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TOD  作者: ナナシノススム
後半
239/284

後半 05

 圭吾は、鉄也と一緒にダークの本拠地に戻った後、交代で仮眠を取るなどしていた。

 ただ、それぞれ思うところがあり、圭吾だけでなく、鉄也や他の人も寝ては起きるというのを繰り返していた。

 今、圭吾達ライトと、鉄也達ダークは、一時的になるかもしれないものの、協力関係を築けている。そして、それが実現したのは、孝太のおかげだ。

 鉄也と本気で「ケンカ」をして、全部ではないものの、わだかまりを解くことができた。ちょっとしたことで言い争いをしているが、それも圭吾は良いことだと思えている。そうしたことも、孝太のおかげで実現できたことだ。

 そんな孝太が殺されてしまった。その事実を受け入れることは難しかった。

 だからこそ、少しでも手掛かりを見つけようと奮闘したが、何の手掛かりも見つからなかった。また、警察が動き出してからは、こちらが疑われる危険があるといった理由で、真面に動けなくなった。そうして、諦める形で圭吾達はダークの本拠地に戻った。

 ただ、できることなら、孝太を殺した人物――恐らく悪魔と呼ばれている人物をすぐに特定したい。そんな思いを圭吾だけでなく、鉄也を含めた全員が持っているにもかかわらず、それが実現できない現状は、ただただ辛いものだった。

 それは光も同じのようで、遅くまで色々と調べてくれたようだ。そのため、無理をしないでほしいと心配していたものの、先ほど家に帰って休むと連絡があり、その心配はなくなった。そして、恐らく瞳が支えてくれているのだろうと思いつつ、圭吾は自分も休まないといけないと頭を切り替えた。そうして、ほとんど寝られていないものの、とにかく横になることにした。

 そうしていると、メッセージが来たことを伝える通知が鳴ったため、圭吾はスマホを手に取った。

 メッセージを送ってきたのは、カウンセラーをしている越後えちごすずだった。

 孝太が亡くなって、千佳は圭吾達以上にショックを受けている様子だった。その様子は、自ら命を絶ってしまうのではないかと心配になるほどだった。そのため、圭吾は鈴にお願いして、千佳を見てもらうことにした。これは、カウンセリングをしてもらうというより、ただ見守ってほしいといった目的があってのことだ。

 鈴からのメッセージの内容は、当然ながら千佳に関することで、先ほど泣き疲れた様子で眠ったとのことだった。それに対して、圭吾は引き続き見守ってほしいといったメッセージを返した。すると、それに反応するように、鈴から連絡が来たため、圭吾はすぐに取った。

「どうしたんだ?」

「まだ起きているみたいだったから、少し話したいと思ったんだけど、今は大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。それより、ろくに事情も話さないで、千佳のことを見てくれてありがとう」

「本当だよ。まあ、これで貸し借りなしだからね」

「いや、むしろこっちに借りができるぐらいだ。今度、ちゃんと礼をするぞ」

「去年の借りが消えるだけでなく、お釣りが出るなんて、それほどのことなんだね」

 圭吾と鈴が知り合ったのは、去年の10月のことだ。

 当時、誰彼構わずにケンカを売っている中学生――寺前てらまえ英寿ひでとしがいて、ライトとして警戒していた。そんな時、英寿がライトにケンカを挑んできて、それは圭吾が受けた。そして、軽くあしらった後、圭吾は英寿をライトに引き入れた。その理由は、英寿がライトのメンバーと同じで、社会や学校に馴染めない者だと察したからだ。

 それから、ボランティア活動やイベントの手伝いといったことを行う際、英寿も参加してもらうようにした。そして、当初は反抗的だったものの、ライトと一緒に行動していくうちに、英寿は少しずつ心を開いていった。

