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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第三部 カナン魔導王国の光と影

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カナンの章・その3 マルムの実と公国の侵攻

 ルトゥール大森林郊外にある小さな果樹園。

 その果樹園でのみ実をつけるという不思議な果実マルム。

 必ず毎年実をつけるわけではなく、実に気まぐれで、それでいて実を収穫するものを樹々が選んでいるという。

 選ばれなかった者が実をもぎ取るとたちまち腐り果て、枝に付いたままだと苦くて食べる事が出来ず、その効果も発揮されない。

 食べると体力や魔力が回復し、更には身体能力が向上する。

 更に不思議な事に、食べる時に願いを込めると、ほんの僅かの確率だがそれは成就するという。

 多くの貴族や富豪がこのマルムの実を求めて止まないのだが、たとえ王族であろうと選ばれたものでなければ得ることはできない。

 まさに奇跡の木の実と呼ぶにふさわしい伝説が伝えられている。


――ガヤガヤガヤガヤ

 果樹園の正門には、大勢の人だかりができている。

 間も無く実をつけるであろうマルムの実を手に入れるため、遥か遠くの大陸からやってきた者もいるのだろう。

 話を聞いて、冷やかし半分でやってきたマチュアだが。

「ありや、これは駄目でしょう。こんなに人がいるのなら入手不可能だねぇ」

 と呟いて来た道を引き返そうとした時。

「あ、空飛ぶ絨毯のお姉さんだ」

 と街道横から子供の声がする。

「ん?」

 とそっちを見てみると、背中に背負い籠を持った子供たちが立っていた。

 籠からは大量の野菜や荷物が入っているので、どうやら収穫に行って戻って来たのだろう。

「えーっと、何処かで会ったかな?」

「ルトゥールで、その空飛ぶ絨毯に乗せてもらったのですよ。この前はありがとうございました」

 小さいながらしっかりと頭を下げてくる子供もいた。

「いいよいいよ。で、こんな所で何をしているの?」

「仕事が終わったので、家に帰るところだったのですが」

「この人だかりで中々帰れないのですよー」

「この時期は本当に嫌だなー」

 と大きな籠を手にした子供達が街道を歩きながら説明してくれる。

「みんなそこの子なの?」

「そうだよ。ラリィの果樹園にお世話になっているんだ」

 と告げる。


 子供たちの話によると、この果樹園は孤児院でもあるらしく、幼くして親を亡くしてしまった子供達が大勢暮らしているそうだ。

 子供達は果樹園の手伝いのほか、近隣の農家の手伝いをして、野菜や賃金を貰って生活をしている。

 ここの責任者であるラリィという女性が、いつからここに住み着いているのかは誰も知らない。

 けれど、この孤児院はもう200年以上、この地で子供達を護り続けているそうだ。


「で、ここにいる人達はみんなマルムの実が欲しくてやって来て、邪魔だと」

「そうなんだよ」

 と困った顔で説明してくれる。

 ちなみに裏口に回っている人たちもいて、子供達の話など誰も聞いてくれないらしい。

「そうか、じゃあ中まで送ってあげるよ」

 とバッグから一番大きな空飛ぶ絨毯を引っ張り出すと、それを広げて子供達全員を乗せる。


――フワッ

 と絨毯が舞い上がると、そのまま果樹園に向かって飛び出すのだが。

「おねーちゃん、果樹園は大人が入れない結界が張ってあって、触るとビリビリするよ」

(何ですと!!では結界無効化と)

 慌てて忍者のスキルを発動すると、大勢の人達が見ている中でマチュアは結界に向かって飛び込んだ。


――スッ

 と結界をくぐり抜けると、そのまま建物の入口まで飛んでいく。

「き、君、私も中に入れてくれたまえ!!」

「そこの女子っ。頼むから」

「私達の代わりに交渉してくれっ!!」

 という叫び声が聞こえるが全て無視。


――フワッ

 と絨毯は地面に降りると、子供達は籠を手に建物の入口へと走って行った。

「おねーちゃんありがとー」

「ありがとうございました。また乗せて下さい」

「あ、ありがと……」

 とお礼を告げる子供達に手をヒラヒラさせて、マチュアは絨毯を小さい方に交換して飛び乗る。

 そしてゆっくりと飛び上がると、子供たちに手を振った。

「じゃあねー」

 と果樹園の出口へ向かう途中。

「あの、子供達がお世話になったようでありがとうございました。お茶でもいかがですか?」

 と、一人の女性が建物から走って出て来た。

 一見すると修道女にも見えるが、装飾品などはそれっぽくはない。

「いえいえ、大したことはしていませんからお構いなく」

「子供達がお世話になったのに、そういう訳には参りませんので、是非とも」

 此処まで請われると断るのは失礼。

 と言うことで絨毯から降りると丸めて玄関に立て掛け、お茶を頂くことにした。


――ピッピッ

『良いですね、お茶。私も飲みたいです』

(おやツヴァイ、状況は?)

