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第88話『売却と懸賞金』

 リンデたちと別れた俺たちは、守備隊長さんに特殊個体のスコーメタルに懸賞金が掛けられていると聞て、もともとここサウスナンが活動拠点であったダラスさんたちの案内で冒険者ギルドにやってきた。


 もっとも案内されるまでもなく門を潜って、一番初めに見えた大きな建物が冒険者ギルドであったのですぐに到着できた。正確には冒険者ギルド城塞都市サウスナン南門支部であるそうだ。南門は樹海に一番近く大型の魔物も持ち込まれることが多いのですぐに運び込める位置に作られた。


 一日の終わる夜の時間、報酬を受け取る冒険者たちでギルド内はひしめいていると思ったけど、閑散としていて数人の冒険者がテーブルに座って静かに酒を飲んでいるていどだ。


「ナナン村のギルドより少ない」


 建物はナナン支部の三倍の広さがあるのに、冒険者の数は半分もいないのでとても寂しく感じる。


「ようこそ冒険者ギルド南門支部へ、はじめての方ですね。目的は登録でしょうか、仕事の依頼でしょうか」


 カウンターではナナン支部よりも訓練された完璧な営業スマイルで美人受付嬢さんがテキストを読み上げたような応対をしてくれた。


「おいおいガトラちゃん、その対応はひでぇだろ、俺たちははじめてじゃないぜ、五年前に俺たちの冒険者登録してくれたのガトラちゃんじゃないか」


 ダラスはウルフヘルムを取り、まじまじと自分の顔をガトラちゃんと呼んだ受付嬢さんに見せつける。


「えーと」


 受付嬢さんはダラスさんの顔を見て記憶を漁っているようだ。なんとなく見覚えはあるけど名前が思い出せない昔の知人に再会した雰囲気が出ている。


「俺だよ俺」


 なんだかオレオレ詐欺みたい。


「バカダラス、冒険者カードを見せれば早いだろ、俺たちは三年もこの支部にはきてないんだぞ」

「三年ですか」

「ごたごたに巻き込まれて戻ってくるのに三年もかかってしまったんだ」


 テルザーさんがダラスさんを押しのけ自分もヘルムを取り冒険者カードを差し出すと。


「あ、もしかしてウルフクラウンのテルザーさんですか、お久しぶりです。ご無事に戻られたのですね」


 受付嬢さんはカードを見る前にテルザーさんの名前はすんなりと出てきた。


「どうしてテルザーのことは覚えているのに俺のことは覚えていないんだ」

「テルザーさんと一緒にいるということは、もしかしてタラシさんですか」

「ダラスだよ! どうしてテルザーは覚えているのに俺のことは覚えていてくれないんだ!!」


 一度目はまだ余裕があったけど、二度目は魂の叫びに聞こえる。


「思い出しました。三年前未婚の受付嬢全員をナンパした、あのダラスさんですか」

「いえ別人です。新人登録お願いします」

「お前で間違いないだろ」


 帰ってきた喜びなのかダラスさんがいつも以上にふざけテルザーさんのツッコミのキレが鋭くなっている。


「冗談はここまでにしてガトラ、ここはどうしてこんなにも閑散としているんだ。三年前は座る場所を探すのに一苦労した時間帯だろ」

「それはですね、南門を出てすぐの場所にスコーメタルの特殊固体が出没したからなんです。門が閉鎖され報奨金目当ての高位冒険者以外立ち寄らなくなってしまったんですよ」

「ガトラちゃん、俺とテルザーで対応が違いすぎねぇか」

「日頃の行いだろ」


 テルザーさんの質問に丁寧に答えるガトラさんの姿勢にダラスさんがふてくされ気味。


「ただでさえ南方は悪魔像少佐級が出没して人気が無くなっていたのに追い打ち状態なんです」

「なるほどね」

「それならもう心配はいらないぜ」


 ふてくされていたダラスさんがガバっと顔を上げて不敵な笑みを浮かべた。


「強大なる特殊固体スコーメタル、そして悪魔のような悪魔像少佐級は共に天昇させた。少佐級に関しては俺たちウルフクラウンの大いなる大活躍が討伐貢献の一手となり成果を成し遂げたのだ」

「……??」


 受付嬢ガトラさんはポカーンとした表情でダラスを見る。俺はダラスさんが何を言いたいか知っているからギリギリ理解できたけど、全く知らない人が聞けば暗号だろうな。


「無理に難しい言葉を使うなダラス、俺たちまでバカに思われるだろ」

「は?」

「ああ、つまりだね、バカダラスの言葉を翻訳するとスコーメタルも少佐級もすでに討伐したってこと」

「そこ、俺たちの活躍での言葉が抜け落ちてるぞ」

「お前はしばらく黙っていろ。みんな頼む」

「ちょっと待てお前ら、俺はこのチームのリーダーだぞ」


 テルザーさんの指示でウルフクラウンのメンバーがダラスさんを後方のテーブルへと引きづっていった。


「あ、あの、聞き間違いでしょうか、スコーメタルと少佐級を討伐したと聞こえたのですが」

「それで合っている。その二体は討伐した。もうじき証拠もくると思う」

「証拠ですか」


 ガトラさんが困惑していると、ギルドへ皮のエプロンをした一人の男が駆け込んできた。


「スコーメタルが解体所に持ち込まれた、特殊固体のスコーメタルだ!」

「ほらね」


 静かだったギルド内の空気が唖然とした沈黙に変わる。


 討伐したスコーメタルは大きさが大きさなのでギルドへは持ち込むことができなかった。こんな時は解体所に持ち込み解体所からギルドに連絡を送る仕組みらしく、最初は俺たちが自分で運ぼうとしたのだが、ベテルドさんから守備隊で一応確認したいと言われたので、ついでに解体所までの運搬をお任せしたのだ。


「信じられません、ウルフクラウンは十字線(クロス )ランクですよね」

「これからガンガンランクを上げていく予定だからよろしく、それと、スコーメタルを討伐したのは俺たちじゃなくてこっちの少年だから懸賞金は彼に渡してくれ」

「立派な鎧をお持ちですね、無知で申し訳ありません。別の都市で名を上げた冒険者様ですね、カードの提示をお願いします」


 ガトラさんこのアクティブの良さがわかるとはとてもいい人だ。俺は言われるがままに冒険者カードを渡すと、ガトラさんの笑顔が仰天する。表情が豊かな人だな。


「彼って、まだ一本線( ライン)ランクじゃないですか!?」


 ギルド支部内にガトラさんの悲鳴が響きわたる。

 それからギルド職員たちが大騒ぎしていたけど、少佐級の時とは違い明確な証拠を見せられたので数時間待たされた後に懸賞金を受け取ることができた。


 ギルドとしてはスコーメタルの素材を全て売って欲しかったようだが、俺もアクティブの材料に使いたかったので二つの鋏だけを残して他を売ることにした。懸賞金金貨500枚と、きれいな状態のスコーメタルの売却代金貨350枚で俺はサウスナンに到着早々大金持ちになってしまった。


 お金を受け取った時にはすっかり真夜中、どこかの安宿にでも駆け込めればいいかなと思っていたけど、思いがけない大金が手に入ってしまったので安全を考慮してギルドおススメの高級宿に宿泊する流れとなった。

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