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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
226/284

ハーフタイム 91

 春翔がミサンガを作ると決めて、春来は早速、母親に相談した。

「いいわね。かなり昔だけど、私も作ったことがあるし、色々と手伝えるわ」

 そして、母親は快く協力を申し出てくれた。

「それに、全員のミサンガを作るとしたら大変だし、私もいくつか作るわよ?」

「ううん、作るのは全部、マネージャーの私がやりたいから、色々と教えてほしいの」

「わかったわ。多分、調べれば、作り方とかが書いてあるサイトが見つかると思うし……」

「だったら、僕が探すよ」

 そうして春来が調べると、すぐにミサンガの作り方などを掲載したサイトが見つかった。同時に、様々な種類のミサンガがあることも知った。

「ミサンガって、こんなに色んな種類があるんだね」

「本当だ。どれがいいかな?」

 あまりにも種類が多く、春翔は悩んでいる様子だった。

「ミサンガって、色とか、どこにつけるかでも、色々と意味があるみたいよ。だから、みんなで考えるのがいいんじゃない?」

 母親がそんな風に言うと、春翔は困ったような表情を見せた。

「でも、事前に言ったら、みんな驚かないじゃん。いきなり渡して、みんなをビックリさせたいんだけど……」

「春翔だってチームの一員なんだから、そんなこと言わないで、みんなで決めようよ」

「でも、私はマネージャーだし……」

「そうやって誰にも何も言わなかったら、いざミサンガを渡した時、何で何の相談もしてくれなかったんだって言う人ばかりだと思うよ?」

 そんな言葉を春来が伝えた理由は、あまり春翔に負担をかけたくないと思ったからだ。

 春翔にとって、ミサンガを作ることは、恐らく苦手なことであり、大きな負担になるだろう。春翔との会話から、そうしたことを春来は察していた。そのため、どんなミサンガを作ればいいかという部分については、みんなと一緒に悩みたいと、春翔を誘導した。

「うん、確かにそうだね!」

 そして、春翔は春来の望んだ通り、みんなに相談する方向で進めてくれることになった。

「それじゃあ、色とか、どこにつけるかとか、それによる意味については、僕がまとめて印刷するよ。あと、どんな模様があるかも一緒に印刷するから、明日みんなで相談しようよ」

 これで話がまとまるだろうと思いながら、そんな提案を春来はした。

 ただ、春翔は、どこか寂し気な表情だった。

「春翔?」

「あ、ごめん! うん、それでいい! 春来、ありがとう!」

「色々と決まったら、必要な物を揃えるわ」

「うん、ありがとう!」

 どこか春翔が強がっているように見えたことが気になりつつ、この場では、そうした形で話がまとまった。

 それから、翌日の部活で、早速春翔からミサンガを作りたいといった話をした。

「いいじゃねえか。俺は賛成だ」

「僕も賛成だよ」

「藤谷の負担にならないなら、お願いするよ」

 そして、隆を筆頭に、みんなは賛成してくれた。そのことに、春翔は喜んでいる様子だった。

「それで、色とか模様とか、どれがいいか悩んでいて、みんなで決めたいんだけど……」

「どういったものがあるか、僕がまとめたから、みんな見てくれないかな?」

 赤兎高校のサッカー部は、先輩と後輩の差をつけたくないといった形で、後輩が先輩に話す時もタメ口でいいとのことだった。そのことについて、最初は戸惑ったものの、自然と春来達は先輩とタメ口で話すようになっていた。

 それは、こうした相談をしやすい環境を作ってもらえていることの表れで、春来達としては嬉しいことだった。

 そうしたことを感じつつ、春来は印刷したものをみんなに配った。

「まず、つける位置なんだけど、勝負ということだと、利き足の足首に巻くのがいいみたいだよ。でも、それだとどうかなって僕は思っていて……」

「確かに、それだとあまり見えねえし、せっかくなら、なるべく見てもらえるように手首につけた方がいいんじゃねえか?」

「うん、僕も隆と同じように考えていたんだよね。それで、手首につける場合なんだけど、利き手の反対の手首につけると、勉強に効果があるみたいなんだよね。春翔としては、僕達にサッカーだけじゃなくて、勉強とかも頑張ってほしいと思っているんじゃないかな?」