『今晩。ゴルドバ主催のパーティーです。招待客の中にはグラシェード大陸の貴族たちが何名か、正体を隠して混ざる模様です。パーティーを名目にした諜報活動と推測されます』

(了解。引き続きお願いします)

――ピッピッ


「どうなされました?」

 と壁に手を当てたままツヴァイと念話で話をしていたので、そう問いかけて来たらしい。

「いえいえ、いい壁だなーと思いまして」

「クスッ。こちらへどうぞ」

 とお世辞にも立派とは言えない応接間に案内される。

 そこの長椅子に座ると、室内をそーっと見渡す。

 古めかしい調度品が彼方此方に並ぶ。

 そして先程の女性が紅茶を持ってやってくると、慣れた手つきで紅茶を入れてくれた。

「あまりいいおもてなしが出来ずに申し訳ありません。こちらをどうぞ」

 と淹れたての紅茶と、恐らくはアップルパイのようなものであろう焼き菓子が目の前に置かれた。

「それでは遠慮なく頂きます」

 と差し出された紅茶を口元に運ぶ。

 心地よいりんごのような香りが鼻孔をくすぐる。

 一口飲むと、口の中に程よい酸味とりんごの甘みが広がっていく。

 そして全身から疲れが抜け、魔力が活性化していくのを感じる。

 気のせいか、全身がほのかに発光しているようにも感じられる。

 というか発光している!! 


――ピカーーーッ

「こここここここ、これは一体なんですか?」

「この果樹園で取れるマルムの実を使った紅茶です。名前は無いのですが、そうですね。マルムティーということで」

 と微笑みながら教えてくれた。

「これは凄いですね。疲れも取れますし、魔力が活性化しますよ」

 とアップルパイも口に運ぶ。


――ピカーーーッ!!

 再びマチュアが発光すると、ラリィはクスクスと笑っていた。

「どうやら、今年のマルムの実は貴方を選んだようですね」

「どういう事ですか?」

「このマルムの実は、元々は亜人様のすまうエーリュシオンの大森林でのみ収穫できる『神々の果実』なのですよ。食するものに様々な奇跡をもたらすと言われていまして、それが原因でご覧のように大勢の人達がこぞって買いに来てしまうのですわ」

 と困ったような顔で説明する。

「で、私が選ばれたというのは?」

「マルムの実は収穫者を選びます。私やここの子供たちは普通に収穫することも出来ますし、それを売ることも出来ます。けれど、マルムの実を受け取った者が選ばれたものでない場合、それは只の美味しい果実になってしまいますわ」

 と説明をしてくれるラリィ。

 ひとまず紅茶で喉を潤し、アップルパイをのんびりと食べる。

「で、その選別者の見分け方が、先程の輝きということですか?」

「ええ。先程の輝きがそうです。食した者がほのかに輝くのですわ」

 ということでマチュアは納得。

 ほのかという言葉に疑問はある。

 先程の輝き、下手をすると窓の外まで広がっている可能性がある。


「ちなみにですが、選ばれたものが手にしたマルムの実は、他のものに分け与えてもその効果は持続するのですよ。その為なのか分かりませんが、毎年一つ、多くても三つ程度しか実をつける事は無かったのです。ここ数年は一つも付かなくて困っていたのですわ」

 そう説明すると、ラリィは廊下に出ると子供たちを呼ぶ。

 そして今年の収穫分を持ってくるように命じている。


 マチュアが選別者となったので、マチュアが手を触れれば誰が食べても効果は発揮するという事らしい。

 つまり、料理にもつかえるしデザートにも十分な食材であるが、絶対数が少ないのは理解した。

「一つお尋ねして宜しいですか?」

「はい」

「マチュアさんは商人でしょうか? もしそうでしたら、このマルムの実を買い取って頂きたいのですが」

「そういうことでしたら、喜んで買い取りましょう。おいくらで?」

「こういう場所ですから、お金はあるだけあったほうがいいので。建物もそろそろ修繕しないと行けませんし‥‥一つ金貨一枚でいかがでしょう?」

 高級リンゴ一つ一万円。

 マチュアは暫し腕を組んで考える。


(まあ、あるだけといっても、これだけ不思議な果実だ。話から察するにせいぜい多くても3個程度だろう)


