微睡みの中で・その15・帝都サムシングで学校を建ててみよう5
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
何だかんだと、カナン魔導学院の建築が始まって三か月。
無事に全ての施設が完成した。
工事開始から二か月目からは、建築ギルドも折れたらしくマチュアに頭を下げて参加し、さらに魔道具ギルドには魔導工具の図面と術式も提供。それをもとに、イスフィリア帝国初の国産魔導工具第一号が完成した。
魔道具ギルドは、知識としては元々下地はあったのだが魔術を理解していなかったため、心力ベースでどうにか修復をしていたらしい。そのためマチュアは魔道具ギルド院に錬金術のレクチャーを行い、どうにか3名だけが錬金術の初歩を習得、そのレベルに合わせた簡易的な魔導工具の設計図を受け取ってどうにか完成させていたのである。
そして無事に完成し、本日は貴族院重鎮及び王家、各領土の領主や代表、各種ギルドからの代表も集まってのお披露目会が始まった。
場所は学院の中にある総合グラウンド、周囲を見渡せるほどの高い席に作られた『王族専用貴賓席』や『貴族用指定席』、その他町の市民が自由に入って見学するための『自由席』まで用意し、さらには商会ギルドを通しての露店コーナーまで充実している。
しかも、アドラー王国からカナン商会本店がゴーレム馬車を率いての甘味処を出張開店、まだイスフィリア帝国ではなじみのない、というか存在していない未知の甘味とあって、開店前から大勢の客が列をなしていた。
――パパパパパーーーーン
次々と打ち上げられる花火に、観客たちは驚き何事かと動揺する。
だが、マチュアがすぐさま風精霊魔術によって声を会場内に拡散してアナウンスを始めた。
「レディースアンドジェントルメーン。これよりカナン魔導学院創設セレモニーを行います。まずはカナン魔導学院創設にあたってご協力いただいた、カエザル・リヒト・イスフィリア陛下より、お祝いの言葉をいただきます」
その言葉のち、カエザルは王族用貴賓席で立ちあがると、ベランダ場の席から眼下を見下ろす。
「このイスフィリア帝国が新しい時代に進む第一歩の場所に出会えた事は、予としても大変光栄である。ミナセ先皇帝は古い慣習に囚われたイスフィリアを目覚めさせるべく、失われた太古の魔術やスキルを学ぶ事の出来る場所を我々に提供してくれたのだ。これは、我らイスフィリアにとって大変喜ばしく思う!!」
この第一声で、集まった市民や貴族は驚嘆の声を上げた。
いつミナセ皇帝が即位したのか、そんな事実はどこにもない。
だが、カエザルの言葉は、イスフィリアの貴族たちには貴族院を通じて正式に通達されている。
なので貴族たちは全員、右手のひらを胸元に当てる啓礼の姿で、じっとカエザルの言葉を聞いていた。
「ミナセ先皇帝は退位し私が再び皇帝となった。そしてミナセ先帝は大公となり、このイスフィリアに繁栄の道を示してくれている。この、偉大な日を、皆で喜び分かち合おうではないか!!」
――ワーーーーーーーーーーーーーーーーッ
歓声が沸き上がる。
カエザルコールが沸き上がるが、やがてそれは静かになっていく。
「続きまして、当学院講師によるデモンストレーションを行います。皆さんグラウンド中央をご覧ください」
グラウンド中央に作られた巨大な石畳。
そこの中央には、シノビ装束のポイポイと銀の鎧に身を包んだミレーヌの姿があった。
「ミナセ大公家直属の暗部であるポイポイ師範と、同じく大公家唯一のロイヤルガード・ワルキューレのミレーヌによる模擬試合を開始します!!」
――パーンパーン
軽く空砲が鳴り響くと、舞台中央にいたミレーヌとポイポイがお互いに頭を下げる。
そこから始まる激しい戦いに、観客は言葉を失ってしまう。
見たことのない技の応酬と、それを受け流す技術
心力により強化された一撃が空を切り裂き、それがぶつかり合い衝撃波が周囲に飛び散る
その攻撃が人間同士の技であるなと、いったい誰が想像していたであろう。
コンバットアーツと呼ばれるスキルは存在するが、それでもスマッシュやダブルアタックなど、ポイポイに言わせれば『超初歩技術』でしかない。
だが、今ポイポイとミレーヌが打ち合っていた技はそんなものではない。
全てが新鮮で、それでいて心が揺さぶられる。
見ていた騎士や冒険者は、二人の放つ技に一喜一憂し、それをどうにか知りたい、覚えたいと興味津々である。
その戦いは一時間近く続いた。
そして最後は、ポイポイがミレーヌの首筋に刃を突き立てて終了した。
汗を殆どかいていないポイポイと、全身汗まみれで肩で息をしているミレーヌ、その実力差は誰の目から見ても一目瞭然であった。
‥‥‥
‥‥
‥
その後も次々とデモンストレーションは続けられた。
アーカムによる魔術の披露では、あらかじめ用意してあった金属製の案山子をターゲットとした攻撃魔術を始め、皇帝騎士団に対しての様々なバフ、それを受けた騎士団との模擬戦と、濃い内容のデモンストレーションが行われた。
そしてカールグレイ・レイモンド改めキングズマン司祭は、中央の祭壇で『聖大樹教会の説法』を行い、更に予め希望者を募って集まってもらった怪我人や病人に神聖魔術を施して回復させるという奇跡を行った。