「うん、春来の言う通りだよ。だから、私は利き手の反対の手首につけてもらえたら、嬉しいと思っているんだけど……」

「いいじゃねえか。その方が、みんなでお揃いをつけてるって感じがするし、俺はそうしてえな」

「俺も賛成だ。というか、足首に何かつけることってあまりないし、プレイに支障が出ないよう、手首の方がいいと思う」

 そうして、ミサンガをつける位置は利き手と反対の手首に決まった。そのうえで、春翔は追加で提案があるようだった。

「手首につけてくれるなら、V字模様にしたいんだけど、どうかな? このV字模様って、見る向きによって上下が逆になっちゃって、Vに見えなくなっちゃうんだけど、相手から見てVに見えるようにつけてもらったら、Vサインの代わりにミサンガを見せるってこともできるようになるし、やってもらえると嬉しいんだけど……」

「僕はいいと思うよ。それこそ、トレードマークみたいな形で見せられるし、賛成なんだけど、みんなの意見を聞かせてくれないかな?」

「俺は賛成だ。さっきも言ったけど、せっかくつけるなら、なるべく見てもらえるようにしてえからな」

「でも、これって作るの難しいんじゃないか? 藤谷の負担にならないように、もっと簡単なものでもいいんじゃないか?」

「それは大丈夫だよ。春来のママから色々と教えてもらえることになったし、時間はかかると思うけど、大会まで結構あるし、少しずつ作っていくよ」

 春翔がそう言ったことで、みんなも納得した様子だった。そうして、あと決めないといけないことは、色だけになった。

「色については、もう決めていて、赤とオレンジと白がいいと思うんだよね。赤は情熱とか勇気とか勝負。オレンジは希望とかパワー。白は健康とか落ち着き、それと効率って意味があるみたいで、全部勝負をするうえで必要なものだと思うんだけど、どうかな?」

「色の意味とかは知らねえけど、赤とかオレンジは好きな色だし、俺はそれでいい」

「僕もそれでいいよ」

「実際に見ないとわからないけど、いい色の組み合わせだと思うし、それでいいだろ」

 そうして、意見がまとまりかけていたところで、春来は口を開いた。

「V字模様って、4色でもできるよね? その分、作るのが難しくなるかもしれないけど、何か春翔の好きな色を追加するのはどうかな?」

「おう、いいんじゃねえか? せっかく春翔が作るんだし、そういうのもあった方が俺達も嬉しい」

 また、春来が誘導する形で提案すると、みんなは賛成してくれた。それに対して、春翔は少しだけ考えた後、答えを見つけたようだった。

「だったら、ピンクを追加してもいいかな? 私、ピンクが昔から好きなんだよね。前にママから聞いたんだけど、私が産まれた後、退院した時に桜が咲いていたみたいで、それを見た私は、嬉しそうに笑ったんだって。それが関係あるのかわからないけど、ピンクって今でも好きな色で……」

 そこまで話したところで、春翔は何かに気付いた様子で、言葉を止めた。

「あ、でも、ピンクって恋愛とか、そっちの意味みたいだし、やっぱり入れない方が……」

「春翔が好きな色なら、入れるのがいいと思うよ」

「でも……」

「いいじゃねえか。春来がさっき言ったけど、高校でサッカーだけやるわけじゃねえし、しっかり青春も送れる方がいいだろ」

 そうしたことを春来と隆が伝えると、春翔は納得した様子で、頷いた。

「じゃあ、赤、オレンジ、白、ピンクのV字模様で作るよ。色の順番は、色々と合わせてみて、私の方で決めるね」

 そうして色も決まり、この話はここで終わった。

 それから、練習の方では、チームのプレイスタイルを変えようといった話があった。それは、少しだけでもディフェンスを意識しようといったもので、特に春来と隆が中心になって、アドバイスなどをした。そのうえで、春来は、ある提案をした。

「ディフェンスを意識し過ぎると、このチームの良さがなくなってしまうと思うよ。極端な話、最後まで動き続けることができるなら、ずっと攻めていてもいいけど、それが現実的でないから、体力を温存するためにも攻める時間を抑えるって考えがいいんじゃないかな?」

