第87話『城門到着』
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スコーメタルの運搬に少し時間がかかってしまったけど、日が沈む前ギリギリの時間に城塞都市サウスナンに到着することができた。
リンデの話では日が沈むのに合わせて門を閉めるとのことなので間に合って良かったと安堵していたのに、門に近づくにつれ違和感が強くなった。
聞いていた話ではまだ門が開いている時間のはずなのに、すでに閉められている。その上、完全武装した兵士の一団が長い槍を持ち警備していた。
「なあリンデ、バリスタの矢がこっちを向けられてるけど、いつもこんな感じなのか」
「いや、そんなはずは」
「俺たちは何度もこの門を利用していたが、こんな厳戒態勢なんて知らないぞ、いつもは二人の門番がいるくらいだ!」
リンデに続きダラスさんもあの警備はおかしいと叫ぶ。
「マスター、バリスタの照準がこちらをとらえています。正確にはスコーメタルのようですが」
「もしかして、スコーメタルがまだ生きてると思ってるとか?」
「ありえますね。マスターが一撃で急所を撃ち抜いているので遠目では無傷に見えるでしょう」
「カズマくん速度を落とそう、誰か知らせに走った方がいい」
「そうだなシルヴィア」
「かしこまりました」
全長三メートルオーバーのスコーメタルを運んでいたのはシルヴィアのスカイシールドだ。腹の下に入れてずれ落ちないように縛り付けみんなで支えてここまでやってきた。
「俺が先に行くぜ」
ダラスさんがすでに討伐されていることを知らせに先行しようとしたけど、遅かった。四基のバリスタから一斉に矢が放たれてしまった。アクティブの性能なら逃げれば余裕で回避可能だが、せっかくきれいな状態で手に入れた素材を傷物にしたくは無い。
「マルチロック、PBミサイル発射」
俺は飛来する四本の矢をロックオンするとシールドに内蔵しているPBミサイルを四発発射して迎撃した。撃たれるかもと警戒していたので慌てることなく対処できた。
「ふー、危なかった。ナナン村でミサイルを補充しておいてよかった」
「カズマくん、早く討伐していることを伝えないと、また攻撃が飛んでくるかもしれない」
一息ついている場合ではなかった。バリスタの矢が装填しなおされていく、BPミサイルだって無限にあるわけじゃない。
「どう伝えよう」
「マスター、私に考えがあります」
俺たちの動きはバリスタを撃たれた時点で完全に止まっていた。それからシルヴィアの指示でスコーメタルをひっくり返した。
「これで討伐していることを表現できると思いますが、ダメ押しです。マスター腹の上に乗って手を振ってください」
「え、えっとこうか?」
シルヴィアに言われるがまま指示に従った。
サーチバイザーの望遠機能で隊長らしき人の様子を見ると大変困惑しているのがハッキリと見て取れた。
「まだ悩んでるみたいだけど」
「見ればわかるだろうに、ここまでやればどんなに頭が固くても理解できるだろ!」
ダラスさんは悪態をつくとスコーメタルの尾を持ち上げて振り回し始めた。
「バカダラス危ないだろ、まだ毒抜きもしてないんだぞ」
無茶苦茶な行動をはじめたダラスさんをテルザーさんがやめさせようとするが、危なくて近づけない。
「ようやくこちらの状況が伝わったようですな」
バァルボンさんは自前の闘気法で視力を強化して様子を見ていたようだ。門を守っていた守備隊は警戒を解き隊長を先頭にこちらにやってくる。
「信じられない本当に倒しているのか、戦った傷が一切見当たらないが」
魔結晶を一撃だからね、ここに傷がありますよと守備体長さんに教えたら、眼球が飛び出すんじゃないかってほど目を剥き出しにして驚いている。
「大丈夫ですか?」
思わず声をかけてしまった。
「かわいそうに、またマスターの被害者が一人」
「被害者言うな、なあリンデ」
リンデに助けを求めたが目を逸らされてしまった。ノネが起きていれば俺の味方になってくれたかもしれないが、あのリードフェアリーはスコーメタルを倒した後、眠くなったと言って俺のコンテナの中で熟睡中だ。
「すまない、自分の中の崩壊した常識を立て直していた。私は南門守備隊長ベテルドだ、いくつか質問させてくれ」
頭を振りこちらへと向き直る守備隊長ベテルドさん。
「このスコーメタルは君たちが討伐したものか」
「ああ、間違いないぜ」
「おいダラス俺たちは何もしていないだろ、正確にはそこの少年が一人で倒しました」
「君たちは一つのチームではないのか?」
胸を張りあたかも自分が倒した雰囲気を出したダラスさんにテルザーさんがツッコミを入れて訂正、そしてベテルドさんに俺たちがこのサウスナンに来るために一緒に行動していたが別々のグループであると説明してくれた。さすがウルフクラウンの参謀役、説明がうまくて助かった。
テルザーさんの説明でリンデがヴァルトワ家の令嬢であることがわかるとベテルドさんが態度を改める。
「失礼しました。ヴァルトワ家のご令嬢とは知らずとんだ失礼を」
「気にしなくて良い、馬車にも乗らずドレスも着ていないのだ、気が付かなくてもそなたの責任ではない」
「寛大なご配慮感謝します」
「私、レオリンデ・フジ・ヴァルトワの名において、このスコーメタルはカズマ・ミョウギン殿が討伐したと証言しよう」
もめ事が起こった時って権力って役にたつよな、俺は権力で上司の罪を擦りつけられたからいいイメージなかったけど、今回はリンデのおかげで簡単に門を通してもらえた。もしリンデがいなかったら詰所に連れて行かれ尋問を長々と受けていたかも。
「助かったよリンデ」
「この程度助けた内には入らない、開拓村からこれまでカズマ殿には数えきれないほど助けられた。私個人ではなく家名の力であるが最後に少しばかり役に立ててよかった」
樹海の中までは少女らしい口調はいくつか出ていたが、この場は守備隊の目もあるので出会った当初の完全な騎士モードだ。
リンデはこの後ヴァルトワ家に戻らなければならないので都市に入ればお別れだ。でも、まだ果たされていない約束は残っている。
「最後じゃないだろ、まだリンデ専用のアクティブを製作していないんだから、完成したら専属パイロットになってくれる約束だろ」
「テストパイロットではなかったか」
「あれ、そうだっけ」
名残惜しいけどここまでだな、最後に軽いジョークで笑い合った。
「約束は守る。落ち着いたら連絡したいのだが連絡手段は、カズマ殿はまだ宿泊先をきめていないな、冒険者ギルドに伝言を頼む形にするか」
「これを使えばいつでも連絡できるよ」
バイザーを指でトントンとたたいてみせる。リンデのチェイスにも通信機能は備わっているので電話感覚で使用できる。通信機能についてはリンデも樹海で使っていたので知っているが日常で使用するという感覚まではまだ馴染めていないようだ。
「そうであった。これがあったな」
「チェイスはバァルボンさんの分も含めてプレゼントするよ、使う場面があったらジャンジャン使ってくれ、それで感想をあとで聞かせてくれたら嬉しいな」
データは重要、使用者の生の声は開発者にとっての宝物だ。
「わかった。ヴァルトワ家の現状を確認しだい貴殿への礼を最優先にさせてもらう」
最後まで硬い騎士モードで少し残念な気分になっていたが。
「ありがとうカズマくん、またね」
と、すれ違いに俺だけに聞こえるように囁いてくれた。




