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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
65/916

2 通過儀礼だよね


荀或・夏侯淵が臣従して、“恒例”の説明会。

荀或──文若は仕方が無いとしても夏侯淵──妙才の反応は他の皆の予想に反し淡白な物だった。

誰彼構わず“惚れる”様な事はないだろうに。

決め付け過ぎだっての。



「自業自得でしょ?」



…俺限定の読心歴の猛者が居るから厄介だ。

というか、正論だよね?、俺悪くないよね?…って、今度はスルーかい。


ひっそりと溜め息を吐き、思考を切り替える。



「文若、お前に言って置く事が有る」


「な、何でしょうか?」



息を飲み緊張した面持ちで姿勢を正す文若。

肩の力を抜いても良いが、今回は大切な事だから今のままで進める。



「これは“軍師”に限らず“上”に立つ者全てに対し言える事だが…

“差別”意識は直す様に」


「わ、私は差別は…」


「お前自身がしてない様に思っていても対外的に見た場合に、そう見える

その原因は“男嫌い”だ」



否定しようとした文若に、真っ向から言い切る。



「“男嫌い”自体が悪いと言う訳じゃない

“男だから”と一括りにし侮蔑する事が問題だ

余計な亀裂や火種等を生む要因にもなる

一軍師として見て、お前はそんな者をそのままにして置けるか?」


「………いいえ…」



理解すれば判る。

自身の態度や言動が如何に傲岸不遜か。

危うい物であるか。



「だったら、判るな?

今直ぐに、とは言わない

だが、他者と接する際には十分に注意しろ

全ての者が、お前の性格や“男嫌い”を知っていたり理解・許容している訳でもないからな…

自身だけではなく、荀家、そして曹家の風評を貶める事になると覚えて置け」


「………判りました」



力無く項垂れる文若。

今まで面と向かって叱責を受けた事は少ないだろう。

“名家の娘”という立場や肩書きが障害になり彼女を正そうとする存在が身近に居なかった。

また“同性”である事も、同情や共感を生み、彼女の意識を肯定してきた要因の一つだったと思う。



「権力・地位を笠に着て、他者を見下して蔑む者など今の世の中で私腹を肥やす豚共や老害共と同じだ

お前には、そんな愚者共と同じ輩に墜ち、成り果てて貰いたくはない」



項垂れた文若の頭を右手で少し強く、撫でる。



「その“王佐の才”を汚し“咲く”事無く終を迎える様は見たくはない…

ゆっくりで良い…

一歩ずつ、確りと進め」



蕾のまま腐らず、咲かせ。

天下を彩る“才花”を。




洛陽を発って二日目。

少々“寄り道”も有ったが概ね予定通り。

既に視界には許昌の外壁が見えている。

日は大分傾いたが黄昏にはまだ少し早い。

午後四時から四時半位か。



「…どうしたの?

緊張する程“殊勝”な質はしてないでしょ?」


「反論したいが、否定する要素が無いから享受する」


「賢明ね…それで?」


「…俺だって男だからな

婚約者の親に会うとなると多少なりとも緊張するさ」



“娘さんを下さい!”的な通過儀礼を考えるとな。

…ああ、いや、俺の場合は“貰って下さい!”か?

入り婿になる訳だし。

…いやいや、此処は単純に“結婚させて下さい!”が正解だろう。



「何でも良いわよ?

