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TOD  作者: ナナシノススム
前半
121/284

前半 61

 冴木は美優達を見送った後、その場に座り込んだ。

「大丈夫か?」

 鉄也は心配した様子で、覗き込むように冴木の様子を見てきた。

「移動は怪我の処置をしてからでいいか? 出血だけ止めたい」

「無茶しねえで、手当てを優先すれば良かったんじゃねえか?」

「美優達をここから離すのが先決だ。すぐに終わるから待っていろ」

 冴木は包帯やガーゼなどを使い、頭部を圧迫させることで止血した。それから、視界を妨げていた血を拭き取った。

「手際がいいな」

「こういう世界にいれば、怪我をすることなんて日常茶飯事だ。これぐらい、習わなくても勝手に覚える」

「俺達も同じ世界にいると思ったが、勘違いだったようだ」

 どこか複雑な表情の鉄也を見て、冴木は色々なことを察した。

「ちゃんと話すのは、初めてだったな。改めて、俺は冴木だ。君はダークのリーダーで、鉄也と言ったな?」

「ああ、そうだ」

「ダークのことは知っている。警察などは単なる不良と扱っているようだが、それは誤りだな。君達の目的は、社会を変えることだろ?」

 鉄也は、素直に認めることに抵抗があるのか、返事をしなかった。ただ、そのことで、自分の言うとおりなんだろうと冴木は察した。

「社会に納得できなくて、それに反抗したり、変えようとしたりするのはいい。だが、俺が今ここにいるのは、単に選択肢がなかっただけだ。無理に入ってくる必要はない。光や圭吾がやっていることも、社会を変えるものだ」

「そうじゃねえから、何も変わらねえんだろ? 法律ってルールが間違ってるのに、それに従って何が変わるんだよ?」

 冴木が堅気でないこと。銃も持っているため、冴木の気分次第で危害を加えられる可能性があること。そうしたことを理解しているはずなのに、敬語を使うことなく、自分の意見を鉄也は言ってきた。

 そんな鉄也の姿勢に、冴木は好感を持った。

「そのとおりだ。だが、俺も俺で変えられていないんだ。堅気でなければ、何でもできると思っているなら、それこそ君の勘違いだ」

「それでも、できることは俺達より多いんだろ? だったら……」

「俺にできなくて、君達にできることもある。特に俺は個人で動いているから、できることなんて君達より少ないぐらいだ」

 そう言っても、鉄也は納得していない様子だった。それを受けて、冴木は自分の話をしようと決めた。

「俺は、犯罪者の制圧や、未然に犯罪を防ぐといった活動を少しずつやっている。だが、入ってくる情報は限られているし、一人だと限界がある。これは翔も言っていたことだな」

「だったら、俺が……俺達ダークが協力する! そうしたら、もっとできることがあるだろ!?」

 鉄也は、こうした機会をずっと待っていたのだろう。今の社会に納得できず、不良と呼ばれながらも、同じ気持ちを持つ仲間を集めた。そうして、できることは増えたものの、まだ何も変えられないと不満を持っていたようだ。

 そうした鉄也と同じ気持ちを、冴木も持っている。そして、このまま何もしなければ、鉄也は誤った道を進んでしまうかもしれない。そんな心配もあり、冴木は一つの提案をすることにした。

「俺に足りないのは、情報と仲間だと自覚している。それを君……鉄也が、協力してくれることで、解消できるかもしれない。そんな風にも思っている」

「ああ、絶対に解消できる! だから、協力する! いや、協力してくれ!」

「だが、それには光や圭吾達ライトの助けも必要だと思っている」

「あいつらは社会に従うだけで、俺達より何もできてねえ! そんな奴らの助けなんていらねえ!」

「それでも、お互いに今は協力しているだろ? 一時的なものと考えているようだが、このまま続けても、悪くないと思っているんじゃないか?」

「そんなこと……」

 図星だったようで、鉄也は言葉を詰まらせた。その様子を見て、冴木は言い過ぎたかと反省した。

「話は移動しながらしよう。車まで案内してくれ」

「……ああ、わかった」

 そうして、冴木は鉄也に案内される形で、その場を離れた。

 先ほどのことがあったからか、鉄也は何を話せばいいかわからないようで黙っていた。そのため、冴木から切り出すことにした。

「さっきの話、俺は本気で考えている。今回のTODが終わった後も、様々なことで協力をお願いしたい。これまで、未然に犯罪を防ごうと頑張ってきて、実際にテロなども防ぐことができた。だが、そうして防ぐことができた犯罪より、防げなかった犯罪の方が、ずっと記憶に残っている」