 と結論に達した。

「よし、では今年の分をあるだけ買い取りましょう」

「助かりましたわ‥‥毎年選ばれる方が居らっしゃらない場合は売れないので、干して先程の紅茶のように加工したりジャムにしていたのですよ。今年の分も何個か紅茶やジャムにして食べていたのですが」


――ドサドサドサドサッ

 大量の籠が運び込まれた。

「今年はとても大豊作で、困っていましたの」 

「ふぁ? こ、これ何個あるのですか?」

 かなり動揺しているマチュア。

「1000個までは数えたのですが、そこでもう嫌になってしまいまして。まとめて1000枚でいかがですか? そうすれば、ここの修理も出来ますので助かります」

(うぉう。金貨1000枚かぁ。白金貨で‥‥10枚? あ、白金貨にしたら高くないや)

 金銭感覚が崩壊しているマチュア。

 正確には、動揺が収まらなくなっているだけである。

「では‥‥」

 とバッグから金貨を1000枚取り出してテーブルに置く。

「空間拡張のバッグですか?」

「そ。それじゃあ貰っていきますよーと」

 次々とスモールザックにマルムの実をしまい込む。

 そしてそれを空間に放り込むと、ダイレクトに空間からマルムの実だけを取り出すことが出来る。

 これは最近になって分かった裏技である。

「それじゃあありがとうございました」

 と頭を下げると、マチュアはラリィと共に建物の外に出る。そして立て掛けて‥‥ない、広げて子供達の乗っている絨毯に近づく。

「ありゃりゃ。これそんなに乗りたいのかい」

「うん」

「そっか。ちょっと待っててね」

 と大きめの絨毯を取り出すと、魔導制御球コントロールオーブを取り出して条件の上書きを始める。

「コントロールセット、オーナー権限は解除、場所を指定。この果樹園の敷地内でのみ、使用を許可する‥‥よし」

 と新しい絨毯をラリィに手渡す。

「これは?」

「それは、これですよ。こらこら、あっちのは此処においておくから、そっちは返してね」

「おねーちゃん、あれくれるの?」

「そ。ここの皆のものだよ。その代わり、この果樹園の中でしか飛ばないから気をつけてね。ここから外には持ち出さないこと」


「「「「「はーい」」」」」


 と元気な声でラリィの元に向かう子供達。 

 そしてマチュアは子供たちから絨毯を返して貰うと、それを広げて飛び上がる。

 その光景を見ていた商人たちが『オオ!!』、と驚きの声を上げているがもう慣れたものである。

「それじゃあありがとうございました。また遊びにくるねー」

「このようなものをありがとうございました。あの、お名前を伺っても宜しいですか?」

「カナンで馴染み亭っていう酒場をやっていますマチュアと申します。カナンの女王陛下と同じ名前なのは偶然ね。わたしも会ったことあるし。もし困ったことがあったらご連絡下さい」

 と頭を下げて、結界無効化を発動してピューッとその場から高速で逃げる。

 間もなくして、後ろからマチュアに向かって叫んでいる商人達がいるが、それを全て無視して一気に加速すると、道のない森林の上空へと飛んでいく。



 ○ ○ ○ ○ ○



 道に迷った。

 大森林の上空に出ようとも思ったが、肉食の怪鳥が上空で飛び回っているのであまり危険な事はしたくない。

 無益な殺生はしたくないし、あまり大きい音を出して集まって来られるのも気まずい。

 という事で、森の中をゆっくりと飛んでいるのだが、完全に道を間違っていた。

「ありゃー。来た方角はあっちで、街道からこっちに抜けて‥‥あら、思いっきり東だわ」

 と頭をポリポリと掻きながら、マチュアはとりあえず小道を進む。

 低空で森の中という事もあり、空飛ぶ絨毯から魔法の箒に乗り換えてある。

 やがて草原に出た時、目の前にある巨大な建造物を見て一言。

「うーむ。やはり道を間違ったか‥‥」 

 知らない旗を掲げてある、巨大な城壁。

 おそらくは隣国との国境を示していると思うのだが、ずいぶんとカナン寄りにあるように感じる。

「まあ、確認にいきますか。と先に定時連絡だな」


――ピッピッ

「こちらマチュア、何かわかった?」

『ゴルドバが真っ黒だということだけ』

「ほう。といいますと」

『ゴルドバはカナンの隣国が北方大陸と手を組むための交渉を行っています。自分の商会の船を使って兵員を送り込み、ククルカン王国とラマダ公国がファナ・スタシア及びカナンに攻め入るタイミングを伺っています。カナンとファナ・スタシアの二つを落として、ウィル大陸に来るための安全な航路と豊富な魔導器を手に入れようと』

