第92話『救援戦闘と三人娘』
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全速力で樹海の中を突き進む。
生身のファーはこのスピードについてこられないのでシルヴィアにお姫様だっこで運搬されていた。
「ちょっとーーーー、早すぎるわよ、ぶつかる!!」
「姉さん、私たち魔導人形でも舌を噛むと痛いので口を閉じることを推奨します」
相変わらずの仲良し姉妹だな。
もうすぐ逃げている三人の姿が見えてくるはずだから、それまで我慢してください。
「カズマ見えたよ、若い女の子三人、たぶん冒険者かな」
逃走者を最初に見つけたのは少し前方の上空を飛んでいるノネだった。
「逃げているのは作戦かそれとも本気で逃げてる?」
もし万が一囮作戦で罠などに誘導している途中なら邪魔するわけにはいかない。
「えっと、全力で逃げているようにしか見えないのね」
「わかった、救援行動に入ろう」
小さくて空が飛べるノネは偵察要員としては最高の人材だ。普段は食っちゃ寝ばかりだけどいざという時、役に立ってくれる。
「了解ですマスター」
俺にも逃げる三人が視認できた。半泣きでの全力逃走、ノネの報告通り作戦行動中には見えない。後ろからはシルヴィアの推測通りガマンティスの群れ、討伐レベル12のザコ魔物だけどあれだけいると本能が恐怖を感じてしまう。
「ファー三人の保護を頼む、群れは俺とシルヴィアで殲滅だ」
「頼みます姉さん」
ポンと抱えていた姉を放り投げる妹。
「ちょっとシルヴィア、姉を大切に扱いなさい!!」
文句を言いながらも放り投げられたファーはクルリと一回転して服を汚すことなく華麗に着地からの無駄のない動作でバズーカ砲型魔導銃を構える。
「そこの三人、私のところまできなさい!」
なんだかんだで逃げる三人の保護してくれるファー、これで心置きなく戦える。
「PBミサイルセット」
シールドの装甲が開き四発のPBミサイルが顔を出す。
群れは多いが逃げる三人を追いかけ固まりになっている。ここは細かい狙いを付けず発射速度を優先して群れの中央を狙って。
「発射」
俺のシールドから四発の小型ミサイルが飛び出し狙い通り群れの中央で炸裂する。直撃しなくても爆発の衝撃はある。レーダーに映っていた反応の三分の二が消えた。
「上位固体の反応健在、こちらで攻撃します。六連グライダーナイフ射出、切り裂きなさい」
相変わらずすごいよねシルヴィアのナイフ操作は、通常の緑色のガマンティスの中に黒いガマンティスがいる。あれが上位固体なんだろう。グライダーナイフが横から上から下からと容赦なく襲い掛かり処理していく、俺はミサイルで倒しきれなかった通常のガマンティスをリボルバーで撃つ。
弱くても数は脅威だ、爆発で混乱している内に倒しきる。
「なに、あの小さいの魔導銃なの、それに連射もできるなんて」
一発一発トリガーを引いているから正確には連射ではないけど、単発の魔導銃しかしらないファーにしたら連射と間違えるか、リボルバーの弾が切れたので俺もグライダーナイフを射出しようとしたけど、その必要はなかった。
黒いガマンティスを倒したシルヴィアのナイフが残りをすべて倒しきっていた。
「周囲に魔物の反応ありません、戦闘終了します」
戻ってきた六本のグライダーナイフを収納するシルヴィア、俺は撃ち尽くしたリボルバーの薬莢を抜き装填しなおす。こちらの被害はゼロ、完璧な勝利だ。
「ちょっと、あんたも魔導銃持ってたのね、しかも連射ができて小さいなんて、わざわざウチで買う必要無かったじゃない」
「いやいや必要はあったよ、これは自作だから他にどんな魔導銃があるのかわかって勉強になった、そのおかげで新しいアイディアも浮かんだから」
本当にいくつものアイディアがひらめいた。まだ製作していないリンデ専用機に追加したくなった武装まで思いついてしまった。これはとてつもなく大きな収穫だ。
