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恋姫三國史  作者: 桜惡夢
15/916

13 一難去って


甘寧と別れ、夷陵へ──は戻らず山中を徘徊。

勿論、気配は殺して。



(甘寧の話からすると…

“アレ”が有る筈だが…)



疫病は兎も角、“呪い”が本当ならば僅かでも残滓が有る筈だが…全く無い。

だとすれば、別の可能性が高くなる。


幾つかの仮説。

その中で最も可能性が高い“証拠”を探す。

只の自己満足に過ぎないが間違ったままよりはマシと思う。



(本当…厄介な質だな…)



我ながら呆れてくる。

というか、そう思うと少し泣けてくる。

何が悲しくて“タダ働き”しなくてはならないのか。


“善人になるより、毛嫌いされる守銭奴になれ”


それが“師”の教え。



(頭で判ってても簡単には直らないか…)



いや、“向こう”でならば無闇矢鱈と他人に関わりはしなかった。

“社会”が、そうで有り、自分が身を置く“業界”がそうだった。

リスクを避ける為でも有り“一般人”とは関わらない様にしていた。

日常生活では無理だが。


それを徹底していた。

だから逆に同業者との仲は良い方だった。



(甘寧達を助けた理由も、同じ“戦い”に身を置く者だからだろうな…)



馴れ合う気は無い。

だが、放っても置けない。


つまり“尖って”見せても“お節介”だという事。


“師”からは“不良姫”と渾名を付けられた位だ。

あの時は大喧嘩したが。



「…まあ、“此方”の方が楽なんだけどなぁ…」



“隠す”必要性は単純に、自分の利害に直結するから“責任”も自分だけ。

“社会”とか“組織”等が絡まないから気楽だ。


“向こう”だと柵や制約が有り過ぎて鬱陶しい。



「そう考えると…

此方の方が居心地良いな」



自覚していたが…

“向こう”に対して未練は全く無い。

“思い出”は有っても。

それを改めて実感する。



(淡白というか…薄情?

執着する理由が無いし…

まあ、必然だよな…)



納得しながら苦笑。

“帰る方法”も不明だが、“帰る気”も無い。


“此処”で生きる。

それで良い。


それだけで、人は在る事が出来るのだから。



「──っと、有ったか…」



足を止める。

探していた物を見付けた。


それを採取し“影”の中へ仕舞うと、翼槍の炎により辺りを焼く。

勿論、対象だけを。

誰にも見られない様に。



「…って、おい…」



“それ”に気付き、思わず突っ込みたくなった。




炎が消えると同時に疾駆。

“それ”に向かう。


動く気配は無い。

助かるが…不気味だ。



(……ん?、何だ?)



“それ”は不動のまま。

しかし、気配──氣に変化が生じた。



(迎撃か防御の為か?

…にしては妙──なっ!?)



予想外の反応。

焦りが生まれる。


四肢を更に強化し跳躍。

“虚空”を蹴って翔る。


下道を行ってる暇は無い。

ただ、間に合わせる。


翼槍に炎を装纏。

最後の跳躍は“それ”へと向かっての滑空。


弾丸の如く突貫。

衝撃により水柱が立ち登り水飛沫が舞う。



「──なっ!?」



しかし“それ”は鋒を受け止めた。

その“殻”で。



「……に……げ……」



水に紛れる様に、半透明な触手に囚われた女が呟くが氣を奪われている為か抵抗すら出来無い状態。



「──ちっ!」



舌打ちして跳躍。

翼槍を振るい触手を斬って彼女を先に助ける。

そのまま“湖岸”へ。


追ってくる様子は無い。

だが、慎重に着地。


腕の中に居る彼女を見ると目が合った。

が、安心したのか気絶。



(下手に横で騒がれたり、参戦されるよりマシか…)



後の説明が面倒だが。

今は集中する。


深い霧の包む湖の中心に、小島の様に一部を覗かせる巨大な“貝”に。


彼女を寝かせ翼槍を傍らに突き立てる。

これは黄忠の時と同じ。

だが、今回は“決め手”に使えない。


相手は“水”に属す者。

灼き尽くすのは厳しい。

しかも鋒を弾く強度の殻を持っている。

由って今回は留守番だ。



「しかし、なあ…

まだ昨日の事なんだが…

こうも立て続けに出て来る存在なのか?