私が貴男と一緒になる事、正式に貴男が曹家に入る事には変わりないもの」



…悩んでた俺って何?、と誰かに訊きたい。



「取り越し苦労ですね」



笑顔で返してくる漢升。

俺にプライバシーは無いと言う事なのか。

というか、何気にお前等、良い連携してるな。



「…男の家臣探そうかな」


「私情を交えて“見る”と目が曇ると言ってたのは、何処の誰だったかしら?」


「…拙者に御座る」


「なら、止めなさい

あと、変な口調もね」


「はい…」



もういいや…いいもん。

不貞寝するもん。



「寝るのなら此方へ」



自分の“番”である仲達が膝を手で払って期待をする眼差しで見詰めてくる。

加えて、華琳の揶揄う様な視線も感じる。


──ええい、ままよっ!、どうにでも成れ。






━━許昌


意外と自分が図太い神経をしてると知った。

いや、まあ、皇帝を相手にガチ交渉したりしたけど。



「この子達は絶影と一緒の厩舎に、出来るだけ近くの馬房にお願いね

馬車は一旦倉庫に回して

後で扱いを決めさせるわ」



華琳が出迎えた兵達に対し指示を飛ばしている。

というか、今、然り気無く俺の仕事作ったな。


他の皆は私物を下ろし終え侍女達に各々が使う部屋に案内されて行った。

先に返した兵に母宛の文を持たせていた様で既に用意されていた。

御丁寧に予備の分まで。


俺?、左腕を捕まえられてどうしろと。

兵や侍女の“この方が…”的な視線が居心地の悪い事この上無い。



「さあ、皆との対面の前に会って貰うわよ」


「了解」



いよいよ、か。


五年──華琳にしてみれば十年越しの大願の成就。

漸く、その時を迎える。




 曹操side──


彼──雷華を連れ御母様の待つ部屋へ向かう。


この時が来る事をどれだけ待ち侘びていたか。

漸く“始める”事が出来るのだと思うと、感窮まって涙が出そうになる。

でも、まだ早い。

“嬉し涙”を流すにしても全ては“これから”だ。


部屋の扉の前に立ち右手を上げ、拳を軽く握って──“ノック”する。

雷華に教わり、曹家内では日常的に使われている。



「──どうぞ」



御母様の声が返り、雷華を見て頷き合う。



「失礼します」



扉を開けて部屋に入ると、御母様は中央に有る円卓の傍らに佇まれていた。



「…あら?、確か旦那様を連れて来ると言っていたのではなかったかしら?」



普段から、おっとりとした質だけに小首を傾げる様も此方の緊張を殺ぐだけ。

つい、溜め息を吐くと身体から力が抜ける。



「──」


「──失礼ですが曹嵩様と御見受け致します」



“御母様!”と言い掛けた私の声が発する前に雷華は一歩前に出て訊ねた。



「はい、私が曹巨高です」


「御初に御目に掛かります

私は姓名を曹純、字を子和と申します

この様な容姿の為に、度々間違われる事も有りますが生まれついての男です」


「まあ…それは大変失礼を致しました」



御母様の名乗りに返答し、やんわりと訂正をする。

流石というべき判断ね。



「御母様、立場話も何です

座って話しましょう」


「そうですね」



御母様を促して円卓を囲む椅子に腰を下ろす──前に茶壺へと触ろうとしている御母様の右手首を側に寄り右手で掴む。



「私が、淹れますから」


「そう?」


「はい、ですから御母様は座って下さい」


「では、お願いね」



御母様が椅子に座った事で安堵して一息吐く。

顔を上げると、雷華と目が合い“察した”故に複雑な表情をされた。

…御母様の馬鹿。


気を取り直して茶壺を取り用意されている三つの茶杯へと茶を注いで行く。



「それでは…子和くん、で良いのかしら?」


「真名は雷華と申します

宜しければ其方らで呼んで頂ければと思います」



御母様の“くん”発言には思わず手元が狂って溢す所だった。

平然と返している雷華も、内心は苦笑している筈。

娘としては雷華の微笑みが羞恥心を掻き立て、身悶えそうで仕方無い。



(…お願いだから、早く、無事に終わって頂戴…)



──side out



 曹嵩side──


華琳が将来を誓ったと言う“想い人”を連れて戻った事を聞き、早く会いたいと楽しみにしていた。


連れて来た人が綺麗な女性だった時は娘の“将来”に不安を覚えた。

でも“彼”でした。

女性にしか見えませんけど確かに“男の色香”を私も感じます。



「それでは私も真名を…」


「いえ、これは私の臣下の者達にも言っていますが、“妻”以外の異性の真名は預からない様にしています

例え、義理の親子とは言え守るべき礼節と思っている次第です」



成る程…感心しますね。

相手に対しての配慮も有り節度も弁えている。

考え方は珍しいですが。



「それなら、御母様の事は何と呼ぶつもり?」



華琳が私達の前へと茶托に乗せた茶杯を差し出す。

ん…良い香りです。



「…普通に“義母上”か、“御義母様”かな?」


「何人、居ると思うの?」


「…あ…いや、それは…」



困っている彼の様子ですと臣下の方々からも慕われて居る様ですね。



(華琳が認めている辺り、皆良い娘達なのでしょう)



