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第20話『過去と討伐隊』

本日3本目、今年のプチ目標達成

「村に秘密などないが」

「じゃどうして食糧難なのに他の村や町に行こうとしないんだ」

「あ、ああ、カズマ殿は転移されてきたのだったな、すまない当たり前のことすぎて説明するという感覚がマヒしていた」


 どうやら秘密ではなく単なる勘違いだったようだ。


「事情は知らないと理解していたのに、これは私の配慮不足であった謝罪する」


 深く頭をさげられてしまった。


「いや、そこまで丁寧にあやまらなくていいから、事情を教えて」

「わかった」


 レオリンデは色あせた地図の前に移動して話しはじめる。


「ここはフロトライン王国南方ユークスト辺境伯領の最南端、領地拡張を目指して作られた開拓村だ。北側の山脈はそれほど標高が高くないので南方都市との往来はそれほど難しくなかったのだが、三年前に北の山に悪魔が住みつき、山道を通る人間を襲うようになった」


 悪魔か、この飛行艦も対悪魔用だったな、もしかして返り討ちにあったのか。


「その悪魔ってそんなに厄介な存在なのか」

「悪魔が姿を現してから三年、山を越えこの村に辿り着いたのは私ともうひとり騎士バァルボンだけだ」


 三年でたった二人だけ、どれだけの数の人がこの村を目指してやってきたかはしらないが、いくらなんでも少なすぎるだろ。


「私たちは悪魔討伐のために派遣された騎士団の生き残りだ」


 最初は冒険者集団が討伐に派遣されたらしい、はじめにそこそこ優秀な冒険者集団がふたつほどやられ、トップレベルの冒険者集団も蹴散らされたことで、ユークスト辺境伯がお抱えの騎士団を派遣したそうだ。


「その騎士団の規模を聞いてもいいか?」

「主力として地上のルートを進んだのが五〇名。遊撃として空ルートからこのヒートレオン号で三〇名を乗せていた」


 総勢八〇名の討伐隊が敗れたのかよ。


「十分すぎるほどの戦力のはずだった。だから私が参加したいという我がままも父は許してくれたのだ。もっとも騎士見習いの私は遊撃部隊側に配置されたがな」


 対悪魔用戦闘艦が主力ではなかったのは、悪魔がいた場所が木々のしげる山の中で、自慢の主砲が狙いづらかったため資材や予備兵の輸送として用いられたからだそうだ。






『父上、私も父上と同じ主力部隊へ入れてください』


 あの頃の私は、まだこの鎧がピッタリとはまる幼い体であった。


『無理を申すな、本当は見習いのお前を連れて行くこと自体が特例なのだぞ』


 そう今回の討伐で騎士学科の見習いで参加するのは私だけだ、学友からは手柄を立てるチャンスだと羨ましがられた。どうして私だけが参加できるのか、それは父ライエン・フジ・ヴァルトワが討伐部隊の隊長であり飛行艦ヒートレオン号は我がヴァルトワ家の所有艦であったからだ。

 飛行艦の操縦技能を持っていたため予備操舵手との名目で討伐部隊に加えてもらった。


『でも!』

『わがままを言わないでくれ、レオリンデの顔に傷でもつけたら、私がディアンナに怒られてしまう』


 父上はそう言って、首に掛けられているペンダントを開く、そこには昨年病気で亡くなったお母様の絵が納められていた。

 お母様がいなくなってから、父上は心配性になったと思う。


『お穣様、これ以上は他の方々にも迷惑がかかります』

『わかりました』


 剣の師であり、私の護衛役も務めているバァルボンにたしなめられしぶしぶ引き下がった。今思えば、あのころは随分と子供であった。たった二年前の事なのに。

 母上が亡くなり、私と妹の面倒を見るために父は多忙であった。使用人に任せればいいのに、どうしても外せない任務以外は極力私たちと一緒にいるようにしてくれた。嬉しかったが、その行動が父の騎士としての立場を危うくもしていた。


 私はもう大丈夫ですと父上に伝えたかった。騎士としての仕事をまっとうして欲しかった。


 この討伐で一人前の働きをして父上を安心させたかった。


『頑張ってください父上、私も父上がピンチになればヒートレオンでただちに駆けつけますので』

『ハハハ、頼もしいなリンデ。だが残念ながら我が部隊は強い、お前の手をわずらわせることなく悪魔なぞ成敗してやるわ』


 父上は私の髪をくしゃくしゃと乱暴になでると馬にまたがり出発していった。


 私は学園にて剣術の成績トップを取った時に特注で父上にこしらえてもらった鎧を装備してヒートレオン号へ乗艦する。胸に刻まれたヴァルトワ家の紋章をひとりでも多くの人に見せたくて寒くても外套をまとうことはしなかった。