それともバーゲン中か?」



思わず愚痴る。

尤も、この霧は曲剣の能力に近い様だ。

正確には“幻影”ではなく“隠遁”だろう。


“外”には中の情報は何も漏れていない。

自分が気付いたのは先日の一戦が遭った故だ。



「さて、どうするか…」



曲剣も通じないだろうし、“新入り”頼みか。



「──っ!」



ビュシャッ!、と水飛沫を撒き散らしながら水面から無数の触手が飛び出す。


此方を捕まえ様とするが、遮る様に虹輝を纏う桜色の“壁”が広がる。



「着けてて良かったよ」



二人を包む羽衣。

この子の能力、形状変化。


尤も、触手が遮られたのは攻撃力が低いだけ。

氣で強化しても本質が布に変わりはないのだから。




水中へ戻る触手。

本体は移動していないが、強かな奴だ。



(このままじゃキツいか)



彼女が狙われている以上、守りながらは難しい。

翼槍の炎に怯む様子も無い辺り、無意味だろう。



(気は進まないが…

この状況なら仕方無いか)



羽衣を縮ませながら彼女の傍らへ移動し彼女の胸元に右手を置く。

そして、氣を流し込み──“仮死状態”に。

そのまま“影”の中へ。



(“生きてる屍”なんて、此方には無いだろうしな)



“影”は“非生命”なら、何でも入れられる。

つまり“死体”は可能。


翼槍も仕舞い、貝に対して向き直る。



「さて、始めるか」



前回と違い、目撃を避ける必要は無い。

つまり遠慮無く戦える。


“影”から双鉄扇を出し、両手に構える。



「先ず、一手」



閉じたままの状態の鉄扇に氣を与え、一振り。

すると、その軌跡上に歪みが生じ、大貝に向かう。


シュバッ!、と鳴る音。

水面に奔る波紋。


それは“風”の刃。


だが、殻に傷は無い。



「まあ、そうだろうな」



この結果は想定内。

両鉄扇を開き氣を与えると翁面の青と金が輝く。

そして、二つが融け合い、緑の輝きを纏う。


大きく鉄扇を振るう。

下から上に螺旋を描き。


その軌跡に従い風が逆巻き巨大な竜巻となる。


大貝を中心に湖の水を空へ巻き上げる。

僅か十数秒で湖底が晒され湖の水は上空に。


だが、大貝は動かず。

今も尚、吹き荒れる竜巻も何処吹く風。



(酸欠は無いとしても…

気圧変化による沸騰ならと思ったんだが…)



大貝の様子を見る限りでは炎や熱は効果が無い様だ。


鉄扇を振り、竜巻を消すと水を上空に留める為に風の檻を形成する。

この子の能力は風ではなく“気流”を生み操る。

多目に氣を与えると檻へと鉄扇の片方を投擲。

維持する為の要だ。

“影”に仕舞うと効果範囲から外れてしまうから。



(…どう出る?)



隠れ蓑でも有った水を失い触手は丸見え。

攻撃手段が豊富には思えず様子を見てみる。


暫く見ていると大貝の氣に変化が生じた。


同時に身体に違和感。


──と、次の瞬間。


ググッ!、と見えない手に掴まれた様に大貝に向かい身体が引き寄せられる。



「──っ!?」



足が地面を離れ宙に浮く。

不味いと判断し、右手から氣弾を放つ。


爆音と共に土煙が舞った。




朦々と立ち込める土煙。

それを“眼下”に眺める。



「やれやれ…」



空中に“浮遊”しながら、一息吐く。

風も無いのに揺れる羽衣。

この子のもう一つの能力、“浮遊”だ。



(にしても、厄介な…)



土煙が晴れ、姿が露になる大貝が太々しく見える。


先程感じた違和感の正体は大貝に因る“磁力”。


生物が帯びる微弱な磁気に干渉し、引き寄せる。

そして殻に張り付けにして触手で捕らえ氣を奪う。

それが狙いだろう。


積極的に動く事はしないが触手・磁力の範囲内に餌が入れば執拗に狙う。

加えて霧が迷宮の様な役割をしている。



(嫌になってくる…

しかし“穢れ”だとしたら放置出来無い…

“確証”を得る為にもな)