「楽しそうに笑うわね、なんだか私の前のマスターに似ているわ」
「そうなのか」
「二百五十年前に亡くなったエルの旦那が私のマスターで魔導銃職人だったのよ。マスターも新しいアイディアが浮かんだ時には同じような顔をしていたわ」
エルさんの旦那さんは人間で天寿をまっとうしたそうだ。俺の買った魔導銃のほとんどがファーのマスターが生前に製作したモノらしい。二百五十年も良く売れ残ったと思ったけど、魔導銃は金持ちが道楽で買うことが多く、装飾が少なく実戦向きに作られたファーのマスター製の魔導銃は人気がなかったらしい。
「あ、あの助けていただいて、ありがとうございます」
ファーのマスターの話をしてすっかり助けた三人組みのことを忘れていた。
女の子三人組みの冒険者は、獣の耳と尻尾を持つ獣人族の少女たちだった。エルフに続いて獣人族とも遭遇、まさにファンタジーな世界だ。
「まにあってよかった。ケガとかない?」
「はい大丈夫です」
三人の中でお礼をいってきた長いワインレッドカラーの髪の獣人娘、キリっとした意志の強そうな赤みのある黒い瞳が印象的、三人のリーダーなんだろう。
「私たちは冒険者チームベノリンクス、リーダーを務めている獣人族のムギと言います」
やっぱりリーダーだったんだな、責任感も強そうだ。
「私はミケ、ムギと同じく獣人族だ、あんた同い年位なのにすごく強いんだな冒険者ランクってどのくらい、私らはまだ十字線クラスなんだ」
ミケと名乗った虎柄の髪をショートカットにした元気な獣人娘、三人の中で一番がっしりとした体つきでチームの前衛を務めているんだろう。
「登録したばかりだからランクは一本線だぞ」
「信じられない、強さは一ツ星クラスでも通用しそう」
三人目の子は小柄で大人しそうな少女、長い前髪で目が隠れるほどの黒いオカッパヘアー、声量が小さくギリギリ聞き取れるボリュームだ。獣人族は元気な種族ってイメージはあったけど、人族と変わらず個性豊かなんだな。
「ごめんなさい、彼女はクロエ、少し人見知りなの」
どんな社会にも話すのが苦手な人は一定数いる。俺が視線を向けるとうつむいてしまったクロエをムギがすぐにフォローするなんて、うらやましい良好な関係、俺の勤めていた会社とは正反対だ。
「気にしてないよ、俺はカズマ、冒険者登録しているけど本業は魔道具技師なんだ。こっちは仲間のシルヴィアとノネ、そしてファーだ」
「マスターの忠実なメイドのシルヴィアです」
「カズマと契約した光の精霊のノネなのね」
「私はボンズ魔導銃専門店のファーよ、アドバイザーとしてカズマたちに同行していたの」
全員が自己紹介をして一息ついたけどゆっくりはしていられない、ガマンティスはそれほど強い魔物ではないので急いで処理をしないとすぐに魔素に戻ってしまう。
ガマンティスの素材は魔結晶と鎌だったよな、半分以上がPBミサイルの衝撃でダメになっていたけどそれでも二十体近く素材が取れ、先に仕留めたブラックボアを含めると大荷物になってしまった。
「運搬方法も考えないとな」
「私のスカイシールドがほぼ運搬専用になっています」
持ちきれない素材はスコーメタルの時と同様にスカイシールドに括りつけ運んでいる。当然これは想定していた使用方法ではない。
「どうせ私なんかマスターにとって都合のいい女だったのですね」
「やめろよ、初対面の人たちだっているんだぞ、変な誤解を与えるな!」
早急に対策をしないとシルヴィアにいじられるネタが増えていく。
「あの子はいつもあんな感じなの?」
「だいたいあんな感じなのね」
「契約したマスターをいじるなんて我が妹ながら恐ろしいわ。もしかしたら創造主の性格に一番似ているかも」
そこの長女さん。考察はいいから妹の教育をお願いできませんかと、切に願う。