 その中には、一年前のTODも含まれている。あの時、助けられなかった緋山春来のことは、今でも思い出す。TODに参加している今、冴木は当時のことを思い出すことが特に多い。

 正直なところ、悪魔を相手にしたくないという気持ちは、当時から変わっていない。それほど危険な存在だと、わかってしまっているからだ。ただ、それでも逃げるべきではなかったんじゃないか。そんな疑問は、一年経っても冴木の中に残り続けている。

「冴木……さんは、『シルバーブレット』なんだろ?」

 鉄也から不意にそんなことを言われ、冴木は苦笑した。

「それは何だ?」

「和義のおかげで、普通は手に入らねえ情報も知ってる。俺達が管理してるネットワークを利用して、犯罪を起こそうとしてる奴も時々見掛ける。その中で、犯罪を未然に防ごうと活動してる奴がいるから、警戒しろといった話題があったんだ。それで、そいつのことを誰かが『シルバーブレット』なんて呼んでから、それが浸透してるんだ」

 シルバーブレット――銀の弾丸といえば、怪物を倒せるとされ、魔除けの効果があるなんて話もある。そのため、犯罪者を制圧したり、未然に犯罪を防いだりする自分に対して、この言葉が比喩として使われていることは、納得できた。

 ただ、噂になっていることは知らなかったため、冴木は多少の戸惑いがあった。

「ネットの掲示板に犯罪予告を投稿したことで、逮捕されたなんて話があった時、バカらしいとか、犯人は本気じゃなかったんだろうとか、世間はそんな風に言うが、実際は違うと知ってる。社会に納得できてねえ奴は、自分が正しいと知ってもらうため、事前に犯罪予告をする傾向がある。俺達もそれを知って、犯人を捕まえにいったこともあるが、俺達が着く頃には既に犯人が捕まってた」

「別に、その全部を俺がやったとは限らない」

「一部は、冴木さんがやったんだろ? それだけで、十分な効果があった。テロのような大規模な犯罪をするには、事前の準備もたくさんあって、その時にネットを利用する奴がほとんどだ。でも、そうすると、誰かが未然に犯人を捕まえる。だから、犯罪を行おうと考えても、シルバーブレットに止められるから気を付けろ。そんな話題が出て、諦めた奴もたくさんいるはずだ。冴木さんの存在は、俺達がしたかったことを確実にしてくれてる」

 そんな風に褒められると思っていなくて、冴木は思わず笑ってしまった。ただ、自分のしたことが無駄じゃなかったという事実を知り、どこか達成感に近い感情を持った。

「俺達も、そんなことができればと本気で思ってる。でも、圭吾や光とは協力したくねえ。あいつらは、俺達とは違う。社会に従うことしかできねえ奴らは、必要ねえ」

「俺も同じように考えていた。だが、それが間違いだったかもしれないと、思い始めている。少なくとも、光と圭吾は、社会に従っているわけじゃない。そのことに気付いてほしい」

「いや、でも……」

「何度だって言うが、協力してほしいという気持ちは本当に持っている。いつか、俺が言っていることを理解できた時、本当に協力してほしい」

 鉄也を筆頭にダークの協力を得られるだけでも、これまで不可能だったことを可能にすることは十分できる。そう判断したうえで、冴木は光と圭吾の協力を必須とするような条件を出した。それは、鉄也が強い信念を持っているからこそ、暴走してしまった時、止められるのが光と圭吾だと感じたからだ。

 そして、冴木は美優と翔のことに自然と考えが行った。

 今回のTODが終わっても、二人は日常に戻る気がないのだろう。普通に学校生活を送ってほしい。普通に将来の夢を持ってほしい。普通に恋愛もしてほしい。そんな願いを持っているものの、二人は絶対にそうしないはずだ。ただ、そうやって考えていると、そもそも普通とは何だろうかと、今更ながら当たり前の疑問を冴木は持った。

