第25話 じゃあ赤飯炊かないとね!
学校から帰宅して、俺はリビングに入った。まだ頭の中では結花のことがぐるぐると巡っていたが、家にいる時くらいはそんなことを考えずにのんびりしたいと思っていた。だが、そんな思いとは裏腹に、家の中はいつものようににぎやかだった。
「お兄ちゃん、おかえり!」
リビングから、元気な声が飛んできた。妹の光莉だ。中学生の彼女はとにかく元気いっぱいで、いつも俺のことをよく観察している。今日は何か機嫌が良さそうだ。
「おかえり~。お兄ちゃん、今日はなんか顔つきが違うね~!」
光莉はソファに座ってテレビを見ていたが、俺が帰ってくるやいなや、じっとこちらを見つめてくる。まるで探偵みたいに観察してくるその様子に、俺は思わず少し動揺してしまった。
「え?別に……いつも通りだろ?」
俺は顔をそらしながら答えた。そんなにいつもと違うつもりはなかったはずだけど、光莉には何かが違うように見えたらしい。最近、結花のことを考える時間が増えているから、それが顔に出てしまっているのかもしれない。
「ううん、いつもと違う。なんか、こう……しおらしいっていうか、穏やかっていうか……ふふん、お兄ちゃんに何かいいことあったの?」
光莉はニヤニヤしながら俺に詰め寄ってくる。その無邪気な笑顔を見ると、何か隠していることをすぐに見破られてしまいそうで、俺はさらに焦った。
「べ、別に何もないって……何を言ってるんだよ、光莉。」
「ほんとにぃ~?怪しいなぁ~。」
妹がにやにやしながら俺を追い詰めるように言う。こんな時は、あまり相手にしない方がいいと分かっていたが、俺はつい口を開いてしまう。
「だから、何もないって言ってるだろ!俺は、ただ……普通に学校に行ってきただけだよ。」
俺が必死に否定すると、光莉は少し首をかしげながらも、まだ納得していない様子だ。そんなやり取りをしていると、台所の方からお母さんが顔を出した。
「なになに?お兄ちゃんに何かいいことでもあったの?」
お母さんが俺たちの会話に興味津々で入ってきた。光莉が何か面白そうなことを言っているのを聞いて、早速こちらに注意を向けてきたのだろう。俺はさらに焦った。
「だから、何もないってば!」
俺は顔を赤くしながら答えたが、二人はまったく信じる気配がなかった。光莉はさらにお母さんに向かって言葉を続けた。
「ねぇ、どう思う?お兄ちゃん、今日はいつもと違うよね~。もしかして、好きな人でもできたんじゃない?」
「好きな人!?まぁ、お兄ちゃんもついに恋をしたのね!」
お母さんが驚いた声を上げた。俺はその言葉に思わず息をのんだ。結花のことを思い出して、一瞬、頭が真っ白になった。だけど、今ここでそんなことを認めるわけにはいかない。
「ち、違うってば!全然そんなんじゃない!ただの勘違いだよ!」
必死に否定する俺の言葉を聞いても、お母さんと光莉は笑顔を浮かべたままだ。二人の楽しそうな様子を見ていると、俺はますます居心地が悪くなってきた。
「じゃあ赤飯炊かないとね!お兄ちゃんに彼女ができたら、それはお祝いしないと!」
「お母さん、まだ決まったわけじゃないでしょ~。」
光莉が笑いながらお母さんに続く。俺はもうこれ以上この状況に耐えられなかった。
「違うって言ってるだろ!赤飯なんか炊かなくていい!俺は部屋に行く!」
俺は顔を真っ赤にしながら叫んで、そのままリビングを飛び出した。階段を駆け上がり、自分の部屋に逃げ込むようにしてドアを閉める。心臓がバクバクと鳴っていた。
部屋に入ってベッドに倒れ込むと、俺はしばらくの間何も考えられなかった。光莉とお母さんの言葉が頭の中で何度も響く。
「好きな人……か。」
俺は一人で呟きながら、部屋の静けさの中で少しずつ気持ちを落ち着けていった