「で、それはいつのことなの?」

『まだ話題に出たばかりで、侵攻などは始まっていません。グラシェード大陸のシュトラーゼ公国にはまだ話を持っていっていないようですが、ククルカン王国とラマダ公国の公爵家の使いの者は参加していました。話はすぐにいくかと思われますが』

「了解。そのまま調査。可能ならその公爵からの情報も聞きたいわ」

『了解です』

――ピッピッ


 と通信が終わる。

 マチュアは箒をバックにしまい込むとエンジに姿を切り替える。

 いかにも迷った冒険者のように振る舞って城塞に近づくと、城塞の上にいる監視員らしきエルフに話しかけてみた。

「あの‥‥ちょっと道に迷ってしまって‥‥」

 と告げた刹那、エルフは素早くマチュアに向かって弓を射る。


――ヒュンッ

 素早く飛んできた矢を手で受け止めてしまう。

「おおっと、しまった、つい!!」

 と叫ぶと同時に閉ざされていた門が開き、中から見たこともない鎧の騎士たちが飛び出して斬り掛かってくる。

「ちょ、ちょっと待って下さいよっ」


――ドゴォッ

 取り敢えず正面の騎士に双掌打を叩き込んで、遥か後方に吹き飛ばす。

「ここを見られた以上、君には死んでもらう」

「い、いえ、それは勘弁を」

 とすかさず踏み込んで肘打ちを入れると、その後ろの騎士に向かって背中からの体当たりで後方に吹き飛ばす。

 お得意の裡門頂肘(りもんちょうちゅう)鉄山靠(てつざんこう)である。

「門を閉めろ!! 上から射殺せ!!」

とエルフが叫ぶと、次々とエルフが姿を現して次々と矢を放って来る。

理力の壁(フォースフィールド)っ。ですから、話を聞いて下さいよぉ」

 飛んでくる矢は全て、マチュアの手前にある見えない壁にぶつかり弾け飛ぶ。

 数名のエルフは光の矢や炎の矢を飛ばしてくるが、全て理力の壁(フォースフィールド)によって阻まれてしまう。

 発動者の魔力によって強度と持続時間が上がるので、この程度の魔法など恐るるに足りず。

「この場所はカナンではなかったのですか!! 貴方たちはここで何をしているのですか!!」   

 と必死に叫ぶが、騎士やエルフは攻撃の手を休めることがない。

 やがて門の向こうから、馬に乗った黒い騎士が飛び出してくるとマチュアに向かって両手剣を叩き込んでくる。


――ドゴォッ

 それを理力の壁(フォースフィールド)で受け止めつつ、後方に飛ぶマチュア。

「ふん。ここで死ぬ貴様には教えてやろう。ククルカン王国はこの地をカナンなどというふざけた国に明け渡した覚えはない。我らはこの地を取り戻すだけだ」

「‥‥ということで、なら、私も本気でいいのですか」

 とマチュアは素早く術を発動する。


高機動戦闘補助(フルバーニアン)っ」

 瞬時にマチュアの全身が光る。

 そしていつものように、修練拳術士(ミスティック)としての戦闘を続けていた。

 目の前の黒騎士は双掌打一撃で全身の鎧が砕け散り、飛んできた魔法と矢は手前で蒸発する。そのまま砦に飛び込むと、襲い掛かってくる騎士は全て当身で倒し、逃げ惑う騎士は魔術で眠らせる。

