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第42話 魔女の店

「いらっしゃいませ」


店の中に入ると、正面のカウンターの前に黒い髪を肩先で切りそろえた少女が出迎えた。

まだ小学生くらいだろうか? オレンジ色の瞳が何とも印象的だった。

留守番をさせられているのだろう。


「こんにちは……」


声をかけながら周囲を見渡す。

ここは本当に店なのだろうか? 陳列棚すら置かれていない。


「あの〜お店の人を呼んでくれる?」


エドが何か言うよりも先に、私は少女に声をかけた。


「え? 私がそうだけど?」


少女は自分を指さす。


「いえ、このお店の責任者をお願いしたいの」


「だ・か・ら。私がこのお店の店主だってば」


少しだけむくれた様子を見せる少女。


「ええ!? 嘘でしょう!?」


「ステラ、一体どうしたんだ?」


驚く私にエドが声をかけてきた。


「ほ、ほんとうにあなたがこの店の店主なの!? まだ子供なのに!?」


「さっきからそう言ってるでしょう? 全く失礼ね。それに生憎子供じゃないわよ。これでも85歳なんだから」


フンと腕組みする少女。


「ええ!? は、85歳!? おばあさんなの!?」


「何よ! おばあさんなんて女性に向かって失礼でしょ! 全く最近の若い娘は礼儀を知らないんだから。それにこれでも私は魔女の中では若い方なんだからね!」


「ステラ、魔女は身体に魔力が溢れているから不老長寿なんだよ。俺たち普通の人間とはわけが違うのさ」


エドが教えてくれた。


「そ、そうだったんだ……そうとは知らず失礼な言動をしてしまい、大変申し訳ございませんでした」


まさか、こんな幼女が老婆だったとは……。


「分かればいいのよ。それで、何をお求めに来たのかしら? 言っておくけど、惚れ薬は今品切れよ。この間、まとめて買っていったお客がいるから……え? あなた……もしかして……あ!」


突然魔女は私を見て驚くと慌てて自分の口を手で押さえる。


うん? 何だろう、この態度。妙に引っかかるんだけど……。


「怪しいですねぇ〜……何故、ステラを見てそんなに驚くんです? ひょっとして彼女を御存知なのですか?」


「知らない! 彼女のことは知らないから!」


ブンブン首を振って否定する魔女。


「だけど、その驚きよう……普通じゃありませんよね? どうして今私を見て驚いたのですか?」


「べ、別に……ただあなたの目つきが悪いから驚いただけよ!」


言い訳にしては随分と酷いことを言ってくれる。


「……そう言えば、このお店……店舗代を2ヶ月滞納しているらしいですね」


突然エドが口調を変えてきた。


「そ、それは……」


「大家さんから聞いていますよ? 来月までに滞納しているお金を入金しなければ立ち退きさせるって話を」


へ〜魔女でも家賃を滞納するんだ。


「だ、だから今お金を工面しているところよ!」


「けれど、どう見てもお客さんが来るような店には思えませんよ? 大体陳列棚すらないですよね?」


じわじわと追い詰めるエドに対し、魔女はヤケを起こしたかのように喚いた。


「仕方ないでしょう!? しゃ、借金返済の為に棚を売ったんだから!」


ええ!? そうだったの? てっきり雰囲気を出す為にあえて商品を置いていないと思っていたのに!?


「なるほど……相当追い詰められている証拠ですね。ではどうでしょう? あなたが知っていることを教えてくれれば、滞納しているこの店の家賃を代わりに支払ってあげますよ。何なら半年分支払ってあげてもいいです」


「分かった! 言うわ! 彼女を見て驚いたのは、私の調合した惚れ薬を飲んでいるからよ!」


エドの言葉に、あっさり白状する魔女。……と言うか……。


「ええええっ!? わ、私が惚れ薬を飲んでいる!?」


「ステラ!? 一体誰のために飲んだんだ!?」


私とエドが同時に驚く。


「違うってば! そうじゃないのよ! 私が作った惚れ薬は飲まされた相手に惚れてしまう薬なんだってば! つまり、お嬢さんは誰かの手によって惚れ薬を飲まされたってことよ。自分のことを好きになってもらうためにね」


魔女はビシッと私を指さしてきた――





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