「答えはすぐ出さなくていい。俺も考えたいことがあるし、今は美優を守ることに専念したいからな」

「……わかった」

 鉄也は、無理やり自分を納得させた様子だった。ただ、ここで何か言えば、むしろ答えを急かすことになると考え、冴木は黙っておいた。

 そうして十分ほど歩いたところで、鉄也の用意した車が置いてある場所に到着した。そこはコインパーキングで、冴木はすぐにある疑問を持った。

「こんな所に止めていたら、料金が大変なことにならないか?」

「ハッキングして、料金は掛からねえようになってる。そもそも、ここは俺達ダークが所有してる駐車場だ」

 先ほど鉄也にも言ったとおり、警察などは、ダークのことを単なる不良達の集まりと捉えている。だが、それが誤った認識であることは間違いない。地下に拠点を設けたり、街中の監視カメラを盗聴したり、恐らく車や駐車場だけでなく、他のものも多く所有しているだろう。それによってできることが、単なる軽犯罪で済むわけがない。それこそ、暴走した結果、テロを起こす危険すらあると冴木は感じた。

 目的は正しいのに、手段を間違えてしまう。これまで、そうした者達を冴木は数え切れないほど見てきた。ただ、その者達のことを悪人だと思ったことは、ほとんどなかった。それは、テロを起こそうとした、自らの両親に対してもそうだった。

 ルールに従ったら、生きていけない。ルールに従っているのに、悪者にされる。反対に、ルールに従わない者が何の罰も受けず、さらには善人であるかのように扱われる。

 そうしたことから社会に対して不満がたまり、暴走してしまった時、彼らは犯罪やテロといった誤った手段を取ってしまう。そんな者達を止めたこともあるものの、本当に誤っているのは、社会の方じゃないか。そんな疑問を、冴木はずっと持っていた。

「さっきの話、仮に光や圭吾と協力したくないというなら、それでもいい。それでも、俺はダークに協力する」

「さっきと話が違うじゃねえか。急にどうしたんだ?」

「これだけのことができるんだ。協力してほしいという気持ちに嘘はない。それと正直に言うが、君達の不満が爆発した時、簡単にテロぐらい起こせるだろう。その監視をするため、協力したいという気持ちもある」

「俺達は、絶対にそんなことしねえ」

 冴木は、鉄也の真っ直ぐな目を見て、杞憂だったかと感じた。

「変なことを言って、すまない。だが、繰り返しになるが、光と圭吾の協力があった方が、きっと君達のしたいことを、正しい手段で行えると思う。これも俺の正直な気持ちだ。ゆっくりでいいから、考えてほしい」

「……わかった」

 先ほどより、鉄也が納得した様子で、冴木は安心した。

「それより、車はこれだ。ワゴン車だが、構わねえか?」

「むしろ助かる。改めて言うのもおかしいが、俺が使っていいのか? 無事に返ってくる保障もないと、わかっているか?」

「そんなの気にしねえでいい。圭吾なんて、あれだけ大事にしてるバイクをランに貸した。車を貸すぐらい、大したことねえ」

 ここで圭吾の話を出すほど、気にしているのかと思い、冴木は笑いそうになったが、何とか堪えた。

 それから荷物を積み、車の鍵を受け取った後、冴木は鉄也と連絡先を交換した。それだけでなく、和義などから、どこへ向かえばいいかといった指示が受け取れるよう、スマホを設定してもらった。

「それじゃあ、何かあったら連絡する。何度も言うが、今回の件が終わった後も、色々と協力してもらいたいし、協力したい。だから、改めてになるが、よろしくお願いする」

「ああ、俺も同じだ。よろしく頼む」

「あと、忘れるところだった。これがオフェンスの使っていたスマホだ。調べて、何かわかったら、教えてほしい」

「それは和義に頼んでおく。結果が出たら、どちらにしろ報告する」

「ああ、わかった」

「それじゃあ、俺はもう行く。冴木さん、気を付けてくれ」

「ありがとう。鉄也も安全とはいえない状況だ。十分気を付けてほしい」

 最後にそう話した後、鉄也はバイクに乗り、その場を後にした。それを見送った後、冴木は車に乗り、エンジンをかけた。そして、どこへ向かえばいいか、すぐ和義から指示がきたため、それを確認すると、すぐに車を走らせた。

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