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TOD  作者: ナナシノススム
後半
247/284

後半 13

 鉄也達は、時間がかかったものの、何かしらかの理由で周辺のシステムが停止した際、自動的にロックがかかるような仕組みを完成させた。

「実際にこれが機能した時、ダークのメンバーでも迷うような迷路になる。まず、ダークのメンバーは脱出経路を完全に覚えろ。それと、これからライトのメンバーは、ダークのメンバーと一緒に行動しろ。これは休憩する時も同じだ。ここにいる全員、ロックがかかっても、取り残されねえようにしろ」

 それから、ロックがかかった後、どういった経路を辿れば外に出られるかを鉄也達は入念に確認した。

「あと、全員が迷路を抜けたら、手動で何箇所かシャッターを閉じる。そうすれば、完全に閉じ込めることは無理でも、かなり時間稼ぎができるはずだ」

「上手くいけば、そのままここから脱出できなくなるかもしれませんね」

「何もねえのが一番だが、孝太はここに向かう途中で殺された。だから、いつここが特定されてもおかしくねえ状況だ。改めて言うが、怖いと思ったら、いつでもここを離れていい」

「何を言ってるんですか? これだけ準備したんです。むしろ襲撃があって、少しでも悪魔とか呼ばれてる奴を足止めしてやりましょうよ」

「……わかった。引き続き、みんな協力してくれ」

 どんな危険があるかわからない状況の中、鉄也は全員の無事を望んでいた。そのため、一つの選択肢として、それこそ全員をここから離れた所へ行かせようかといった考えもあった。ただ、そんな考えと同じか、それ以上に、自分の力になってくれる全員と一緒にいたいという気持ちもあった。

「それと、数に限りがあるが、スマホのクローンをいくつか用意するから貸してくれ。圭吾のスマホもクローンを用意するから貸せ」

「何をする気だ?」

「悪用はしねえから安心しろ。簡単に言えば、スマホの予備を作っておいて、壊れた時の代わりにするんだ」

 それから、鉄也達はいくつかのグループに分かれる形で、そのうちの最低一人がスマホのクローンを持つように決めた後、それぞれスマホのクローンを用意した。

 そうして、元々借りていたスマホと、そのクローンを圭吾に渡すと、圭吾は不思議そうにそれを見ていた。

「これは何なんだ?」

「クローンという言葉の通り、基本的に同じ動作をするスマホを増やしたんだ。どちらを使っても、誰かと連絡したり、情報を受信したりできる。本来は、盗聴や、なりすましが目的で使われることも多いが、さっき言った通り、今回は片方の電源を切っておいて、壊れた時の代わりにしろ」

 こうして、何かしらかの形で襲撃があったとしても、それなりに対応できるようにした後は、引き続き周辺の監視を再開させた。

 そうしていると、ダークのメンバーの一人が慌てた様子でやってきた。

「鉄也さん、少しいいですか?」

「どうした?」

「それが……」

「おう、鉄也君、すまないね」

 そこには、ここを離れたはずのホームレス達がいた。

「何で戻ってきたんですか? ここは危険です」

「いや、急に出たから、いくつか持っていけなかったものがあってね。それをみんなで取りにきたんだよ」

「そういうことですか。でも、ここはホントに危険です。すぐにまた離れてください。おい! 誰か荷物を運ぶのを手伝ってくれ! ただ、さっき決めた通り、それぞれグループで行動しろ!」

