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第25話『食堂での談話』

魔物の強さ表記をカテゴリーから討伐レベルに変更しました。

「まさか完治したはずの中二病が再発、また俺は黒歴史を増やすことになるのか、いやまだ再発したとはかぎらない、でも、アクティブアーマーの機体名をフゥオリジンとか付けている時点でもう、いやいや、この命名は中二風だろうか、若返る前でもこの程度の名前なら考えたかもしれないし、でもしかし、だからって、くそ、ネーミングの基準がわからない、どの辺までがセーフでどこからがアウトなんだ…………」


 思考がぐるぐると渦のように回ってうまく答が出てこない。


「カズマ殿はさっきからなにをブツブツつぶやいておられるのだ」

「マスターは難しい物事に直面するとこのように周りが見えなくなる時があります。しばらくすれば正常に戻りますのでご心配はいりません。魔道具の製作時に行き詰るといつもこのようになりますので」

「そうか、職人の職業病というやつか」


 リンデ、今なんといった、俺が病気だと、やっぱり俺は発症してしまったのか、あの黒歴史を量産する病気を。


「マスター、考え事をするのもけっこうですが足元には気を付けてください。食堂につきましたよ」

「え、ここは食堂なのか?」

「はい艦内食堂です」


 リンデとカリンの朝稽古を見学していたはず、あれからどうなった記憶があいまいだ。俺は無意識にリンデたちの後に続いて飛行艦の中へ戻り、艦内の食堂へとやってきていたようだ。船体は真ん中で折れてはいるが食堂や調理場は無事だったので、俺たちが討伐隊に参加してからシルヴィアは主にここで活動していたらしい。昨日の夜食の差し入れもここで作ってくれたそうだ。


「すぐに並べますので、それまでこちらを飲んでお待ちください」


 水の入った木製のコップを渡してくれた。俺は考えを落ち着かせようといっきに喉へ流し込む、水はまっすぐに胃に流れ落ち、それで空腹だったのかと自覚した。とりあえず暗くなる考えは食後にまわそう。

 ここは艦内食堂、宝物庫以外の部屋に入るのははじめてだ、食堂の六つあったテーブルも墜落の衝撃で半数は壊れているようだが、現在の討伐隊メンバーはたったの四人、一つ残っていればこと足りる。


 木製の皿で配膳されたのはピジョンバァストの肉を混ぜた野菜炒め、イモのような食べられる根モノ野菜で作られたポテト風サラダであった。木製の食器はもともとこの艦の備品、飛行中は大きく揺れる飛行艦の食器は落としても割れにくい木製食器が良く使われるそうだ。


「我々までご馳走になって申し訳ない」

「マスターが討伐隊に加入を決めました。よってバァルボン様もお仲間でございます。ご遠慮なく」

「感謝する。ところでこれはなんの肉か聞いてもよろしいですかな」


 バァルボンさんが食材を聞いてくる。外見で鳥の肉だとはわかるがどんな鳥かまではわからないようだ。


「こちらは昨日の朝、マスターがしとめたピジョンバァストの肉になります」

「バァストですと、あの魔物をしとめたのですか!」


 何事にも動じなさそうなバァルボンさんが声をあげで驚いた。


「そんなに驚くことですか、低レベルの魔物ですよ」

「いや、バァルボンが驚くのも無理はない。確かに倒すだけなら難しくないが、下手な倒しかたをすればピジョンバァストは自分の炎で身を焼いてしまい魔核すら回収できないのがほとんどだ。私たちも何度か肉を手に入れようとしたが、すべて失敗している」


 事前に食材をシルヴィアから聞いていたリンデがバァルボンさんの驚いている理由を説明してくれた。

「私も最初に聞いたときは相当驚いたぞ」

「そうなのか」


 だからSOネットで肉は高級食材って書いてあったのか、討伐は簡単だけど素材ゲットは高難易度だったのか。


「バァストを確保するには、魔力封じを使い炎を出せなくしてから狩るしかないが、魔力封じ系のアイテムはどれも希少で高額、肉を手に入れるために使用する者は少ない」


 だろうな。そんなに大変な相手だったのか。


「カズマ殿は魔封じのアイテムまで製作できるのか」


 付加を使えば作れない事は無いだろうけど、魔力がどんなモノか漠然としか把握していないので低能力のしか作れなさそう。やっぱ、どこかのタイミングで魔力とか勉強したほうがよさそうだな、知識があった方が付加が強力になる。


