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TOD  作者: ナナシノススム
後半
254/284

後半 20

 圭吾は、鉄也に用意してもらった予備のスマホを使い、鈴や、鈴達の近くで待機している者達に連絡すると、すぐに移動できるよう、準備しておいてほしいと伝えた。そして、途中でバイクに乗り換えると、他の者と別れ、一人で鈴と千佳のもとへ向かっていた。

 一人で向かうことにしたのは、次の拠点を用意する鉄也達の人員を減らしたくなかったのと、鈴達の近くに待機している者が複数いるため、そちらに人員を追加する必要がないと判断したからだ。

 また、次の拠点がどこかといったことを電話やメッセージで伝えると、盗聴される危険があるとのことで、圭吾は手書きのメモを鉄也から受け取ったうえで、鈴達のもとへ向かっていた。

 そうして鈴達のもとに到着すると、鈴達はすぐに出発できるよう、外で待機していた。そして、圭吾はバイクを止めると、ヘルメットを外した。

「まさか、外で待ってるとは思わなかったぞ」

「すぐに移動できるようにしろって言ったのは、圭吾君だよ?」

「確かにそうだが……」

「ここ、昔の知り合いが使っていたところで、セキュリティもすごいって聞いているんだけど、ここでも危険ってことなのかな?」

「……そういう話は苦手なんだ。だから、ここに残った方が安全かもしれないし……悪い、わからないんだ」

「そんな不安になることを言わないでよ」

 鈴にそんなことを言われて、圭吾は困りつつ、自分の考えを伝えることにした。

「何かあった時、絶対に俺が鈴達を守る。だから、俺のそばにいてほしい。俺はそう思ってる」

 そんな言葉を伝えると、鈴は一瞬だけ戸惑った様子を見せた後、すぐ笑顔になった。

「圭吾君がそこまで言うなら、安心だよ。ちゃんと守ってよね?」

「ああ、任せろ。それより、千佳は大丈夫か?」

 孝太が亡くなった直後、千佳は何もできないのではないかというほどショックを受けている様子だった。だからこそ、こうして千佳が外に出てきているのを見て、圭吾は単純な疑問として、そんな質問をした。

「大丈夫です。さっき、私は生きるしかないと言われて、その通りだと思ったので……大丈夫です」

 そんな千佳の言葉を聞いて、圭吾は驚きつつ、どんな心境の変化があったのだろうかと、さらに疑問を持った。

「さっき、緋山春来君の同級生だった子と、千佳ちゃんを会わせて、話をさせたんだよ。それが良かったみたいだね」

「そういうことか。だったら、こんな風に移動するのを促すべきじゃなかったな。何というか……」

「わかってます。私も危険なんですよね?」

 千佳からそこまで言われて、圭吾はまた驚いてしまった。

「何で孝太が……えっと……すいません」

「いや、言わなくていい。孝太と同じように、千佳も危険だと俺は思ってる。だから、念のため移動してほしい。ただそれだけだ。俺も上手く言えなくて悪いな」

 千佳は、孝太が死んだという事実を言葉にしたくないのだろう。そうしたことを察して、圭吾は言葉を選びつつ、言わなくていいと伝えた。ただ、これで良かっただろうかといった不安はあった。

「圭吾君は不器用だからね。圭吾君、千佳ちゃんは大丈夫だよ。だから、これからどうすればいいか教えてよ」

「ああ、そうだな。この場所に鉄也達がいるから、そこに向かってほしい」

 鈴に助けられる形で、話を進めることができた。そうして、圭吾は鉄也からもらったメモを鈴に渡した。

「俺は別でメモしたから、これは鈴に渡しておく」

「ここに行けばいいんだね? でも、一緒に行くなら、私がこれを持つ必要はないんじゃないかな?」

「一緒に移動すると、それで位置などを特定される可能性があるらしい。こういった話、俺は苦手でよくわからないが、とにかくそういうことだから、一緒に移動しない方がいいらしいぞ」

「よくわからないけど、それじゃあ、私達が先に行くよ」

「何かあった時のため、ライトのメンバーも一緒に行かせる」

 それから、圭吾は二人を選ぶと、鈴達と一緒に車に乗るように指示を出した。

「あと、俺は調べたいことがあって、少し遅れて行くつもりだ。とにかく、鈴達は今すぐ移動してほしい」

「さっき、そばにいてほしいって言ったのに、圭吾君から離れるのはおかしくない?」

「いや、だから、俺も調べたいことがあって……」

「圭吾さん、それは俺達で調べますから、圭吾さんも一緒に行ってあげてください」

「はい、自分もそれがいいと思います」

 そんな風に気を使われたものの、圭吾の考えは変わらなかった。

「説明するにしても時間がかかるし、バイクに関することだから、俺が調べるのが一番だと思う。ただ、一人で調べるのも難しいから、協力はしてほしい。とにかく、鈴達は先に行ってくれ」