 鉄也が指示を出すと、二つのグループがホームレス達の荷物を運ぶため、協力し始めた。

「大丈夫なのか?」

「大丈夫にするしかねえだろ。まあ、元々人が減ることは想定内だから、何の問題もねえ」

「それより、ここを特定される危険はないのか? ホームレスなどがここを利用してることを知られてた場合、追跡されてる可能性が高いぞ?」

 圭吾の言葉を受けて、鉄也は周辺の監視をしている者達のもとへ急いで向かった。

「この周辺で不審な奴がいねえか、入念にチェックしろ! 特に、あの人達を追跡してきた奴がいねえか確認しろ!」

「心配しないでください。見ての通り、何の異常もないですよ」

 そう言われたものの、鉄也は近くの監視カメラの映像を順番に見ていった。ただ、見たところ、確かに異常はないようだった。

「大丈夫そうか?」

「うるせえ。今見てるとこだ」

 追ってきた圭吾にそんなことを言いつつ、鉄也は何か違和感があり、確認を続けた。そうして少しの間見たところで、違和感の正体に気付いた。

「ここの監視カメラ、固定式じゃなかったはずだ。動かせるか?」

「はい、いいですよ」

 そうして、監視カメラの向きを変える操作をしてもらったところで、違和感は確信に変わった。

「おかしいですね。カメラは動いてるはずなのに、映像が変わらないです」

「やっぱりそうだ! いつもなら映像のブレがあるのに、一切ねえからおかしいと思ったんだ! 恐らく、この画面で固定するような細工がされたんだ」

 こちらの操作などで動かせるようになっている監視カメラは、完全に固定されていないため、多少の振動などにより画面が揺れるはずだ。しかし、そうしたことが一切なかったため、鉄也は異常に気付いた。

「何者かが侵入してる! すぐにここを離れるから、急げ!」

 鉄也は確信を持つと、そのことをここにいる全員に連絡して、すぐにここを離れるように指示した。その後、少しでも早く異常を見つけようと、この場所では比較的高い場所に立って、周囲に目をやった。

 現状、目立った動きがないということは、相手がどこかに隠れながら近付いてきていると推測できた。そのため、いつまで使えるかわからないものの、他の人と頻繁に連絡を取りながら、周囲の異常を探し続けた。同時に、こちらも目立った動きを避けて、ここを離れる準備ができたところで、一気に全員が動くように指示した。

 また、監視カメラの映像が固定されてしまうようだとわかったため、常にカメラを動かすようにして、映像に異変がないかを確認させた。すると、既に映像が固定されてしまったものがいくつか見つかり、その位置から相手がどこにいるかを予測した。

「みんな、大丈夫だ。あらかじめ逃げる準備はしてるだろ? 落ち着いて行動しろ」

 そのうえで、鉄也はロックがかかっても問題なく進めるだけでなく、ここに侵入してきた者がいないだろう経路を全員に伝えた。

「準備ができたら、向こうが動く前に逃げる。みんな、準備はできたか?」

「あの、ホームレス達はどうしますか?」

 そんな質問を受けて、鉄也は気付いた。ここを離れるため、車やバイクは用意していた。しかし、ホームレス達が来ている今、それが足りなくなっていた。

「危険だと言ったのに、勝手に来たのが悪いんです。ここは見捨てましょう」

「ふざけるな! 俺が足止めする! だから、自分の足で走ってでもいい! 俺が足止めしてる間に、どうにかして全員ここを離れろ!」

「何を言ってるんですか!? そんな危険なこと……」

「ここはダークの本拠地だ! リーダーの俺が最後まで残るのは当たり前だろ!? とにかく、全員逃げる準備を進めろ!」

 そんな話をしていると、不意に大きなノイズ音が聞こえた。そして、使えなくなったスマホを確認して、鉄也は大きく息を吸った。

「ここからスマホやシステムは使えねえ! 敵はどこにいるかわからねえから、十分に警戒したうえで、ここを離れろ!」

 想定外の事態による混乱がまだある状況で、スマホやシステムを破壊された。そのことを理解したうえで、鉄也は全員がここを離れられるよう、頭を働かせた。

「通信が妨害された以上、声が頼りだ! 何か不審なことがあったら、とにかく声を上げろ! クラクションを鳴らすとかでもいい! とにかく異常を伝えろ!」

 そんな指示を受けて、その場にいた者達は、それぞれ車やバイクに乗るなどして、移動していった。その際、ホームレス達もそれぞれ車に乗り、この場を離れていった。

 そうした中で、車やバイクが使えなかった者が走っていく姿も見えた。

 その時、不意にクラクションの音が鳴った。

「不審人物を見つけました! バイクに乗ってます!」

 そんな声がした方を見ると、黒いフルフェイスヘルメットに、黒いライダースーツを着た、体格の大きい人物の姿が確認できた。それは、これまで何度も話に出ていた、悪魔と呼ばれる人物で間違いなかった。

