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TOD  作者: ナナシノススム
後半
249/284

後半 15

 和義は、ダークの本拠地にあるシステムが停止したことを確認して、何かあったのだろうと確信した。

 それでも、自分のするべきことをしようと、和義はセレスティアルカンパニーのシステムの解析を続けた。

 そうしていると、鉄也からメッセージが来たため、すぐに確認した。そして、悪魔の襲撃があったことや、それにより何人かが犠牲になったことなどを知り、和義は色々と思うところがあった。

 それだけでなく、盗聴器が受信したデータなど、重要な手掛かりになりそうなものもあり、和義は順番にそれらを確認していった。とはいえ、盗聴器は、あらゆるデータを受信する仕組みになっているため、無駄なデータが多く、そこから必要なデータを探すのは困難だった。そのため、自動で有力なデータを見つけてくれる検索ソフトを即席で作成すると、それをすぐに起動させ、引き続きセレスティアルカンパニーのシステムの解析に集中した。

 ソースコードというのは、単に始めから最後まで順番に読んでいくだけではわからない。というのも、繰り返し使われる処理などは、基本的に処理名が記載されているだけで、処理の詳細は別の箇所に記載されているケースが多いからだ。

 そのため、見たことのない処理名を見つける度、その処理の詳細が書かれた箇所を探して、確認したら、また元に戻るといった読み方をする必要がある。しかも、それは一つのファイルに全部記載されているわけでもないため、時には複数のファイルを同時に確認しないといけないこともある。

 これが小説だとしたら、メインのストーリーが書かれたものだけでなく、登場人物の詳細なプロフィールが書かれたものが別にあり、常に両方を並行して読まなければいけないといった形だ。それだけでなく、何か重要な事柄や出来事などは、最後の方にまとめて書いてあり、一度何十ページも飛ばさないと詳細がわからないというのもある。

 そう考えると、何て不親切なんだろうかと改めて思いつつ、むしろこうしたことが和義は好きで、プログラミングにのめり込んでいった理由にもなっている。

 そんな和義にとって、セレスティアルカンパニーのシステムは、特にバグなどがないだけでなく、理解しやすいソースコードにもなっているため、ただ見ているだけで楽しかった。しかし、それは何の問題もない可能性が高いことを表していて、このまま何も見つからなければ、通信障害や、美優達の位置が特定される原因がここにないということになる。

 そうしたことから、和義は複雑な思いも持ちつつ、解析を続けた。そして、メインの処理に関しては解析が終わり、特に何の問題もないだろうといった考えを持った。

 その時、鉄也から連絡があり、和義はすぐに出た。

「どうしたのかな? てか、通話して大丈夫?」

「ダークの本拠地が特定されて、襲撃されたんだ。緊急事態と考えて、和義もそこから移動するべきだと思って、連絡した」

「そういうことなら、ランにも言ったら?」

「ああ、そうだな」

 それから少しして、翔も通話に参加した。

「襲撃を受けたとだけ伝えてもらったが、大丈夫だったのか?」

「俺と圭吾、それにほとんどのメンバーは無事だ。ただ、俺達を逃がすため、残った奴がいて……」

「圭吾だ。残念だが、犠牲者が出た。ただ、俺達も覚悟してたことだ。だから、ラン達は、自分のせいだなんて考えるな」

 圭吾は、鉄也よりも仲間の犠牲を受け入れているようで、代わりにそんな言葉を伝えた。

「俺もそう思うよ。俺だって、いつ何があるかわからないからね。それでも、こうするって決めたんだよ」

「いや、こういうことがあるなら、やはりかかわってほしくないと自分は思います」

「俺はライトのリーダーで、ランはライトのメンバーだ。だから、かかわらないなんて選択肢はない」

「それに、今更かかわらないようにしたところで、意味ないでしょ。だから、俺も最後まで付き合うよ」

 翔の意見に対して、和義と圭吾の考えは同じのようだった。

「俺も同じだ。何より……被害だけ出て、何の結果もねえなんて、そんなの俺が許せねえ!」

 そして、多少の違いはあるものの、鉄也も強い決意を持っているようだった。

「それより、悪魔と戦闘した時のことを話したい。とにかく、化け物みたいで……いや、そんなこと言ってもわからないか」

「いえ、少しでも情報があるなら、聞きたいです。自分……じゃなくて、冴木さんは、一年前に悪魔と対峙していて、その時と何か変化があるかどうか確認したいです」

「そういうことなら話す。上手く説明できるかわからないが、とにかく強かった。ちょっと腕を振ったり、無理な体勢から蹴りをしてきたり、ただ、そのどれもがとんでもない威力で、簡単に吹っ飛ばされてしまった」