 その提案は、他の人にとっても納得できるものだったようで、全員でゴールを目指すといった、大きく体力を消耗してしまうことをまず改善する方向で、練習が進められていった。

 それから、部活が終わった後、家に帰ると、春翔はミサンガのことで、早速春来の母親に相談した。

「この色の組み合わせなら、百円均一の店に売っているもので揃うわね。百円均一といっても、質はそんなに悪くないし、心配しないでいいわ。丁度、明日は休日だし、一緒に買いに行きましょ」

「うん、ありがとう」

 その翌日、春翔は春来の母親と一緒に買い物に出かけて、ミサンガを作るのに必要な刺繍ししゅう糸をいくつか買ってきた。それは、複数の色がセットになったもので、使わない色の糸もあったものの、それも練習に使えばいいとのことだった。

 それから、糸を固定する大きなクリップなども用意すると、早速春翔はミサンガ作りに挑戦し始めた。その様子を、春来は近くで見守っていた。

「V字模様は、初心者には少し難しいけど、順番に手順を確認すれば、同じことの繰り返しだから、きっと大丈夫よ」

 春来の母親は、事前にミサンガの作り方について予習したのか、ある程度教えられるようだった。

「各色で2本ずつ、それぞれ……余裕をもって1メートルぐらいの長さがいいわね。合計で8本の糸を用意して」

「うん、わかった」

 春翔は、慣れない手つきで糸を用意した。その際、キレイに束ねられていた糸を強引に引っ張ったことで、いくつかグチャグチャになってしまった。

「糸を引く時は、束を抑えながら引くと、そんなに崩れないはずよ」

 ただ、そうしたアドバイスを聞いてからは、束をキレイに残したまま、糸を引っ張ることができるようになった。

 そうして、春翔は各色2本ずつ、合計8本の糸を用意した。

「最初に、端を10センチぐらい残して、全部の糸を結んで」

「うん、わかった」

「結んだら、クリップで机に固定すると、作業がやりやすいはずよ。ミサンガは、芯の糸に巻き糸を巻き付けることで、模様を作っていくの。それで、色の順番は、どうするの?」

「赤、オレンジ、ピンク、白の順番にするよ」

「それじゃあ、まずは糸を並べるわよ。最初は赤が巻き糸ね。それで、オレンジが芯の糸になるわ。4の字の逆になるようにしてから糸を巻き付けて、そのまま結ぶようにして」

 春来の母親は、手取り足取りといった形で、春翔に説明していった。

「巻き糸を結ぶ時、芯の糸を少し引っ張るようにするといいわ」

「うん、わかった」

 そうして、春翔は言われた通りに糸を繰り返し結んでいった。ただ、少し模様が出来つつあったところで、引っ張った糸が切れてしまった。

「あ……」

「言い忘れていたわね。刺繍糸って、そうやって強く引っ張ると切れちゃうのよ。でも、おかげでどれだけ引っ張るとダメなのかわかったでしょ? これは練習用ということにして、また最初からやりましょ」

 そうして、春翔は改めて糸を用意すると、ミサンガ作りを再開した。

「右側の模様を作る時は、4の逆。左側の模様を作る時は、4ということを意識して糸を重ねるといいわよ。それと、それぞれ二回結ぶというのも強く意識するといいわ」

「うん……あれ? 今ってまだ一回だったっけ?」

「もう二回結んだわ。それで中央を結べば、これで赤、オレンジ、ピンク、白と、模様が1セット完成したわね。あとは、これの繰り返しよ」

「まだ1セットかー」

 その後も、春翔は所々混乱しつつ、それでもミサンガは少しずつ完成に近付いていった。

「そろそろ、端を結んでもいい長さになったと思うんだけど……」

「サッカーって11人でするし、模様を11セット作ってもいいかな?」

「そうね。それじゃあ、もう1セットでちょうどいいかもしれないわね」

 春翔は、11という数に拘る形で、予定よりも少し長く模様を作った。

「それじゃあ、そこを結んで」

「うん」

 それは、単に糸の束を結ぶだけで、簡単なはずだった。ただ、春翔は結んだ後、慌てたような表情を見せた。

「結び目、もっと模様に近い方が良かったよね? これ、解けないかな?」

「別に、そこまで気にしなくていわ。無理に解くと、また切れるかもしれないし、これでいいじゃない」

「……うん」

「それじゃあ、あとは端を四つ編みにして完成よ」

 どこか、納得のいかない様子だったものの、春翔は指示通り、それぞれの端を四つ編みにしていった。ただ、これも難しいようで、何度もやり直しつつ、どうにか進めるといった形だった。