 圭吾は、特に事情を聞くこともなく、ただ英寿をライトに置いていた。そうした計らいが良かったようで、英寿はライトのメンバーとも仲良くなっていった。

 そんなある日、英寿は困った様子で、女性と一緒にやってきた。最初は家族の者が来たのかと思ったが、すぐに違うとわかった。

「私は越後鈴です。英寿君のカウンセリングをしている者です」

 話によると、英寿は両親や知り合いなどの勧めがあり、鈴のカウンセリングを受けているとのことだった。ただ、実際はカウンセリングをほとんど受けることなく、ライトの活動に参加することを優先していた。ただ、そうして家にほとんどいない理由として、カウンセリングをしている鈴のお世話になっているからと嘘をついていたらしい。そのことが鈴に伝わり、どういうことかと説明を求めてきた。

「事情によっては、英寿君の両親に何をしているか、全部話します」

「別に構わないぞ」

「え?」

「このライトは、何かしらかの理由で居場所を失った奴のためにできたものだ。だから、英寿もここにいることで、悪い方向へ進むことなく、いい方向へ進んでもらえると信じてる」

 圭吾がはっきりとした口調でそう伝えると、鈴は驚いた様子で、言葉を失った。

「それじゃあ、今日はボランティア活動に参加する予定だから、もう行くぞ」

「あ、待って。私も一緒に行くよ」

 そうして、鈴は圭吾達についてくると、ライトが参加したボランティア活動を真剣に見ていた。それだけでなく、鈴も一緒になって、ボランティア活動に参加した。

 そうした形で一日過ごした後、鈴が二人きりで話したいと言ってきて、それを圭吾は受けた。

「話って何だ?」

「うん……カウンセラーって、相談員とも呼ばれていて、悩みを抱えた人の話を聞いて、こちらの話も聞いてもらう。そうして、悩みを解決する仕事なんだけど……君は何の話も聞くことなく、英寿君を救おうとしてくれているんだね」

「そんな大層なものじゃない。俺はただ、人と話すのが苦手なだけだ。俺なんかより、おまえの方がずっとすごいことをしてるだろ」

「確かに、君は不器用なところがあるみたいだね」

「自覚はしてるから、あまり言うな」

「ごめんごめん」

 謝りつつも、鈴はおかしそうに笑った。

「でも、それで君はたくさんの人を救っているよ。少なくとも、英寿君のことを私は救えなかった」

「英寿を救えるかどうかは、この先の話だろ? 今、一時的にライトにいるだけで、英寿には本当の居場所があるはずだ。そこに戻す手助けは、おまえがすればいい」

「話は聞かないのに、英寿君のことをよくわかっているね。うん、それじゃあ、引き続き、英寿君のことは君に任せるよ。それで、私も引き続き、話すことで解決するよ。英寿君の両親には、私から上手く伝えておくね」

「ああ、そうしてくれ」

 それから少しだけ間が空いた後、鈴は急に怒ったような表情を見せた。

「あと、勘違いしているみたいだけど、私の方が多分年上だからね」

「は?」

 それから年齢を聞くと、確かに鈴の方が年上だった。

「そんなに上……すまない。口が滑った。えっと、それは……ごめんなさい」

「それ、逆に失礼だからね。慣れているし、今更敬語を使われても気持ち悪いから、そのままでいいよ。それに君……圭吾君には、色々と勉強させられて、大きな貸しもできちゃったし、何か困ったことがあったら、いつでも相談してよ」

「そんなの気にするな。でも、そうだな……。さっきも言った通り、俺は話すのが苦手だから、困った時はおまえ……鈴に相談する」

「うん、いつでも待っているよ」

 そうして、圭吾が鈴に貸しを作るという形で、二人は知り合った。

 その時のことを思い出しつつ、圭吾はふと疑問を持った。

「一応、英寿から少しだけ話を聞いたんだ。憧れてた先輩が亡くなって、それで自暴自棄になってたそうだな。ただ、気持ちの整理がついたようで、自分の居場所に戻ると言ってから、英寿はライトに来てない。悪い方向へは行ってないと思ってるが、大丈夫そうか?」

「圭吾君は、最後までほとんど話を聞かなかったんだね。英寿君は、中学校でサッカー部に入っているんだけど、一年生の時に全国大会で優勝した後、二年生ではキャプテンを務めたうえで優勝して、連覇を達成したんだよ。それで、色々あったけど、今は本当の居場所に戻ったし、三連覇に向けて、サッカーの練習を頑張っているよ」