もっとも、命の危機にかかわるような重篤な患者には予め治療は施してあり、今回のデモンストレーションに協力してくれたのはそこに含まれない患者達である。
それでも、戦場で腕や足を失った古参の騎士たちは真新しく再生した自身の体に感動し、大樹に祈りを捧げていた。
そして、最後はマチュアの公開錬金術である。
「それでは、私の錬金術を披露しますね。予め入場者の方には、最初に入口でアンケートを取ってあります。それには『作って欲しい魔導具』という項目がありましたよね? ここで抽選していくつか作って見せましょう!!」
――ザワザワザワザワ
ただのアンケートかと思っていた観客は、突然のマチュアの宣言に一瞬静まり、そして興奮のるつぼに突入した。
冒険者にとっては、古代遺跡やダンジョンでしか手に入る事がないマジックウェポン、そして市井の人々にとっては喉から手が出る程欲しい夢の道具である。
それを、今、この場で作ってもらえるという事は、奇跡以外の何物でもない。
「それでは時間の関係で5つだけね‥‥と、おや?」
目の前に置かれている抽選用の箱、そのテーブルの上にある小さなメモにマチュアは気が付いた。
『この方は確実に当選させてください。商会ギルドマスターより』
そう書かれたメモの下には、あらかじめ用意されていた3枚の当選者のアンケートが置いてある。
ならば、マチュアがこれを選ぶ筈がない。
ちらっと見て、そのまま無視して抽選箱の前に立つ。
「それでは、抽選は公平に行きます。まずは一人目、えーっと‥‥商業区3-21-15の、マリーアちゃんかな? 希望は『お母さんの病気が治る薬をください』ね。はい、これはキングズマン司教の出番なので、すぐに対処お願いしますね。マリーアちゃんには後日、直接魔導具を作ってあげるので、続いて二人目‥‥と」
続いて二人目は、カナン商会が引いていたゴーレムホースが欲しかった商人が当選。
すぐさまステージの上でゴーレムホースと、ついでに馬車もセットで作って見せると、ステージ上で権利をその商人に書き換えてあげた。
これには会場全体が大興奮、ゴーレムホースを用いた馬車など公爵家しか所持が許されていないのだが、マチュアが大公家として商人に差し上げたのである。
これには受け取った商人も緊張のあまりカチコチになっていたが、マチュアからゴーレム馬車一式を受け取ってからは、笑顔が止まらなくなっていた。
そして三人目は冒険者、マジックウェポンとマジックアーマーが希望であったので、すぐさまマチュアは自分の予備のフルプレートとロングソードを取り出して魔法陣に放り込み、錬金術により魔力付与を開始した。
「材質はミスリルで、防御力特化で重量軽減、関節可動部については柔軟性も兼ね備えて、ついでにサイズの自動変更も付けておくと。ロングソードもミスリルでいいか、斬撃強化と耐久力強化、そんでもって切れ味が落ちにくいように処置して‥‥こんなものかな?」
次々と処理を始めるマチュアだが、貴賓席では真っ赤な顔の貴族が商会ギルド員相手に何か怒鳴り散らしている様子がうかがえる。
(はぁ、あの席ととなり、そのさらに隣が不正働いていたのか‥‥なら、このまま無視してやるわ)
そんなことを考えつつも、10分程度で魔法の鎧と武器一式が完成。
それを冒険者に手渡すと、小躍りするようにステージから飛んで行ってしまった。
そして入れ替わりに商会ギルドの事務らしき人がマチュアの下にやってきて、小声でボソッと呟き始める。
(あの、ミナセ大公、箱の前に置いてあった指示書はお読みにならなかったのですか?)
「読んだけど無視ね」
(えええ、それは困ります。そのメモにある伯爵様たちからは、多大な寄付を受けているのですよ)
「でも、不正だよね? それは私には通用しないから‥‥」
そう告げてから、マチュアは無視して抽選を続ける。
結果、残りの二人もすぐに決定し、普通の市民には空間拡張された魔法のバッグと、冒険者はゴーレムホースのみを手に入れてこの錬金術のデモンストレーションは無事に終了した。
‥‥‥
‥‥
‥
そして全てのプログラムが終わると、マチュアが最後にグラウンド中央のステージに立った。
「我がカナン魔導学院は全てに対して公平です。我が学院の正門をくぐった時点で全ての生徒は公平であり、爵位などの身分は存在しないものとなります。そして入学するためには当然ながら試験があります。まずは今から一か月間、試験を受ける為の申し込みを受け付けますので、希望者は正門横の受付で手続きを行ってください‥‥それでは、本日は長々とお楽しみいただきありがとうございました」
最後の挨拶の後、明日から一週間はオープンキャンパスとして学院を開放、自由に出入りしてよいと説明。その期間中は露店も連日開かれる為、市民だけでなく遠方や隣国からきた商人達が、こぞって学院に足を向けていたのはいうまでもない。
なお、この翌日、マチュアは大勢の貴族による来訪を受ける事になる‥‥。
今回はマチュアに合掌。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