「全員、そいつは避けろ! 俺がそいつの相手をする!」

 そう言うと、鉄也はアスレチックを移動するように、鉄パイプを辿りながら悪魔に近付いていった。そして、頭上から不意を突くように攻撃すると、悪魔は体勢を崩してバイクに乗ったまま倒れた。

「鉄也さん、自分も戦います!」

「やめろ! 足手まといだ! サッサと行け!」

 そんな話をしている間に、悪魔は立ち上がった。そして、銃を取り出すと、真っ直ぐ鉄也の方へ向けた。その瞬間、鉄也は自分の死を覚悟した。

 しかし、悪魔が銃を撃つ直前に、圭吾がタックルを仕掛けたことで、銃弾は鉄也に当たらなかった。そのことを理解するよりも前に、鉄也は悪魔に駆け寄ると腕を振り、どうにか悪魔が持っていた銃を弾き飛ばした。

「圭吾、何で逃げてねえんだ!?」

「鉄也と同じだ。俺はライトのリーダーだ。メンバー全員が逃げるまで、残るのは当然だろ?」

「ふざけるな! おまえも足手まといだ! サッサと行け!」

「俺じゃあ、ここを出るのは無理だぞ? だから、鉄也が案内しろ」

「だったら、このままここで餓死しろ!」

 鉄也と圭吾は、そんな言い争いをしつつも、悪魔の相手をしていた。

 まず、鉄也はフリッカージャブを使って、悪魔が銃やナイフを持つたびに弾き飛ばすようにしていた。それだけでなく、なるべく自分の方に注目するよう、相手の前に立つようにした。

 その間、圭吾は何度かパンチを与えては、距離を取るといった行動を繰り返していた。ただ、そうして圭吾の強烈なパンチを何度も受けているはずなのに、悪魔の動きは全然変わらなかった。

「鉄也、何かおかしいぞ? 殴っても全然感覚がない」

「どういうことだ?」

「何か、ゴムというか、ガムというか……とにかく殴っても拳が全然痛くないんだ」

 そんな圭吾の言葉を受けて、鉄也は理解した。

「衝撃を吸収する、ジェルみてえなものが服に仕込まれてるのかもしれねえ。とにかく足止めに集中して、ダメージは与えられねえと考えた方がいい」

 先ほどまで、悪魔は次から次へと武器を取り出していたが、その全部を弾き飛ばしたところ、どうやらそれもなくなったようで、素手での攻撃に変わった。

「動きは素人っぽいな。俺は回避に専念する」

 悪魔の動きを見て、ボクシングのような格闘技をしているわけではないと判断すると、鉄也は引き続き自分の方へ誘導しつつ、回避に専念した。

 そのまま、回避し続けられるだろうと思っていたところで、悪魔はパンチを繰り出した直後、腕を伸ばしたまま横に振ってきた。そんなことをしても、ほとんど力が入らず、無意味だろうと思いつつ、避けるのは難しかったため、鉄也は念のためガードした。

 次の瞬間、鉄也は大きく吹っ飛ばされてしまった。

「鉄也!」

「俺はいいから、集中しろ! ただ、そいつの攻撃は絶対に受けるな! デタラメな攻撃でも、全部よけろ!」

 受けた瞬間、嫌な予感がして、鉄也は少しでもダメージを減らそうと後ろに飛んだ。それにもかかわらず、攻撃を受けた腕は痺れて、真面に動かなかった。

 また、圭吾は鉄也の助言を聞いたものの、元々相手の攻撃をよけるのが苦手なため、蹴りを受けると吹っ飛ばされてしまった。

「おい、こっちだ!」

 鉄也は悪魔を挑発しつつ、また相手をすることにした。その間、どうにかここから逃げられないかと頭を働かせた。

 迷路に逃げ込んだとしても、こんな距離ではすぐに追いつかれて意味がないだろう。そもそもの話として、銃などは周辺に転がったままになっているため、それを拾われたら迷路に入る前に撃たれる危険もある。

