後半 03
光は、孝太の死を知らされてから、あらゆる手段を使って、何があったかを探っていた。
状況から考えて、悪魔と呼ばれている人物が犯人だろうということは、簡単に予想できた。しかし、何故悪魔は孝太を狙ったのかなど、疑問ばかりだった。
そのため、圭吾や鉄也をはじめとしたライトとダークに協力してもらい、悪魔と思われる不審人物はいなかったかと様々な形で調査してもらった。ただ、いい結果は得られなかった。
まず、監視カメラの映像を確認してもらったが、そちらは誤動作を起こしたようで、何も残されていなかった。この件について、鉄也から話があり、システムそのものの障害ではなく、通信系のシステムにだけ障害があったとのことだった。そのため、EBとは別のものを使っているのだろうといった推測に変わった。とはいえ、そんなものがあるかどうかすら不明な状況のため、また一から調査することになった。
また、近くにいた人に対して聞き込みなどを行ってもらったものの、有力と思える情報は何もなかった。何より、黒いフルフェイスヘルメットに、黒いライダースーツを着た大柄な人物という、ある程度目立つ特徴があるにもかかわらず、そんな人物を見たという人は一人もいなかった。
そうして、どれだけの時間を使って調べても、何の手がかりも得られなかった。それは、悪魔なんてものが存在せず、それこそ何か幽霊のようなものじゃないかと錯覚させるものだった。
時間が経てば経つほど、手掛かりは見つからないだろうといった考えがドンドンと強くなり、もう諦めに近い状態だった。そのため、悪魔の手掛かりを探すのは後回しにしたうえで、光は孝太が殺された理由を改めて考えた。
孝太が殺されたという事実そのものに驚き、これまでは冷静に考えていなかったが、時間が経った今、考えれば考えるほど、孝太が何故殺されたのかといった疑問を強く持った。
これまで孝太は色々と動いていたものの、今後は他の人に任せるといった形で、距離を置くようにしていた。そんな孝太をあえて悪魔が殺した理由を光は考えた。それは、いつも通り、シナリオを作るといった方法だ。
まず、悪魔は自分の邪魔になる人を無差別に殺しているのかもしれないと考えた。これは、ディフェンスだけでなく、ターゲットの家族なども殺されているという事実から生まれた考えだ。また、その際、優先順位などはなく、手当たり次第に殺している可能性が高いと感じた。
元々、光や圭吾、鉄也などは、命の危険があることを覚悟したうえで、TODにかかわっている。しかし、今後は、美優達の友人である千佳や大助、さらには同級生なども命の危険がある可能性を考える必要があった。
幸い、千佳は現在、圭吾の知り合いのカウンセラーと一緒にいるだけでなく、周辺をライトのメンバーが見張っているとのことだった。とはいえ、実際に襲撃があった時、無事で済むかどうかと考えると、心配しかなかった。
さらに、大助はかかわりたくないとのことで、帰ってしまったそうだ。それは非常に危険なことで、どうにか周辺を誰かが見張るぐらいのことはしようと模索した。しかし、大助がどこにいるのか特定できなかったため、ただ無事を祈ることしかできない状況になっている。
また、美優達の同級生まで守ろうとすると、それこそ切りがないため、そちらはさすがに大丈夫だろうと楽観的に考えることにした。ただ、本当にそれでいいのかといった疑問は残った。
そうした形で、悪魔が自分の邪魔になる人を手当たり次第に殺していると仮定した場合の対応は、まだまだ足りないと思いつつ、多少ながらしている状態だ。そのうえで、光はもう一つのシナリオを考えた。
それは、悪魔が優先的に孝太を殺したというものだ。つまり、悪魔にとって、孝太は即座に殺したいと思えるほど、邪魔な存在だったということだ。
こう考える理由として、孝太は殺される直前、翔に連絡した。その連絡は鉄也が受けたが、何か翔に伝えたいことがあったようだ。ただ、すぐに通信障害があり、孝太が何を伝えたかったのかは、わからなかった。
もしかしたら、孝太が伝えようとしていたことは、悪魔にとって余程都合の悪いことだったのかもしれない。だから、孝太は殺されてしまった。そんなシナリオを光は作った。同時に、孝太は何に気付いたのだろうかという疑問を持った。
それを探るためには、千佳から話を聞くのが一番だ。しかし、孝太が亡くなったことでショックを受けている千佳に話を聞けるのは、しばらく経った後だろう。そう考えると、今はとにかく千佳の保護を優先するべきだと光は感じた。