そう思うと、その娘達にも早く会いたいものです。



「“身内”で字で呼び合うのはどうなのよ?」


「…距離を感じる、な」



華琳の言を素直に聞き入れ考えを改められる辺りは、信頼の証でしょう。



「ふふっ…」


「御母様?」



つい、嬉しくて溢れた声と笑みが心地好い。

二人は不思議そうですが。



「華琳から聞いていた通り“良い人”に巡り逢えたと思いまして…」


「お、御母様っ!?」



珍しく取り乱す華琳。

しっかりしていても華琳もまだまだ子供みたいね。



「私の真名は華奈(かな)と申します

雷華さん、不束な娘ですが末永宜しく御願いします」



そう言って頭を下げる。



「此方こそ…

若輩者の身故に至らぬ点も有る事とは思います」



彼の言葉に頭を上げると、真っ直ぐな瞳が私を見詰め“想い”を示す。



「ですが、この先“何”が有ろうと我が身、我が魂、我が全ては“華琳”と共に在り続ける事を誓います」



深く、強く、真っ直ぐな、不断・不滅の“想い”には私の方が照れてしまう。



「“御義母様”、どうぞ、宜しく御願い致します」



そう言って頭を下げた彼を言い表せない程の“幸せ”を抱いて見詰める華琳。


その目尻に輝く光は未来の“種”でしょう。



──side out



曹嵩様──御義母様と対面して無事に挨拶を終えた。


現在は皆と対面しており、互いに第一印象は良好だと見て良いだろう。

尤も、子揚の存在には驚き俺を見て確認したが。

すんなり受け入れられると一体“どんな”風に華琳が話していたか気になるのは仕方無いだろう。



「さて、挨拶も終わったし今後の“予定”について、説明して貰える?」



場の雰囲気を取り纏めて、俺の方へと意識を向けさせ聴く体勢を作らせる。

それに合わせ、此方も皆に向き直る。



「先ず、婚礼に関してだが華琳と御義母様に主導して貰い準備に入る

予定は一ヶ月後…

十月一日にしたいと思う」



そう言って華琳達に是非を問う視線を向ける。



「私の方は問題無いわ

御母様は如何ですか?」


「私も問題有りません

その様に運びましょう」


「御願いします」



御義母様に頭を下げる。

実質、かなり頼る事になるだろうから有難い。



「公瑾・義封・文若…

お前達には実家──母親に宛てて“紹介状”を書いて貰いたい」


「それは構いませんが…

荀家と違い豫州で動く事は難しいと思いますが?」


「公瑾の意見も確かだが、それで構わない

あと、内容は近況の報告と“持ち主”が仕える主君の夫だと書いてくれ」


「…子和様、御自身が家に行かれると?」


「俺一人なら“日帰り”も出来るからな」



そう言って笑うと公瑾達が苦笑と溜め息で返す。



「判りました」



公瑾の言葉に義封と文若も首肯する。



「各々の役職に付いてだが公瑾・仲達・子揚・文若は軍師として…

仕事は華琳や御義母様から指示を仰いで引き継ぐ事

他は皆、軍将になる

漢升・妙才は弓兵…

興覇・義封は剣兵…

儁乂・公明・仲謀は槍兵を指揮・指導・育成して貰う予定だ

勿論、お前達個人の鍛練は俺が指導する」



そう説明し“質問は?”と皆に視線で訊ねる。

すると仲達が挙手したので首肯して発言を許す。



「一つ、御訊きしますが、当主は何方らに?」


「曹家の当主は華琳だ

俺は基本的には“裏方”に回ると思ってくれ

表向きは…相談役か補佐と言った所だな」



俺の“裏方”発言に一様に溜め息を吐く辺り、正しく俺の性格を理解していると思って良いだろう。


これから“忙しく”なるし役職は邪魔なだけだ。





姓名字:曹 嵩 巨高

真名:華奈(かな)

年齢:44歳(登場時)

身長:170cm

髪:金色、肩に届く位

  ストレート

眼:深緑

備考:

華琳の母、夫は故人。

曹騰・鮑信夫妻の一人娘。

曹家の前当主。

現潁川郡太守。

前任の都尉、沛国の都尉を歴任している才媛。


性格は稍天然気味であり、おっとりした人柄。

しかし、文武両道でも有り人は見掛けに因らない。


家事能力に関しては何故か“破滅”的な適性。

母・鮑信、娘・華琳を始め侍女や兵達からも“禁止”されている。

しかし、本人としては上達したいと思っている。



◆参考容姿

ティアーユ

【ToLoveるダークネス】




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