 そのため、不利な状況とわかりつつ、こうして悪魔の相手をするという選択しかできなかった。

 そんな鉄也の考えを理解したのか、圭吾も立ち上がると、無駄だと思いつつ攻撃を繰り返した。

 幸いなことに、悪魔は誰を優先して攻撃すればいいかといった判断も上手くできていないようで、鉄也と圭吾がお互いに気を散らすことで、時間稼ぎはできそうだった。とはいえ、状況がドンドンと悪くなっていることは、ひしひしと感じられた。

 というのも、人には体力というものがあり、長時間動けば、次第に動けなくなってくる。悪魔を相手にしている今、鉄也と圭吾は普段以上に体力を消耗して、明らかに動きが悪くなっていった。

 一方、悪魔は疲れを一切感じていないのか、まったく動きが変わらなかった。そのため、悪魔の攻撃をかわし切れずにダメージを受けることが少しずつ増えていった。

 そんな状況で、鉄也と圭吾は、お互いに諦めると、気付けば笑っていた。

「圭吾、何でサッサと逃げなかった?」

「それは鉄也も同じだろ」

「こいつ、ホントに人間か?」

「どうだろうな。俺もわからない」

「たく、何でこんな状況で、一緒にいるのが圭吾なんだよ。最悪の気分だ」

 悪魔を相手にしつつ、そんな悪態をつくなど無謀行為だ。ただ、鉄也と圭吾は、お互いに限界を感じつつ、そうした言葉を交わし合った。

「まだ決着はついてないからな。いつか必ず、決着をつけるぞ」

「そんな死亡フラグみてえなことを言うんじゃねえよ。でも、そうだな。決着は必ずつけねえとな」

 そうして、鉄也と圭吾は覚悟を決めつつ、少しでも悪魔を足止めすることに専念した。

 そして、鉄也は引き続き自分に注目を向けるように動いた。

 一方、圭吾は背後から迫ると、何度も悪魔にパンチを繰り出した。それは、相変わらずほとんどダメージになっていないようだったものの、ある瞬間で、悪魔がよろめいたように見えた。

 それをきっかけに、悪魔は標的を圭吾に決めたようで、圭吾を集中して攻撃するようになった。そんな悪魔の行動の変化を確認しつつ、鉄也は悪魔の攻撃が逸れるように、腕や足を狙って攻撃することを繰り返した。

 そうしていると、不意に悪魔が蹴りを繰り出してきて、鉄也は真面にそれを受けてしまい、吹っ飛ばされた。

 そして、圭吾が一人で悪魔の相手をする状況になった直後、圭吾も悪魔の攻撃を受けて吹っ飛ばされた。そして、悪魔はまだ武器を持っていたようで、ナイフを取り出すと、圭吾に迫っていった。

「圭吾! しっかりしろ!」

 圭吾は、すぐに立ち上がれないほどのダメージを受けたようで、その場から動かなかった。そして、それは鉄也も同じで、上手く身体が動かなかった。

 そうして、悪魔は圭吾のすぐ目の前に立つと、ナイフを振った。

 その瞬間、何者かがやってくると同時に蹴りを繰り出して、ナイフによる攻撃は圭吾に当たらなかった。それだけでなく、その何者かは圭吾をその場から離すように蹴り飛ばした。

 この時、その何者かが誰なのか、鉄也はわかっていた。ただ、何故ここにいるのかがわからなくて、上手く理解できなかった。

「楽しそうやな。わいも参加してええか?」

 不意にやってきた何者か――可唯は、笑顔でそんなことを言った。

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