第47話 好きになってしまった
──いつもと変わらない、楽しい時間だったはず。
田中先輩と二人、放課後の図書室でおしゃべりする時間。アニメやラノベの話、最近のお気に入りのゲームについて語り合う。
そんな時間が、私にとって一番楽しい瞬間だ。先輩と一緒にいると、自然に笑顔になれるし、何より趣味が合うから話が尽きない。
「そうそう、あのラノベのヒロイン、やっぱり最高ですよね!ツンデレなのに、実はすごく優しいし……あのギャップがたまりません!」
私は興奮しながら田中先輩に話す。先輩はそんな私を優しく聞いてくれて、共感してくれる。
「だよなー。あのギャップがいいんだよな。キャラに深みがあって、ただのツンデレじゃないんだよな。」
先輩のその一言に、私は嬉しくなって頷いた。やっぱり先輩は分かってる。同じ趣味を共有できるって、こんなにも楽しいんだ──そう思っていた。
……でも、いつの間にか。
いつからだろう。田中先輩と話しているこの時間が、ただ「楽しい」だけじゃなくなっていたのは。
気づくと、先輩の笑顔を見て胸がドキドキすることが増えてきた。
「凛、どうした?なんか急に静かになったけど、大丈夫か?」
先輩が心配そうに私を見ている。
私は慌てて「うん、大丈夫です」と笑顔を作ったけど、心の中は何かがざわついていた。
先輩の言葉が優しい。その優しさに、私はどこか不安を感じてしまう。だって、私はただのオタク仲間として先輩とずっとこうしていたいのに──そう、ずっとこのままでいたいのに、なぜかそれだけじゃ物足りない気がしてしまう。
「……なんでだろう。」
心の中で呟く。先輩と話していると楽しい。けれど、今のままの関係でいいと思っていたのに、最近はそれが変わってきている気がする。
いつもと同じようにアニメやラノベの話をしているはずなのに、先輩の笑顔を見るたびに、胸が苦しくなる。
気づきたくなかった。でも、もう誤魔化せなくなってきた。
──私……田中先輩のこと、好き、なんだ。
自分の中で言葉にしてしまった瞬間、心臓がドクンと大きく跳ねた。言葉に出してしまうと、もうそれは覆せない現実になる。
私は田中先輩のことを、ただのオタク仲間としてじゃなく、異性として意識している。
だけど、どうしよう。今までずっとこの関係が心地よくて、変えたくないと思っていたのに──いや、変えたくない。変えてはいけない。
田中先輩は私にとって、唯一のオタク仲間であり、先輩。恋愛感情なんて持ち込んだら、きっと今までのような気楽な関係は壊れてしまう。
「凛?なんか考え事してる?」
先輩の声にハッと我に返る。私は焦りながら、また笑顔を作って答えた。
「あ、いや、なんでもないです!ちょっと考え事してただけで……」
先輩は疑うことなく、また話を続けてくれたけど、私の心はもう以前のように穏やかではいられなかった。
「……この時間がずっと続けばいいのに。」
田中先輩とこうして話している時間が、私にとって本当に大切なものになっている。
このまま変わらずにいられたらどれだけいいだろう。恋愛感情なんてなかったら、もっと楽だったのに、そう思わずにはいられない。
でも、一度気づいてしまったら、もう戻れない。
──先輩のこと、好きなんだ。
私はそう自覚してしまった。今までただの「オタク仲間」だと思っていたのに、気づいたら先輩を異性として意識してしまっている。恋愛感情なんて持ちたくなかったのに──。
──でも……どうすればいいんだろう。
心の中で葛藤が渦巻く。先輩との関係を壊したくない。だけど、気持ちを押し込めてこのまま一緒にいるのは、苦しい。
どうすればいいのか分からない。気づいてしまった気持ちをどう処理すればいいのか、私には全く分からなかった。
その日、田中先輩と話を終えた後、私は図書室を出ると同時に大きくため息をついた。楽しいはずの時間が、今では少しずつ苦しくなっている。
「どうしよう……」
頭の中でぐるぐると悩みが回る。田中先輩との関係をどうすればいいのか。
好きという気持ちを抱えたまま、今まで通りに接するなんてできるのだろうか。こんな気持ちになりたくなかった──ただのオタク仲間でいたかったのに。
でも、もう遅い。
私西野凛はは田中先輩のことが、好きになってしまった。