「そこまで言うならわかったよ。圭吾君、気を付けてね?」

「ああ、わかった。鈴達も気を付けろよ?」

「うん、そうだね。じゃあ、私達は行くね」

 そうして、鈴達は車に乗ると、その場を後にした。それを見送ったところで、圭吾は残った人に顔を向けた。

「さっきの話だが、このパーツを比較的最近入手した人物を捜したいんだ」

 そう言いながら、圭吾はスマホを使って、そのパーツの詳細や画像を他の者に共有した。

「前に監視カメラの映像で悪魔が乗ってるバイクを見た時、このパーツはなかったんだ。ただ、さっき襲撃を受けた時、このパーツが確認できた。恐らく、最近交換したということだろう」

「これ、何か珍しいものなんですか?」

「ああ、かなり珍しい。これはフロントフォークというパーツで、車体の衝撃を吸収するものだが、その中でこれは奇跡的な出来と評価されたものだ。限定で販売されたバイクについてたものだから、パーツ単体での販売は本来ないはずだが、その性能から、このパーツだけほしいといった者も多く、そうした者達は中古などでどうにか手に入れた後、自分のバイクのパーツと交換するなどしているらしい。俺もずっと前からほしいと思ってるが、値段も値段だし、何より見つけるのも大変だから、なかなか手が出せないでいる。こんなパーツまでつけてる、悪魔のバイクはホントに高性能で……」

「ああ、わかりました! もう十分です!」

 長過ぎる説明にうんざりした様子で、そんなことを言われてしまい、圭吾は少しだけ悲しくなったが、今はそれどころでないと頭を切り替えた。

「えっと、それでどう調べればいいですかね?」

「周辺のバイクショップ、特に中古を扱っている店を手分けして回って、このパーツを購入した者がいないか調べてほしい。一応、ネット通販や、ネットオークションなどについては、鉄也などに調べてもらうようお願いしてる。だから、俺達は直接店を回るといった、古典的な方法で捜すぞ」

「わかりました」

「俺は一旦店に戻って、それから知り合いの店などに聞いてみる。だから、それ以外の店を順番に回ってほしい。あと、単独行動は危険だから、最低でも二人以上で行動するようにしろ。俺にも誰か一人ついてくれ」