「圭吾が説明するより、俺が説明した方がいいだろ。ただ、ちょっと待ってくれ」

 それから、鉄也は頭の整理だけでなく、気持ちの整理もしているのか、少しだけ間が空いた。

「悪魔は、何か特殊な服を着ているようだ。まず、衝撃に耐性があるようで、普通に殴っても効果がなかった。それと、時々不自然な動きがあったというか……普通の人間の動きじゃねえ感じがした」

「冴木だ。確定していない情報だから、変に混乱させると良くないと思って伝えていなかったが、伝えるべきだったな。悪魔は、パワードスーツと呼ばれる、何かしらかの形で人の動きを補強するスーツを着ている可能性がある」

「冴木さんの言う通りかもしれません。その……背中の中心を攻撃した時、不自然な形で身体がよろめいたんです。多分、それは何かしらかの欠陥で、何か誤作動を起こしたんだと思います」

「なるほどな。その辺りに駆動系の何かがあれば、衝撃を与えることで誤作動を起こす可能性は高い。それはいいヒントになりそうだ」

 その場にいなかったため、和義は上手く理解できないことがありつつ、悪魔の対策として、少しずつ前へ進んでいるような感覚を持った。

「そういえば、可唯が助けに来たんだ」

「可唯が? それじゃあ、今は一緒にいるんですか?」

「いや、またすぐに行ってしまって、今も単独行動を取ってる」

「どうやってダークの本拠地を特定したのかもわからねえままだ」

「可唯らしいですね」

 相変わらず、可唯の目的などはわからないままだが、それぞれ深く考える気はないようだった。

「ああ、そんな話がしたかったんじゃない。可唯は、背中のどこを攻撃すれば、その……何とかスーツがおかしくなるか、わかってたように感じるんだ」

「ああ、それは圭吾の言う通りだ。圭吾が悪魔の背中を攻撃した時にも同じようなことがあったが、その時は単に圭吾の攻撃が多少なりとも通用したと思ったんだ。ただ、可唯が悪魔の背中を攻撃して、それでも身体をよろめかせたから、何かあると思ったんだ」

 そうした話を聞きつつ、和義はパワードスーツについて調べた。ただ、一般に流通しているのは主に農作業用とのことで、戦闘用のパワードスーツとなると、都市伝説のようなものしか見つからなかった。

「俺の場合は偶然だったが、可唯は知ったうえで意図的に狙ってたように見えた。ただ、何で知ってたのかはわからない」

「可唯については、いつも言っている、情報通だからで無理やり納得しましょう。それより、具体的にどこを攻撃すればいいか、詳しく教えてくれませんか?」

 それから、翔と冴木は、詳しい情報を鉄也と圭吾から聞いていた。

「ただ、悪魔もスーツの問題に気付いたのか、途中から背後を警戒して、真面に攻撃できなかった。だから、対策される可能性がある……というか、もう対策されてると思ってた方がいいかもしれないぞ」

「わかりました。あくまで、情報の一つとして持っておきます」

「そういえば、パンチやキックといった打撃はほとんど通用しないようだったが、タックルなどで体勢を崩すことは比較的できたように感じる。とはいえ、悪魔と距離を詰めることになるから、おすすめはしない」

「わかりました。それも参考にしておきます」

 そうした形で話がまとまったタイミングで、盗聴器が受信していたデータの検索が終わったため、和義はすぐに確認した。

「話を戻す。ダークの本拠地が特定されて、襲撃を受けた。だから、和義やランも、いつ襲撃を受けるかわからねえ状況だ。俺としては、すぐに移動することをおすすめするが、とにかく警戒しろ」