 その話を聞いて、圭吾は色々と思うところがあった。

「サッカーって……もしかして、あいつの憧れてた先輩って、緋山春来なのか?」

「うん、そうだけど……もしかして、春来君と知り合いだったのかな?」

「知り合いというわけじゃないが……偶然にしては、随分と妙だな」

「話したいことがあるなら、聞かせてくれないかな?」

「そういう聞き方は、いかにもカウンセラーって感じだな」

 圭吾は苦笑しつつ、伝えるべきことだろうと判断して、話すことにした。ただ、全部を伝えるべきではないという考えもあって、どう伝えるべきかと少しだけ迷った。

「どう言えばいいか……一年前、緋山春来は事件に巻き込まれて亡くなった……殺されたんだ。その事件は今も終わってなくて、俺達はそれを解決しようと動いてるところだ。ただ、昨夜また犠牲者が出たんだ。それで、千佳は、その犠牲者の友人……いや、その犠牲者のことが好きだったんだ」

「……よくわからないけど、今になってこの話をした理由は何なのかな?」

「その犠牲者というのが、緋山春来とライバル関係にあったらしい、高畑孝太なんだ。孝太は、緋山春来が亡くなった理由を知りたいと、色々と動いてたんだ。ただ、危険だからという理由で、距離を置いてたはずなのに……何で殺されてしまったのか、いくら考えてもわからない」

 孝太が亡くなったという事実を、やはり圭吾は受け入れることができず、自然と弱音を吐くような形になった。それを受けて、鈴が息をついたのが伝わった。

「圭吾君の言う通り、これは大きな貸しになるよ? 高級店でおごってもらうとか、そんなんじゃ足りないよ?」

「わかってる。ホントは鈴を巻き込むつもりもなかったんだ。ただ、俺達にも危険があると考えた時、俺達の近くに千佳を置くという選択もできなかった。だから、鈴に任せたが……このせいで、鈴にも命の危険があるかもしれない。そう考えたら、俺の選択は間違い……」

「人が間違いをするのは、当たり前のことだよ。間違いをしたことを反省するんじゃなくて、間違いをしても上手く解決する方法を考えようよ」

 鈴の言葉を、圭吾は否定できなかった。そして、まるで自分もカウンセリングを受けているかのような感覚を持ちつつ、話を続けた。

「巻き込んでしまって、ホントにすまない。ただ、鈴の助けが必要なんだ。千佳のこと、とにかく見守ってほしい。身の危険があるかもしれないが、近くにはライトのメンバーがいるし、少しでも危険を感じたら、すぐに逃げられるようにする。だから、安心しろ」

「そんなこと言われて、安心できるわけないでしょ?」

「ああ、そうか。その……」

「でも、圭吾君が私や千佳ちゃんのことを守ろうとしているのは伝わったよ。ただ、英寿君の時と同じで、そういうことだと、私が千佳ちゃんにできることは、ほとんど何もなさそうだね」

「今はショックを受けてるし、変に刺激するより、ただ見守ってほしい。それも、鈴のできることだ」

 そんな風に伝えると、鈴の笑い声が聞こえた。

「ありがとう。でも……圭吾君みたいに、私にできないことを誰かに頼んでみるよ」

「どういうことだ?」

「今の話を聞いて、千佳ちゃんと会わせたい人ができたから、お願いしてみるよ。とりあえず、千佳ちゃんのことは、私達に任せてもらって大丈夫だよ」

「わかった。何度も言うが、巻き込んでしまって、すまない」

「これで、私に大きな貸しができるなら、別にいいよ。お返しは大きなものになるから、覚悟してよね?」

「ほどほどというか、俺にできることにしてくれ」

「うん、圭吾君なら……圭吾君にしかできないことにするよ」

 何を要求されるのだろうかといった不安を持ちつつ、圭吾は苦笑した。

「それじゃあ、千佳のことは任せた」

「うん、任されたよ」

 最後に、冗談を言うようにそんなやり取りをした後、通話を切った。

 そして、圭吾はどこか心が温かくなったような感覚を持った後、すぐに寝られそうだと思うと、横になり、目を閉じた。

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