「この肉がゲットできたのは、捕獲専用の道具を作ったからなんだ、興味があるなら後で見せるよ」

「それは楽しみだ、ではさっそくシルヴィア殿が用意してくれた朝食、冷めないうちにいただくとしよう」

「食料不足なので量は節約気味ですが、本日の活動に支障のでない程度のエネルギー量は接収できると思います」

「食べられるだけでありがたい」


 リンデは育ちが良いと一目でわかる作法で、シルヴィアの節約料理を上品にそしゃくする。


「これは美味しいな」


 シルヴィアの料理は間違いなくうまい。

 俺は小さく切り分けられ良い色に焼かれた鳥肉と野菜を木製フォークでまとめて一口。うん、やっぱりうまい、肉の量はちょっと少ないけど味は文句なしだ。


 朝食のおかげで中二の事で悩んでいたのがバカらしく感じられるようになった。若くなったんだからそれを楽しまんでどうすると割り切ることにした。空腹のせいで思考がマイナス方向になっていただけかもしれない。


 食欲が満たされれば、簡単な悩みなんて吹き飛んでしまう。この切り替えの早さも若返った影響かもな。

 食後は徹夜明けをみんなが知っていたので仮眠を進められた。それを有りがたく受けあてがわれた部屋でゴロンと横になる。半分以上つぶれた船内でも、俺やシルヴィアに個室を貸すくらいは余裕らしい。討伐して使い道のない素材を保管している部屋もあるらしいので起きたら見せてもらおう、そんなことを考えながら眠りにつく。






「なかなか面白い御仁ですな」

「私も従者になってまだ三ヵ月ですが貴重な体験の連続でした。これからもきっといろいろな体験をさせてくれるでしょう」


 魔導人形のシルヴィアにとって体験こそが成長のもっとも重要な要素である。一馬と契約を交わしてから毎日が驚きの連続で、最初は無表情であったシルヴィアも表情に感情が出せるほどに成長していた。

 これはSOネットに記載されている他の魔導人形の成長記録と比較しても断トツトップのスピードである。


「シルヴィア殿、カズマ殿はブラックボアを一人で倒せると言っていたが本当なのか?」


 一馬が退室した食堂で、残った三人は一馬の話題で食休みをしていた。


「はい本当です。マスターはすでに数頭のブラックボアをしとめています」

「お嬢様は魔導技師殿がそれほどの強者に見えないのですか?」

「カリンではないが私も他者の戦闘能力を見る目は持っているつもりだ。優秀な技師であることは認められるが、戦う者としては」

「確かにマスターは臆病で小心者です。体力もなく腕力はこの村の人たちよりも下でしょう」


 自身のマスターだと言うのにこきおろすような物言いのシルヴィア。


「はじめてブラックボアと遭遇した時など、涙と鼻水をまき散らしながら腰を抜かしました」

「いや、それはしょうがないと思うけど、駆け出しを卒業した騎士だって初めてブラックボアと遭遇すれば腰を抜かす者もそれなりにいるよ」


 なぜか弱そうと最初に語ったリンデが擁護にまわり、言葉遣いまでやさしくなっている。

 リンデの擁護を聞いてニコリとほほ笑むシルヴィア。


「マスターを認めていただきありがとうございます」

「え、ええ、剣も鎧も修復してくれたし、魔導技師としての腕は認めています」

「その魔導技師の腕がマスターは突出しています。身体能力の弱さを補うほどに、リンデ様、あなたが認めてくれたマスターは必ずや悪魔像(ガーゴイル)を打倒する一助となるでしょう」


 主をこの村最弱だと断言した従者、だが同時に悪魔像も打倒できる存在でもあると言い切ったのである。


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