「オッケー。ただ、ちょっと待って。色々と確認するから、ちょっとの間、黙るね」

「ああ、別に構わねえけど……俺の話は聞いてくれ」

「うん、聞いてるよ」

 そうして、和義は会話に参加するのを中断すると、パソコンを操作した。

「向こうは、システムを破壊するだけでなく、監視カメラの映像を固定化することもできるようだ。だから、単に監視カメラを見てるだけだと、映像に変化がない時、異常がねえように見えたんだ」

「ケラケラが襲撃してきた時、監視システムに何の反応もなかったんだ。何か関係がありそうだな」

「そうなると、悪魔だけでなく、ケラケラなども同じようなことができる可能性があるかもしれませんね」

 そんな鉄也と冴木の会話を聞きつつ、和義は、盗聴器が受信したデータを確認して、システムが破壊された原因を探した。そして、すぐに不審なものを見つけた。ただ、確信が持てず、黙ったまま、パソコンを操作し続けた。

「だから、監視カメラの映像が固定化されたかどうか確認するため、常に映像に変化をつけるのがいいと思います。何か点滅するものをカメラの映る位置に置くとか、それだけでいいはずです」

「そうだな。丁度いいものがあるから、それは俺が設置してくる」

「和義の方も、何があるかわからねえから、その場にまだ残るなら、今すぐ設置しろ」

「ちょっと待って! てか、わかったかも! でも、これって……」

 和義が説明しようとしたところで、突然通話が切れた。

「あれ? 鉄也?」

 一瞬、何が起こったのかと驚いたが、和義はすぐに頭を切り替えると、まず自分が襲撃を受けた可能性を考えた。そのため、急いで周辺の状況を確認しようとしたところで、画面に様々なエラーメッセージが表示された。

「これって……ハッキングじゃん!」

 和義は、パソコンやスマホを連携しつつ、ネットワークに接続していた。そのネットワークから何かしらかの攻撃――こちらの機器の乗っ取りや破壊を目的としたハッキングを受けているようだった。

「俺にハッキングを仕掛けるなんて、やってくれるじゃん」

 とはいえ、和義自身、ハッキングの経験があり、過去にセレスティアルカンパニーのシステムをダウンさせたこともあるほど、豊富な知識がある。また、こうしたハッキングを受けた時の対策も十分過ぎるほどしているといった自信があった。そのため、どういった攻撃を受けているかだけでなく、誰が攻撃しているかも特定したうえで、反対にこちらから攻撃しようと、キーボードを叩いた。

 ただ、そうした対応を開始した時点で、和義は違和感を持っていた。というのも、こうした攻撃を受けた際、単に防御するだけでなく、すぐに反撃する、いわゆる対策ソフトを独自に作っていて、自分が所有するパソコンやスマホに導入しているからだ。このソフトには自信があり、攻撃してこようとした者がいた時点で自動的に起動すると、こちらは攻撃されることなく、むしろ相手に被害が出るような仕組みになっている。

 しかし、大量のエラーメッセージが出ているということは、対策ソフトが真面に起動せず、既に攻撃を受けてしまっている状態だ。そのため、攻撃を受けてしまったパソコンなどを使い続けても対応できないと判断して、和義はネットワークと繋いでいない、サブのパソコンに移った。

 それから、和義はネットワークを介すことなく、直接攻撃を受けているパソコンに接続する形で、状況を確認した。そして、相手は既にこちらのパソコンを乗っ取っていて、真面に操作するのも難しい状況だと確認した。

 そのため、和義は頭を切り替えると、こちらのパソコンを守るより、むしろ囮にしつつ、どこから攻撃を受けているかを確認した。そして、それはすぐに特定できた。

「いや、マジかよ?」

 ただ、その結果を見て、和義は驚いてしまった。というのも、今こちらを攻撃しているのは、先ほど悪魔の襲撃を受けたばかりである、ダークの本拠地だったからだ。

 そして、攻撃してきた相手が、明らかにこちらよりも優れた知識と技術を持っていること。既にこちらのパソコンを完全に乗っ取り、もしかしたらあらゆる情報を盗んでいる最中かもしれないこと。そうしたことを理解して、和義は思わず笑みが零れた。