 そうして、春翔にとって作るのが初めてとなる、ミサンガが完成した。

「キレイにできたじゃない」

「そうかな? 模様の終わりのところの結び目、やっぱり模様にもっと近い方が良かったと思うし、それに裏から見ると、所々変な点があるし、上手くできなかったよ」

 そう言いつつも、春翔の目は、どこか決心したような目だった。

「でも、これは練習ってことで、次からは大丈夫だよ!」

「最後の方はキレイに模様が作れているし、きっと大丈夫よ。ところで、人それぞれで長さとかは決めているの?」

「え?」

「人によって手首の太さは違うし、長いとか短いとかあるかもしれないわ。それに、つけたままにしないなら、これだと外すのが大変になるわよ?」

「そうだよね! 全然考えていなかった!」

 そんな春翔に対して、春来の母親は笑顔を見せた。

「それなら、少し難易度は上がるけど、片方の端が輪っかになったミサンガがいいわね。これなら、長さの調整も、付け外しも簡単だから、いいと思うわ」

「それじゃあ、このミサンガは本当にボツで、次からが本番だね」

 そんな風に言った春翔に対して、自然と春来は口が開いた。

「僕は、そのミサンガがほしいかな」

 それは、春来自身も驚いてしまうほど、自然と出てきた言葉だった。それだけでなく、春翔も驚いた様子だったため、春来は何を言えばいいかと混乱してしまった。

「その……春翔が初めて作ったミサンガだし、それは特別なものだと思うから……上手く言葉にできないけど、僕はそのミサンガがほしいよ」

 思ったことをそのまま伝えると、春翔は笑顔を見せた。

「うん、それじゃあ、このミサンガは春来にあげるね。あ、でも、みんなと一緒に渡したいから、少し待ってもらってもいい?」

「わかっているよ。僕だけ先にもらったら、何か言われるかもしれないし、みんなと同じタイミングでもらうよ」

「うん、そうだよね。じゃあ、みんなのミサンガをドンドン作らないとね」

 その後、春翔は片方の端が輪っかになったミサンガの作り方を覚えると、何日もかける形で、たくさんのミサンガを作っていった。それは、時には深夜にまで及ぶほどだったため、春来は心配になりつつ、見守ることにした。

 ただ、そうして頑張っている春翔を見ているうちに、春来も何かしたいと思って、春翔のミサンガを作ることにした。これは、春翔が自分自身のミサンガを作る気がないようだと知ったうえで、春翔にも、お揃いのミサンガをつけてもらいたいと思ったからだ。

 そして、これまでのことを色々と参考にする形で、春来は春翔のためのミサンガを作った。ただ、そのことは春翔に内緒にしていた。

 そうして過ごしていたある日の放課後、朋枝から春来に対して、話があった。

「春来君、明日の土曜日は部活もないですよね? ちょっと付き合ってほしいんですけど、何か予定などありますか?」

「いや、別に予定とかはないけど?」

「良かったです! でしたら……」

 朋枝は、少しだけ間を空けると、春翔に目をやった。それは、春翔にも聞いてほしいといった強い意志があるように感じた。

「私とデートしてください」

「え?」

「待ち合わせ場所は、後で伝えます。必ず来てくださいね」

 そう言うと、朋枝はすぐに教室を出て行った。そのため、春来は何の言葉も返せなかった。

「えっと……どうしようかな?」

「別に行ってくればいいじゃん。私、先に部活へ行くから」

 春翔は、どこか不機嫌な様子で、教室を出て行った。そうして、残された春来に対して、隆はため息をついた。

「だから、朋枝に気がねえなら、あまり微妙な態度を取らねえようにしろって言っただろ?」

「そう言われても……」

「まあ、いい機会だし、ちゃんとケジメをつけろよ?」

 そう言われたものの、春来は上手く答えが出なかった。

 そうして、翌日になると、春来は朋枝から指示された待ち合わせ場所へ向かった。

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