 僅か48分で、城塞は完全に沈黙した。

「しっかしまあ‥‥色々と面倒くさいねぃ」

 と一人ずつ縛りあげて部屋に放り込んでいく。

 兵士たちが使っているのであろう4つの部屋に騎士たちを放り込むと、マチュアは扉に『魔法の鍵(マジックロック)』を施す。

 そして彼方此方あちこち調べて指揮官らしき部屋から大量の書簡を手に入れると、マチュアは一旦ルトゥールのアマンダ邸へと転移して元の姿に戻った。


――ヒョンッ

「こ、これはマチュア‥‥様ですか?」

 入り口の騎士が突然現れたマチュアに問い掛ける。 

「えっと、急ぎアマンダに会いたいのですけれど」

「しょ、少々お待ち下さい。今すぐに連絡をしてきますので」

 幻影騎士団でも白銀の賢者でも無いので、騎士は普通の事務処理を行う。

 すぐに正門が開かれて、アマンダが頭を下げて待っていた。

「と、突然どうしたのですか?」

 と部屋に案内しようとするが。

「はい、ククルカン王国がカナンに侵攻するための計画書だよ。騎士団を集めて、捕まえた騎士達をこっちに運びたいのだけれど、手伝ってくれる?」

 と入手した書簡の一つを手渡す。

「直ちに。騎士団長に連絡を、大至急眠りの騎士団(スリーピングナイツ)を招集します」

 とアマンダが次々と指示を飛ばす。

 その横では、マチュアは指示書を一つ一つ読みといでいく。

「まったく違う指示書がいくつもあるけれど、この指示書に記されている紋章や数字の羅列が多分正解を示しているのだろうなぁ‥‥」

 深淵の書庫アーカイブでもそれらの暗号解読は出来ない。

 ここはマチュアの発想だけが勝負の鍵である。

 次々と騎士団が邸内に集まってくる。

 そのうちの一人が、通りすがりにマチュアの書簡をみて一言。

「あー、その書簡の指示は明日ですね」


――ハァ?

「ちょ、どうして判るの?」

「僕は元々ラマダ公国の出身でして。ほら、この書簡の上の紋章は日付を表しているのですよ。この下の方の数字は時間ですね。で、右下にあるこの魚の紋章は、これが偽物であるということですよ。あまり知られていませんけれど、これはラマダ公国のシーフギルドの暗号ですよ。貴方のような侍女さんにはちょっと難しい文字ですよね」

 ペラペラと偉そうに説明してくれる。

 しかし、この知識は使えると予測した。 

「つまり、それは全てを解読した上で偽物であるということです。他の書簡を見せて貰えますか?」

「はい。これで全部です」

 と手にした他の書簡を、目の前の若い騎士に手渡す。

 それを一つ一つ眺めていると、ふとある書簡に手が止まる。

「なんでわざわざ古ククルカン文字を使っているんでしょうねぇ‥‥それに、ここは文法がおかしいですよ。まるでこれを読める人が居ないことが前提のように、それでいて文字は古ククルカンの書体です。暗号の部分から考えると、10日後にカナン侵攻を開始するという事ですね。これとこれは囮で、偽物のマークがありますから‥‥」

 と全ての書簡を並べて解読を始める。

「あい、そこの若い騎士。はやく整列しないか」

「は、はい。では」

 と騎士団長らしき人物に怒られて立ち上がるが。

「君はそのまま解読を続けて。騎士団長、この子はここで解読をお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」

「ハァ?  君は一体何を考えているのかね? 騎士団関係者以外のものが我々に口出しするなど‥‥」


――シュンッ

 一瞬で白銀の賢者モードに切り替わる。

「など?」

「など‥‥誠に申し訳ございませんでした陛下。只今の無礼、平にお許し頂きたい」

 すかさず謝罪して跪く。

「いや、それは別にいいんですけれど、少しは話を聽いて下さいよ」

「ま、誠に申し訳ない‥‥」

「という事で、君はちょっとここで待機していて、それを解読してくれる? 二人程補佐でここに残って、後は魔法陣で現場に向かいます。という事で宜しいですか?」

 と騎士団長に問い掛ける。

「はっ。陛下自らの指揮だ、恥ずかしい真似はしないように」

「あ、私は指揮しませんので、まず現場に着いてから詳細は説明します」


――ブゥゥゥゥゥン

 と巨大魔法陣を発動せさせると先程の座標と繋ぐ。

 マチュアはローブを普通のものに変更し、仮面を着けて正体を隠す。

「現場では私を陛下と呼ばないように、まだ敵が潜んでいる可能性もあるので」

「ではなんと?」

「今日は仮面の魔法使いペルソナでお願いします」


――シュンッ

 と一瞬で全ての騎士を、先程の城塞の外に転移させる。

 そこで先程の状況を説明すると、すぐさま騎士団は城塞内部に突入した。

 捕らえていた者達を外に連れ出し、全ての書簡を回収する。

 蓄えられていた食料や武具なども次々と運び出すと、すべて魔法陣の中に並べていく。

 その様子をマチュアは静かに見ている。

 時折城塞からそっとカナンと反対側の方を確認するが、先程の戦いから逃げたものは居なかった模様。

「で、次はどうしますか?」

「本来でしたら、この場に騎士を留まらせてここを使わせないようにするのが良いのですが、万が一襲撃にでも遭うと退路がありませんし、何より向きが逆なので守るにも使いづらいですな」

 内部調査など全てを終えた騎士たちが、次々と騎士団長に報告する。

 それから導き出したのが、先程の答えである。

 実に模範解答であると、マチュアは感心した。

「という事で、ここは破壊しますか」

「それは解読が終わってからという事で。先程の意見は実に素晴らしい」

 と説明すると、マチュアたちは一旦ルトゥールに帰還する事にした。

 


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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