第49話 なにか俺にできることは
最近、なんだか凛の様子がおかしい──。
放課後、いつものように図書室へ向かって歩きながら、俺はふとそんなことを思っていた。
俺と凛は、ここしばらく、ずっと放課後に図書室で会って、オタクトークで盛り上がっていた。けれど、最近は凛がその図書室に来なくなっている。
最初は「たまたま」だと思っていた。
宿題や他の用事があったのかもしれないと気にしなかったが、それが数日続くと、さすがに気になってくる。
「凛、最近どうしたんだろう……」
俺は心の中でそう呟きながら、凛のことを考えた。
学校でも、少し様子が変だ。凛はいつも、廊下で会うと気軽に「こんにちは、田中先輩!」と声をかけてくれていたのに、最近はその元気な挨拶もない。
視線が合うとすぐに目をそらされ、なんとなく避けられているような感じがする。
図書室に着いて、いつもの席に座ったが、やはり凛は来なかった。机の上にラノベを広げながらも、どうにも集中できない。
ページをめくる手が止まって、頭の中には凛のことがぐるぐると回り続けていた。
「……何か、俺が悪いことしたのか?」
俺は思わず独り言を呟いていた。だけど、心当たりが全くない。いつも通り凛と楽しく話していたはずだし、俺が何か失礼なことをした記憶もない。
「でも、確かに避けられてるよな……」
気のせいじゃない。あからさまに凛が俺を避けているのは明らかだ。図書室に来ないし、学校ですれ違っても、話しかけてもすぐに話を切り上げようとするし、笑顔もどこかぎこちない。
ある日、放課後の教室で、思い切って凛に声をかけてみた。
「凛、最近図書室来ないよな。どうしたんだ?忙しいのか?」
俺がそう尋ねると、凛は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに視線をそらして、少し焦ったように答えた。
「え、あ……ちょっと、他にやることがあって、それで……」
「そっか。まあ、無理しないでいいけど、何かあったら言ってくれよ。」
俺がそう言うと、凛は小さく頷いたけれど、その表情には明らかに何かを隠しているような気配があった。
「……凛、何か悩んでるのか?」
そう聞こうとしたけれど、言葉が出なかった。凛の態度からは、話しかけられること自体を避けたいような雰囲気があって、俺はそれ以上踏み込むことができなかった。
それからも、俺は凛に何度か声をかけようとしたが、凛はいつもタイミングを見計らったように俺から離れていった。
廊下で会っても、笑顔を浮かべるどころか、視線を合わせないまますぐに通り過ぎてしまう。図書室にはもう来なくなったし、教室で話すこともほとんどなくなった。
「……なんで?」
俺は、どうして凛がこんなに俺を避けるようになったのか、全く理由が分からなかった。
考えれば考えるほど、凛が何を思っているのか、何が原因でこんなふうになってしまったのかがわからなくて、ますます混乱していく。
「もしかして……俺が何か気づかないうちに、凛を傷つけるようなことを言っちゃったのか?」
そんなことも頭をよぎる。けれど、思い返しても何も思い当たることがない。
俺と凛は、ずっと趣味の話をして、楽しく過ごしていたはずだ。それなのに、なぜ突然こんなふうになってしまったのか……。
「凛……どうして?」
避けられていることが、俺の心の中でじわじわと重くのしかかる。今まであれほど気楽に話せていたのに、今ではまるで別人のように距離を置かれてしまっている。それが俺にはどうしても理解できなかった。
「……もしかして、俺は何か大事なことを見落としていたのか?」
そんな考えが頭をよぎるが、答えは出ない。ただ、凛との間に広がった距離感だけが、日に日に大きくなっていくのを感じる。
俺は、凛がこのまま俺から完全に離れていってしまうのではないかという不安を抱き始めていた。
「何か……俺にできることはないのか?」
心の中で自問するものの、答えは見つからないまま、俺はただ戸惑うしかなかった。




