と和義君で調べたいんだ」
光も、自分と似た考えを持っているのだろう。そう感じて、和義は嬉しくなった。
「鉄也、俺からもお願いするよ。多分、それは俺と光が受け取るべきものだと思うんだよ」
「……和義がそう言うなら、任せる。それじゃあ、俺達は、とりあえずまた移動する。といっても、どこへ行くのがいいか……」
「鉄也達は、しばらく色々な所を転々と移動するようにして、相手をかく乱してほしい。その間に、僕と和義君で、鉄也達の位置情報を操作して、全然違った場所へ誘導できないか、試してみるよ」
「ああ、わかった。とりあえず、何人かはすぐそっちへ向かわせる。あと、他にも俺達にできることがあったら、何でも言ってくれ」
「オッケー」
「うん、わかったよ」
そうした形で、一旦、鉄也との連絡は切った。
「それじゃあ、ここに来た人に引き継ぐとして、僕達でできることはやっておこうか」
「そうだね。とりあえず……」
「光、さっき何か言いかけていなかった?」
それまで、瞳は一緒にいたものの、特に声をかけてこなかった。そんな瞳が、このタイミングで声をかけてきて、和義は思い出した。
「そうだ。何か、ラン達に送られたソフトを見て、気付いたことがあったんじゃない?」
「うん、そうだね。というか、鉄也達に送られていたソフトもそうなんだけど……このソフト、結構前から実行されていないかな?」
そんな風に言われて、和義は慌てて確認した。
「マジじゃん。このスマホをラン達に渡した時点で、もう実行されてたっぽいね。てか、鉄也の方なんて、大分前からじゃん。それこそ、最初から入ってたようなもんじゃん」
「それって、おかしくないかな? つまり、昨日の時点で、ラン君達の位置情報は知られていたのに、悪魔やケラケラは襲撃しなかったってことだよね?」
「これは、鉄也達も同じだね。ダークの本拠地を潰したいと向こうが思ったんだとしたら、もっと前に襲撃できたはずなんだよね」
何故、位置がわかっているにもかかわらず、襲撃しなかったのか。その疑問の答えが見つからず、和義は頭を悩ませた。
それは、光も同じのようで、しばらくの間、黙っていた。ただ、何かしらかの答えを見つけたのか、息をついた。
「ラン君や、鉄也達、みんなの位置情報を特定している人物と、悪魔やケラケラが別人だとしたら、どうかな?」
「え? どういうこと?」
「みんなの位置情報を常に把握している人物が、悪魔やケラケラにその情報を伝えているってことだよ。実際、オフェンスの人に美優ちゃんなどの位置情報が伝えられたってこともあったでしょ?」
光の言う通り、美優が冴木と二人で移動している時、襲撃してこようとしたオフェンスがいた。このオフェンスは、ターゲットである美優の位置を知らせるメッセージを受けて、襲撃しようとしたとのことだった。
結局、このオフェンスは、本気で美優を殺す気がなかったようで、すぐに引いただけでなく、何か手掛かりになればと、スマホを渡してくれた。そして、そこに送られたメッセージは、和義なども確認した。
「これまで、悪魔やケラケラが何かしらかの手段でラン君達の位置を特定している可能性も考えられたけど、あらかじめ位置情報を発信するソフトが入っていたとなると、話は別だよ。さっき言った通り、別の人と考えるのが自然じゃないかな?」
「でも、そうだとしたら、おかしいよ。オフェンスを有利にしようって考えてるなら、情報を小出しにしないで、すぐ送ればいいじゃん。むしろ、そうやってすぐ送らないなら、そのまま送るなよって感じだし」
「TODを開催している人が、定期的にオフェンスへ情報を流すことで、有利不利のバランスを取っているとも考えられるけど、それだとダークの本拠地に関する情報とかまで伝えられているのは、おかしいよね。何か、理由や目的がわからないというか……そういえば、最初から、そんな違和感というか、不自然なことがあったね」
そこまで話して、光は言葉を詰まらせた。
その時、近くにいたダークのメンバーに連絡が入ったようで、すぐに出た。
「どうした? え? ああ、じゃあ……とりあえず和義とかを向かわせるよ」
彼は、何か困ったことがあった様子で、そんなことを言った後、和義達に目を向けた。
「何か……よくわからないけど、速水さん達と一緒にいる奴が、何か困ってるから、下に来てくれって」
「それを言われる俺達の方が困るっての」
「まあ、そう言われたら、行くしかないね。じゃあ、行こうか」
「私も行くね」
そうして、和義は、光と瞳と一緒に、下へ向かった。