「今回は俺の負けでいいや」

 和義はそう呟くと、元々用意していたソフトを起動した。それは、ここを離れる時、こちらの痕跡を残さないように用意していたもので、ここにある機器を破壊しつつ、ネットワークを切断するものだった。

「さてと、襲撃される前に行こっか」

 悔しいという気持ちは当然ある。むしろ、少し前の和義だったら、この場に残り続けただろう。

 ただ、今は鉄也や光に託されたものがあり、それが自分のやるべきことであると同時に、一番やりたいことだった。そしてそれは、セレスティアルカンパニーのシステムに存在するであろう問題を一刻も早く特定して、それを仲間に共有することだった。

 そのため、和義は急いで準備すると、外に出た。そして、車に乗ると、すぐにその場を離れた。

 そうして少し離れたところで、和義は別の手段を使って、鉄也達に連絡した。

「和義、大丈夫か!?」

「無事ではあるけど、大丈夫ではないかな。ハッキングを受けたから、色々と捨てて、今は移動中だよ」

「いや、和義がハッキングを受けるなんて、ありえねえだろ」

「俺もそう思うよ。まあ、こうして話せるのがいつまでかわからないから、簡単に話すよ。中断されたけど、セレスティアルカンパニーのシステムに不審な点を見つけたから、それを確認しに、俺はこれからセレスティアルカンパニーに行くよ」

「わかった。だったら、念のため、何人かセレスティアルカンパニーに行くよう、指示を出しておく」

「オッケー。助かるよ」

 そうして、自分の状況を説明したうえで、和義は続いて伝えるべきことを順番に伝えることにした。

「ランもまだいるよね?」

「ああ、いる」

「ハッキングされたってことは、ラン達がいる場所が特定された可能性が高いよ。だから、鉄也の言う通り、警戒して」

「わかっている。ちゃんと警戒しているから、安心しろ」

 そのことを伝えた後、次は鉄也に伝えるべきことを話すことにした。

「あと、ハッキングしてきた相手、位置だけは特定できて、ダークの本拠地からだったんだよ」

「いや、どういうことだ?」

「今、悪魔がダークの本拠地にいるわけじゃん? もしかしたら、俺達のことを効率良く攻撃することが目的なのかもしれないね。俺のパソコンがハッキングされたのも、ダークの本拠地にあるシステムとかを確認されたら、結構簡単にできるだろうしね」

「ただ、おかしくねえか? 本拠地にあったシステムは、すぐに破壊されたから、そんなことできねえはずだ」

「それもそうなんだよね。まあ、あくまで俺がわかってるのは、そこまでだよ」

 そこまで話したところで、和義は今後の話がしたくなった。

「さっき言った通り、俺はセレスティアルカンパニーに行くよ。鉄也達は、別の拠点に移動するのかな?」

「ああ、そのつもりだ」

「いや、俺は千佳と鈴が心配だから、そっちに行こうと思う」

 圭吾は、千佳と、千佳のカウンセリングをしている鈴の所へ行くつもりのようだった。

「千佳が狙われる可能性もあると思って、心配していたんです。だから、圭吾さん、自分からもお願いします」

「ああ、わかった」

「てか、ラン達はどうするの?」

「逃げ道は確保しているから、変に移動しないで、まだここで待機するつもりだ」

「オッケー。まあ、それがいいかもね」

 そうして、お互いに今の状況だけでなく、今後のことがわかり、和義は満足した。

「それじゃあ、俺は切るよ」

「ああ、わかった。和義、引き続き気を付けろ……いや、絶対に死ぬな」

「……オッケー。鉄也達もね」

 今の状況で、死なないことを約束するのは難しいものだ。ただ、和義は鉄也が望んでいるであろう答えを返した。

 そして、和義は通話を切ると、セレスティアルカンパニーに向けて車を走らせた。

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