 ヒートレオン号は悪魔に気づかれないよう主力部隊の後方よりゆっくりと後を追っていた。

 悪魔は空を飛ばない、飛行能力を持っているのは一部の上級悪魔だけ、上級悪魔は聖なる結界に封じ込まれている。こんな所にいるはずがない。

 そのはずだった。


 しかし、体を吹き飛ばすほどの衝撃をもった爆音がヒートレオンを襲う。


『お穣様!!』


 壁に叩きつけられる所を私はバァルボンに助けられた。


悪魔像少佐(ガーゴイル・メジャー)だと!』


 バァルボンが窓の外で浮かぶ襲撃者を発見した。それは翼持つ悪魔像。ヒヒの体に牛の頭、蝙蝠の翼を持つダークパープルカラーの悪魔の石像。ヤツの口から放たれる光線が船体に穴をあけ、振るわれるサーベルのような爪が甲板の騎士を切り裂く。


 これだけ近づかれては対悪魔用の大砲も意味がない。


『翼を狙え、ヤツを地面に落とすんだ!!』


 バァルボンがガナリ声で指示を飛ばす。


 そうだ地面に落としさえすれば主力騎士団が父上が倒してくれる。そう期待したが船体が傾き見えた地上では、別の悪魔像の襲撃を受けた騎士団が隊列を崩壊させ逃げ去っていく姿であった。


 私は悟ってしまった。


 討伐部隊が負けたのだと。


『調子にのるな!!』


 船内に侵入されたことを察し、駆けつけてくれたのは青いローブを血に染めた若い女魔法士アーネットであった。彼女は風の上位魔法を悪魔像少佐の翼に叩きつける。若いながらも優秀な風使いで、平民ではあったが父上に魔法の才が認められ我が家の臣下に取り立てられていた。


 年は私よりも二つ上で、長女であった私は彼女を姉のように慕っていた。彼女も最初は主の娘だと遠慮があったが、こっちが遠慮なくつきまとっていくうちに、妹のように可愛がってくれるようになった。

 アーネットの渾身の魔法は見事に翼に命中すると、その醜い翼を根元から切り裂き船外へと叩き出す。


『ざまあみろ……』


 悲鳴をあげ落下していく悪魔像少佐、それを見届けたアーネットも床に倒れこんだ。

 すでに飛行能力をうしなったヒートレオンはどんどんと傾斜していき、アーネットの体も床をすべり悪魔像があけた穴へ吸い込まれていく。


『アーネット!!』

『ダメですお穣様!』

 アーネットを助けようとする私をバァルボンが抑え込み、近くにあったロープで自分と私を柱へと縛りつけた。

『アーネットーー!!』

 私はなにもできなかった。ただバァルボンに守られ、仲間が倒れていくのを見ていることしかできなかった。


 不幸なのか、幸運なのか、ヒートレオンは蛇行しながらも山脈を越え、この開拓村付近へ墜落した。こうして私レオリンデとバァルボンだけが山脈越えを成功させた。


 この船の乗員で生き残ったのは私たちだけ、ヒートレオンも飛行能力を失い、今では村の防壁の一部になっている。


 あれから二年、バァルボンの指導を受け体を鍛えた。学園での授業がいかに温室であったかを思い知らされた外界での魔物との戦闘、腕を折られながらもブラックボアをしとめた経験は着実に成長していると実感させられる。


 父上が無事なら討伐隊を再編成して迎えにきてくれるそう信じていたが、討伐隊がこの開拓村にやってくることはなかった。


 討伐隊はもう期待できないだろう。なら自分たちで打開するしかない、この二年飛行する悪魔像少佐を見ていない、アーネットのおかげで飛行能力が失われているのだ。それだけは確信がもてた。ならば山を越えられるかもしれない。いや、越えなければ来年の春にはこの開拓村は全滅してしまう。


 悪魔像たちの気配が少しずつだが山頂からこの村へと近づいてきているのだから。


 今日出会った不思議な魔導甲冑をきた少年。年は私と同じくらい、彼が悪魔像少佐の話しを聞いても恐れ一つ浮かべることもなく平然としていたことには驚かされた。


 少佐級どころか最下級の二等兵級の話しを聞いただけで震える騎士だっているほどの恐怖の代名詞、それが悪魔像(ガーゴイル)。それほどまでに着ている魔導甲冑の性能がいいのだろうか、もはや玉砕覚悟の突撃しかないと考えていた矢先のこの出会い、私たちにとって幸運であって欲しいと願ってしまう。

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