そうして整理していくと、光は自分にできることがほとんどないと自覚させられた。これは、セレスティアルカンパニーの中に敵がいるかもしれないという問題も大きな影響を与えていた。
現在、光は直接連絡することを控えて、データベースを通して情報の交換を行っている。ただ、ここで話せないことなどもあるため、完全に情報を共有できているかというと不安だった。
また、光は囮になろうと考えているため、尚更詳細な連絡などができない状況だ。そうしたことを歯痒く感じつつ、データベースに入ってくる情報を改めて確認した。
警察は、一応現場検証など、何かしらか動いているようだ。ただ、マスメディアなどを通して、孝太が殺されたことは公表していない状態だ。これは、浜中が話していた通り、警察がTODにかかわらないようにしているというのが事実だと感じさせるものだった。
これは、必ずしも悪いことというわけでもなく、このおかげで敵か味方かわからない警察から、千佳や大助などを離すことができた。ただ、警察が今後どう動くかという疑問というより、不安はあった。
そのため、光は浜中に連絡しようとしたものの、電源が入っていないとのことで、連絡できなかった。そのため、もしかしたら、浜中も何かしらか被害を受けているかもしれないといった心配を持ったが、どうすることもできなかった。
そうして、孝太が殺されてしまったという、大きな事態が発生したにもかかわらず、改めて自分にできることはほとんど何もないと自覚して、光は落ち込みそうになってしまった。そんな光に寄り添ってきたのは、瞳だった。
「光、今夜もそれぐらいにして、また少しでも休むようにして。圭吾や鉄也だって、一旦休んでいるんでしょ?」
瞳の言う通り、圭吾や鉄也はダークの本拠地に戻って、今夜は交代しながら休むとのことだった。
「うん、わかっているけど……まさか、孝太君が殺されるなんて、想定外のことだよ。もしかしたら、僕や瞳だって危険なのかもしれない。だから、少しでもリスクを下げるため、できることは全部やりたいんだよ」
「何度も言っているけど、光は一人じゃないの。だから、もっと他の人に頼って」
「でも、それでまた取り返しのつかないことになったら……孝太君は、もう戻らないんだよ? そうならないようにするため、僕にできることは本当に何もなかったのかな? 今、僕が何もしないことで、今後も同じようなことが起こってしまうことはないのかな?」
光は、感情的になりつつ、そんな疑問を瞳にぶつけた。ただ、そんなことをしても意味がないとすぐに気付いて、ため息をついた。
「ごめん、こんなこと瞳に言っても……」
「そんな冷静じゃない状態で、できることは何もないよ。孝太君のこと、確かにショックだし、今後もこうしたことがあるんじゃないかと不安にもなるよ。でも、だからこそ、光には冷静になってほしいの。今、私が一番不安に思っていることは、光が冷静でなくなっていることだよ」
そう言われて、光は何の反論もできなかった。そして、自分のするべきことを示してくれた瞳に対して、感謝しかなかった。
「瞳、ありがとう。それじゃあ、また少し休むよ」
「そう言ってくれて、安心したよ」
「瞳も、一人の身体じゃないんだから、無理しないで、しっかり休んでほしい」
「うん、私も一緒に休むことにするよ」
ただ、休むといっても、敵がいるかもしれないこの場所にい続けるのは、どこか抵抗があった。そのため、光はある決断をした。
「もう遅い時間だけど、一旦家に帰ろうか」
「え?」
「家の方がゆっくりできるし、こういう時こそ、しっかり休もうよ」
自宅にはセキュリティシステムがあるだけでなく、物理的に外部から開けられないようにできるシェルターのような部屋も用意されている。そのため、ここにいるよりも安全だろうと光は判断した。
その代わり、セレスティアルカンパニーのシステムをリモートで操作することになるため、直接操作するより不都合なことがある可能性は高かった。特に、緊急時の操作などは対応が遅れてしまうかもしれない。そうしたリスクも理解したうえで、光は自宅に帰ることを選択した。
「うん、私も一度帰りたかったし、そうしましょ」
そして、瞳も賛同してくれたため、光は安心したように笑った。
それから、光と瞳は残った社員に引継ぎをした後、セレスティアルカンパニーを後にした。