小さく溜め息を吐く。

探るにしろ、潜るにしろ、倒さなくてはならない。


倒すには先ず殻を壊すか、口を開かせる必要が有る。

直接攻撃と風は殻に防がれ炎や熱は無意味。

また氣を叩き込んでも吸収されるだけ。


手詰まり──ではない。

手札はもう一つ有る。



(こうなってくると何かの“意図”を勘繰るな…)



この子達を手にする事も、厄介事に遭遇する事も…

“筋書き”に思えてくる。


だが、その答えは“先”に進む事でしか得られない。


ならば、今は進むのみ。


“影”から大太刀を出し、左手で鞘を持ち、氣を与え準備する。

右手を柄に掛け右足を前に半身の姿勢。


静かに対峙。


だが、先に動いたのは意外にも大貝の方。

此方の気配に危険を感じて先手を打ったか。


殻の表面から幽体離脱でもしている様に触手が現れ、此方へ迫る。


今、磁力の範囲より外。

しかし、このまま続けても長引くだけ。

踏み込まなければ、成果は得られない。


集中し、最短の道が見えた瞬間に右足で地を蹴る。


“縮地”と呼ばれる古流に伝承される歩法術。

数十mは有る互いの距離を一瞬──一歩で移動する。


触手達の隙間を擦り抜け、大貝に肉薄。

左足で踏み止まり、右足を踏み込む。

右手で柄を握り、抜刀。


刃が殻を斬り付ける。


ギイィンッ!、と金属音が辺りに響き渡る。


手応えは──硬い。

斬る事に特化した日本刀が傷一つ付けられない。


既に磁力の範囲内。

触手も背後から迫る。


窮地としか言えない状況。


しかし、動かない。

否、動く必要は無い。


それを証明する様に触手が消え、大貝が口を開けた。




氣の動きが鈍くなった事で“気絶”したと確信。

刃を納める。


種明かしをすれば…

大太刀は“音”を生み操る能力を持つ。

単純な音色だけではなく、音衝波──音に因る衝撃波を生じさせる。

専用に対策を取らない限り防御は困難だ。


加えて、もう一つ。

大貝は水に属すだけでなく殻が水で形成されていた。

水は空気より良く“音”を伝える。


今は脳震盪を起こしている状態になる。



「さっさと片付けるか」



大貝の殻を静かに持ち上げ隙間から中へ入る。

中は暗いが視界を奪われる程ではない。

足下は弾力の有る貝肉。

上は剥き出しの殻が見える為に洞窟の様だ。

パッと見だと真珠貝に近いだろうか。


殻を開けて中央に佇めば、リアル版ヴィーナスの誕生に見えるかも。


つい、下らない事を考えた自分に苦笑。

思考を切り替える。


本体と思しき、中央に座す一際大きな肉の塊に近付き右手で触れる。


静かに氣を流し入れ大貝の中へと“潜る”。


大蜘蛛の時とは違い相手の意識を沈んでいる為、楽に進む事が出来る。


暫くして。目当ての存在を見付けた。

其処へ自らの氣を導く。


漆黒の世界に浮かぶ一つの淡く光る球体。

宛ら黒天の満月の様だ。


その中に居る者が此方へと気付き顔を上げた。



「…驚いた

まさか、こんな所に来れる人間が居るなんて…」



そう言ったのは幼い少年。

見た目は7〜8歳位。

だが、その存在感は強く、間違い無く“御霊”だ。



「……でも、あんな戦いが出来るなら、此れ位の事は不思議じゃないか」



うんうん、と一人頷き納得している少年。

見ていた様な発言は気にはなるが構わず話を始める。



「生憎と時間が無い

質問に答えて貰えるか?」


「うん、良いよ

キミはボクを“解放”してくれるみたいだから」



笑顔で承諾する少年。

やはり、“見えて”いたと確信する。



「先ず、根本的な事だが、お前は“何”だ?」


「“何”、か…

話しても解るかなぁ…

う〜ん……“土地神”って言われて解る?」


「大丈夫だ、問題無い」


「ホント?

やっぱりキミ変わってるね

“今の”人には解らないと思ったのに…」


「無駄話はいい

お前は“旧世界”に在った“土地神”…そうだな?」



此方の言葉に目を見開いて驚いたが、直ぐに我に返り少年は首肯した。




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