「それじゃあ、私が一緒に行きます」

 それから、具体的にどの店を回るかといったことを相談すると、圭吾達はそれぞれここを離れることにした。

「はっきり言って、何があるかわからない、危険な状況と考えた方がいいだろう。十分気を付けろ」

「はい、わかりました。圭吾さんも気を付けてください」

「それじゃあ……」

「あれー? 何の集まりかなー?」

 不意にそんな声をかけられて、圭吾達はそちらに目をやった。そこには、不気味な笑みを浮かべる女性がいた。

「ここ、私の家なんだけど、何か用かなー?」

 そう言われて、ここが昔の知り合いが使っていた場所だと、先ほど鈴が話していたことを圭吾は思い出した。

「鈴に用があるなら、ここにはいない」

「それじゃあ、千佳ちゃんもいないのかなー?」

 不意に千佳の名前が出てきて、圭吾は戸惑った。

「どこに行ったか、教えてくれないかなー?」

 どこか酔っぱらっているかのような口調。それは、ある人物の特徴として、既に聞いていたものだった。

「それは教えられないんだ。悪いが、俺達も用事があって、もうここを離れるから……」

「教えられないってことは、知ってるんだねー。じゃあ、教えてよー」

「色々と危険なんだ。だから、教えることはできない」

 圭吾は、相手を刺激しないように言葉を選びながら、どうやってここを離れようかと考えていた。すると、突然彼女が迫ってきて、そのまま圭吾の腕を掴んだ。

「じゃあ、強制的に話してもらうねー」

 彼女の手を振り解こうとしたが、痛いと感じるほど強い力で掴まれて、簡単には振り解けなかった。そして、彼女の右手には注射器が握られていた。

「圭吾さん!」

 近くにいた者が、咄嗟に彼女を攻撃してくれたおかげで、どうにか圭吾は振り解くことができた。そして、もう穏便に済ませられる状況じゃないと判断した。

「恐らく、そいつはケラケラと名乗るオフェンスだ! 全員、真面に相手にするな! どうにかして、ここを離れるぞ!」

「私のこと、知ってたのかー。だったら、最初から強硬手段に出るべきだったねー」

 そう言うと、ケラケラは注射器を圭吾に向けた。

「この薬、何でも話したくなっちゃうほど、気持ち良くなる薬だよー。まあ、これに限らず、私が使う薬は全部みんなを笑顔にする薬だから、素直に打たれてよー」

「そいつの言うことは無視しろ! すぐ移動できる奴は、とにかく移動しろ!」

「でも、圭吾さんは……?」

「俺もどうにかして逃げるから、安心しろ!」

 そう言ったものの、先ほど悪魔を相手にした際に受けたダメージがまだ残っているため、ケラケラの相手をするのは厳しいように感じた。そして、それは他の者も感じていることだったようだ。

「だったら、圭吾さんが先に逃げてください。圭吾さんが逃げた後、自分達も逃げます」

「何を言ってるんだ?」

「いいから、早く逃げてください」

 他の者は、圭吾を残して逃げる気がないようだ。そのことを理解して、圭吾は決断した。

「わかった。先に行く」

「行かせないよー」

 そう言うと、ケラケラが迫ってきたが、それは他の者達が止めた。そうして、圭吾はバイクに乗ることができた。そして、バイクを走らせると、少しだけ距離を取った。ただ、逃げるつもりは一切なかった。

 圭吾はバイクをUターンさせると、ケラケラに向かっていった。そして、狙ったタイミングで曲がることで、後輪のタイヤをケラケラの足にぶつけた。それにより、ケラケラは体勢を崩した。

「全員一緒に逃げるぞ!」

 そのまま、圭吾はバイクを回転させるような動きをして、ケラケラを吹っ飛ばした。

 そうしている間に、他の者は車やバイクに乗った。

「よし、逃げるぞ!」

「はい!」

 そして、圭吾達が離れようとしたところで、ケラケラが立ち上がった。

「しょうがないかー。だったら、美優ちゃんの方に行こうかなー」

 ケラケラは、こちらを深追いするつもりがないようで、そんなことを言っていた。そのことが気になりつつ、圭吾達はその場を離れた。

 そして、少し移動したところで、圭吾達は一旦止まった。

「全員無事か?」

「はい、大丈夫です」

「ちょっと気になることがあるから、まずはランに連絡する。念のため、危険がないか、周囲を確認してくれ」

「わかりました」

 そうして周囲を警戒しつつ、圭吾は翔に連絡した。

「ランか? 今、ケラケラに遭遇したんだ」

「どういうことですか?」

「軽く話しただけだが、千佳を標的にしてたようだ。ただ、安心しろ。既に千佳や鈴は離れてたから、二人とも無事だ」

「それなら良かったです」

「それよりケラケラが、美優の方に行くといった感じの発言を最後にしてたんだ。だから、もしかしたら、もうケラケラはラン達がどこに潜伏してるか知ってるのかもしれない」

 ケラケラは、それこそコンビニへ行ってくるかのような口調で、美優の方へ行くと言っていた。そのため、単なる冗談かもしれないとも感じたが、翔に何も伝えないという選択肢はなかった。

「わかりました。一応、監視は強化していますが、さらに警戒します。ところで、ケラケラと遭遇したのは、どの辺りですか?」

「ああ、そうだな。ケラケラと遭遇したのは……」

 それから、ケラケラと遭遇した場所を伝えると、翔は息をのむような反応をした。

「……わかりました。教えてくれて、ありがとうございます」

「あと、ケラケラがどこの誰か、特定できるかもしれない……というのは、俺達で調べる。何かわかったら、またすぐに連絡する」

「はい、お願いします」

「それじゃあ、繰り返しになるが、十分気を付けろ」

「はい、圭吾さんも気を付けてください」

 そうして、翔との電話を切ると、圭吾は周りに目をやった。

「俺は先に鉄也達の所へ寄ってから、店に戻ることにする。他の者は、早速店を回ってくれ」

「はい、わかりました」

「それじゃあ、頼んだ。おまえは俺についてこい」

「はい、案内してください」

 そうして、圭吾達は二人一組といった形で、それぞれその場を離れた。

 本当なら、今すぐ鈴や鉄也に連絡したいところだった。ただ、悪魔だけでなく、ケラケラまで姿を現した今、安易に連絡するのは良くないかもしれないと圭吾は判断して、連絡するのを避けた。

 ただ、ドンドンと深刻な状況になっていると感じているため、圭吾は鉄也達のもとへ急いだ。

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